ニトリの苦戦と無印良品の好調──よくある解説に足りない視点
最近、ニトリが苦戦し無印良品が好調というニュースが話題になっています。こうした報道では「物価高の影響」や「ブランド戦略の差」で語られることがほとんどです。しかし松田さんは、それらに加えて見落とされがちな切り口があると指摘します。
それが「商品サイズ戦略」と「入り口商品戦略」という2つの視点です。両社の明暗を分けている要因は、実は扱っている商品の"大きさ"そのものにあるのではないか──というのが今回の核心です。
🛋 大型商品が中心(家具・ベッド・ソファ)
高単価・高粗利・低頻度
「部屋の中心」を取る戦略
🧴 小型商品が中心(日用品・化粧品・食品)
低単価・高頻度・ついで買い
「生活の入り口」を取る戦略
大きい商品が抱える構造的なハンデ
ニトリの主力商品であるベッド、ソファ、テーブルなどは、一点あたりの売上は大きくなります。しかし松田さんは「売上が大きい=経営的に有利」とは限らないと語ります。大きい商品には、経営負荷と購入ハードルの両方が同時に上がるという構造的なデメリットがあるからです。
商品が大きい
家具・寝具などの大型アイテム
物流・保管コスト増
発送費・倉庫スペース・人件費が膨らむ
購入ハードル上昇
顧客は価格比較・競合比較を慎重に行う
物価高が追い打ち
原材料・物流コストの高騰がダイレクトに響く
商品が大きいということは、原材料費だけでなく、配送用の段ボール代、配送の人件費、倉庫の保管スペースなど、あらゆるコストが物理的なサイズに比例して増えていきます。さらに物価高の局面では、これらのコスト増がダイレクトに利益を圧迫します。
一方、お客様の側にも「大きい買い物」への心理的ブレーキがかかります。何万円もするソファを買うとなれば、他社と比べ、レビューを調べ、部屋のサイズを測り……と、購入までの距離がどうしても長くなるのです。
小さい商品が生む"入り口"の力
対する無印良品が好調な要因として松田さんが挙げるのが、スキンケア無印良品のスキンケアラインは、化粧水・乳液・美容液・日焼け止めなど幅広く展開。価格帯も数百円~数千円と手に取りやすく、SNSでの口コミ拡散でも注目されています。、日用品、食品などの小型商品群です。松田さん自身も無印良品の化粧水を愛用しており、「質がいい」と実感しているそうです。
最近ほんと無印良品さんどうですか?SNSで常に何かしらの商品が話題になってるんじゃないかなと思います
小さい商品が持つ最大の強みは、認知から購買までの距離が圧倒的に短いことです。SNSで「新しいカレーが出た」「日焼け止めが良い」と話題になれば、数百円で試せるから「じゃあ買ってみようか」となる。このスピード感は、数万円の家具では実現できません。
さらに、化粧品のように安価なラインから高価なラインまで揃っていれば、最初は数百円の化粧水から入り、満足すれば美容液や乳液へとラインナップを広げていく。気がつけば「家の中が無印良品の商品だらけ」になっている──これが、小さい商品で生活の入り口を押さえる戦略の威力です。
経営側にとっても、小さい商品は発送コスト・在庫管理コスト・保管スペースのすべてが抑えられます。顧客接点の頻度が高まり、コストは下がる。この二重のメリットが、物価高の時代に無印良品を支えている構造的な強さだと松田さんは分析しています。
ニトリも動き始めた小型化の波
興味深いのは、ニトリもこの流れに気づいて動き始めている点です。松田さんによると、ニトリはパッケージの小型化、オンライン注文の強化、従来の大型店より小型の店舗展開といった方針を打ち出しているそうです。
しかし、ここに「第一想起あるカテゴリについて最初に思い浮かぶブランドのこと。「家具といえば?」と聞かれて最初に出てくるのがニトリなら、ニトリが第一想起ブランドです。」の問題が立ちはだかります。「ニトリ=家具」「無印良品=雑貨・日用品」というブランド想起が消費者に根付いている以上、ニトリの店舗に入る時点で「大きな買い物をする場所」という心理的ハードルが生まれてしまいます。
方向性としては同じ「小型化」に向かっていても、元々の商品戦略とブランドイメージの違いが、そのまま変革のスピードに影響を与えているのかもしれません。
自社に活かす「商品サイズ戦略」の考え方
松田さんは、自身が社長執行役を務める株式会社プリマベーラ松田幸之助さんが社長執行役兼CCOを務める企業。4事業部17業態を展開し、グループ売上は約53億円。日本経営品質賞の受賞企業を含む400社以上の中小企業を支援しています。でも、新規事業を検討する際に「商品は小さく、コンパクトで、かつ粗利がしっかり取れるもの」を常にアンテナを立てて探しているといいます。
レターパックで送れる商品なのか、段ボールを使わなければいけない商品なのかで、発送コストは当然変わります
この問いかけはとてもシンプルですが、実に示唆に富んでいます。商品のサイズが変われば、原価、梱包材、配送費、倉庫スペース、そして顧客の購入ハードル──これらすべてが連動して変わるからです。
松田さんはさらに、管理会計経営の意思決定に使うための内部向け会計のこと。商品・サービスごとの採算性を可視化し、どこで利益が出ているか(出ていないか)を把握するために用います。の仕組みを社内に持ち、お客様の声を起点にした商品開発と利益管理を一貫して行うことの重要性にも触れています。商品サイズ戦略は単独で機能するものではなく、社内の仕組みと連動して初めて威力を発揮するということです。
まとめ
無印良品とニトリの業績差は、ブランドイメージや物価高だけでは説明しきれません。松田さんが提示した「商品サイズ戦略」と「入り口商品戦略」という切り口は、あらゆる業種の商品設計に応用できるシンプルかつ強力な視点です。
新商品を企画するとき、新規事業を立ち上げるとき、「もっと小さくできないか?」「入り口になる商品はあるか?」と問うてみる。たったそれだけで、コスト構造も顧客接点も、そしてビジネスの成長の仕方も変わっていくかもしれません。
- 無印良品とニトリの明暗は、ブランド戦略だけでなく商品の"大きさ"の違いに起因する
- 大型商品は売上単価は大きいが、物流・保管・配送コストが高く、物価高の影響を受けやすい
- 小型商品は「試し買い→リピート→アップセル」のサイクルを回しやすく、顧客接点の頻度も高い
- ニトリも小型化・小型店舗への方向転換を進めているが、「家具の店」という第一想起が変革の壁になる
- 新商品・新規事業を考える際は「小さく・コンパクトで・粗利が取れる」をチェックポイントにする
- 商品サイズ戦略は管理会計などの社内の仕組みと連動させて初めて効果を発揮する
