どこでも役立つ⁉︎ 戦略的思考を養うためのインプット習慣
Podcast番組『ぼくらの戦略論』第9回では、ベンチャーキャピタリストの高宮慎一さんと長谷川リョーさんが「戦略的思考をどうやって身につけるか」をテーマにトークを展開。「公式」や「攻略法」に頼らず、ゼロベースで最適解を導き出すための思考法やインプット習慣について語られました。その内容をまとめます。
戦略的思考に「公式」はあるのか?
「戦略的思考をどう身につけるか」という問いに対して、高宮さんはまず「即物的な正解はない」と釘を刺します。取材やイベントでよく「どうやって情報収集してるんですか?」と聞かれるそうですが、「この本を読め」「このサイトを毎日見ろ」といったルーチン化された攻略法を期待すること自体が、戦略的ではないと言います。
「圧倒的な正解があって、その公式通りにやったらいいよ」ということ自体、結構「戦略性がない」と思っていて
戦略とは「大上段のHow」であり、目的次第で最適な手段は変わるもの。定型化した方法論よりも、ゼロベースで柔軟に考える姿勢が土台になるという考えが示されました。
引き出しの数と「適切に選ぶ力」
長谷川さんが「守破離日本の武道・芸道における修行の段階を表す概念。まず型を「守」り、次にそれを「破」り、最終的に型から「離」れて自分のスタイルを確立する。の"守"にあたるものは何か」と尋ねると、高宮さんは「打ち手の引き出しの数」だと答えます。
マーケティングを例にすると、ソーシャルメディアマーケティング、インフルエンサーマーケSNS等で影響力を持つ個人(インフルエンサー)に商品やサービスを紹介してもらうマーケティング手法。、Web広告、マス広告といった「戦略オプション」自体は一般論として列挙できます。重要なのは、そこから目的・状況・市場環境に応じてどの引き出しを開けるかというジャッジの部分です。
引き出し(戦略オプション)
世の中の事例・他業界の打ち手を幅広くストックする
選択と組み合わせ
目的・状況・市場環境に照らして最適な引き出しを選ぶ
実行と検証
走りながらチューニングし、合理的でなければやり方を見直す
たとえばPMFProduct Market Fit(プロダクトマーケットフィット)の略。製品やサービスが市場のニーズに合致し、顧客に受け入れられている状態を指す。前のフェーズなら「無料のインフルエンサーマーケで実験に足るユーザーを集める」、100万ダウンロードを超えたフェーズなら「そろそろCM」というように、同じ事業でもフェーズによって最適な打ち手は変わります。ゼロから発明するのではなく、既存の選択肢を状況に合わせて選び取るのが戦略性だという整理です。
アナロジー思考で異業種から学ぶ
打ち手の精度を上げるカギとして高宮さんが挙げたのが、アナロジー(類推)思考です。一見関係なさそうな業界の成功事例から、構造的な共通点を見つけ出し、自分の領域に応用するという考え方です。
具体例として挙がったのが、医療系サービスのマーケティング。普通のアプリなら広告を打てば「やりたい」と思ってもらえますが、医療系では広告を打っても人は病気にはなりません。必要なのは「病気になった時に第一想起で思い出してもらう」こと。ここまで抽象化すると、水回りトラブルのクラシアン水回りの修理サービスを提供する企業。「水のトラブル クラシアン」のCMで広く知られ、緊急時の第一想起を狙ったマーケティング戦略で有名。と同じ構造だと気づけます。CMで認知を取り、冷蔵庫のマグネットで想起を維持するという打ち手は、医療サービスにも応用可能かもしれません。
ポイントは、個別の事例をそのまま真似するのではなく、KSFKey Success Factor(キーサクセスファクター)の略。事業が成功するために最も重要となる要因のこと。戦略立案の際に「どこで勝負が決まるか」を特定するために使われる。(成功の鍵)のレイヤーまで抽象化してから、同じ構造を持つ別の業界のやり方を引っ張ってくるということ。高宮さんは戦略思考を「詰め将棋」に近い合理的な営みだと表現しました。
ネタ帳を育てるインプット術
アナロジー思考を活かすには、そもそも「ネタ帳」のストックが必要です。高宮さんは、日経ビジネスやハーバードビジネスレビューHarvard Business Review。ハーバード・ビジネス・スクールが発行する経営学の専門誌。世界中のビジネスリーダーや研究者の論考を掲載し、日本語版も刊行されている。などのケーススタディを読むことは基本としつつ、「それだけでは足りない」と指摘します。
スタートアップ業界に17年いると、業界内のネタだけでは引き出しが増えにくくなるそうです。そこで高宮さんが実践しているのは、ビジネスとは直接関係のない領域にも手を広げること。たとえば村上隆現代美術家。アニメやオタク文化を取り入れた作品で国際的に活躍。著書『芸術起業論』ではアートをビジネスとして捉える視点を提示した。さんの『芸術起業論村上隆の著書。アートの世界で成功するための戦略をビジネスの文脈で語った一冊。芸術活動をマーケティングやブランディングの観点から分析している。』のように、アートをビジネスの視点で捉え直す本を読んだり、セブンイレブンの動向を追ったり、アメリカや中国の市場を観察したりと、幅広くインプットを行っています。
高宮さんはこれを「リベラルアーツ人文科学・社会科学・自然科学を横断する幅広い教養のこと。特定の専門分野に偏らず、多角的な視点で物事を捉える力を養う学びを指す。的にベースを広げて、その上に専門性を高く積む感覚」と表現しています。自分の業界だけを見ていると、競合と同じ選択肢の中でしか戦えず、戦略的な優位が生まれにくいという危機感もあるようです。
また、「面白い人の話を聞く」ことも有効だと言います。面白い人は独自の切り口を持っていたり、変態的にやりきっていたりする。その「面白さの源泉」を言語化してビジネスに活用できるようにしていくのが、高宮さん流のインプットです。ただし、苦行のようにやるのではなく、好奇心の赴くままに広げていくのがポイントだと強調していました。
オピニオンリーダーたちの情報収集法
長谷川さんが「オピニオンリーダーと呼ばれる人たちはどんな情報収集をしているのか」と問うと、高宮さんは具体的な名前を挙げて答えます。國光宏尚gumi創業者。モバイルゲーム、VR/AR、Web3など次々と新領域に進出する連続起業家。業界のオピニオンリーダーとしても知られる。さんや尾原和啓IT批評家・著述家。マッキンゼー、Google、リクルートなどを経て、テクノロジーとビジネスの交差点について発信を続けている。さんは、面白いアウトプットの人と思われがちですが、実は圧倒的なインプット量がそれを支えているとのこと。
発言で示唆力が高いんじゃなくて、「質問力」がめっちゃ高いんですよ
國光さんは有名起業家でも若いスタートアップでもフラットに接し、飲みの場で質問攻めにする。尾原さんはLinkedInで東南アジアの起業家に直接コンタクトしてヒアリングする。共通しているのは、一次情報を自ら取りに行く行動力と、良い問いを立てる「企画力」です。
高宮さんは自身のルールとして、「考えきっても答えが出ない時はインプット不足」と捉えているそうです。しかもインプットは即席では間に合わない。普段から「走り込み」のように足腰を鍛えておくことが、いざという時の瞬発力につながるという見解です。
ネタ帳のストック量は「その場」では増やせません。だからこそ、好奇心に駆動されて日常的にインプットを重ねておくことが、間接的ながらも戦略思考の差を生むのだと高宮さんは語ります。
リスク許容度と意思決定のスピード
最後に話題は「意思決定のスピード」へ。スタートアップでは100%の情報を集めてから判断するのは不可能で、「8割の情報で8割の精度で決める」のが定石とされています。しかし、8割で決められる人もいれば、6割や4割で動ける人もいると高宮さんは指摘します。
連続起業家が事業を成功させやすい理由の一つとして、この「少ない情報で仮説を立て、走りながら検証する」というサイクルが身体に染みついていることが挙げられました。一方で長谷川さんは、自身が「少ない材料で内向的に考え込むタイプ」であることを自覚しつつ、高宮さんから「悩んで答えが出ないなら、いったん実験やインプットに切り替えるのも手」というアドバイスを受けていました。
まとめ
今回のエピソードで一貫していたのは、「戦略的思考に魔法の公式はない」というメッセージでした。定型化した攻略法を求めるよりも、日常的にインプットのストックを厚くし、そこからアナロジーで最適な打ち手を選び出す力を磨くほうが、結果的に戦略性は高まるという見解です。
好奇心を起点に、業界の内外を問わず幅広くネタを集める。面白い人に会ったら「何がその人を面白くしているのか」を言語化する。考えても答えが出なければ、悩むのではなくインプットを増やす。地味ですが、この積み重ねが戦略的思考の足腰を作るのかもしれません。
- 戦略的思考に定型化した「公式」はない。目的・状況に応じてゼロベースで考える姿勢が重要
- 戦略思考の「守」は打ち手の引き出し(戦略オプション)の数を増やすこと
- アナロジー思考で異業種の成功パターンを自分の領域に転用する。カギはKSF(成功の鍵)のレイヤーまで抽象化すること
- 「ネタ帳」のストックは即席では作れない。好奇心に駆動された日常的なインプットが差を生む
- オピニオンリーダーに共通するのは圧倒的なインプット量と「質問力」の高さ
- 答えが出ない時は「考え不足」か「インプット不足」。悩み続けるより実験やインプットに切り替える
