AI時代のキャリア戦略──2026年、私たちはどう生き残るか
ぼくらの戦略論の新春特別編。ベンチャーキャピタリストの高宮慎一さんと編集者・ライターの長谷川リョーさんが、AI時代のキャリアの築き方について語りました。AIの普及はどんな段階を踏むのか、私たちは何に備え、どう身軽でいるべきなのか──その内容をまとめます。
Apple Podcastフィーチャーの喜び
2026年の元旦、ぼくらの戦略論がApple Podcastの新春企画「2026年必聴」としてエディターのおすすめに選出されました。番組は2025年を通じて起業カテゴリで3〜7位をキープし、最高2位まで到達していたとのこと。高宮さんは「オーディエンスの皆さんのおかげ」と感謝を述べつつ、長谷川さんは「2026年はどこかで1位を取りたいが、欲を出しすぎずコツコツ継続したい」と抱負を語りました。
去年1年ノリと勢いと悪ノリでやっていたポッドキャストが、Appleの元旦新春企画に大々的にフィーチャーされました
今回のAIブームが「本物」である理由
話題は新年にふさわしく「2026年、AI時代をどう生きるか」へ。高宮さんはまず前提として、テクノロジーの普及にはハイプカーブガートナー社が提唱した「ハイプ・サイクル」のこと。新技術は「過剰な期待期→幻滅期→普及期→成熟期」を辿るとするフレームワーク。と呼ばれるパターンがあると説明しました。過剰な期待でバズワード化した後、「触ってみたけど何の役に立つの?」という幻滅期が来て、そこから本質的なユースケースが見つかって普及期に入る──大抵の技術はこの道筋を辿るというものです。
AIにも幻滅期は来るかもしれないと断りつつ、高宮さんは「今回は一過性のブームで終わる話ではない」と断言します。その根拠として、すでに個人の単純作業の省力化が実現していること、そしてOpenAIChatGPTを開発した米国のAI企業。2022年末のChatGPT公開以降、生成AIブームを牽引。2025年時点で企業価値は数兆円規模とされる。やGoogle、Metaなどに兆円単位の投資が流れ込んでいることを挙げました。
一方で、「大きく世の中を変えるようなAIのユースケースがまだ見つかっていない」とも指摘。年末に話題になったDeNAのAI 100本ノックDeNAが社内向けに作成・公開したAI活用の実践ガイド。具体的なユースケースを100個以上まとめた資料がSNSで大きな反響を呼んだ。のように細かいレベルの生産性向上は実現しているものの、「爆発的に普及するキラーユースケース」はまだこれからだという見立てです。だからこそ、「今のうちに慣れておけ、AIネイティブになっておけ」というのが高宮さんの結論でした。
過剰な期待期
バズワード化。みんなが「AI AI」と言うが、何に使えるかは不明確
幻滅期
「面白いけど役に立たない」と失望。投資も一時的に冷え込む
普及期
本質的なユースケースが発見され、実用化が進む
成熟期
社会インフラとして定着。当たり前の存在に
AI普及の3段階──パイロット、コ・パイロット、完全自動
ではAIは具体的にどんな順番で社会に入り込んでくるのか。高宮さんは自動運転の普及プロセスをアナロジーとして、3つの段階を示しました。
第1段階:人がメインパイロット、AIがアシスト
これは既存のBPOBusiness Process Outsourcing の略。企業の業務プロセスを外部に委託すること。コールセンター、経理、データ入力などが典型的な例。サービスの中にAIツールを組み込んで、人力の部分をAIに置き換えていくフェーズです。人がメインで動き、AIはブレーキの自動制御やレーンキープのようなアシスト役。既存のBPO事業者が自社の利益率改善のために導入するだけなので障壁が低く、すでに足元で立ち上がっているとのことです。
第2段階:AIがメインパイロット、人がサブ
AIが主に業務を遂行し、人は安全のために横についている状態です。自動運転で言えば、ドライバーが運転席に座っているが実質的にはAIが走らせているフェーズ。「AIがミスった時に誰が責任を取るのか」という問題があるため、人が最終的な品質保証と責任を担う形で運用されます。発注側も「人がいますよ」と言われると安心して出しやすいため、社会的受容が進みやすいと高宮さんは分析します。
第3段階:完全自律AIエージェント
人がサブパイロットとしてもつかない完全自動のフェーズ。サンフランシスコのWaymoGoogleの親会社Alphabet傘下の自動運転企業。サンフランシスコやフェニックスで無人の自動運転タクシーを商用運行している。はすでにここに到達しています。業務の文脈で言えば、SaaSを導入するかのようにAIプロダクトを入れて自律的に動いてもらう世界。契約体系やレギュレーションが整備されて初めて到達できる段階です。
高宮さんはこの3段階を示した上で、「一気に完全自律になって人が1日1時間だけ働く世界が来るわけではない。そこに至る道筋の中で、私たちがどういう生き方・キャリアの築き方をするかが大事」と強調しました。
AIネイティブになるとはどういうことか
話はここから、より実践的なキャリア論へ。長谷川さんは自身のライター業を例に挙げます。クライアントも「長谷川さんがAIを使っていること」は当然わかっている。その上で、質もスピードも上がった成果物を納品できているのでお互いウィンウィンだと語りました。元々バックグラウンドがある人の方がAIをうまく使いこなせるため、「移行期の今はまだ、専門家に発注する余地がある」という肌感覚です。
社会がどうなるか分からないときに、福祉とかAIが入り込みにくいところにも自分のリソースは張っているんですよね
一方で長谷川さんは、AIが入り込みにくい福祉分野にも時間的リソースを張っていると明かします。これに対して高宮さんは「身体性を使った仕事の方が残る」という一般的な議論を紹介しつつ、フィジカルAIロボットなどの物理的なハードウェアにAIを組み込む技術領域。NVIDIAのジェンスン・フアンCEOが近年強調している概念で、製造業・物流・介護など身体性が求められる分野へのAI適用を指す。──つまりロボット×AIの進化によって、身体性のある仕事すらいつか置き換わる可能性を指摘しました。
ただし、福祉のような「人と人の接点がある分野」のフィジカルAI化は「相当先」だろうとも。5年10年はまだ残るかもしれないが、30年後は分からない。汎用ロボットに汎用AIが組み合わさり、人もロボットに福祉サービスを提供されることに慣れてしまえば、置き換わる可能性はゼロではないという見立てです。
単純なライティング・データ整理・検索業務など、デジタル完結するホワイトカラー作業
福祉・介護・対人サービスなど、身体性と人間関係が求められる分野(フィジカルAI次第)
専門性・コンテクスト・身軽さの三角形
ではAI時代に個人が持つべきものは何か。議論は3つのキーワードに収束していきます。
① 専門性の「どこ」にフォーカスするか
ライティングで言えば、単純な「書く作業」はAIに置き換わりやすい。しかし上流の企画業務──「こういう構成にした方が面白い」という暗黙知やインサイトを加えるところは、短期的にはまだ人が優位だと高宮さんは言います。自分の専門性のどの部分に市場価値があるのかを見極め、付加価値の高い上流・下流にピボットするのか、それとも完全に別業界にトラベリング(移動)するのか──この判断がAI時代のキャリア戦略の核心です。
② コンテクストとブランド
長谷川さんは「記事は結局、自分じゃなくても書ける。でも、ぼくらの戦略論をやっている、高宮さんと10年来の友達、ポーカープレイヤーである──そうした集積の上にあるアイデンティティはAIが一朝一夕に作れるものではない」と語ります。高宮さんはこれを「コンテクスト、ブランド」と表現しました。
ただし高宮さんは同時に、時間軸を長く取ると人がAIに慣れすぎて「コンテクストすらいらなくなる可能性」にも触れます。がんの画像診断で「AIに余命宣告されたくない」という感覚も、世代が変われば薄まるかもしれない。100年後なのか10年後なのかは分からないけれど、「永久に安泰」とは言えないという冷静な見方です。
③ 変わり身の速さ=身軽さ
トレンドを正確に予測することは難しい。だからこそ大事なのは、「トレンドに敏感であり続け、変わり身を早くすること」だと高宮さんは強調します。終身雇用や「今いる場所」へのこだわりを捨て、自分の腕一本で生きていく覚悟を決める。専門性の賞味期限が切れたら勇気を持ってトラベリングする。それは「極めてスタートアップ的な生き方」であり、AIによってその必要性がさらに加速されるというのが高宮さんの見立てです。
長谷川さんは過去のエピソード38で取り上げた「専門性の高さは視野の広さから生まれる」という議論との接続を指摘。隣の領域にも首を突っ込んでおき、そこでのAIのインパクトや人が生き残る余地を常に考えておく──いわば「知的な筋トレ」の重要性が改めて浮き彫りになりました。
最後に高宮さんは、日本の文化的特性にも触れました。欧米ではAIに対して「ディストピア」「ビッグブラザー」的な恐怖感が強い一方、日本はドラえもんやアトムの国。AIを「友達」として受け入れる感覚が根付いている。2026年はまず、AIと仲良くなる1年にしましょう──そんなメッセージで回は締めくくられました。
日本はドラえもんアトムの国なんで、AIは友達って感覚が強い。身近な存在としてAIと仲良くなる2026年にしましょう
まとめ
新春特別編ということもあり、AI時代のキャリア戦略について大きな視点から語られた回でした。ハイプカーブの理論、自動運転に見るAI普及の3段階、そして個人が持つべき「専門性・コンテクスト・身軽さ」という3つのキーワード。すべてに共通するのは「時間軸は読めないが、方向性は決まっている」という認識です。だからこそ、予測に賭けるのではなく、変化に対するアンテナを張り続け、いつでも動ける状態を保つことが重要だというメッセージが、2026年の始まりにふさわしい指針として響きました。
- 今回のAIブームは過去と異なり「本物」。ただしキラーユースケースはまだ見つかっておらず、幻滅期を経て普及期に入る可能性がある
- AI導入は「人がメイン→AIがメイン→完全自律」の3段階で進む。自動運転と同じ道筋をあらゆる業界が辿る
- 身体性のある仕事も、フィジカルAI(ロボット×AI)の進化で長期的には置き換わる可能性がある
- キャリア戦略の鍵は「専門性のどこに付加価値があるかの見極め」「コンテクスト・ブランドの蓄積」「変わり身の速さ=身軽さ」の3つ
- トレンドを当てに行くのではなく、トレンドに敏感であり続けて素早く動ける状態を保つことが重要
- まずは「ステップ0」として、検索の代わりにLLMに聞いてみるところからAIネイティブに近づこう
