出口の見えない"レベル上げ"から脱出!キャリアチェンジの戦略論
ぼくらの戦略論にて、ベンチャーキャピタリストの高宮慎一さんと編集者の長谷川リョーさんが、リスナーからの「修行をやめるタイミングの見極め方」というお便りをもとにキャリアチェンジの戦略を議論しました。コンサル3年目で感じる閉塞感にどう向き合うべきか、高宮さん自身のコンサル→MBA→VCという経験も交えながら、「修行だと気づいているなら辞め時のサインかもしれない」という結論に至るまでの内容をまとめます。
リスナーからの相談:コンサル3年目、修行をやめるタイミングは?
戦略コンサルに転職して3年。番組でいつもキーワードになる「Why / What」を探す過程で、いつまで探し続けるべきなのか悩んでいます。今の努力は「修行の目的化」に陥っているのか、それとも長い目で見たJカーブの下積み期間なのか。やめるタイミングの見極め方を教えてほしいです。
今回取り上げられたのは、30代半ばで戦略コンサル企業の経営課題に対して、戦略立案や意思決定のサポートを行うコンサルティング。マッキンゼー、BCG、ベイン等が代表的。に転職して3年目という「きなこ」さんからのお便りです。エピソード26の「修行回」を聴いた上での質問で、番組のキーワードである「Why / What」を探す過程と、現在の仕事を続けるべきかどうかの判断に迷っている様子がうかがえます。
長谷川さんも「めっちゃ分かる」と共感を示し、高宮さんも「分かりみですね」と応じるところからも、多くの人が一度は陥る普遍的な悩みと言えそうです。
高宮さんのコンサル時代──2周目の葛藤とMBAという転機
高宮さん自身、アーサー・D・リトル1886年設立の世界最古の経営コンサルティングファーム。技術経営・イノベーション戦略に強みを持つ。でコンサルを約6年経験しています。コンサルの世界では「一周3年」──つまりプロモーション(昇進)を1回経験したタイミングで次のキャリアを考えるのが一般的ですが、高宮さんは2周してしまったそうです。
1周目はJカーブを超えていく感覚があり、新卒でありながら大企業の経営企画部長や事業部長と対等にやり取りし、社長にプレゼンができるというコンサルならではの刺激に夢中だったとのこと。しかし2周目、プロジェクトマネージャーからパートナーコンサルティングファームの最上位職。プロジェクトを売る営業活動と、経営者の相談相手としての役割を担う。へのステップアップが求められる段階で壁にぶつかります。
今までのノリで気合と時間でカバーしちゃう感じで、作業に没頭しちゃって。今思うとそれが逆を行っていて、大きな経営者視点でズバッと行くみたいなのを身につけた方が良かったんだろうなと
マイクロな分析作業に没頭してしまい、寝ないで働きすぎて微熱が続くような状態にまで追い込まれたそうです。「もう少し粘ればJカーブを超えるのか、それとも損切りして次に行くべきなのか」──まさにきなこさんと同じ悩みを抱えていたことになります。
転機はMBA合格でした。当時の日本法人の社長に「もう少し粘ってからMBAに行くか、今すぐ行くか」と相談したところ、ノールックで「MBA行った方がいいよ」と即答されたそうです。
Jカーブ、サンクコストの魔力がそこで解けたみたいなのはありますね
結果的にハーバード経営大学院ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)。世界最難関のMBAプログラムの一つ。高宮さんは2年次優秀賞を受賞している。でのMBA期間が、自分を客観視するモラトリアムとなり、その後VCへのキャリアチェンジにつながったとのことです。
意図的に「ビーチ」期間を作る
高宮さんが提案するのは、不可逆な決断をする前に、一歩引いて考える時間を意図的に設けることです。
仕事の現場にいると、目の前のタスクに忙殺されて視野狭窄に陥りがちです。経営者が現場実務に入り込むと全社目線・長期目線が持ちにくくなるのと同じで、自分のキャリアについても「今」から離れないと冷静に見つめ直せないというわけです。
「これは修行だ」と自覚がある場合。→ さっさと辞めましょうが正解。シンプル。
自分で本当に分からなくなっているケース。→ まず「ビーチ期間」を作って冷静に見極めるのが先。
ここで登場するのが「ビーチコンサル業界の俗語で、プロジェクトにアサインされずにいる期間のこと。通常はネガティブなニュアンスで使われるが、高宮さんはこれをポジティブに活用することを推奨。」というコンサル用語です。プロジェクトに入っていない待機期間を指し、業界では「稼働率が落ちている」とネガティブに捉えられがちですが、高宮さんはこれをあえてプラスの意味で意図的に作ることを勧めます。
具体的には、長期休暇を取る、有給を使う、休職する、サバティカル制度を活用するなど。MBAのような大きな決断でなくても、「文字通りビーチでゆっくり一歩引いて考える時間」が、自分の中の疑念が正しいかどうかを見極める助けになるということです。
「努力は夢中に勝てない」──Why/Whatが夢中の条件
長谷川さんは「努力は夢中に勝てない」という格言を引きながら、自身は打算的にWhy / Whatを探すよりも、夢中になれるものに飛び込み、後から振り返って意味づけするというスタイルだと語ります。
これに対して高宮さんは興味深い反論をします。「Why / Whatに迷いがない状態こそが、夢中になってフローに入れる条件ではないか」というものです。
常に「我に返っちゃってる」わけじゃないですか。「今やってることって夢中になれるんだろうか」みたいに思っちゃうと夢中になれないというか
高宮さんは折り鶴のたとえを使います。「よく分からないけど折り鶴を折り始めたら集中してた」というタイプもいれば、「なんで折り鶴を折るのか」が腹落ちしないと手が動かないタイプもいる。後者の場合、「大切な人が入院していて、早く良くなってほしいから千羽鶴を折る」というWhyがあって初めて没頭できるのだと。
「何をやるか」と「誰とやるか」──両方丸でないと続かない
長谷川さんは、現在取り組んでいる福祉事業について、「何をやるか」よりも「誰とやるか」が入り口だったと明かします。ポーカーで出会った仲間と共に福祉の世界に入り、最初は福祉に特別な興味があったわけではなかったものの、やってみるうちに市場の成長性にも自身の過去の経験(鬱の経験)との共鳴にも気づいたそうです。
ここから二人の議論は、「何をやるかよりも誰とやるか」という二元論に切り込んでいきます。
起点は「何をやるか」でも「誰とやるか」でもOK
どちらから入っても構わない
検証フェーズ:実際にやってみる
起点にした片方が丸なら、もう片方も丸になるかを試す
両方丸ならサステイナブル
片方だけでは長く続けられない
どっちの宗教でも結局どっちを起点に入ったとしても、両方丸にならないとサステイナブルじゃないよね。だけどどっちかの起点でそっちが丸だったら、やって検証してみようよっていう話
きなこさんのケースに当てはめると、コンサルをやりたいと思って入ったけれど「何かが違う」と感じているなら、その「違い」を言語化してみること。それが自分にとって本当に大事なことなのか、あきらめられることなのかを突き詰めてみる必要がある、と高宮さんは助言します。
コンサルという仕事が持つ"修行の罠"
コンサル未経験の長谷川さんが鋭い問いを投げます。「戦略コンサルは仕事の性質上、修行の罠にハマりやすいのでは?」と。一つの事業にどっぷり浸かるのではなく、複数の企業の戦略を外から手がけるという構造が、スキルアップの快感で自分を騙しやすい面があるのではないか、という指摘です。
高宮さんもこれを認めつつ、重要な区別を提示します。
コンサル事業そのものに対してWhyを持ち、「お客さんに向き合ってお客さんの価値を出す」「お客さんを幸せにすることで世の中を良くする」という矢印が外や上に向いている人は、新卒から勤め上げてマネージングパートナーになることも十分に可能だと高宮さんは言います。実際、高宮さんがいたアーサー・D・リトルでは、1つ下の代で新卒入社した同僚がマネージングパートナーコンサルティングファームの経営トップ。日本法人の代表に相当する最上位ポジション。にまで昇り詰めているそうです。
問題は、矢印が自分の内側──「修行」「スキルアップ」──にしか向いていない場合です。3年間やってみた時点で、コンサル事業そのものがやりたいことなのか、その仕事を通じて世の中にどう貢献したいのかという「修行じゃない要素」と向き合う必要がある、というのが高宮さんの見解です。
「自分のスキルアップのためにやっている」
→ 動機が弱く、長期的に持続しにくい
「顧客の価値を出す」「世の中を良くする」
→ 事業そのものへのWhy / Whatが明確で持続可能
時代のモメンタムに乗るか、自分を貫くか
長谷川さんから「時代のモメンタム(勢い)がキャリアの意思決定に影響したか」と問われた高宮さんは、「まるっきりなかったです」と即答します。
高宮さんは76世代1976年前後に生まれた世代。日本のインターネットビジネス黎明期と重なり、起業家やIT経営者を多く輩出した世代として語られることがある。でネットバブルの盛り上がりも見てきましたが、MBA卒業時はサブプライムショック直前で金融・バイアウトファンドが盛り上がっていた時期。モメンタムに乗るならそちらに行くはずだったのに、VCを選んだわけです。
その時々流行ってるものに飛びつくと、やっぱ逆に言うとモメンタムなくなった時にそれやり続けられるんですか?って
AIの例も挙がります。もし誰かが「AGIなんか絶対できない」と証明してしまったら、世の中のハイプは一瞬で終わる。それでもAIが好きでやり続けられるか、ブレイクスルーしなくても楽しいからずっと踏ん張れるか──そこが問われるのだと。
さらに高宮さんは、「成否を気にしている時点で違う」と指摘します。あるテーマで勝ち残った人と負けた人がいるとして、その結果は事後的にしか分からない。結果が出ていない段階で何をやるかを決めるには、「好きだからやっている」という内発的動機が、心の安寧という意味でも合理的だということです。
まとめ
最後に二人は、きなこさんの相談に対する結論を整理します。
修行と気づいてたら辞め時のサインかもしれないってことですね
高宮さんはもう一つ付け加えます。「小難しいこと考えず、めちゃくちゃ頑張ってるのに3年やって結果が出なかったら、それは違うかも」と。モチベーションの問題なのか適性の問題なのかは分からないけれど、自分と合っていない可能性を示すシグナルだと。
そして「レベル上げと気づいてしまっている」こと自体が重要なサインであり、それが本当かどうかを見極めるために、まずは忙殺から離れて冷静になれる時間──「ビーチ期間」──を作ることが、直近でできるアクションだとまとめました。
高宮さんは最後に「占い師みたいですけど」と笑いつつ、「ご自分で気づいていませんか?」ときなこさんに語りかけます。答えはすでに相談者の中にあるのかもしれません。
- 「修行だ」と気づいているなら、それ自体が辞め時のサインかもしれない
- 不可逆な決断をする前に、意図的に「ビーチ期間」を作って冷静に自分を見つめ直す
- 矢印が「自分のスキルアップ」だけに向いている場合、その仕事を長く続ける動機としては弱い
- 「何をやるか」と「誰とやるか」──どちらが起点でもよいが、両方丸でないとサステイナブルではない
- 時代のモメンタムよりも、内発的な「好き」や「Why」に基づく選択の方が、結果が見えない中での心の安寧につながる
- 全力で3〜5年やって結果が出なければ、GEマトリックス的に「撤退」も合理的な判断
