採用難から脱出する!自社に適合する人材の解像度を上げる戦略論
ぼくらの戦略論ep.35は、長谷川リョーさんが自身の福祉事業で直面している「採用」のリアルな悩みを、ベンチャーキャピタリストの高宮慎一さんにぶつけるガチ相談回。「人が採れない」という表面的な課題を深掘りしていくと、ビジョンの不在やKSF(重要成功要因)の曖昧さという根本原因が浮かび上がってきます。その内容をまとめます。
「採用に悩んでいます」は解像度が低い
長谷川さんの悩みはシンプルでした。福祉事業で人手が足りない、Indeedリクルートが運営する求人検索エンジン。無料掲載も可能で、中小企業の採用媒体として広く使われている。に求人を出しているが応募が来ない──。しかし高宮さんは開口一番、「『採用で悩んでます』という時点で解像度が低い」とバッサリ切り込みます。
そもそもなんで人が必要なのかから入ってもいい。事業の解決したい課題から本当は入りたいんですよ、採用とか組織も。
長谷川さんの事業所には法律で定められた人員配置基準障害福祉サービス事業所では、利用者数に応じて一定数以上のスタッフを配置することが法令で義務付けられている。基準を満たせないとサービス提供ができなくなる。があり、退職者が続出して基準を下回りそうになっている──だから採用を急いでいるとのこと。しかし高宮さんは、「人を採る」前に「人が辞めなくなる打ち手」の方が先ではないかと問いかけます。
表面的な課題
「採用がうまくいかない」
本当の課題
「人が足りない」=採用 × リテンション × 仕組み化の掛け合わせ
根本原因の特定
なぜ辞めるのか? なぜ採れないのか? KSFは何か?
辞める理由の深掘り──本当のRoot Causeは何か
長谷川さんが代表に就任したタイミングで4人ほどが退職。ただし半分は会社側から辞めてもらった人で、残り半分は自発的な退職でした。高宮さんはすかさず「辞めてほしくない人がなぜ辞めたのか」にフォーカスします。
長谷川さんの理解では、退職理由は「特定のスタッフと馬が合わない」というもの。しかし高宮さんはさらに深掘りします。
本当は馬が合うはずなのに会社のカルチャーやコミュニケーション設計ができてないのか、根本的に価値観のミスマッチなのか。前者なら「残れる人を会社が残せなかった」話、後者なら「採用段階でカルチャーの定義が甘い」話。
さらに長谷川さんは衝撃的なエピソードを明かします。「馬が合わない」という理由を聞いて別の事業所に異動させたスタッフが、初日の朝に「楽しくやれそうです」と笑顔で話していたにもかかわらず、夕方には退職届を持ってきた──という出来事です。
高宮さんは「上司に幸せですかと聞かれたら幸せですとしか言わない」と指摘。表面的な言葉だけを鵜呑みにせず、表情やトーン、周囲へのヒアリング、人間関係の空気感など総合的に把握しなければ、正しい課題にアドレスできないと話します。
本来は合うはずの人材同士が、コミュニケーションの仕組みや制度の不備で衝突してしまっている
カルチャーや価値観の定義が曖昧なまま採用しているため、バラバラな人が混在してしまっている
事業のKSFから逆算する人材戦略
高宮さんは話を一段引き上げ、「そもそもこの事業の成功の秘訣(KSFKey Success Factor(重要成功要因)の略。事業が成功するために最も重要な要素のこと。経営資源の配分先を決める判断基準になる。)は何か」という問いを投げかけます。
リテンション重視 → カルチャー設計・制度整備・福利厚生充実 → 制度づくりが得意な人事を採用
採用重視 → 人が入れ替わっても回る仕組み → 採用力の高い人事を採用
長谷川さんの仮説は「各事業所のサービス管理者障害福祉サービス事業所において、利用者の個別支援計画の作成やスタッフの指導・管理を担う責任者。事業所運営の要となるポジション。の質を担保することがKSF。現場スタッフはある程度流動してもよい」というもの。高宮さんはこの仮説自体を検証すべきだと指摘します。
管理者の人のリテンションだけ頑張って、現場の支援者がガンガン入れ替わっちゃってる状態でもええやんと思ってるんだったら、ええやんでやってみる。でも今「採れない」ってとこで、えくないみたいになってません?
つまり、KSFの仮説が正しいなら、現場スタッフの入れ替わりは織り込み済みのはず。それなのに「採れない」で困っているということは、仮説自体がズレているか、仕組み化が不十分な可能性があるということです。
見極め力を上げれば報酬で妥協しなくていい
長谷川さんには具体的なジレンマもありました。「本当にいい人材には高い報酬を払いたいが、入社前にはわからない。だから低めに設定すると誰も来ない」──という悪循環です。
高宮さんの回答はシンプルでした。「それはこちら側の見極め力の問題」と。
こっちの見極め力が弱いリスクをお金でヘッジしていくとジリ貧になる。
高宮さんが強調するのは、ジョブディスクリプション職務記述書。そのポジションで求められる役割・責任・必要スキル・報酬条件などを明文化したもの。採用のミスマッチを防ぐ基本ツール。や報酬レベルは妥協せず、「こんなハイスペックなことができる人にはハイスペックな報酬を払います」とターゲティングして発信すること。その上で、来てくれた人が本当にそうかどうかを見極めるのはこちらの力量だ、という考え方です。
ビジョンの欠如が採用を迷走させる
話題はさらに上流へ。長谷川さんは「どこの事業所でも同じようなビジネスモデルの福祉事業で、どうやってビジョンを作ればいいのか」と問いかけます。
高宮さんの回答は明快です。「ビジネスモデルはHow(どうやってお金を得るか)。大事なのは提供価値(何の価値を誰に届けるか)」。長谷川さんの事業所では、利用者がパソコンを学んだり、古着を修復したり、ハンドクラフトを作ったりしていますが、その事業の「主軸」がどこにあるのかが曖昧なままでした。
利用者がいい時間を過ごし、やりたいことをエンパワーする。ハンドクラフトは副産物
→ 福祉に共感する人材が集まりやすい
ハンドクラフトや動画編集など、成果物をゴリゴリ売るビジネス。利用者はその担い手
→ ものづくりが好きな人材が集まりやすい
高宮さんは食べログカカクコムが運営するグルメレビューサイト。一般ユーザーが自分のニーズに合った飲食店を探すためのサービスとして設計されている。とぐるなび飲食店の集客・販促を支援するサービス。飲食店側に寄り添い、集客力や客単価の向上をサポートするビジネスモデル。のアナロジーで説明します。同じ飲食店情報を扱っていても、「ユーザーが最適な店を見つける」ことに最適化するのか、「飲食店が集客・単価を上げる」ことに最適化するのかで、サービス設計はまったく変わる。福祉事業でも同じで、「究極に幸せにしたい対象は誰か」がブレない限り、手段としてハンドクラフトも動画編集も折り鶴も「相場的」にはならないと語ります。
長谷川さん自身も「採用の話から入ったけど、結局採用もHowだ」と気づきます。高宮さんは、戦略論は軍事→企業→スタートアップ→個人と応用範囲を広げてきた歴史があり、まだ戦略論が浸透していない福祉領域で先に考え始めること自体がアドバンテージになりうると締めくくりました。
まとめ
「採用がうまくいかない」という悩みを起点に、話は退職のRoot Cause分析、事業のKSF仮説、見極め力の向上、そしてビジョンの不在という根本課題へと遡っていきました。採用はあくまでHowであり、上位のWhy・Whatが定まらなければ永遠にモグラ叩きが続く──というのが今回の最大の教訓です。
高宮さんも「こういう公開壁打ちフォーマットの第2弾があれば」とコメント。リスナーからのガチ相談も募集中とのことです。
- 「採用に悩んでいます」は解像度が低い。「人が足りない」を課題と捉え、採用・リテンション・仕組み化の選択肢を持つ
- 辞める理由の表面的なヒアリングだけでは本音はわからない。Root Cause(根本原因)の特定が先決
- 事業のKSF(重要成功要因)を仮説として持ち、それへの貢献度が高い領域から経営資源を配分する
- 見極め力が弱いリスクを低報酬でヘッジするとジリ貧に。成功者のプロファイリングで選考精度を上げる
- ビジョン → 戦略 → 組織 → 採用という階層構造を意識し、上流が曖昧なままHowを最適化しない
- 戦略論がまだ浸透していない領域(福祉など)で先に取り入れること自体がアドバンテージになりうる
