M&Aの新時代を勝ち抜く!大企業とスタートアップのロールアップ戦略
ぼくらの戦略論ep.12では、ベンチャーキャピタリストの高宮さんと長谷川さんが、スタートアップ業界で注目を集める「ロールアップ戦略」を中心に、M&Aが当たり前の成長手段になりつつある日本のエコシステムの変化、そしてIPOの意義まで語り合いました。その内容をまとめます。
ロールアップ戦略とは何か
最近、スタートアップ界隈で「ロールアップ」という言葉を耳にする機会が増えています。高宮さんによると、ロールアップとはもともとプライベート・エクイティ(PE)未上場企業に投資するファンドの一種。企業を買収し、経営改善や規模拡大を経て売却することでリターンを得るビジネスモデル。バイアウトファンドとも呼ばれる。業界の用語で、同業の会社を次々と買収して規模を拡大し、規模の経済やオペレーション効率で業績を伸ばす戦略のことです。
スタートアップ由来のプレイヤーとしては、GENDAアミューズメント施設の運営を中心に、M&Aで急成長を遂げた企業。創業者はセガ出身で、ゲームセンター運営のノウハウを武器にロールアップ戦略を展開し、時価総額数千億円規模に成長した。やSHIFTソフトウェアテスト・品質保証を主力事業とする企業。時価総額30億円台での上場から数千億円規模まで成長した、マザーズ市場を活かした成功事例として知られる。が大成功を収め、時価総額数千億円規模に到達したことで、一気に注目が集まりました。
PEファンドとスタートアップの違い
同じロールアップでも、従来のPEファンドとスタートアップでは性格が大きく異なります。PE業界のロールアップは、成熟した産業の企業を買収し、BS(貸借対照表)企業の資産・負債・純資産を一覧にした財務諸表。BSを「綺麗にする」とは、遊休資産の売却や負債の整理など、資産構成を最適化することを指す。を綺麗にしたりオペレーション効率を上げたりして、さらにファイナンスのレバレッジをかけてリターンを出すというモデルです。
一方、スタートアップ業界で今言われているロールアップは「ハイブリッド型」だと高宮さんは語ります。従来のスタートアップ的なイノベーション要素と、PEのバイアウト的な効率化要素を組み合わせている点が特徴です。
成熟産業が対象
BS改善・オペレーション効率化
ファイナンスのレバレッジ
DX・イノベーション要素あり
規模拡大+オペレーション統一
レバレッジ+成長の両取り
GENDAを例にとると、個人経営の中小ゲームセンターをM&Aで次々と取得し、規模の経済による仕入れ力を獲得。それだけでなく、本社主導で開発したシステムを全店舗に導入し、クレーンゲームの筐体管理などをDXデジタル・トランスフォーメーションの略。デジタル技術を活用してビジネスモデルや業務プロセスを変革すること。ここではITシステムの導入によるオペレーション改善を指す。で刷新するというイノベーション要素も併せ持っています。さらに、設備のリース化や買収時のデット(借入)銀行借入や社債などの他人資本による資金調達。株式(エクイティ)と異なり、経営権の希薄化が起こらない一方、返済義務がある。金利が低い環境ではレバレッジ効果が大きくなる。活用など、伝統的なバイアウトの手法も組み合わせてエクイティの資本効率を高めているのです。
今までパパママの中小のゲームセンターがやっていたところに対して、DX的な要素をちゃんとのっけてイノベーションをもたらしました。プラス、規模の経済とか、バイアウト的なファイナンスのレバレッジも組み合わせてやっている
ロールアップが注目される外部環境
ロールアップが「今、めちゃくちゃホット」になっている背景には、いくつかの外部環境の変化が重なっていると高宮さんは分析します。
大きなテーマの不在
かつての「スマホのビッグウェーブ」のような分かりやすいテーマが少なくなったことで、いろんなリターンの源泉を組み合わせてトータルのリターンを出す経営手法が求められるようになりました。AIというテーマはあるものの、それ以外の領域ではロールアップのような複合的な成長戦略が有効になっているのです。
東証グロース市場の上場維持基準「100億円」
東証グロース市場東京証券取引所の市場区分の一つで、高い成長可能性を持つ企業向け。2022年の市場再編でマザーズ市場から移行した。上場維持基準として、上場後一定期間内に時価総額100億円以上を求めるルールが導入された。で、上場5年後に時価総額100億円を維持できなければ上場廃止またはスタンダード市場への市場替えが求められるルールが導入されました。これにより大きく3つの影響が出ています。
日本の低金利環境と事業承継ニーズ
日本は世界に比べて金利が依然として低く、実質金利名目金利からインフレ率を差し引いた金利。実質金利がマイナスということは、お金を借りる実質コストがゼロ以下であることを意味し、借入によるM&Aが相対的に有利になる。でまだマイナスに近い水準です。デットが安くつくため、ファイナンスのレバレッジ効果が非常に大きく、エクイティ側のリターンが出やすい構造になっています。
さらに地方では、家族経営でそこそこ儲かっているものの将来性に乏しく、高齢化で引退を考えるオーナーが事業承継で売りに出すケースが増加しています。こうしたオポチュニティが重なり合って、ロールアップ戦略が一気にホットになっているのです。
再現性はあるのか?M&Aの日常化
「GENDAだからできたのか、それとも汎用性はあるのか?」という長谷川さんの問いに対して、高宮さんは「汎用性はあるが、誰でもできるという話ではない」と答えます。GENDAの場合、創業者がセガ出身でゲームセンター運営のノウハウに精通していたこと、買収後の効率化の方法を熟知していたこと、そのノウハウへの信頼があるからこそデットがつくこと、さらに業界内で直接売り手を口説ける人脈があったこと──これらのケイパビリティ組織や個人が持つ能力・実行力のこと。戦略論では「何ができるか」という実行能力を指し、戦略の実現可能性を左右する重要な要素。が揃っていたからこそ成功したのです。
つまり、その領域において正しいケイパビリティがあればロールアップは成立し得ますが、「誰でも同じ業界で真似できる」わけではないということです。ファイナンスの知見、オペレーションのDX力、そして業界知識の三拍子が求められます。
高宮さん自身の投資先でも、ここ1〜2年で合計10社近いM&Aが行われているとのこと。M&Aはもはや特別なイベントではなく、成長戦略の当たり前の選択肢になりつつあります。実際、時価総額1000億円を超えた企業の8割以上がM&Aを活用しているというデータもあるそうです。
もうM&Aっていうのが当たり前の成長戦略の選択肢の一つになってきていて
この変化の背景には、スタートアップ・エコシステムの成熟化があります。自力でユニコーン企業価値が10億ドル(約1500億円)以上の未上場企業を指す。ユニコーンのさらに10倍、100億ドル以上の企業は「デカコーン」と呼ばれる。やデカコーンになれない企業にとっても、買われてより大きくなるとか、買われてイグジットするというハッピーシナリオが成立するようになったのです。
大企業とスタートアップの「リボルビング・ドア」
M&Aの活発化はスタートアップ側だけの動きではありません。大企業側も、社内の新規事業や既存事業の延長だけでは取り込めなかった領域やテクノロジーを、M&Aで外から買ってくることが当たり前になってきています。
10年ほど前の「オープンイノベーション自社だけでなく外部の技術やアイデアを活用してイノベーションを起こす経営手法。大企業がスタートアップと連携・投資・買収する動きの総称として使われることが多い。」というバズワードに始まり、「DX」へと移り変わりながら、大企業がスタートアップに新しい成長のネタを求める動きは着実に根付いてきました。さらに、アクティビスト(もの言う株主)企業の経営方針に積極的に関与し、株主提案や経営陣との対話を通じて企業価値の向上を求める投資家。資本効率の改善や株主還元の強化を要求するケースが多い。からの「キャッシュを溜め込むな、成長に回せ」というプレッシャーも、大企業をM&Aに向かわせる力になっています。
高宮さんは、かつてNewsPicksソーシャル経済メディア。ビジネスニュースの配信とユーザーのコメント機能を組み合わせたサービスで、日本のスタートアップ・ビジネス業界で広く利用されている。などで語られた「西海岸(スタートアップ)vs 東海岸(大企業)」という二項対立が、今まさに融合しつつあると指摘します。例えばLINEヤフーの川邊健太郎氏LINEヤフー会長。2000年頃にモバイルベンチャー「電脳隊」を創業し、Yahoo! JAPANに買収された後、同社内でキャリアを積み社長・会長まで就任した。スタートアップから大企業への人材流動の好例。は、モバイルベンチャー「電脳隊」を創業後、Yahoo!に買収されてジョインし、Yahoo!の中でキャリアを築いて社長・会長にまでなりました。こうした「リボルビング・ドア」的な人材の行き来が日本でも増えていくのではないかと展望しています。
さらに視野を広げると、日本製鉄のUSスチール買収日本製鉄が2023年12月に発表した米国の大手鉄鋼メーカーUSスチールの買収計画。日本企業による大型クロスボーダーM&Aの象徴的案件だが、米国の安全保障上の懸念などから政治的な議論を呼んだ。のような動きは「日本企業もついにこういうことをやるようになった」象徴です。クシュタールカナダに本拠を置くコンビニエンスストア大手アリマンタシォン・クシュタール。セブン&アイ・ホールディングスに対する買収提案で注目を集めた。がセブンイレブンに買収提案をかけた件も含め、日本企業が「鎖国した隔絶された市場」にいることで世界の資本市場のプレッシャーから逃れていた時代は、いよいよ終わりを迎えつつあるのかもしれません。
そもそもIPOする意味とは
M&Aがオプションとして当たり前になると、「そもそもIPOって何のためにするんだっけ?」という根本的な問いが浮かび上がります。高宮さんはこのテーマの「さわり」を語ってくれました。
会社側と投資家側の視点の違い
会社側から見ると、IPOは継続する事業の中の「1イベント」に過ぎません。資金調達であったり、信用補完であったり。一方、投資家側では「株主の洗い替えIPO時に、未上場時代から投資していたVC等の株主から、公開株の投資家(機関投資家や個人投資家)へと株主構成が大きく入れ替わること。IPO前後で株主の性質やタイムホライズンが変化する。」が起きます。未上場株の投資家と上場株の投資家は、源流にいる機関投資家年金基金、保険会社、大学基金などの大規模な資金を運用する投資家。ポートフォリオの中で未上場株と上場株への配分比率を決めており、それが金融サプライチェーンの構造を規定している。のお財布が分かれているため、構造的にこの断絶が生じてしまうのです。
事業は継続している
IPOは資金調達の1イベント
事業の連続性が最重要
IPO時に「株主の洗い替え」が発生
未上場と上場で担当チームが別
金融サプライチェーンの構造的断絶
クロスオーバー投資家の登場
この構造的な「キャズム(溝)」を埋めようとする動きとして、クロスオーバー投資家未上場段階から投資を行い、IPO後も継続して株式を保有する投資家。上場前後の株主交代による株価の不安定化を緩和する役割が期待されている。日本ではまだ少数だが、米国では一定数存在する。が注目されています。上場前から株式を持ち、上場後もそのまま持ち続けることで、洗い替えのショックを和らげようとするファンドです。
ただし、米国でも機関投資家の根源的な仕組み──「未上場株に2割、上場株に3割」といったアセットアロケーション──が存在する以上、完全にメインストリームとまでは言えないそうです。「構造的な間隙を突いたニッチな機会」を捉えにいっている、というのが現状の位置づけだと高宮さんは説明します。
まとめ
今回のエピソードでは、スタートアップ業界で注目されるロールアップ戦略を起点に、M&Aが日本の成長戦略として当たり前になりつつある現状が語られました。PEファンドの手法とスタートアップのイノベーションを組み合わせた「ハイブリッド型ロールアップ」、東証の100億円ルールや低金利環境といった追い風、大企業とスタートアップの融合、そしてIPOの意義そのものの問い直しまで、話題は多岐にわたりました。
高宮さんは最後に「リスナーからのコメントや聞きたいテーマをぜひ送ってほしい」と呼びかけています。M&AやIPOのより深い話が聞きたい方は、ぜひハッシュタグ #ぼくらの戦略論 でフィードバックを届けてみてはいかがでしょうか。
- ロールアップ戦略とは同業他社を買収して規模拡大と効率化を図る手法で、スタートアップ版はDX・イノベーション要素を加えた「ハイブリッド型」
- GENDAやSHIFTの成功が注目のきっかけだが、業界知識×DX力×ファイナンス力の三拍子が揃って初めて成立する
- 東証グロース市場の時価総額100億円維持基準により、M&Aの「弾」が大量に出ている買い手市場
- 日本の低金利環境と地方の事業承継ニーズがロールアップの追い風に
- 大企業もM&Aを成長・イノベーション戦略として活用し始め、スタートアップとの境界が融解しつつある
- IPOは会社にとって「1イベント」だが、投資家にとっては構造的な断絶が生じる場面。クロスオーバー投資家の登場で変化の兆しも
