政治や経済のマクロとどう向き合う?「自分ごと化」から始める戦略論
ぼくらの戦略論は、グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナーの高宮慎一さんと、編集者・ポーカープレイヤーの長谷川リョーさんが「戦略」をテーマに語るPodcastです。今回は衆議院選挙のタイミングに合わせ、忙しい若者が政治や経済のマクロ動向とどう向き合えばよいかを議論しました。カンボジアの急成長から日本の停滞感、そして「自分の業界から政治を追う」という実践的アプローチまで、その内容をまとめます。
カンボジアの急成長と日本の停滞感
長谷川さんはワールドポーカーツアー(WPT)世界各地で開催されるポーカーの主要トーナメントシリーズ。プロ・アマ問わず参加でき、賞金規模も大きい。に参加するため、カンボジアへ弾丸遠征してきたそうです。正味2日の滞在で4つのトーナメントに出場したものの、結果は「全滑り」──すべて予選敗退という悔しい結果に。
ただ、ポーカーの結果以上に印象的だったのは、カンボジアの街の変貌ぶりでした。年に1回ほど訪れているという長谷川さんによれば、「とてつもない急速なスピードで街が進化している」とのこと。看板はほぼ中国語で埋め尽くされ、中国資本が大量に流入している様子がうかがえます。
久々に海外行くと翻って日本について考えさせられる。カンボジアの急速な進化を見ると、日本の停滞感をまざまざと実感させられます
高宮さんも、プノンペンカンボジアの首都。メコン川とトンレサップ川の合流点に位置し、近年は不動産開発が急速に進んでいる。の都市開発の話に触れ、もともと地価が上がっていた中州エリアだけでなく、川の外側にまで開発が広がっている現状を紹介しました。ヨーロッパ人向けの高級リゾートも増えているといいます。
人口ボーナスと人口オーナス──国の成長を決める変数
カンボジアの活況の背景について、高宮さんは「人口ボーナス期生産年齢人口(15〜64歳)の比率が高まり、経済成長を押し上げる時期のこと。日本では1960〜90年代がこれにあたる。」というキーワードで説明しました。カンボジアの人口の平均年齢はおよそ20代前半。活気にあふれ、そこに中国の資本が流れ込んでいるわけです。
国の発展を決める方程式は、突き詰めれば「労働人口 × 生産性」であると高宮さんは指摘します。日本ではDXやAIで生産性を上げようとしていますが、それで得られる改善は20%程度。一方、人口が2倍になればそれだけで成長率を大幅に押し上げてしまいます。
逆に日本は「人口オーナス期少子高齢化により生産年齢人口の比率が低下し、社会保障費の増大などで経済成長の重荷になる時期。「オーナス(onus)」は「重荷・負担」の意味。」に入っています。労働人口の減少が最大のドライバーになってしまうからこそ、移民受け入れの是非が議論されるわけです。
平均年齢20代前半。若い労働力が豊富で、海外資本も流入。都市開発が急速に進む
少子高齢化が深刻。生産性向上(DX・AI)だけでは補いきれず、移民議論に発展
政治との向き合い方は「自分の業界」から
カンボジアの話から転じて、長谷川さんが切り出したのは「政治との向き合い方」でした。ちょうど衆議院選挙の時期にあたり、「自分が忙しいことにかまけて、政治に全くマインドを振れていない」と率直に語ります。バクっと政治全般を追う気にはなれないが、それではいけないのではないか──長谷川さんと同じ悩みを持つ若者は多いのではないでしょうか。
これに対して高宮さんは、むしろ長谷川さんのアプローチは正しいと返しました。長谷川さんは福祉事業を手がけており、厚労省が3年に1回出す報酬改定介護保険や障害福祉サービスの報酬単価を見直す制度。おおむね3年ごとに改定され、事業者の収益構造に直結する。はセンシティブに追っています。分厚い省庁レポートをAIで読み解くこともしているそうです。
「バクっと政治全般」を追うのは自分ごと化しにくい。生々しい自分の業界への影響を中心に追うのが正しいアプローチだと思います
高宮さんが強調したのは、「自分ごと化」の重要性です。自民党がどうとか、与党がどうとか言われても、自分の生活にどう影響があるのかが見えなければ追いようがありません。しかし、たとえば「どの政党が勝つかによって介護保険2000年に日本で導入された社会保険制度。40歳以上が保険料を負担し、介護が必要と認定された人にサービスを提供する。報酬点数の変更は介護事業者の経営を直接左右する。の点数が下がるかもしれない」と考えれば、それは業界の生き死にに直結する大問題です。
自分ごとから広がる政治リテラシー
高宮さんはさらに、「自分の業界」を起点にすれば、政治への関心は自然と広がっていくと語りました。
たとえばスタートアップの世界では、介護スタートアップ、医療スタートアップ、ディフェンステック防衛・安全保障領域のテクノロジー企業。ドローン、サイバーセキュリティ、宇宙技術など、近年は各国でスタートアップへの投資が増加している。といったように、それぞれの領域に管轄する省庁があり、その領域に強い政治家がいます。各政党の政策方針、官僚の動向、そしてそれらのパワーバランスの中で政策が決まっていく。この構造を理解していれば、「バクっと政治」ではなく、具体的な力学として政治を捉えられるようになります。
ポイントは、いきなり「政治全般をフォローしよう」と気負わないことです。自分が日々追っている業界の動向──それ自体がすでに政治のウォッチになっている。そこを起点に、少しずつ関心の範囲を広げていけばよいのかもしれません。
まとめ
今回のエピソードでは、カンボジアの急成長という「窓」を通して日本の現在地を確認し、そこから政治や経済のマクロ動向とどう向き合うかという問いへと議論が展開しました。
高宮さんのメッセージはシンプルです。政治を「バクっと」追おうとする必要はない。まず自分の業界に直結する制度や政策を追い、それを起点に省庁・政治家・政党のパワーバランスを理解していけばよい。「自分ごと化」こそが、政治リテラシーを高める最も実践的なアプローチだということです。
カンボジアの人口ボーナスに象徴されるように、国の経済成長は「労働人口 × 生産性」で決まります。日本が人口オーナス期に入った今、どんな政策が打たれるかは一人ひとりの生活にますます影響を及ぼしていきます。忙しい日常のなかでも、自分の仕事を入口に政治へアンテナを張ること。それが、このエピソードから得られる最も実用的な示唆ではないでしょうか。
- カンボジアは平均年齢20代前半の「人口ボーナス期」にあり、中国資本の流入もあって急速に発展している
- 国の成長は「労働人口 × 生産性」で決まる。人口オーナス期の日本は、生産性向上だけでは補いきれない構造的課題を抱えている
- 政治を「バクっと」追おうとすると挫折する。まず自分の業界に直結する制度・規制・報酬改定を追うのが正しいアプローチ
- 自分の業界を起点に、管轄省庁・政治家・政党の政策方針へと関心を広げていくことで、政治リテラシーは自然と高まる
- 規制産業(介護・医療など)では、どの政党が勝つかが事業の生き死にに直結する。政治は「他人事」ではなく「自分ごと」
