「戦略」とは、What(目的)を実現するHow(手段)の大上段である
ぼくらの戦略論の初回エピソード。グロービス・キャピタル・パートナーズ日本を代表する独立系ベンチャーキャピタル。メルカリなど数多くのスタートアップに投資してきた実績を持つ。代表パートナーの高宮慎一さんと、ビジネスコンテンツの作り手として活動する長谷川リョーさんが、「そもそも戦略とは何か?」を起点に、Why・What・Howの関係、起業家の原体験、昭和と令和で変わった戦略の役割まで語り合いました。その内容をまとめます。
番組と出演者の紹介
『ぼくらの戦略論』は、ベンチャーキャピタリストスタートアップ企業に出資し、経営支援を行う投資家のこと。VCとも略される。の高宮慎一さんと、ビジネス系コンテンツを手がけてきた長谷川リョーさんの2人が、戦略をフックにさまざまなテーマを語るポッドキャストです。高宮さんはメルカリフリマアプリの代表格。2013年にサービス開始、2018年に東証マザーズ上場。グロービス・キャピタル・パートナーズの代表的な投資先の1つ。への投資でも知られる業界の第一人者。長谷川さんは大学院生時代に高宮さんを取材したのが縁で、以来11年にわたり交流が続いています。
2人はかつて共著で書籍を制作し始めたものの、なかなか完成しなかったことから「サグラダ・タカミヤ」と自嘲するエピソードも。その書籍『起業の戦略論』は現在Amazonで予約受付中とのことです。
書き慣れてるけど喋り慣れてない長谷川さんと高宮でお送りします。
ビジネスに限定せず、人生やキャリアにも使える「戦略の考え方」を届けたい──そんな思いで番組はスタートしました。
戦略とは「大上段のHow」である
「そもそも戦略とは?」という問いに、高宮さんは「戦略は大上段のHowだ」と即答します。「何をするか(What)」は世の中の状況や自分の意志から決まるもの。一方、日々の現場施策はブレイクダウンされた細かいHow。その間をつなぐ「大きな方向感」こそが戦略だという整理です。
長谷川さんがこれを「目的と手段に分けると、手段の最上位が戦略ということですか?」と確認すると、高宮さんは同意しつつ、さらにWhatの上流にあるWhy(なぜそれをやるのか)の重要性を説きます。たとえばフリマアプリなら、「循環型社会を作り"もったいない"をなくしたい」というWhyがあり、そこからWhat(フリマアプリをやる)が生まれ、How(戦略)に落ちていく。この連鎖が途切れると、やりたいことが実行されなかったり、施策をこなすだけで目的を見失ったりする──いわばミッシングリンク本来つながるべき要素の間が欠落している状態のこと。ここではWhyやWhatと日々の行動が戦略なしに断絶していることを指す。になってしまうというわけです。
Why(なぜやるのか)
原体験・問題意識・内発的動機
What(何をやるか)
事業ドメイン・ビジョン・ミッション
How = 戦略(大上段の方向感)
目的を最適に達成するための大きな方針
How(日々の施策・実行)
ブレイクダウンされた現場のアクション
高宮さんはさらに、「普遍的なセオリーやベカラズ(やってはいけないこと)があるのはHowの領域だけ」だと言います。WhyやWhatは極めて個人的なもので、外部から決められるものではない。就活生に「何の仕事をしたらいいですか」と聞かれても「何がしたいの?」としか返せないのと同じです。そのWhyとWhatが定まってはじめて、戦略論としてのHowが機能し始めるのだそうです。
Whyが先、Whatが後──動機と事業の順番
「WhyとWhatは同列ですか?」という長谷川さんの問いに、高宮さんは「Whyから始まる」と明言します。ただし一方通行ではなく、WhyとWhatを行き来しながら事業ドメインが定まっていくイメージだそうです。
Whyには内発的なものと外発的なものの2種類があります。内発的なものは、原体験から生まれる問題意識や「この領域の人を助けたい」という情熱。外発的なものは、市場が大きい、競争が緩い、勝てそうといった環境要因。この2つの組み合わせでWhyが形成され、Whatが決まるという構造です。
原体験・情熱・「好き」の感覚
例:自分が困った経験、大好きな領域
市場規模・競合環境・タイミング
例:マーケットが大きい、空いている
高宮さんが警鐘を鳴らすのは、外発的なWhyだけで走ってしまうケースです。市場が大きい・競争が緩いといった情報は誰にとっても平等に見えるため、同じ土俵に乗りやすく、差別化が生まれにくい。自分ならではの必然性がないまま走ると、本人も苦しくなるだろうと話していました。
スモールビジネスはダメなのか?
長谷川さんが「東大生がサクッと1〜2億でバイアウト起業した会社を他社に売却すること。創業者にとっての出口戦略(イグジット)の一つ。する起業はいかがなものか、という議論がある」と水を向けると、高宮さんは率直に「ほっといてくれ」と返します。
別にスモビジでもええやんと。「何が悪いんですか、スモビジやりたいからまさにやりたいことやれてるんです」みたいな話でいいと思うんですよね。
スタートアップ業界には「スケールするビジネスが正義」という空気感があります。しかし、それ自体がスタートアップ的な価値観に過ぎないと高宮さんは指摘します。たとえば「実家が仏壇屋で、仏壇業界の不遇を解決したい」という人に「スケールしないよね」と言っても意味がない。その人のWhyは仏壇業界にあるわけで、それで十分だということです。
ただし注意点もあります。他人軸のWhyでスタートアップに挑むと、ハードシングススタートアップ経営で避けられない困難な局面のこと。ベン・ホロウィッツの著書『HARD THINGS』で広まった表現。に直面したとき乗り越えられない可能性がある。何十年も続ける覚悟が必要な場面で折れてしまうかもしれない。だからこそ、他人の評価に根ざさない、自分軸のWhyを持つことが大事だという結論でした。
投資家が見る起業家の「Why」と原体験
話は投資家の視点へ移ります。高宮さんは起業家と最初に会うとき、「戦略はどうなっているか」よりも先に「なんでこの事業をやりたいんですか」と聞くことが多いそうです。わざわざリスクを取って起業するからには、自分なりの理由があるはず。その原体験や問題意識が根源的なドライバーになっているかどうかを見ているといいます。
「ちょっと有名になりたい」「お金が欲しい」程度の動機だと、長く走り続けるのは辛くなる。ただし高宮さんが見ているのは「原体験が壮絶かどうか」ではなく、起業家自身が腹落ちしているかどうかという、一段メタな視点です。
長谷川さんはSHOWROOMライブ配信プラットフォーム。代表の前田裕二氏は幼少期の壮絶な経験を著書『人生の勝算』に記し、事業の原体験として広く知られる。の前田裕二さんのように壮絶なストーリーを持つ人は分かりやすいが、普通の起業家がそこまでの原体験を持っているものなのかと疑問を呈します。しかし高宮さんの答えはシンプルでした。「激しさ」は他人が決めるものではなく、本人の中での納得感があればいい。「ポーカーが楽しいからポーカー事業をやります」でも全然構わないのだと。
見極め方としては、起業家と対話しながらWhyを言語化してもらう作業を重ねるそうです。言語化できないのか、そもそも強いWhyがないのか──その峻別が「人を見る」ということの中身だと語っていました。
昭和の型と令和のオプション──戦略が必要になった時代
長谷川さんが「昔の起業家は叩き上げが多かったのに、最近はキャディ製造業向けのAIプラットフォームを展開するスタートアップ。代表の加藤勇志郎氏は東京大学卒・マッキンゼー出身。の加藤さんのようなエリート経歴の人が増えている。新しい人類なのか?」と投げかけると、高宮さんはそもそも「エリートかどうか」という分け方自体が世の中の価値観に依存していると切り返します。
高宮さん自身は76世代1976年前後生まれの世代。大学生の頃にインターネットバブルを経験し、日本のスタートアップ黎明期を担った。で、日本のスタートアップ第1世代。この世代にスタートアップが台頭した背景には2つの要因があったと分析します。1つはインターネットという新しい機会の登場。もう1つは、昭和的な価値観──終身雇用・大企業・家族主義──の限界が見え始めたこと。日産のルノー傘下入り、カネボウやオリンパスの粉飾、ソニーの業績悪化など、「大企業のレールに乗れば安泰」という神話が崩れ始めた世代だったのです。
昭和:勝ちパターンが明確 → レールに乗って「Just Do It」で済んだ → 戦略を考える必要が少なかった
令和:レールが引かれていないオプションが増加 → 自分で道を切り開く必要 → 戦略の出番が大きくなった
大企業に代わる道を模索する人が増え、スタートアップだけでなく、フリーランス、スモールビジネス、地方移住など、生き方・価値観が多様化しました。高宮さんの表現を借りれば「昭和の一神教的な価値観が崩壊した」わけです。レールが引かれていないオプションが増えたからこそ、戦略を考える余地と必要性が大きくなったと2人は結論づけます。
勝ちパターンが決まっちゃって「Just Do It」みたいになっちゃうと、多分あんまり戦略論関係なくなっちゃって、思考停止でただやるみたいになっちゃう
一方で、外部環境が変わっているのに思考停止でやり続けると、イノベーションのジレンマハーバード大学教授クレイトン・クリステンセンが提唱した概念。既存の成功モデルに最適化しすぎた企業が、破壊的イノベーションに対応できず衰退してしまう現象。的に没落するリスクもある。戦略は、変化の時代にこそ真価を発揮するものだという示唆で、初回の議論は締めくくられました。
まとめ
初回エピソードでは「戦略とは何か」というシンプルな問いから出発し、Why・What・Howの関係性、起業家の原体験の見方、そして時代が変わったことで戦略の出番が増えたという大きな流れまで一気に語られました。戦略はビジネスだけのものではなく、人生のあらゆる選択に応用できる──その前提を共有するオープニングにふさわしい回だったと思います。
次回以降は「人生の戦略論」や、長谷川さんのアフリカ生活の話など、さらに具体的なテーマに踏み込んでいくようです。
- 戦略 = 大上段のHow。「何をやるか(What)」と「日々の施策」をつなぐ、最上位の方向感が戦略である
- Why → What → Howの順番が大事。「なぜやるのか」が定まらないと、何をやるかもどうやるかもブレる
- Whyは内発的×外発的の掛け合わせ。外発的な理由だけでは差別化が生まれず、ハードシングスにも耐えにくい
- スモビジでも大企業でも、自分軸のWhyがあればいい。他人や業界の価値観でWhyを決めないことが肝要
- 投資家が見るのは「原体験の壮絶さ」ではなく「本人の腹落ち度」。1段メタな視点で起業家を見ている
- 昭和の一本道が崩壊し、選択肢が増えた令和だからこそ、戦略を考える余地と必要性が大きくなった
