競合と同じ土俵から降りるという発想
経営をしていると、どうしても競合が気になります。品質を高める、価格を下げる、サービスを充実させるなど、比較の中で勝とうと取り組んでいる経営者は多いでしょう。
ただし、ライバルと同じ土俵にいる限り、比較され続けることは避けられないと松田さんは話します。
そこで出てくるのが、今回の結論につながる発想です。競合に勝つために、そもそも比較されない場所に移動するという考え方です。
競合に勝つために、ライバルよりも自社をお客様に選んでいただくために、そもそも比較されない場所に移動する。これは考えて取り組むことができることじゃないかなと思います。
この「比較されにくい場所」を新しいカテゴリーを作ることと捉え、そのヒントとしてミスタードーナツのモッチュリンが取り上げられます。
モッチュリンとは何か、そしてその打ち出し方
モッチュリンは、ミスタードーナツが創業55周年を記念して発売した商品です。国産のもち粉と米粉を配合し、生地の表面にオリジナルコーティングを施すことで独特の食感を生み出しています。
注目したいのは、その打ち出し方だと松田さんは言います。単に「もちもち」と表現せず、「モッチュリ食感」と名付け、もちもちのその先を目指して開発した新食感ドーナツとして発表しました。
つまり「これももちもちしたドーナツです」ではなく、「もちもちのその先の新しい食感」と伝えているわけです。
もちもち食感だとイメージつきます。ただ、モッチュリ食感、もちもちのその先へっていうと、もちもち食感が好きな方は非常に興味が出るんじゃないかなと思います。
2025年にはきなこ、みたらし、あずき、黒糖&わらびもちの4種類が発売され、公式発表によると大きな反響で商品を届けられなかったお客様もいたそうです。
開店ダッシュでも買えなかった、大反響の実態
松田さん自身、昨年このモッチュリンを買いに開店前のイオンに並んだそうです。オープンと同時に店内では走る人もいる中、歩いて向かったところ、着いた時にはすでに行列ができていました。
そして並んでいたところ、前の人が最後の2個を取ってしまい、目の前で売り切れ。結局、去年は食べられなかったといいます。
前の人がモッチュリンを2個取って、それが最後になって、私の前の人でモッチュリンが売り切れて、結局私は去年このモッチュリンを食べられなかったという、そういう苦い経験もあり。
その後、6月の第2弾ではネットオーダーの事前予約も行われましたが、想定を上回る反響があったといいます。
結果として、店舗の混雑を避けるために第2弾の商品自体の発売中止が決まったほどの大反響だったと語られています。
名前が持つ力と、商品名という戦略
これほど人気が出る商品には、何かしら求められている要因があるはずだと松田さんは考えます。その一つが名前の良さです。
「モッチュリン」と聞くだけで、どのくらいの食感なのか、普通のもちもちとは少し違いそうだ、といったイメージが湧きます。
もしこれが「新もちもちドーナツ」だったら、既存商品との違いが分かりにくかったのではないか、と指摘します。「国産もち粉と米を配合した新食感ドーナツ」では、長くて覚えにくいというわけです。
さらに、覚えやすい名前があるからこそ「モッチュリン食べた?」という会話が広がります。松田さん自身も、買えなかったエピソードを繰り返し話しているそうです。
商品開発には時間もお金もかかっているのに、名前だけ社内のノリと勢いで適当に決めてしまうのはもったいない、と松田さんは話します。名前は商品戦略そのものにつながるからです。
自社の強い商品と、あえて比較させない工夫
ここで面白いのが、ミスタードーナツにはすでにポン・デ・リングという強い商品があることです。2003年発売以来の看板商品で、もちもち食感の代表格です。
もちもち系の新商品を出せば、普通は「ポン・デ・リングと何が違うの?」と比較されかねません。どんなに違いを説明しても、頭の中では「ポン・デ・リングの別バージョン」と整理されてしまいます。
そこでモッチュリンは「ポン・デ・リングよりさらにもちもち」とは言いませんでした。「もちもちのその先へ」「モッチュリ食感」という新しい言葉を作って打ち出したのです。
ポン・デ・リングはポン・デ・リングですよね。もっちゅりんはもっちゅりんですよね。今日はポン・デ・リングを食べよう、今日はもっちゅりんを食べよう、はたまた両方食べよう。
これにより、どちらがもちもちかという単純な比較から少し離れることができたと松田さんは分析します。既存の強い商品に正面からぶつからず、比較されにくい場所を作ったわけです。
もちもち食感の看板商品。すでに強い比較基準として存在する。
もちもちのその先へ、という新しい食感として打ち出し、比較の土俵をずらす。
カテゴリーブランディングという考え方
ここから本題です。松田さんはこの考え方を「カテゴリーブランディング」という切り口で整理します。
大きなカテゴリーの中で少しでも目立とうとするのではなく、小さくても明確なカテゴリーを作り、そこで自社が第一想起される状態を目指すという発想です。
誤解のないようにと前置きした上で、ここでいう新しいカテゴリーは、ドーナツとは別の市場が生まれたという意味ではないと説明します。モッチュリンも広い意味ではドーナツです。
ドーナツという大きなカテゴリーの中に、もっちゅり食感というこの小さな棚を提案した、ということなんですよね。
数あるもちもちドーナツとして見られるのか、モッチュリ食感を楽しむモッチュリンとして見られるのか。この違いが大きいと松田さんは言います。
競合と比較されにくいカテゴリーを作るとは、競合を消すことではなく、お客様が商品を分類する見方をうまく変えていくことだと解釈しています。
そして第一想起されるようになると強い、と続けます。ミスタードーナツなら「モッチュリ食感といえばモッチュリン」という結びつきが頭の中にできれば、非常に強くなります。
これは松田さん自身にも当てはまります。「仕組み化といえば松田幸之助」と思い出してもらえる状態を目指し、毎週ポッドキャストで情報発信をしているそうです。
一番になれる小さなカテゴリーを作る
第一想起されるためには、何の人なのか、どんな商品なのかを明確にする必要があります。経営もマーケティングもマネジメントも、と同じ強さで発信すると、何の人か分からなくなります。
人は他人や他社をそれほど細かく覚えていないため、まず「仕組み化といえばこの人」という明確な軸を持つ。その上で会議や人材教育、AIなどへ広げれば、全体が一つのカテゴリーにつながっていきます。
ただの経営コンサルタントというカテゴリーでは、大手や有名なコンサルタントがひしめいています。そこで「仕組み化経営」というカテゴリーを明確にすることで、「仕組み化の人」として覚えてもらえるようになります。
大きなカテゴリーの何番手かでいるより、小さくても第一想起される場所を作る。これがモッチュリンにも共通する商品戦略の面白さだと語られます。
自社に活かすための三つの問いかけ
では、どう自社に活かすか。松田さんは大きく三つの問いかけを挙げます。
三つ目については、お客様は商品そのものではなく結果を求めていると説明します。モッチュリンなら「この新食感を誰かに共有したい、話したい」ということかもしれません。
そうであれば、それを前提に設計を捉え直すことができる、というわけです。
さらに仕組み化の視点で見ると、商品名がお客様に伝わりやすいほど、営業担当の負荷が減ります。
名前でイメージがつけば、商品説明が個人の営業スキルに依存しなくなります。覚えやすさは、広告でもシンプルかつ強力なマーケティングのツールになるといいます。
名前でサービスの価値が伝わる仕組みにすると、勝手にどんどん広がっていくし、営業担当、マーケ担当の説明の時間も全部削減することができる。
名前だけでは成立しない、という注意点
最後に注意点です。名前を変えればブランドが簡単にできる、というものではありません。
モッチュリンがこれだけ話題になったのは、中身の良さがあったからこそだと松田さんは強調します。もちもちのその先へ、そして実際に美味しかったから人気が続いているという理解です。
まずは商品やサービスをしっかり価値あるものにし、そこから名前やカテゴリーを考える。この順番が大事だと話します。
また、対象者によりますが、難しすぎる言葉は避け、相手がすでに知っている言葉に少しの新しさを振りかける。そうすることでカテゴリーが定着していくといいます。
まとめ
モッチュリンの事例からは、比較の土俵をずらし、小さくても自社が第一想起されるカテゴリーを作るという商品戦略が見えてきます。名前は特徴を圧縮したものであり、伝わる名前は営業やマーケティングの負荷を下げる仕組みにもなります。ただし、その前提として中身の価値が欠かせません。
- 商品名は特徴の圧縮であり、適当につけず戦略として考える。
- 競合に勝とうとする前に、比較されにくいカテゴリーを作れないか考える。
- 大きなカテゴリーの何番手かより、小さくても第一想起されるカテゴリーを目指す。
- 名前や打ち出し方の前に、まず商品・サービスの中身を価値あるものにする。
