社長が「知らないふり」をすると、組織は自走し始める
仕組み化の専門家、松田幸之助さんが「経営者のためのヤバい仕組み化」第68回で語ったのは、社長依存の組織から脱却する方法です。答えをすぐに教えるのではなく、「知らないふり」をして問いかける──この一見逆説的な手法が、幹部の判断力を育て、組織を強くするといいます。その内容をまとめます。
社長依存の組織に見られる兆候
松田さんが所属する株式会社プリマベーラ年商51億円企業。創業者の吉川光英会長が「脱カリスマ」を宣言し、トップダウンから権限移譲型の経営に転換したことで知られる。でも、かつては創業者の吉川会長に強く依存した組織だったといいます。トップダウンで売上を伸ばしてきた時代、社員はみな吉川会長の判断を仰ぐスタイルでした。
松田さんはこれまで400社以上の中小企業を支援する中で、社長依存の兆候をよく目にしてきました。たとえば、会議で全員が社長の顔色をうかがう。「これを選ぶと社長は喜ぶだろうか」と探り合う空気が漂う。社長がいないと意思決定が止まり、社長が休むと仕事が滞る──こうした状態は、組織が自走できていない証拠です。
答えを教えてしまうことの弊害
なぜ社長依存が生まれるのか。その根本原因は、「社長が質問にすぐ答えを出してしまう」ことにあります。松田さん自身も、コンサルティング現場で「これどうすればいいですか?」と聞かれることが日常茶飯事です。答えはわかっている。けれども、それをぐっと我慢して伝えない──これが重要だといいます。
答えを教えてしまうと、従業員は「どうせ社長が決めるから」と思考を止めてしまいます。問題解決力や判断力が育たず、「社長が決めなきゃいけない」という思い込みが強化される。結果、社長がボトルネックとなり、組織全体のスピードが落ちていくのです。
社長が質問にすぐ答える
従業員は自分で考えなくてよいと学習する
思考停止が習慣化
「どうせ社長が決める」と判断を放棄
社長依存の深刻化
社長がいないと組織が動かなくなる
知らないふりをする技術
「知らないふり」とは、嘘をつくことではありません。答えを持っていても、あえて教えない、あえて渡さない──そうすることで、相手に考えさせる技術です。
質問されたら、「どうするの?」「どうしたいの?」「どう思うの?」と問いかける。これだけで、従業員は自分の頭で考え始めます。松田さんは、この問いかけを実践した結果、自分が想定していたよりもはるかに優れたアイデアが出てくることが何度もあったといいます。
何か聞かれた時に「どうするの?どうしたいの?どう思うの?」って、ちゃんと知らないふりをして問いかけてあげる。
問いかけることで、従業員は自分の考えを言語化し、判断軸を磨いていきます。社長が思っていた以上に顧客満足度の高いアイデアが生まれることもあり、問いかけは組織全体の創造性を引き出す鍵となります。
相談への対応レベル:即答型から完全委任型へ
松田さんは、社長が幹部や従業員から相談を受けた際の対応を、3つのレベルに分類しています。
レベル1の即答型は、短期的にはスピーディですが、社員の判断力が育ちません。レベル2の問い返し型は、考える機会を与え、成長を促します。そして最終的には、レベル3の完全委任型へと移行していく。これが自走組織への道筋です。
松田さん自身、吉川会長から何を相談しても「どう思う?」としか言われなくなった結果、「もういいや」と自分で判断して動くようになったといいます。最初から答えを持っていた吉川会長が、あえて答えを渡さないことで、松田さんの経験値と判断力を育ててくれたのです。
社長がすべて答えを出す即答型。スピードは速いが依存を生む。
「どう思う?」と問い返し、考えさせる。判断力が育つ。
完全委任。結果だけ共有してもらう。自走組織の完成。
「どうすればいいですか」を禁止するルール
プリマベーラでは、一定の役職以上になると「どうすればいいですか?」という質問を禁止しているそうです。この質問は、考えることを放棄しているのと同義だと松田さんは考えています。「社長、あなたが考えてください。私は考えるのが面倒なので」──実質的にそう言っているに等しいからです。
代わりに、「A案とB案を作ってみました。どちらがいいと思いますか?」という質問の仕方を推奨しています。複数案を用意することで、少なくとも自分で考えた形跡が残ります。そして社長は、「どう思う?」と問い返すことで、さらに深い思考を促すのです。
A案とB案を持ってきてもらえば、社長がB案の方がいいと思っていても、まず「どう思う?」と聞く余地が生まれます。そうすると、従業員は「A案がいいと思います。なぜなら…」と説明し始める。そのアイデアが、社長の想定を超えて優れている場合も少なくありません。
今日から使える3つの問いかけ
では、具体的にどう問いかければいいのか。松田さんは3つのフレーズを挙げています。
1つ目は「あなただったらどう思う?」。これは基本中の基本です。相手の考えを引き出し、判断軸を確認できます。
2つ目は「他にどんな選択肢があるかな?」。A案・B案が持ち込まれたものの、どちらもイマイチだと感じた時に使います。C案、D案を考えさせることで、視野を広げ、複数の視点で物事を見る力を養います。
3つ目は「もし私がいなかったらどうするんですか?」。これは究極の問いかけです。視座がぐっと変わり、「社長がいない前提」で考えることで、自分で決める覚悟が生まれます。
知識と判断軸を育てるバランス
ただし、「どう思う?」と問いかけるのが常に正解とは限りません。松田さんは、バランスの重要性を強調しています。
やり方が全くわからない新人に「どう思う?」と聞いても、答えは出ません。まずは知識を入れ、判断の軸を教える必要があります。ある程度の役職に上がり、知識と判断軸が揃った段階ではじめて、「どう思う?」という問いかけが機能するのです。
知識・判断軸がない段階
→ 答えを教える、知識を入れる
知識・判断軸が揃っている段階
→「どう思う?」と問いかける
このバランス感覚こそが、人材育成の鍵です。教えるべき時は教え、考えさせるべき時は問いかける。状況を見極め、相手の成長段階に応じて対応を変えることで、組織全体の判断力が底上げされていきます。
まとめ
松田さんは、プリマベーラで創業者の吉川会長が「どう思う?おじさん」になったことで、自身が大きく成長したと振り返ります。社長が知らないふりをすることは、最高の人材育成だというのです。
答えをすぐに教えてしまうと、相談されるたびに社長が動かなければ組織が回らなくなります。会議で最終判断を全て社長が出し、社長がいなければ仕事が止まる──これでは、社長自身が勉強に行くことも、会社を離れることもできません。
幹部を育てる。それは、ちゃんと考えてもらうことです。「どう思う?」と答えを引き出す社長に少しずつ変わっていくことで、組織は社長依存から脱却し、自走し始めます。
- 社長依存の組織は、社長がいないと意思決定が止まり、判断力が育たない
- 答えをすぐに教えると、従業員は思考停止し、「どうせ社長が決める」と依存が深まる
- 「知らないふり」をして「どう思う?」と問いかけることで、考える力を育てる
- 相談への対応は、即答型→問い返し型→完全委任型の3段階で進化させる
- 「どうすればいいですか」は禁止し、「A案とB案、どちらがいいか」という質問に変える
- 「あなたならどう思う?」「他に選択肢は?」「私がいなかったら?」の3つの問いかけを使う
- 新人には知識と判断軸を教え、幹部には問いかけて考えさせる──バランスが重要
- 社長が知らないふりをすることが、最高の人材育成であり、自走組織への近道
