サイゼリヤ「朝サイゼ」はなぜガラガラでも続くのか?売上以外で読み解く5つの仕組み
仕組み化の専門家・松田幸之助氏が、サイゼリヤの新たな取り組み「朝サイゼ」を経営者目線で読み解く回。「ガラガラだから失敗」と決めつけがちな表面的な評価の裏側に、教育・採用・実験など複数の役割が隠れているのではないか──。経営者のためのヤバい仕組み化から、その内容をまとめます。
「朝サイゼ」とは何か?破格の値段設定
サイゼリヤが一部店舗で展開している「朝サイゼ」は、朝7時から10時頃までの時間帯限定のモーニングサービスです。焼きシナモンフォカッチャが200円、ドリンクバー付きのコンビで300円、ポテト付きセットが350円と、サイゼリヤらしい破格の価格設定になっています。
一方で報道では「店内は3割程度の入りでガラガラ」「安すぎて儲からない」「失敗ではないか」といった声も出ています。しかし、経営者として見るべきは売上や利益、客入りといった表面的な指標だけではありません。その裏側にある仕組み化誰がやっても一定の成果が出る「型」を作ること。属人化を防ぎ、組織として安定した成果を出すための経営手法。の視点で見ていかなければ、サイゼリヤから学べることは見えてきません。
松田氏は、店舗という拠点は「売上を作る場所」であると同時に「人を育てて採用して実験する場所」でもあると指摘します。ここから、朝サイゼに隠れているであろう5つの役割を解説していきます。
役割1:新人教育の場としての朝の時間帯
1つ目の役割が新人教育の場としての活用です。ピークタイムは現場が忙しく、新人に細かく教えるのは難しいもの。先輩が手取り足取り教える余裕がないため、ミスが起きてお客様に迷惑をかけてしまうこともあります。
しかし朝サイゼのように店内の入りが3割程度であれば、状況は一変します。新人が質問しやすい空気があり、万が一の失敗も大きなクレームにはなりにくい。横でじっくり教えることができるのです。
忙しいから人を採用する
忙しくて新人に教えられない
新人が育たず、辞めてしまう
現場がさらに忙しくなる
意図的に朝の落ち着いた時間帯を作ることで、売上もある程度立てながら新人教育ができる──これが朝サイゼの裏側に隠れている1つ目の意図ではないか、と松田氏は推測します。
役割2:採用のハードルを下げる入り口設計
2つ目は採用の仕組みです。採用の本質は求人広告だけでなく「ここなら働けそう」と思ってもらう設計にあります。
「未経験者大歓迎」とうたっても、未経験者からすれば「自分にできるのか」「ミスしたらどうしよう」という不安は拭えません。特に飲食店は忙しい現場として認知されているため、ピークタイムへのいきなりの投入はハードルが高いのです。
朝はですね、最初のうちは朝の落ち着いた時間で手取り足取りしっかりと教育の場があるんで、安心して成長できますよ──と採用の場で伝えられれば、応募のハードルが下がる。
「いきなり忙しいピークタイムから始まらない」と伝えられるだけで、応募のハードルが下がり、実際に働いてみようという気持ちが高まります。働きやすそう・自分でもできそうと思ってもらえる入り口を設計し、採用の幅を広げる効果が期待できるのです。
役割3:店長・幹部育成のステップアップ拠点
3つ目が店長・幹部育成の場としての活用です。これは松田氏が経営するプリマベーラ松田幸之助氏が社長執行役兼CCOを務める年商51億円の企業。リユース事業などを展開し、仕組み化経営の実践企業として知られる。でも実際に行っている方法です。
新人店長をいきなり旗艦店や繁忙エリアに配属すると、潰れてしまうリスクがあります。そこで落ち着いた店舗でまず小さな成功体験を積ませ、数字や売り場、会議の経験を積みやすい環境を用意してから、旗艦店や幹部へとステップアップさせる流れが有効です。
売上が小さい店舗を「悪」と決めつけず、ギリ黒字で損益分岐点を超えているなら、人を育てる場所として活用する。これも朝サイゼに隠れている仕組みの一つだと松田氏は分析します。
役割4:テストマーケティングとしての実験場
4つ目、そして松田氏が本質と語るのが実験場としての役割です。いきなり全店舗で朝サイゼを始めるのではなく、一部店舗で小さく試して学ぶ──これがテストマーケティングの基本姿勢です。
松田氏が提唱する仕組み化経営は全員経営一人ひとりがオーナーシップを持って経営者意識で仕事をする経営スタイル。仕組みは固定化のためではなく、全員が働きやすくなるための土台として整える。を目指すもので、仕組みも完璧ではないという前提で、絶えず実験を繰り返していくことが重要だといいます。
朝サイゼでは、今まで営業していなかった時間帯にチャンスがあるかもしれないという仮説を、一部店舗で小さく試して、お客様の反応を観察しているのだと考えられます。朝はどんなサービスや商品が売れるのか、ドリンクバーの利用頻度はどうか──こうした生のデータを集めているわけです。
役割5:新しい需要とブランド接点の開拓
5つ目が、新しい需要を探すこととブランド接点を作ることです。今までやったことがない取り組みでは、そもそも朝にお客様が来るのか、来たとしてどんな層なのかすらわかりません。
ご年配の方なのか、夜勤明けの方なのか、勉強中の学生や資格取得を目指す社会人なのか──会議室でいくら議論しても答えは出ません。「答えは現場にしかない」のです。だから小さく実験して、よく観察する必要があります。
朝サイゼを「失敗かもしれない」と決めつけるのは早計だ、と松田氏は強調します。なぜなら、そもそも売上を目的にしているかどうかがまだわからないからです。表面的な指標だけで評価すると打ち手の数が減ってしまいますが、複数の役割で評価すれば意思決定の質は大きく変わります。
空いている=失敗
安い=利益が出ない
打ち手が減る
教育・採用・実験・需要・ブランド接点という多面的な基準で意思決定の質が上がる
一石三鳥の発想:場所に複数の役割を持たせる
強い会社は、一つの場所に複数の役割を持たせています。松田氏のプリマベーラでも、店舗を売上を上げる場であると同時に新人店長育成の場にしたり、会議を意思決定・チェック・報告の場であると同時に最大の幹部教育の場としたりしています。
これは普段から松田氏が大切にしている「一石三鳥」の考え方そのもの。一つのことに取り組むと三つの旨味がある設計にすることで、生産性も実験の数もお客様の満足度も同時に高めることができるのです。
松田氏は最後に、聴き手にこう問いかけます。自社で売上だけで評価されている場所はないか。店舗・拠点・時間・会議といった資源に、採用・教育・育成・実験などプラスの役割を持たせられないか──。朝サイゼから学ぶべきは、まさにこの視点の切り替えなのです。
まとめ
「朝サイゼはガラガラだから失敗」という見方は、売上という一つの軸でしか評価していない表面的な判断にすぎません。仕組み化の視点で裏側を読み解くと、新人教育・採用設計・店長育成・テストマーケティング・需要開拓という5つの役割が見えてきます。
強い会社は一つの場所に複数の役割を持たせ、一石三鳥の仕掛けで生産性と学習量を同時に高めています。自社の店舗・時間・会議に、売上以外の役割を持たせられないか。そんな問いを持つことが、経営の打ち手を増やす第一歩になるのかもしれません。
- サイゼリヤの「朝サイゼ」は焼きシナモンフォカッチャ200円など破格の価格で展開されているが、店内の入りは3割程度との報道がある
- 店舗は売上を作る場であると同時に、教育・採用・実験の場でもあるという視点が経営者には必要
- 朝の落ち着いた時間帯は新人教育に最適で、忙しさによる「教えられない悪循環」を断ち切る効果がある
- 「ピークタイムからいきなり始まらない」という入り口設計は、未経験者の応募ハードルを下げる採用施策にもなる
- 落ち着いた店舗は新人店長の育成にも有効で、小さな成功体験を積ませてから旗艦店へステップアップさせられる
- 朝サイゼは新時間帯のテストマーケティングであり、改善・継続・拡大・撤退の意思決定をするための実験場でもある
- 強い会社は一つの場所に複数の役割を持たせる「一石三鳥」の発想で生産性を高めている
