エース不要。キーエンスに学ぶ"ヤバい仕組み化"——普通の人が成果を出す4つの型
仕組み化の専門家・松田幸之助氏が、経営者のためのヤバい仕組み化の第74回で取り上げたのは、高収益で知られるキーエンスセンサーや測定機器を扱うBtoBメーカー。営業利益率50%超という日本トップクラスの高収益体質で知られ、仕組み化経営の代表例として多くの書籍で取り上げられている。。「エースがいないと成果は出ない」という常識を覆し、普通の人が成果を出し続ける仕組みとは何か。情報・営業・実行・見える化という4つの切り口から、その内容をまとめます。
なぜキーエンスは"普通の人"で勝てるのか
「うちにもエースがいれば」「最後は人で決まる」——経営の現場でよく聞かれる言葉です。しかし松田氏は、すごい個人が成果を出すのではなく、普通と言われる人たちが成果を出してしまう流れこそが大切だと語ります。
象徴的なエピソードがあります。キーエンスで全社トップを5回獲得したある営業担当者は、入社時は同期で最下位だったといいます。何が変わったのか。本人いわく「成果は才能ではなく、すべてテクニック」。再現できる型を身につけたことで、最下位から5度のトップへと駆け上がったのです。
ルール化と仕組み化はまったく別物
仕組み作りを語るうえで、松田氏がまず強調するのは「ルール化と仕組み化は似て非なるもの」だという点です。たとえば「お客様には3秒以内に挨拶しよう」と朝礼で決めても、1週間で誰もやらなくなる——これがルール化の限界です。
ルール化は、わかりやすく言えば「お願い」。忙しいと後回しにされたり、忘れられたりします。一方、仕組み化は「構造」。このフォーマットを出さないと経費が精算されない、この工程を済ませないと次に進めない、といった設計そのものを指します。
「ちゃんとやってね」というお願い。忙しいと後回し、忘れられる。意思に依存する。
構造そのもの。フォーマットや工程に組み込まれ、やらざるを得ない設計になっている。
業績を決める方程式と、人が動けない4つの理由
松田氏が掲げる業績の方程式はシンプルです。業績=戦略確率 × 実行確率。どちらかがゼロなら業績はゼロ。100点の戦略でも実行がゼロなら成果はゼロ、その逆もまた然りです。
大事なのは、この二つを個人の能力や気合に任せず、仕組みで底上げすること。キーエンスはまさにこの両方を仕組みで上げているといいます。
では、なぜ人は動けないのか。松田氏は、原因を4つに整理します。
たとえば「チラシを改善しよう」と社長が言うだけでは現場は動きません。「5月25日までに、田中さんが既存チラシの改善案を作って、次回会議で提出してね」と、いつ・誰が・何を・どこまで指定し、さらに「いまのチラシは業界平均より集客率が低いから」と理由まで添えれば、ようやく人は動けるようになります。
キーエンスに学ぶ4つの仕組み
ここからが本題です。キーエンスがやっていることを、松田氏は4つに絞って解説します。情報・営業・実行・見える化。どれも規模や知名度に関係なく、今日から小さく試せるノウハウです。
① 情報——会社に残る流れを作る
成果が出ている会社は例外なく、情報の流れが早くて濃い。キーエンスでは、営業担当が客先で見聞きした情報を徹底して記録し、社内で共有することで知られています。一方、多くの会社では貴重な情報が担当者の記憶や手帳の中で眠り、その人が辞めれば消えていきます。
そこで重要になるのが、報告のフォーマット化とデータベース化。誰でも同じ形式で報告でき、後から検索できる状態にしておくのです。さらに「報告は待つのではなく取りに行く」姿勢もポイント。リーダー自ら情報を取りにいけば、現場の声が経営に早く届き、意思決定の精度が上がります。
② 営業——課題解決型の"型"を作る
キーエンスの営業は「課題解決型」と言われます。商品を押し売りするのではなく、お客様自身が気づいていない課題を見つけて解決するスタイルです。
たとえば「在庫管理が大変」と聞いたら、すぐに商品を提案するのではなく、「なんで大変なんですか?」と質問を重ねる。すると「数え方が人によってバラバラだから」といった本当の課題が見えてくる。松田氏はこれをお医者さんの問診にたとえます。
名医は、お腹が痛いと言われていきなり痛み止めを出さない。昨日何食べましたか、いつから痛いんですかと聞いて原因を探る。営業もまったく同じです。
大事なのは、これを一部のトップ営業のセンスで終わらせないこと。「なぜですか?」「どうしてですか?」という質問を型として全員に共有すれば、新人でも名医のような診断ができるようになります。ロールプレイングやトークスクリプトで型を浸透させれば、社長一人しか売れなかった状態から、現場全員が売れる組織へと変わっていきます。
③ 実行——やらざるを得ない仕組みを作る
戦略がよくても、現場で実行されなければゼロ。成果の出ない会社は、現場に「頑張れ」と気合を注入して終わってしまいます。先述の「人が動けない4つの理由」を先回りして潰すことが、実行確率を上げる鍵です。
ゼロと1では結果が決定的に違う。どんなに掛け算してもゼロはゼロですから、まず最低1まで持っていく。その1を作るのが「やらざるを得ない仕組み」であり、そのうえで成果と従業員満足度を両立する設計を重ねていく——これが松田氏の考え方です。
④ 見える化——成果を可視化して人を動かす
キーエンスでは営業成績が細かく数値化され、自分が今どの位置にいるかが常にわかると言われています。成果を見える化すると、人は自然と上を目指すからです。
松田氏の経験では、タスクの実行確率が60%から90%に上がった例もあるとのこと。プリマヴェーラの日報革命でも、誰がどれだけお客様の声や改善提案を上げているかが全従業員約400名分ランキングで可視化されています。
400位だからといって責めることは基本的にしません。自分で「あ、やば」と気づくんですよね。個人だけでなく店舗のランキングも出すので、自分は気にしなくても「周りに迷惑かけてるな」と思うと頑張れる、ということもあります。
会社に残す
課題解決の型
やらざるを得ない設計
成果の可視化
加えて、おまけとして松田氏が紹介したのが「営業の段取りそのものを仕組みにする」という発想。キーエンスでは営業訪問の日と、アポを作る内勤の日を明確に分けていると言われています。段取り自体を型にすることで、成果を運任せにせず、行動の中で計画的に作り出していくのです。
忙しいからこそ"種まき"を最優先に
「うちには仕組みを作る時間がない」——これも経営者からよく聞かれる声です。松田氏はここで、仕事を刈り取りと種まきに分けて整理します。
今日・今期の成果を出す仕事。緊急で重要。だが、これだけに追われると未来は細っていく。
仕組み作りなど、緊急ではないが重要な仕事。未来の売上と利益を大きく左右する。
刈り取りだけに追われていると、種まきは永遠に後回しになる。種をまかなければ、来年も再来年も同じ収穫量しか取れず、むしろ下がっていく。だからこそ逆説的に、忙しいからこそ最優先で仕組みを作る時間を、社長と幹部はカレンダー上で意図的・計画的に確保すべきだといいます。
これからの勝ち筋は「仕組み化×AI」
そして松田氏は、これからの時代の勝ち筋を一つの式で表現します。仕組み化 × AI。普通の人が仕組みの中で成果を出せるようにする——これはキーエンスもプリマヴェーラもやってきたこと。これからはAIを掛け合わせることで、普通の人が天才を超える結果を出せるようになる、というのが松田氏の見立てです。
戦略確率(戦略の立案)も実行確率(現場の実行)も、AIが担えるようになってきました。しかし、ベースとなる「こうすれば成果が出る」という方程式=仕組みがなければ、AIを掛け算しても最大化できません。美味しいラーメンの作り方、美味しいチョコレートクッキーの作り方を持っていてはじめて、AIで生産量や速度を最大化できるのです。
まとめ
最後に松田氏は、自社をチェックするための4つの問いを投げかけます。一つでも「ノー」があれば、それが伸びしろです。
「他責ではなく自責。どうすれば現場が動いてくれるかを考えるのが、仕組みづくりのスタートライン」。エースに頼らず、普通の人が成果を出し続けるための4つの仕組みと、これからの「仕組み化×AI」という方向性。キーエンスの事例は、その指針として中小企業にも応用できる学びを多く含んでいると言えそうです。
- 成果は才能ではなくテクニック。再現できる「型」を作れば、普通の人がトップ成績を取れる
- ルール化は「お願い」、仕組み化は「構造」。意思に頼らない設計に変える
- 業績=戦略確率×実行確率。両方を仕組みで底上げするのがキーエンス流
- キーエンスに学ぶ4つの仕組みは、情報・営業・実行・見える化
- 人が動けない理由は「何を/いつ誰が/どうやる/なぜ」の4つ。先回りして潰す
- 忙しいからこそ「種まき」=仕組み作りの時間を計画的に確保する
- これからの勝ち筋は「仕組み化×AI」。方程式があってこそAIの速度が最大化される
