1.2倍人材と5倍人材の決定的な違い
松田氏は、AIを使いこなす人とそうでない人の差にずっと違和感を抱いていたそうです。その違和感を、ある社長との会話でぴったり言語化する言葉に出会いました。それが「1.2倍人材」と「5倍人材」というフレーズです。
結論から言えば、この2つはこう定義されます。
今ある仕事の流れの中にAIを入れて、作業を早くする人
AI前提で仕事の構造を再設計し、作業そのものを消す人
「早くする」のか「そもそもなくす」のか。この発想の切り替えが、成果の桁を変えていきます。ChatGPTOpenAIが2022年11月に一般公開した対話型AI。自然な文章生成や質問応答ができ、AIブームの火付け役となった。やGeminiGoogleが提供する生成AI。ChatGPTと並ぶ代表的な対話型AIの一つ。が普及した当初は、1.2倍でも十分アドバンテージがありました。しかし今や誰もが使う時代。1.2倍は実質「1倍」となり、優位性はどんどん薄まっているのです。
AIは「ツール」ではなく「部下」である
5倍人材に共通する特徴は、AIを「便利ツール」ではなく「部下」として扱っている点だと松田氏は語ります。メールの下書きを頼む便利機能ではなく、時間がないときに仕事を任せる相手として使っているのです。
この感覚の背景には、AIそのもののステージが変わってきた事実があります。当初は「チャットで質問する」段階でしたが、Claude CodeAnthropic社が提供するAIコーディング支援ツール。単なる質問応答ではなく、AIが実際にコードを書いたりファイルを操作したりと「作業」を実行できる点が特徴。のようなツールの登場で、AIに実際の仕事を任せる段階へと進化しています。
ここで大事なのは、人間の部下に「いい感じにやっておいて」と丸投げしてもズレるのと同じで、AIにも同じことが起きるという事実です。目的・対象・成果物・条件を明確に伝える力、つまりマネジメント力こそがAI活用の本質だと松田氏は指摘します。
AI活用が上手い人は、AIの操作が上手いというよりも、AIに仕事を任せるマネジメントが上手なのかなと最近思っています。
3つの具体例で見る発想の差
抽象論だけではイメージしにくいので、松田氏は3つの具体例で1.2倍と5倍の違いを説明しています。
① メール返信
問い合わせが来たらAIに返信文を書いてもらう。10分の作業が2分に短縮される。
毎朝、AIが受信メールを読み込んで返信案を自動で下書きに投入。人は確認と微修正だけ。「返信を書く」作業そのものが消える。
② 販促POP作成
松田氏の会社プリマベーラ松田幸之助氏が社長執行役を務める年商51億円の企業。小売業を中心に事業展開している。で実際にあった事例。1.2倍人材は「商品ページの情報をコピーしてAIに投げてPOPを書かせる」レベルにとどまります。一方で5倍人材は、商品登録の時点でPOPやSNS投稿文まで自動生成される仕組みを組み上げます。販促業務のプロセス全体を作り直しているのです。
③ 会議
議事録作成だけをAI化するのは1.2倍。会議の仕組み全体をAI前提で再設計するのが5倍。同じ「AI活用」でも、視点の広さがまるで違うことがわかります。
5倍人材になりやすい人の4つの特徴
では、どんな人が5倍人材になりやすいのか。松田氏は現時点での仮説として4つの特徴を挙げています。
ポイントは「AIで何ができるんですか?」で止まらないこと。そこで思考停止せず、「この業務にAIを使ったら、どんなことを変えられるんだろう?」と問いを立て直せるかどうかが分岐点になります。
AI活用の3段階と中小企業のチャンス
松田氏はAI活用のステージを3段階に整理します。自分や自社が今どこにいるかを見極めるための地図です。
そして松田氏はこう続けます。「実はこのAI時代、中小企業こそチャンスだ」と。理由はシンプルで、中小企業は仕事の流れが見やすいからです。大企業は業務が細分化されすぎてお客様までの距離が遠くなりがちですが、中小企業では一人が川上から川下まで見ることができます。
経営者こそ5倍人材の視点を持て
ここで松田氏は少し「怖い話」を切り出します。それは、社長のAIリテラシー以上に組織のAIリテラシーが高まることはまずないという現実です。
社長のAIリテラシーよりも組織のAIリテラシーが高まることは、まあまあないんじゃないかなと思っています。
幹部にすべて任せる方法もありますが、その幹部が退職した瞬間に組織が回らなくなるリスクを抱えることになります。だからこそ社長自身が5倍人材の視点を持つ必要があるのです。
松田氏がいつも語る「社長の仕事は決定とチェック」という原則も、AIを5倍人材の視点で使えば、その質もスピードも大きく上がります。見直すべきは3つの階層すべてです。
経営の仕組み
会議、意思決定プロセスなど。社長・経営幹部にしか変えられない領域。
事業の仕組み
採用、社員教育など。ここも経営層のリーダーシップが必要。
業務の仕組み
メール返信、問い合わせ対応など。現場の5倍人材が推進しやすい領域。
業務レベルなら現場任せでも進みますが、経営や事業の仕組みを丸ごと変えられるのは社長と経営幹部だけ。だからこそトップの視点転換が急務なのです。
まとめ
今回のエピソードで松田氏が最も伝えたかったのは、「AIを使う時代ではなく、AI前提で会社を作り直す時代になってきている」という時代認識でした。
1.2倍人材が悪いわけではありません。ただ、隣に5倍人材が現れたとき、組織のあり方は根本から変わってしまいます。5倍人材は特別な天才ではなく、好奇心を持ってまず触ってみて、使えるものを組織に実装していく人。中小企業からでも必ず生まれます。
採用も教育も、そして経営者自身の学びも、この「1.2倍か、5倍か」という視点でぜひ見直してみてください。
- 1.2倍人材は「作業を早くする人」、5倍人材は「作業そのものを消す人」。発想の枠組みが根本的に違う。
- 5倍人材はAIを便利ツールではなく「部下」として扱い、目的・条件を明確に伝えるマネジメント力を持つ。
- メール返信、販促POP、会議など、既存業務にAIを差し込むのではなく、業務プロセス全体をAI前提で再設計する。
- 5倍人材の特徴は「好奇心・素直に試す・手を動かす・経営視点」の4つ。特別な才能は不要。
- 中小企業は仕事の流れが見渡せるため、5倍人材が生まれやすい土壌がある。
- 社長のAIリテラシー以上に組織は伸びない。経営者自身が5倍人材の視点を持つことが最重要。
