人脈構築で悩んでいる人へ!「愛され力」の戦略論──大物に可愛がられる人の共通点
ぼくらの戦略論第30回では、グロービス・キャピタル・パートナーズ日本を代表するベンチャーキャピタルの一つ。メルカリやカヤックなど数多くのスタートアップに投資してきた実績を持つ。代表パートナーの高宮慎一さんと、編集者・ポーカープレイヤーの長谷川リョーさんが「愛され力」をテーマに対談。なぜ長谷川さんは年上の経営者(通称「御大」)たちに次々と引き上げてもらえるのか──その構造を高宮さんがVC目線で分析しました。その内容をまとめます。
「御大」との出会いはポーカー遠征
長谷川さんは現在、福祉事業の子会社社長を務めていますが、そのきっかけは「ポーカー仲間」からの誘いでした。福祉事業の創業者である通称「御大」とは、海外のポーカー大会で出会ったのが始まりです。
ポーカーの国際大会は参加費も渡航費もかかるため、経営者の余暇として人気があるそうです。主要大会はツアーのように巡回しており、フィリピン、韓国、アメリカと会場を移るたびに「大体メンツが一緒」になるとのこと。マニアックな趣味の世界に深くはまっている人同士は、自然と顔見知りになっていくわけです。
御大は還暦前後、長谷川さんとは親子ほどの年齢差があります。ポーカー仲間として食事に連れて行ってもらったり、雑談で将来の話をしたりするうちに、「じゃあうちの会社で一緒にやればいいんじゃない?」という流れで福祉事業に参入することになったそうです。
「御大みたいになりたいっす」って普通に言ってたら、「じゃあうち来いや」って
社会的地位が逆転するコミュニティの力
高宮さんが最初に指摘したのは、「御大がいるコミュニティに身を置いている」という入り口の重要性です。ポーカー遠征は時間もお金もかかるため、参加者には経営者が多い。その「御大密度」の高い場所に、若い長谷川さんがいること自体がまず珍しい、と。
さらに興味深いのは、そのコミュニティ内で「社会的地位が逆転する」現象です。普段のビジネスの世界では御大が圧倒的に上の立場ですが、ポーカーの世界では長谷川さんの方が上手い。しかもポーカー系YouTubeチャンネルにレギュラー出演しており、カジノに行くと「動画見てます!」と声をかけられる存在でもあります。
御大=上(経営者・資産家)
長谷川さん=下(若手フリーランス)
長谷川さん=上(実力者・YouTuber)
御大=下(愛好家・ファン側)
高宮さんは自身のGTフィッシング(大型魚釣り)コミュニティでも同じ現象があると言います。どんな社会的バックグラウンドがあろうと、「釣りが上手い方がリスペクトされる」。趣味のコミュニティでは、その分野のスキルこそが信頼の源泉になるのです。
ポーカーの世界で「上級国民」の長谷川さんが、御大に対して素直に「かっこいいっす」「どうしたらいいんですか」と言える。この「自分が上の立場なのに謙虚」というギャップが、御大の心をつかんでいるのではないか──というのが高宮さんの分析です。
打算のなさと「弱みを見せる」力
VCである高宮さんのもとには、日々「お金をください」という人が来ます。当然ガードは上がる。しかし長谷川さんとの関係は利害関係から始まっていません。ポーカーという「心から楽しんでいる軸」で繋がっているからこそ、警戒心なく付き合えたと高宮さんは振り返ります。
長谷川さん自身も「有名な人に対して有象無象が群がっても、下心は透けて見える」と語り、打算的な人付き合いを意識的に避けているそうです。
長谷川さんは凸凹が大きくて、めちゃめちゃプロなところと、めちゃめちゃダメなところのギャップが激しい。放っておくと野垂れ死にするんじゃないかという「親心」をくすぐられるんですよね
もう一つ高宮さんが指摘するのは、長谷川さんの「弱みを見せる力」です。「いやあ僕しんどいんですよね、今どん底なんですわ」と、変なプライドなしにサラッと言える。助けを申し出れば「あっ、そうすか?ありがとうございます」と秒で受け入れる。その素直さが、周囲の「放っておけない感」を引き出しているのではないか、と。
スキルで信頼を得て、関係性を深化させる3ステップ
高宮さんと長谷川さんの出会いは約12〜13年前、SENSORSテクノロジー×エンターテインメントをテーマにしたメディア番組・Webメディア。日本テレビ系で放送されていた。というメディアでのライティング仕事がきっかけでした。当時、スタートアップの文脈を理解してライティングできる人は少なく、長谷川さんの原稿は「ほぼそのまま使える」クオリティだったそうです。
この経験をもとに、高宮さんは「愛され力」が機能する関係性を3つのステップで整理しました。
実際に高宮さんは、長谷川さんがケニアでポーカー生活を送っていた時期にも「大丈夫?仕事個人で発注しようか?」と連絡していたそうです。ステップ1・2の積み重ねがあってこそ、ステップ3の「人として心配する」関係に至ると高宮さんは語ります。
圧倒的な「心配させ力」が高いんですよ。心配して仕事をくれているっていうのはあるのかもしれない
プライドとかないな、一切
ただし長谷川さん自身は35歳。「いつまでも『後輩力』で通用するのか」という不安もあると正直に打ち明けます。高宮さんも「自分が御大的な年になっちゃうと、ただの面倒臭いおっさんになるリスクはある」と認めつつ、LINEヤフー2023年にZホールディングス、LINE、ヤフーが合併して誕生。日本最大級のインターネットサービス企業。会長の川邊健太郎LINEヤフー株式会社 会長。ヤフー社長、Zホールディングス社長などを歴任。「後輩力」が高いことで知られるエピソードが番組内で紹介された。さんのように、大御所になっても「先輩!」と飛び込んでいく人もいると紹介しました。
「持たざる者」の生存戦略と卒業のタイミング
高宮さんはこの「愛され力」を、スタートアップの成長フレームワークに重ねて整理します。
最初はリソースを持っていないから、外部リソースをレバレッジする。これはサードドアアレックス・バナヤンの著書『サードドア』で提唱された概念。正面入口(正攻法)でもVIP入口(コネ)でもなく、裏口から入るような型破りなアプローチで機会をつかむ戦略のこと。的な戦略であり、五光効果権威ある人物や組織の影響力を借りることで、自分の信頼性や存在感を高める効果。「虎の威を借る狐」と同様の意味合いで使われている。とも言えます。御大に引き上げてもらって福祉事業に参入し、子会社の社長になる──これはスタートアップで言えばシード期の典型的な動きです。
外部リソース(御大のノウハウ・ネットワーク・資金)に依存して参入。スタートアップのシード〜アーリー期に相当
ノウハウとネットワークを内部化し、自走できる状態へ。ミドルステージ以降に相当
しかし高宮さんは釘も刺します。いつまでも外部リソースに依存していては、御大が引退したり、「もう長谷川さんはいい大人だから助けなくてもいいか」と思われたりした瞬間に事業存続の危機になる。「クリティカルなリソースはどんどん内部に溜めて、自分で戦えるようにならないといけない」──スタートアップの成長と同じ論理です。
御大側にもメリットがある──世代を超えたWin-Win
ここで長谷川さんが面白い視点を提供します。福祉業界には、スタートアップ的思考やテクノロジー活用の発想を持つ人材が「皆無に近い」。その中で、御大がポーカーを通じて異業界の若手人材を獲得したのは、意識的かどうかにかかわらず「天才的ムーブ」ではないか、と。
高宮さんも同意し、「御大たちは若手へのアクセスを求めている」と断言します。スタートアップ界隈の大御所も、起業したての若手がどんな考えでどんなサービスを作っているのか気になっている。高宮さん自身、業界の御大と若手を引き合わせる会を定期的に開催しており、そこからファンドレイズやM&Aが決まった事例もあるそうです。
御大が求めるもの
自分がアクセスできない世代の感覚・情報・スキル。異業界の発想を持つ人材
若手が求めるもの
経験・ノウハウ・ネットワーク・資金。事業機会へのアクセス
ただし高宮さんは繰り返し強調します。「そこをいやらしくやると下心が透けて見える」。大事なのは、ポーカーなりスタートアップなり、共通の関心軸で純粋に楽しむこと。御大を神格化して距離を取る必要はないが、「先方のニーズを図りながら、プロとして価値を提供する」バランス感覚が重要だと。
長谷川さんのオチとしては、「このバランス感覚を天然でやっている」という点に尽きます。再現性があるかは本人にもわからないけれど、部分部分を抽象化して活かしてもらえれば──というのが二人の結論でした。
まとめ
今回のエピソードでは、長谷川さんが年上の経営者たちに可愛がられる「愛され力」の正体を、高宮さんがVC・戦略家の視点で分析しました。趣味のコミュニティで社会的地位が逆転する現象、打算なく共通の軸で繋がることの重要性、プロとしてのスキルが信頼の入り口になること、そして素直に弱みを見せる力──これらが組み合わさって「放っておけない人」が生まれるという構造が見えてきました。
一方で、いつまでも「後輩力」に頼るのではなく、得たノウハウやネットワークを内部化して自走できる状態を目指すことも、成長のために欠かせない視点です。「愛され力」はスタートアップのシード期の戦略であり、そこから先は自分の足で立つフェーズに進む必要がある──そんなメッセージが込められた回でした。
- 「御大密度」の高い趣味コミュニティに身を置くことが、人脈構築の入り口になる
- 趣味の世界では社会的地位が逆転する──その中で実力を示しつつ謙虚でいることが「愛され力」の源泉
- 打算ではなく、心から楽しめる共通軸で繋がることが最も重要。下心は透けて見える
- 関係性は「スキルで信頼獲得 → 機会のパス出し → 人として心配する」の3ステップで深まる
- 素直に弱みを見せ、助けを受け入れる「心配させ力」も可愛がられる要因
- 御大側も若い世代へのアクセスを求めており、Win-Winの関係が成り立つ
- ただし外部リソースへの依存はいつか卒業し、ノウハウ・ネットワークを内部化して自走する必要がある
