事業やキャリア選びの迷いを解決!「GEマッキンゼーマトリクス」で"自分の戦場"を見極める方法
ぼくらの戦略論第31回は、グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナーの高宮慎一さんと編集者・長谷川リョーさんが、事業選びのフレームワーク「GEマッキンゼーマトリクス」を解説。高宮さん流のアレンジを加えた使い方を紹介しつつ、長谷川さんのパラレルキャリアを実際にプロットするケーススタディで、スタートアップから個人のキャリア選択まで使える実践的な活用法を語りました。その内容をまとめます。
GEマッキンゼーマトリクスとは何か
今回は番組初の「フレームワーク解説回」という実験企画です。取り上げるのはGEマッキンゼーマトリクス1970年代にGE(ゼネラル・エレクトリック)とマッキンゼーが共同開発した事業ポートフォリオ分析ツール。複数事業を2軸で評価し、投資・維持・撤退の判断に使う。。縦軸に「市場の魅力度」、横軸に「事業の競争力」を取り、自社が抱える複数の事業をマッピングして優先順位を付けるフレームワークです。
もともとはGE(ゼネラル・エレクトリック)米国の巨大コングロマリット。かつて「業界1位か2位でない事業は撤退する」というポートフォリオ経営で知られた。が、多角化した事業群のうち「どれを続けてどれをやめるか」を判断するために使っていたものですが、高宮さんによれば、スタートアップの事業選びから個人のキャリア設計まで幅広く応用できるとのことです。
(市場◎・適合△)
(市場◎・適合◎)
(市場△・適合△)
(市場△・適合◎)
高宮流アレンジ——横軸は「自社適合度」に置き換える
オリジナルのGEマッキンゼーマトリクスでは横軸が「事業の競争力」ですが、高宮さんはこれを「自社適合度」に置き換えて使うことを提案しています。理由はシンプルで、すでにある事業の競争力は測れるものの、これから始める新規事業やスタートアップでは「競争力ゼロ」からスタートするため、より広い概念が必要になるからです。
高宮さんが定義する「自社適合度」は、大きく3つの要素で構成されています。
競争力って言っちゃうと出来上がった事業向けのイメージになる。「自社適合度」と言えば、スタートアップから大企業、なんなら個人のキャリア論まで使えるんですよ
この置き換えによって、フレームワークの適用範囲が一気に広がります。副業の優先順位づけや、どんなスタートアップネタに取り組むかといった個人レベルの意思決定にも使えるようになるわけです。
縦軸「市場の魅力度」をどう評価するか
縦軸の「市場の魅力度」も、単にマーケットが大きいかどうかだけでは不十分です。高宮さんは2つの軸で見るべきだと語ります。
市場がどれだけ大きくて、どれだけ伸びているか。よく使われるベーシックな指標
その市場で儲けやすい構造かどうか。需給バランス、競争の激しさ、代替品の有無などで決まる
たとえば、次世代AI向けのGPUGraphics Processing Unit。もともとは画像処理用の半導体だが、AI・機械学習の計算に最適な構造を持つため、AI時代の中核的なハードウェアとなっている。市場は、供給できるプレイヤーが限られていて需要が爆発的に高いため、構造的に収益性がきわめて高い。一方、外食産業は市場こそ大きいものの差別化が難しく競争も激しいため、利益率を高くするのが困難です。
面白い例として挙がったのが「残存者利益」。レコード針のように、市場自体は縮小していても供給者が1社だけ残っていれば、独占供給で高い利益率を享受できるケースもあります。
高宮さんは、このマトリクスは「分析した結果をプロットして、比べにくいものを横並びで比較するツール」であり、その背景には3C分析市場(Customer)・競合(Competitor)・自社(Company)の3つの視点で事業環境を分析するフレームワーク。大前研一氏が提唱。や5 Forcesなど、さまざまな分析が土台として存在すると説明しています。
ケーススタディ:長谷川リョーの3事業をプロットする
フレームワークの解説だけで終わらないのがこの番組の魅力です。高宮さんが長谷川さんのパラレルキャリアをその場でプロットする、リアルタイムのケーススタディが展開されました。
長谷川さんが現在手がけている事業は3つ。福祉事業、ライティング業(編集・コンテンツ制作)、そしてポーカープレイヤー業です。それぞれを10点満点で自己採点していきます。
| 事業 | 市場魅力度 | 自社適合度 | ポジション |
|---|---|---|---|
| 福祉事業 | 8 | 7 | 右上(最優先投資) |
| ライティング業 | 1 | 10 | 右下(キャッシュカウ) |
| ポーカー | 1.5 | 2.5 | 左下(撤退候補) |
福祉事業:右上の「投資枠」
福祉市場はそもそも巨大で、年々成長率も高い。加えて、長谷川さんのように経営思考やAI活用のスキルを持つ人材は福祉業界では稀少で、差別化が効きやすいと自己分析しています。さらに、自身がうつ病で苦しんだ経験もあり、精神障害者の支援という事業にはビジョン面での強い適合度もあるとのこと。総合スコア「8・7」で、マトリクスの右上——「リソースを寄せてガンガン投資すべき」領域にプロットされました。
ライティング業:右下の「キャッシュカウ」
市場魅力度は「1」。AIで代替可能な領域が増えており、発注者がそのことに気づけば仕事がなくなるリスクがあるという厳しい評価です。一方で自社適合度は「10」。長年のスキルの蓄積があり、相対的な能力は高い。結果として右下にプロットされ、「省力化して効率よく稼ぐキャッシュカウBCG(ボストン・コンサルティング・グループ)のPPM(プロダクト・ポートフォリオ・マトリクス)における分類の一つ。低成長だが高シェアの事業で、安定したキャッシュを生み出す「金のなる木」を意味する。」としての位置づけになりました。
ポーカー:左下の「撤退候補」……本当に?
市場魅力度1.5、自社適合度2.5。左下の「今すぐやめろ」ゾーンにプロットされました。しかし長谷川さん自身は「お金を稼ぐ以外の副次的なメリットを感じている」と語ります。ここから、高宮さんの鋭い分析が始まります。
分析結果を疑う——トップダウンの視座転換
一度プロットした結果を機械的に信じてはいけない、と高宮さんは強調します。ボトムアップで点数をつけたら、次は必ずトップダウンで「直感と合っているか?」を確認するステップが必要だというのです。
ポーカーのケースで具体的に見てみましょう。ボトムアップの採点では左下の「撤退候補」でしたが、よくよく考えると——
- ビジョン適合度を考慮すれば「めちゃくちゃやりたい」ので、自社適合度のうち半分はここで稼げる
- スキル面でも日本ランキング200位圏内という客観的な実力がある
つまり、最初のプロット位置が「左下」ではなく「右下」寄りだった可能性があるのです。
評価基準のダブルスタンダードに気づく
さらに高宮さんは、長谷川さんの自己評価に潜む矛盾を鋭く指摘しました。
「今いる人が持っていないものを自分が持っている」=逆張り型の評価
「今いる人と同じ軸の中でスキルが高い」=順張り型の評価
福祉では「業界の常識とは違うスキルを持っていること」を強みとして評価し、ライティングとポーカーでは「同じ競技・同じ職種の中での実力」を強みとして評価している。評価軸が事業ごとにバラバラになっているのです。
「今のやり方でやりきって勝ち抜く」のがKSFなのか、「逆張りすることこそがKSF」なのか。どっちで見ますか、という話なんですよ
このように、一度プロットしてみることで自分の認知バイアスが可視化される。それこそがこのフレームワークの真の価値だと高宮さんは語ります。
戦略は「定点観測」で磨かれる
高宮さんが繰り返し強調するのは、このマトリクスは一度プロットして終わりではないということです。仮のプロットに基づいてリソース配分を実行し、しばらく回してみて矛盾が出てきたら、各事業の位置づけを修正していく。この繰り返しが本質だと言います。
具体例として挙がったのが、ライティング業の「キャッシュカウ化」の落とし穴です。「省力化して効率よく受託で稼ぐ」というのは机上では美味しく見えますが、実際にはクライアントとのコミュニケーションコストやプロジェクト炎上による時間浪費など、想定外のコストが発生することがあります。回してみた結果、「右下のキャッシュカウだと思っていたら、実は単なる左下の撤退候補だった」ということもあり得るわけです。
高宮さんは「半年に1回くらいやって、その都度修正していくのがいい」と提案。長谷川さんも、かつて在籍したリクルート日本の大手人材・メディア企業。社員育成に「Will-Can-Must」などの独自フレームワークを用い、定期的な振り返りで人材を育てる文化で知られる。の「Will-Can-Must」のように、同じフレームワークで繰り返し振り返ることの価値に共感していました。
まとめ
GEマッキンゼーマトリクスは、もともと大企業の事業ポートフォリオ管理のために生まれたフレームワークですが、高宮さん流に横軸を「自社適合度」へアレンジすることで、スタートアップの事業選びから個人のキャリア設計まで幅広く応用できるツールになります。
重要なのは、一度プロットした結果を「正解」と思い込まないこと。ボトムアップの分析に対して必ずトップダウンの直感チェックを入れ、さらに半年に1回程度の定点観測で各事業の動きを時系列で追っていく。この「仮説→検証→修正」のサイクルこそが、戦略を磨き上げるプロセスそのものです。
なお、高宮さんの戦略論をさらに体系的に学びたい方は、予約受付中の書籍『起業の戦略論 スタートアップ成功の40のセオリー』もチェックしてみてください。
- GEマッキンゼーマトリクスは「市場の魅力度」×「自社適合度」の2軸で事業をプロットし、優先順位を可視化するフレームワーク
- 横軸を「競争力」ではなく「自社適合度」(競争優位性+ビジョン適合度+属人的強み)に置き換えると、新規事業や個人キャリアにも応用できる
- 縦軸の「市場魅力度」はTAM(規模×成長性)だけでなく、構造的な収益性も含めて評価する
- ボトムアップでスコアリングした後、必ずトップダウンで「直感と合っているか」「評価基準にねじれがないか」を検証する
- 半年に1回程度の定点観測で各事業のプロット位置を見直し、時系列の動きを追うことで戦略の精度が上がる
- 一度分析したらファイナルアンサーではなく、「仮説→検証→修正」を繰り返すための"土俵"として使う
