デジタル教科書論争の本質
2030年にデジタル教科書の本格導入が進められると発表され、賛否が分かれています。推進派は「一人ひとりに合わせた教育がしやすくなる」と主張し、反対派は「紙の方が思考力が育つ」と訴えます。
松田さんはこの対立を見て、「デジタルでもアナログでも、どちらでもいいんじゃないか」と語ります。大事なのは媒体ではなく、その道具で子どもがちゃんと成長できる仕組みがあるか教材や制度を導入しても、それを使いこなす先生や学校の体制がなければ、成果は出ません。「道具」ではなく「使い方」が問われるという視点。だというのです。
そもそも問うべき問いは、デジタル教科書で子どもたちがしっかり成長できるのか、ここじゃないかと思います。
どんなに使える道具があっても、使いこなせなければ成長しない──これは教育でもビジネスでも同じです。
人が成長する「5つのサイクル」
松田さんは、人が成長するには「成長サイクル」が必要だと言います。このサイクルは5つのステップで構成されています。
このループを何度も回すことで、人は着実に成長していきます。どこか一つでも欠けると、成長が止まってしまうと松田さんは強調します。
九九の暗記で見る成長の瞬間
松田さんは、自身の子ども時代の経験を例に挙げます。九九日本の小学校で学ぶ掛け算の暗唱表。「さんいちがさん、さんにがろく…」と声に出して覚えるのが一般的。を覚えるとき、最初は「三三が九」「三五十五」と丸暗記していました。でも、あるとき「あれ?もしかして三個の塊が三個あるから九なんだ」と気づきます。
その時に初めて腑に落ちるんです。そこでちゃんと成長するんですよね。
気づいたら、次は考えます。「じゃあ三五十五は、三個の塊が五個あるから十五か!」。そして親や先生に「こういうことですか?」と発言します。先生は「だから言ってるでしょ」と言いますが、子どもにとってはそこで初めて本当に理解した瞬間なのです。
その後、テストで行動し、うまくいったところ、うまくいかなかったところを反省する。この一連の流れが、まさに成長サイクルです。
スウェーデンの事例が示すもの
スウェーデン北欧の王国。教育先進国として知られ、ITリテラシー教育や個別最適化学習にも積極的に取り組んできました。は2010年頃からデジタル教科書を積極的に導入してきましたが、2022年には紙の教科書に戻す動きが出ているといいます。ある調査では、デジタル化後に以下のような順位低下が報告されました。
順位低下の原因はさまざまでしょうが、松田さんは「成長サイクルが止まってしまった可能性がある」と指摘します。
たとえば、デジタル教科書では入力すればすぐに正解が出ます。すると、自分で考えて「気づく」ステップが飛ばされてしまうかもしれません。また、パンパンと次々進むことで、じっくり考える時間が奪われている可能性もあります。
何かこう、時間がかかると、待つっていうこともある時はあると思います。
子どもが「あ、なるほど!」と腑に落ちるまでには、リードタイムが必要です。それを待てる余白があるかどうかが、教育の成否を分けるのかもしれません。
組織でも同じ──成長を止める上司、伸ばす仕組み
この成長サイクルは、企業の人材育成にもそのまま当てはまります。松田さんは、組織でよくある「成長を止めてしまう行動」を挙げます。
逆に、勉強会や社内研修で成長サイクルを意識的に回せば、学びが定着しやすくなります。
松田さんは生成AIChatGPTやGeminiなど、テキストや画像を生成できる人工知能。「自分の部署でどう使える?」という問いを立て、試行錯誤するプロセスは、成長サイクルそのものです。の活用を例に挙げます。「AIをどう使えばいいか」を気づき、考え、グループで発言し、実際に試し、振り返る──この流れが、まさに成長サイクルだと言います。
まとめ
デジタル教科書が2030年に本格導入されるというニュースを受けて、松田さんは「紙かデジタルか」という対立構造そのものを問い直しました。
本質は、子どもが成長できる仕組みがあるかどうかです。そしてそれは、「気づき、考え、発言、行動、反省」という5つのサイクルが回るかどうかにかかっています。
スウェーデンの事例は、デジタル教科書を配るだけでは不十分だったことを示しています。逆に言えば、紙でもデジタルでも、成長サイクルを回す授業設計ができていれば、子どもは伸びるのです。
これは企業の人材育成でも同じです。答えをすぐ教える上司、発言の場がない会議、失敗を責める文化、振り返りのない組織──そのどれもが、成長サイクルを止めてしまいます。
松田さんは最後に、教育現場に向けてこう呼びかけます。
成長サイクルが回るような仕組みを、授業の中で、学校生活の中で何か取り組むことができないのか。そんな視点で考えていけるといいんじゃないかと思います。
道具が変わる時代だからこそ、人が育つ「本質的な仕組み」を見失わないこと。それが、教育でもビジネスでも、最も大切な視点なのかもしれません。
- デジタル教科書の是非より、「成長できる仕組みがあるか」が本質
- 人が成長するには「気づき、考え、発言、行動、反省」の5サイクルが必要
- スウェーデンの学力低下は、成長サイクルが止まった可能性がある
- 組織でも同じ──答えを教えすぎ、発言の場がない、失敗を責める文化は成長を止める
- 紙でもデジタルでも、サイクルが回る授業・研修設計ができれば人は伸びる
