完璧な仕組みが動かないのはなぜか
マニュアル、チェックリスト、経営計画書。仕組みは作った、けれど現場が思うように動かない。松田氏のもとには、こうした相談が数多く寄せられるといいます。逆に「ベテラン社員が辞めたら不安だ」という声も同じくらい多いそうです。
一見別々の悩みに見えますが、根っこにあるのは同じ問題だと松田氏は指摘します。結論はシンプルで、どんなに完璧な仕組みを作っても、人を育てる仕組みが整っていなければ現場は動かないということ。仕組みと教育は片方だけでは機能せず、セットで必要になるという考え方です。
車と教習所 ── 仕組みには使い方の教育が必要
松田氏がわかりやすい比喩として持ち出すのが車です。車は人よりも早く遠くに移動できる、素晴らしい仕組み。しかしどんなに高性能な車でも、運転できない人が乗ればぶつかるか、そもそも動きません。だからこそ人は教習所に通い、技術を身につけ、ルールを覚えてから運転します。
これは会社の仕組みでも同じことが起きています。たとえば松田氏の会社ではパート・アルバイトを含めた全員が入社初日から日報を書きます。しかし習慣のない人がいきなり書いても、100〜200字程度の内容の薄いものにしかなりません。そこで「なぜ日報が大事なのか」「何を報告してほしいのか」「どう書くのか」をレクチャーすることで、はじめて意味のある日報に変わっていくといいます。
高性能な車を渡すが、運転の教習をしない
→ 事故が起きるか、そもそも動かない
車の使い方をちゃんと教える
→ 安全に、速く、遠くまで走れる
成果の方程式:戦略確率×実行確率
松田氏は成果を出すための仕組みを、一つの方程式で説明します。業績 = 戦略確率 × 実行確率。会社の業績は、この2つの掛け算で決まるという考え方です。
社長がどれだけ素晴らしい戦略を打ち立てても、現場が実行してくれなければ成果は上がりません。松田氏の会社ではこれをさらに要素分解し、独自のノウハウとして決定サイクル「報告→決定→実施→チェック」の4ステップを回すサイクル。決定とチェックが社長の役割、報告と実施が従業員の役割と定義される。に落とし込んでいます。
実行確率を上げる「見られている」設計
実行確率を上げる鍵は「チェック」にあると松田氏は言います。松田氏の会社では、実際にちょっとした工夫で実行確率が大きく変わった事例があるそうです。
以前は各自が自分のタスクを個別に管理する仕組みで、期限内に終わる実行確率は60〜70%程度。ところがある一つの工夫を加えたところ、実行確率が約90%まで跳ね上がりました。
その工夫とは、「誰が」「何を」「いつまでにやるのか」を全員が見えるように可視化しただけ。個人のタスクリストを全員に見せるようにしたことで、「見られている」という心理が働き、実行確率が上がったのです。
人を育てる方程式:スキル×モチベーション×ベクトル
仕組みを動かすのが教育だとして、では教育はどう設計すればよいのか。松田氏はもう一つの方程式を提示します。業績 = スキル × モチベーション × ベクトル。人を育てるとは、この3つを同時に高めることだと定義します。
日報を例にすると、書き方を教えるのがスキル、社内インセンティブやサンクスカードでやる気を上げるのがモチベーション、「お客様への貢献」や「業務効率化のため」といった価値観に沿って書いてもらうのがベクトルです。愚痴や不満を書く場にしてしまえば、日報はどんどん暴走してしまいます。
3つは掛け算なので、一つでもゼロがあれば全体もゼロになります。特に危険なのはベクトル、つまり価値観のズレだと松田氏は強調します。スキルが高くやる気もあるのに方向が真逆なら、組織はむしろ引っ張り合って前に進まなくなるからです。
| 要素 | 目的 | 使っている仕組み |
|---|---|---|
| スキル | できるようにする | マニュアル、チェックリスト、教育の仕組み |
| モチベーション | やる気を引き出す | グッドアンドニュー24時間以内に起きた良かったこと・新しい発見を共有する朝礼手法。前向きな雰囲気づくりに使われる。、サンクスカード、表彰制度 |
| ベクトル | 価値観を合わせる | ベクトル勉強会、経営計画書 |
実施を妨げる三大要因と、その取り除き方
スキルもモチベーションもベクトルも整った。それでも実行できないケースがあります。松田氏はその原因を「実施を妨げる三大要因」として整理しています。
「何を」「どうやって」「いつ誰が」を明確にすれば、従業員は実行できるようになります。裏を返せば、実行できない言い訳をなくすことにもつながります。そしてすべての土台には「なぜやるのか」が必要で、これが腑に落ちていなければ人は動かない、と松田氏は付け加えています。
両輪が回るから16期連続増収増益
松田氏の会社は現在、16期連続で増収増益、グループ売上は50億円を突破しています。その理由を松田氏は「成果の出る仕組み」と「人を育てる仕組み」という二つの両輪を回し続けているからだと語ります。
戦略確率 × 実行確率
報告・決定・実施・チェック
スキル × モチベーション × ベクトル
マニュアル、表彰、経営計画書ほか
どちらか片方だけでは機能しません。素晴らしい車があっても運転できる人がいなければ事故を起こし、優秀なドライバーを揃えても走らせる車がなければ意味がない。両輪を意識することで、はじめて仕組み化は成果を生み続けるのです。
まとめ
今回のエピソードで松田氏が伝えていたのは、「完璧な仕組みを作ったのに現場が動かない」という悩みの答えは、仕組みの側ではなく人の側にある、ということでした。仕組みは車、教育は教習所。どちらか一方では成果は続きません。
自社にとっていま優先すべきは「成果の出る仕組みづくり」なのか、「その仕組みを回す人を育てること」なのか。松田氏はリスナーに問いかけながらエピソードを締めくくっていました。実行できない組織になっていると感じたら、今日紹介された二つの方程式を出発点に、自社の両輪を点検してみるとよさそうです。
- 完璧な仕組みを作っても、人材教育の仕組みがなければ現場は動かない
- 成果の方程式は「戦略確率 × 実行確率」。実行確率はチェックで上がる
- タスクを全員に可視化するだけで、実行確率は60〜70%から約90%へ
- 人を育てる方程式は「スキル × モチベーション × ベクトル」。特にベクトル(価値観)のズレが最も危険
- 実施を妨げる三大要因(何を・どう・いつ誰が)は、チェックリスト・マニュアル・タスク管理で解消できる
- 「成果の出る仕組み」と「人を育てる仕組み」の両輪を回すことが、増収増益を続ける秘訣
