熱量高いチーム、どう作る?強い組織作りの戦略論
ぼくらの戦略論第43回は、グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナーの高宮慎一グロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)代表パートナー。Forbes「日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング」2018年1位。メルカリ等への投資実績を持つ。さんと編集者・ライターの長谷川リョー編集者、ライター、ポーカープレイヤー。東大情報学環→リクルート→独立→ケニアでポーカー生活を経て、現在は経営者や企業の発信支援に取り組む。さんが、「いいチーム」をどう作るかについて語った回です。スタートアップのセオリーから、サークル的な緩いコミュニティ運営の難しさ、宗教やテクノロジーによる仕組み化、そして個人の主体性と組織の関係まで、チーム作りの本質に迫っています。その内容をまとめます。
スタートアップにおけるチーム作りのセオリー
長谷川さんが「チームで何かを始めるときの注意点」「熱量高くみんなが同じ目線を持つにはどうすればいいか」と問いかけたところ、高宮さんは「スタートアップに限定すると、割と圧倒的な正解に近いセオリーがある」と切り出しました。
まず挙げられたのが、共同創業メンバーはビジョンと経済合理性の両方で結びつくべきという原則です。「俺たち熱い思いでやってるから」という美しい話だけでは続かず、生活面も含めた合理的な設計が必要だと高宮さんは指摘します。
また、人は変わり、事業のフェーズも変わるため、いずれ「バンド解散」的な局面が訪れる可能性があります。そのため、創業者間契約を事前に結んでおくことがセオリーとして語られました。
さらに重要なのが、共同創業メンバーの次のレイヤー、いわゆる「創業メンバー」の採用です。高宮さんは「最初の一周目はビジョン・スキルともに絶対妥協するな」と強調しました。
自分が取った人が人を取って、その人がさらに先の人を取って…となると、ビジョン共感度もハードスキルもどんどん薄まっていく。最初の一周目で大幅に薄めちゃうと、その先もさらに薄まっていくから、そこは絶対妥協するな
創業者(ビジョン共感度・スキル:MAX)
最も強い想いとスキルを持つメンバー
1周目の採用(ここで妥協すると…)
ビジョン共感度・スキルがやや薄まる
2周目以降の採用
さらに薄まり、組織全体の質が下がっていく
2人でも難しい──変化が前提の関係設計
長谷川さんは、前回のエピソードで話題になった「結婚をプロジェクトとして捉える」という話を引き合いに出しました。たった2人の結婚でもめちゃくちゃ離婚するのに、チームでうまくやっていくのはさらに難しいのではないか、という素朴な疑問です。
高宮さんはこの問いに対して、「変数が大きすぎる」ことが根本的な原因だと分析します。自分も変わるし、相手も変わる。さらにビジネスの場合、向き合っている事業そのものも劇的に変わります。
売上が年間100万だった会社が1兆円になるみたいな話だと、それはもう変わり方がドラスティック。結婚と比べても、事業の場合は向き合っている対象の変わり具合がめっちゃ大きい
結婚においても「自分も変わる・相手も変わる」は同じですが、家庭というプロジェクト自体はそこまで大きくは変わりません。一方でスタートアップは、ステージごとに求められるスキルや組織のあり方が根本から変わるため、人間関係の維持がさらに困難になるというわけです。
自分が変わる ✓
相手が変わる ✓
プロジェクト自体の変化は限定的
自分が変わる ✓
相手が変わる ✓
事業が劇的に変わる(売上100万→1兆円も)
サークル型組織のマネジメントはなぜ難しいのか
ここで高宮さんは意外な視点を提示します。「ビジネスって意外と楽なんじゃないか」というものです。
ビジネスにはビジョンという「北極星」があり、すべてそこに立ち返れる構造になっています。コミットできない人には「船から降りてもらうのもしょうがない」という合意が前提にあり、報酬という対価もある。責任と義務が明確だからこそ、「こうすべきです」と相手に求めやすいのです。
高宮さんは大学時代のテニスサークルを例に挙げました。週5で体育会系のようにガリガリ練習したい人もいれば、飲みサークル的に参加したい人もいる。ビジョンへのコミット度合いを強制しない「緩い繋がり」がサークルの特徴です。
これに対して「部活」は、都大会優勝・全国大会優勝といった明確な目標があり、コミットする人しか入るなという前提がある。だからコミットしていない人に対して「もっとやれ」と言いやすい。高宮さんはこれをスラムダンク井上雄彦による人気バスケットボール漫画(1990-1996年連載)。主将の赤木剛憲(ゴリ)が部員に厳しく接する場面が印象的。の赤木キャプテンに例えて、「お前とバスケやると息苦しいんだよ」と言われてしまう熱血リーダーの苦悩を語りました。
この話は、高宮さん自身が課外活動的に取り組んでいるPodcast「僕選高宮さんが関わっているPodcast番組と思われる。年末年始にAppleのプッシュで「2006年に聞け」の8つのうちの1つに選ばれたとのこと。」の運営実感から来ているそうです。Appleにプッシュされて「もっと大きくしたい」という気持ちがある一方、「緩く楽しみたい」というメンバーもいる。モチベーションが違う人たちに対してどうリーダーシップを発揮するかは、ボランタリーな組織の永遠の課題だと語りました。
宗教とテクノロジーに学ぶコミュニティの仕組み化
長谷川さんが「究極形は宗教団体ですよね。教義があって教祖がいて、聖典があって、それを何千年と磨き上げてきたのがキリスト教」と話を広げると、高宮さんも深く同意しました。
ビジネスの組織論で「ベストプラクティスは宗教だ」と言われるのは、揃っていない前提を揃えるための仕組みとして宗教が優れているからだと高宮さんは分析します。
話題はテクノロジーによる解決策にも及びました。オープンソースコミュニティソフトウェアのソースコードを公開し、誰でも開発に参加できるコミュニティ。RubyやLinuxなどが代表例。貢献度(コントリビューション)は人によって大きく異なる。のように、めちゃくちゃ貢献する人もいれば「入ってます」程度の人もいる状況に対して、Web3のDAOブロックチェーン技術を使い、コントリビューションを定量化し、貢献に応じたトークン報酬を自動的に分配する仕組み。中央管理者なしでコミュニティを運営できる可能性がある。は「責任と権限と報酬を明確にすることで、コミュニティをパキッと硬いものにしよう」という発想だと高宮さんは整理します。
宗教的なものをテクノロジーが簡単にインストールしてくれて、一体感を保ちやすくするっていうのもできるようになるんだと思う
ただし、高宮さん自身も「それはそれで息苦しいなとも思っちゃう」と率直に認めています。コントリビューションがダッシュボードで可視化される世界は合理的ではあるけれど、緩く楽しみたいメンバーにとっては窮屈になりかねない。この「合理性と心地よさのトレードオフ」は、組織設計における普遍的なジレンマかもしれません。
ビジョンと美学の選択、そして個人の主体性
長谷川さんが「スタートアップの世界でワークライフバランスはどうなんですか?」と問いかけると、高宮さんは「それがまさにビジョンの中での美学の世界だ」と答えました。
プライベートにも時間を割いたなかで最高到達点を目指すのか、それともすべてを犠牲にして高みを目指すのか。これは良い悪いではなく、選択の問題であり、美学の問題だというのです。
だからこそ大切なのは、採用の入り口でビジョンと美学への適合度を見極めること。オンボーディングした後も「朝会」「オールハンズミーティング」のような定期的な場でスタイルを共有し続けることが必要だと高宮さんは説きます。
さらに高宮さんが強調したのは、個人と組織は対等な関係にあるという前提です。組織がパワハラ的にビジョンを押し付けるのはNGである一方、個人も「合わないなら船を降りていい」というカードを常に持っておくべきだと語ります。
かつての昭和的な終身雇用・家族主義日本の大企業に多かった雇用慣行。新卒で入社した会社に定年まで勤め続けることが前提で、会社が「家族」のように社員の生活を丸ごと面倒を見る代わりに、強い忠誠心が求められた。の時代には、会社を辞めること自体が大きなドロップアウト感を伴いました。しかし今の時代は人材の流動性が上がり、転職を前提としたキャリア設計が当たり前になりつつあります。
高宮さん個人としては、ワークとライフを二項対立的に分けるのではなく、「やりたいからやっている」という感覚を大切にしているそうです。一方で、「これタスクですと振られたら1日8時間で止めたい」とも。自分のビジョンとプロジェクトのビジョンがアラインしている限りにおいては、各自が主体的に決めていいところなのではないか、というのが高宮さんの結論でした。
まとめ
今回のエピソードでは、「いいチームをどう作るか」というテーマを、スタートアップのセオリーから宗教的な組織の仕組み、そして個人と組織の対等な関係まで、幅広い視点で掘り下げました。
特に印象的だったのは、「ビジネスの方がマネジメントしやすい」という逆説的な指摘です。ビジョンという北極星があり、報酬と責任が明確で、コミットできない人が降りる前提がある。一方、サークルやコミュニティのような緩い組織こそ、モチベーションのバラつきを吸収するのが難しい。この視点は、オンラインサロンやファンコミュニティを運営する人にとっても示唆に富む内容ではないでしょうか。
長谷川さんが福祉の現場で感じている「大企業でもスタートアップでもない中小企業のチーム作り」については、次回以降に持ち越しとなりました。続きも楽しみです。
- 共同創業メンバーはビジョンと経済合理性の両方で結びつき、創業者間契約で「別れ」にも備える
- 最初の一周目の採用でビジョン・スキルを妥協すると、その先どんどん希釈されていく
- ビジネスにはビジョンという「北極星」があるから、実はサークル型のゆるい組織よりマネジメントしやすい
- 宗教が何千年もかけて磨いた「一体感の仕組み」(教典・シンボル・定期集会)はビジネスにも応用できる
- ワークライフバランスは「良い悪い」ではなく美学の選択。採用の入り口ですり合わせ、定期的に共有し続けることが重要
- 個人と組織は対等。「船を降りる」はネガティブな最終手段ではなく、フラットな選択肢として常に持っておくべき
