地元が舞台だと気づいた瞬間、何が起きた?
しゅうへいさんが推す小説は、凪良ゆうさんの『汝、星のごとく』です。2023年の本屋大賞 ── 全国の書店員が「いちばん売りたい本」を投票で選ぶ文学賞。2004年に始まり、受賞作は映像化されることも多い賞ですを受賞した作品で、すでに続編も出ています。
しゅうへいさんは、この作品をまずオーディオブックで聴きました。紙の本も買い、活字でも読み進めたいと話しています。
しゅうへいさんがこの作品を聴き始めたときは、舞台がどこなのか知りませんでした。流し聴きをしていると、海や瀬戸内の情景、橋を渡る場面が出てきて、「これ今治やん」と気づいたといいます。しまなみ海道や今治は、しゅうへいさんの地元です。
物語にどんどん引き込まれ、聴き終えたあとも余韻が残りました。あまり小説を読んでこなかったしゅうへいさんにとって、『汝、星のごとく』は「小説ってこんな体験になるんだ」と感じた一冊だったそうです。
『汝、星のごとく』のテーマは恋愛です。ただ、しゅうへいさんは恋愛の裏にある孤独、傷、抑圧の描写が本当に繊細だと話しています。
『汝、星のごとく』は広瀬すずさんと横浜流星さんのダブル主演で映画化され、公開は2026年の予定です。しゅうへいさんによると、ロケは番組の収録をしている島やその近辺で行われていて、地元がロケ地になったことも推したい理由の1つだそうです。
瀬戸内の島で出会う、傷を抱えた2人の高校生
しゅうへいさんはネタバレなしで、『汝、星のごとく』のあらすじを紹介しました。舞台は瀬戸内に浮かぶ美しい島です。モデルについては大島、伯方島、大三島など諸説あり、描写から島を推測するのも楽しみ方の1つだといいます。
主人公の1人は、島で生まれ育った高校生の暁海です。父親の不倫が原因で心を病んだ母親の面倒を見ています。
もう1人の主人公は、京都から転校してきた男の子、青埜櫂です。櫂は自由奔放な性格で、男性に依存しがちな母親に振り回されています。
『汝、星のごとく』の主人公2人は、それぞれ複雑な家庭環境を背負ったまま島で出会い、恋に落ちます。物語は、そこから15年にわたって描かれます。
島で生まれ育った高校生。父親の不倫で心を病んだ母親の面倒を見ている
京都から転校してきた。男性に依存しがちな母親に振り回され、母親とともに島へ来た
しゅうへいさんは内容に深入りせず、「文学としての面白さ」を語りたいと宣言しました。これにはイケハヤさんから「文学なんて読んでなかったのに」というツッコミが入っています。
いつもの海が、文字でこんなに描けるのか
しゅうへいさんが挙げた1つ目のポイントは、自分がいつも見ている景色を、文字でここまで繊細に描けるという驚きです。しゅうへいさんはよく島を散歩し、海を見るたびに感動しています。あれこさんも、しゅうへいさんは島育ちなのにいつ見ても心から感動している、と笑います。
しゅうへいさんが印象に残った描写の1つは、湖のように穏やかな瀬戸内の海です。日が落ちると、街灯のない海は漆黒の闇のようになります。その下には想像もつかない深さがあるかもしれません。
『汝、星のごとく』では、島の情景が2人の物語と寄り添うように描かれています。しゅうへいさんは育った島の見慣れた景色だからこそ、「この2人がどこかの島に住んでいるんじゃないか」と感じるほどだったといいます。
しゅうへいさんは、凪良ゆうさんが瀬戸内の怖さも書いている点にも注目しました。瀬戸内は穏やかに見えますが、実は潮の流れが速い海です。来島海峡 ── 今治市と大島の間にある海峡。潮流がきわめて速く、船の難所として知られていますは日本三大急潮の1つに数えられ、しゅうへいさんも子どもの頃から「出たらすぐ流される」と注意されてきました。
湖のように穏やかで、キラキラと輝く海
日が落ちると漆黒になり、流れも速く、一瞬で人の命を奪いうる海
凪良ゆうさんは滋賀県出身で、編集者が今治出身だった縁でこの地を訪れたそうです。景色の美しさに惹かれ、ここを舞台に書きたいと思ったといいます。しゅうへいさんは「住んでいるのかと思うほど」の描写に驚く一方で、外から来た人だからこそ書ける魅力もあるのではないかと考えています。
噂が娯楽になる島で、子どもは何を背負うのか
しゅうへいさんの2つ目のポイントは、暁海と櫂の間にあるトラウマや傷の共有です。しゅうへいさんは、不倫された母と男を追ってきた母という家庭事情が、島でどう受け止められるかを2人に問いかけました。
あれこさんの答えは「噂話が一瞬で回る」でした。なぜそこまで知っているのかと思うほど、島では噂が早く広まるといいます。
しゅうへいさんは、凪良ゆうさんが島の現実をよくわかっていると話しています。小さな島は平和に見えても娯楽が少なく、人の噂話がリアルタイムのエンターテインメントになっているというのです。
しゅうへいさんの考えでは、その噂で深く傷つくのは、当事者である親よりも子どもです。「不倫されたお母さんの娘」「男を追いかけてきた女の息子」という目で見られ続けるからです。
作中の高校は生徒が30人ほどで、全員がお互いのフルネームを覚えているように描かれています。しゅうへいさん自身も、小学1年生から中学3年生まで30人1クラスで、クラス替えがなかったそうです。
しゅうへいさんは、暁海と櫂の出会いは偶然ではないと読んでいます。2人はどちらもヤングケアラー ── 本来は大人が担う家族の介護や世話を、日常的に引き受けている子ども。学業や友人関係に影響が出ることが社会問題になっていますで、孤独を抱え、普通の家庭に憧れながら、誰にも相談できずにいました。同じ傷を持っていたからこそ、2人は恋に落ちるしかなかった、というのがしゅうへいさんの受け止め方です。
父の三段重の弁当と、あれこさんとの出会い
しゅうへいさんは、『汝、星のごとく』を通して自分の傷を確かめているような感覚になったといいます。しゅうへいさんの両親は離婚していて、しゅうへいさんは父親に引き取られました。
しゅうへいさんの運動会の記憶はこうです。周りの子の弁当はキャラ弁や冷凍のハンバーグでしたが、父親は漆塗りの三段重にシンプルな卵焼きを詰めてきました。白髪交じりの父親の姿が恥ずかしく、「お前んちのお母さん来ないの?」と聞かれても答えられません。結局、体育館裏で父親と2人で食べたそうです。
参観日に綺麗なお母さんが来ているのを見ると、「本当は自分にも綺麗なお母さんがいて、遠くから見ているんじゃないか」と考えることもあったといいます。
しゅうへいさんは、あれこさんとの出会いにも触れました。最初に会ったとき、あれこさんは「愛媛なんて絶対行かない」と思っていたそうです。
2人の関係が変わったのは、たまたまLINE通話をしたときです。お互いの親が離婚していることや幼少期の経験を話し、分かり合える部分がありました。しゅうへいさんは、共通の傷や普通への憧れで惹かれ合う暁海と櫂に、自分たちの出会いを重ねたといいます。
熱く語るしゅうへいさんに、イケハヤさんは「小説を初めて読んだ人の感想みたい」と笑います。しゅうへいさんは「上から目線の講評」と返し、スタジオは和やかな空気になりました。
あの選択がずれていたら、人生はどうなった?
しゅうへいさんの3つ目のポイントは、「もしあの選択をしていなかったら」という視点です。『汝、星のごとく』は暁海の視点と櫂の視点が交互に描かれます。一方の視点では「なんでそんなことを言うのか」と思っても、もう一方の視点に移ると「わかる」と感じられる構成です。
しゅうへいさんによると、どちらの視点もそれぞれ理解できるのに、2人の視点は交わりません。そのすれ違いが絶妙に描かれているといいます。
ここでしゅうへいさんは、2人に人生の分かれ道を尋ねました。3人がそれぞれ挙げた選択は次のとおりです。
| 話者 | 選択 | その後 |
|---|---|---|
| しゅうへい | マルチ商法を始めた | 当時は後悔したが、ブログやイケハヤさんとの出会いにつながった |
| イケハヤ | 慶應ではなく早稲田に進んだ | 吹奏楽サークルで後輩として入ってきた妻と出会った |
| あれこ | 就職ではなくテレビリポーターの道を選んだ | 選ばなかった場合の人生は想像がつかないほど違ったはず |
イケハヤさんは早稲田の政治経済学部と慶應の経済学部の両方に合格しました。慶應はキャンパスが途中で変わるのが面倒だという理由で、なんとなく早稲田を選んだそうです。妻とはそこで出会っており、慶應に行っていたら結婚していなかっただろうと振り返ります。
あれこさんがリポーターを目指したきっかけは、気持ちが落ち込んでいた時期の出来事です。たまたまつけた番組でリポーターを見て、久しぶりに笑い、「自分もそっち側になりたい」と思ったといいます。
しゅうへいさんは、大きな分岐も、始まりはキャンパスの移動やテレビのスイッチのような小さなことだと指摘しました。あれこさんは、自分にとっては小さくない強いきっかけだったと返しています。
一瞬、今の自分がわからなくなる感覚
しゅうへいさんは、『汝、星のごとく』では、ちょっとした一言や日常的なすれ違いをきっかけに物語が大きく動くと話しています。どちらが悪いとは言えないささいな出来事で展開していく描き方が、しゅうへいさんの心に残ったそうです。
しゅうへいさんには、長く運転していると、一瞬記憶が飛ぶような感覚になることがあるといいます。会社員時代の出張中なのか、今は駅へあれこさんを迎えに行く途中なのか、自分がどんな立場なのかが一瞬わからなくなるのです。
イケハヤさんにも、似た感覚があるといいます。朝起きたときや寝る前に、結婚しておらず子どももいない自分に一瞬戻り、「うち子どもいるんだ」と気づくことがあるそうです。
イケハヤさんは、その感覚を、うまくいっていなかった頃の1人の自分がまだどこかにいて、ふっと現れる瞬間だと表現しました。結婚していなかったら酒を飲み続けて死んでいたかもしれない、という世界線の自分だといいます。今があるのは妻のおかげだ、とも話しています。
どちらを選んでも、味わう痛みは同じ
しゅうへいさんは、凪良ゆうさんのインタビューでの言葉を紹介しました。何かを捨てても捨てなくても、味わう痛みは同じで、どちらの痛みを選ぶかしかないという趣旨の言葉です。
『汝、星のごとく』には、瀬戸内から東京へ出ていく展開もあります。しゅうへいさんはここで、自分が東京で就職した頃のことを思い出したといいます。
しゅうへいさんの父親は25年ほど人工透析を続けていて、しゅうへいさんは4〜5歳の頃から「父は明日死ぬかもしれない」と考えて生きてきました。それでも就職1年目にマルチ商法にのめり込み、リーダーから「成功する社長はどっちを選ぶかな」と言われて、お盆の帰省をやめてしまいます。
ビジネスはうまくいかず、家賃を払えなくなったしゅうへいさんは父親のもとへ戻りました。その2年後ほどに父親は亡くなります。しゅうへいさんは深く後悔したそうです。
ブログで独立した後、しゅうへいさんは島で1人でお盆を過ごしました。店で弁当と缶ビールを買い、夜に1人で食べていたとき、「お盆に帰らなかったとき、父が見ていた景色はこれだったのか」と気づいたといいます。スーパーで家族連れを眺めながら買い物をし、1人で食べる父親の姿を想像して、痛みが押し寄せてきたそうです。
東京で就職
就職1年目にマルチ商法にのめり込む
帰省をやめる
リーダーの言葉に流され、病気の父親に「お盆も帰れん」と伝える
島へ戻る
ビジネスがうまくいかず父親のもとへ戻り、その2年後ほどに父親が亡くなる
1人のお盆
独立後、島で1人お盆を過ごし、当時の父親が見ていた景色に気づく
しゅうへいさんにとって『汝、星のごとく』は、ストーリーは違っても、自分の人生を振り返らせる一冊でした。しゅうへいさんは、ただの恋愛小説ではなく、物語と同時に自分の物語もあったと感じさせられたと締めくくります。父親に誘われた釣りに行かないまま行けなくなったことも思い出し、映画で瀬戸内がどう描かれるのかを楽しみにしているそうです。
先が読めてしまう人は、この物語に没入できる?
あれこさんも『汝、星のごとく』を読み、心をつかまれる物語だと感じていました。それでも、しゅうへいさんの話を聞いて、瀬戸内、家族、東京との距離など重なる部分が多い人には、まったく違う世界が見えていたのかもしれないと話しています。
しゅうへいさんは本屋で、初めて自己啓発コーナーに吸い寄せられず、文学コーナーへ向かったそうです。文学コーナーは自己啓発のコーナーより小さいこともある、という話も出ました。
イケハヤさんは普段、難解な本ばかり読んでいるといいます。しかし、読みやすく心を打つ本もたまには読もうかと関心を示しました。
一方でイケハヤさんは、物語の型が見えて先回りしてわかってしまうと、少し冷めて没入しにくくなるとも話しています。だからこそ、意味がわからず先も読めない作品のほうが好きなのだそうです。しゅうへいさんは、発信の仕事でストーリーテリングをしているからではないかと応じました。
あれこさんによると、しゅうへいさんも一緒に映画を観ていると展開を先に言ってしまうそうです。最後には『汝、星のごとく』は100万部売れているらしいという話も出て、次回はあれこさんが『世界でいちばん透きとおった物語』を紹介すると予告されました。
まとめ
しゅうへいさんが紹介した『汝、星のごとく』は、瀬戸内の島で出会った暁海と櫂の15年を描く恋愛小説です。しゅうへいさんは、見慣れた海の美しさと怖さ、噂が回る島で子どもが背負う傷、ささいな選択で変わる人生という3つの読みどころを挙げました。そして、それぞれを自分の家族や出会いの記憶と重ねて語りました。
- 『汝、星のごとく』は凪良ゆうさんの2023年本屋大賞受賞作で、続編もあり、2026年に映画が公開される予定
- 瀬戸内の穏やかさと急潮の怖さを、物語と重ねて描いている
- 暁海と櫂は、どちらもヤングケアラーとして同じ傷を抱え、だからこそ惹かれ合う
- 視点が交互に入れ替わることで、それぞれは理解できるのに交わらないすれ違いが浮かび上がる
- しゅうへいさんは、亡き父親との記憶を通して「どちらを選んでも痛みはある」という言葉を受け止めた





