本当に「好きを仕事にする」が正解?"自分の絶対軸"で生きる戦略論
ぼくらの戦略論ep.37では、ベンチャーキャピタリストの高宮慎一さんと編集者・ポーカープレイヤーの長谷川リョーさんが、リスナーからの「好きなことを仕事にしたいけど、好きの見極めが難しい」というお便りを起点に議論。「好きなことが分からなくなった時こそ行動量を増やすべき」「他人の価値軸ではなく自分の絶対軸を持つことが大切」という結論に至った、その内容をまとめます。
「好きを仕事に」は結果論なのか
今回の起点となったのは、「長谷川さんに共感する40代」と名乗るリスナーからのお便りです。
「好きなことを仕事にできてる人は最強」というのは分かるけれど、そもそも自分の好きなことを見極めるのが難しい。自分がやりたいこと、好きなことを見つける方法があれば教えてほしい。
高宮さんは「めちゃくちゃ身に覚えがある」と共感を示しました。新卒でコンサルティングファームに入った当時は「これが好きなことだ」と思っていたものの、気づけば"修行が目的化"してしまい、本当に好きだったのか分からなくなった経験があるそうです。
一方で、高宮さんは「好きなことをやった方がいい」という持論も持っています。その理由はシンプルで、現代は高度成長期のように「大企業に入っておけば安泰」という型がなく、何をやっても不確実性がつきまとう時代だからです。
何やったとしても成功の型がない。その不確実性は、好きなことをやろうが好きじゃないことをやろうが一緒なんじゃね?と思うと、好きなことをやったもん勝ちって思っちゃう
ただし「好きなことをやれ」というアドバイスに対しては、「それって好きなことを見つけられて、しかもお金になった人の結果論でしょ?」という反論があることも高宮さん自身が認めています。では、好きなことが分からなくなった時にどうすればいいのか──話はここから本題に入っていきます。
好きなことを仕事にできている人は最強。不確実な時代だからこそ、好きなことをやったもん勝ち
そもそも「好き」が分からない。見つけた人の結果論では? という疑問がつきまとう
好きが分からなくなった時の処方箋
高宮さんが提示したのは、「迷った時こそ行動量を増やす」というアプローチでした。
高宮さん自身、コンサルを辞めてハーバード経営大学院ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)。高宮さんは2年次優秀賞(Baker Scholar相当)を受賞している。に留学したとき、「クリエイティブなことが好きかもしれない」と思い、デザインファームでインターンをしたそうです。デザイナーでもエンジニアでもないため勝算はゼロ。それでも「ちょっとでも興味がある」という気持ちで飛び込んでみた結果、「デザインファームそのものは違う」と分かった一方で、「ビジネスの視点からクリエイティビティに貢献したい」という自分の本質的な欲求は確認できたと言います。
高宮さんによれば、迷いの原因は2つしかありません。「情報が足りない」か「考えていない」か。好きかどうか分からないと悩んでいる人は、たいてい前者──つまり比較対象や体験が足りていないのだそうです。好き嫌いには絶対値もあれば相対値もあるので、副業A・B・C・Dを試して本業と比べてみるだけでも見え方は変わると語りました。
長谷川さんも「1回距離を置くのが重要」と同意。ライティングをずっとやっていた中でリクルートに入社し、離れてみたことで「やっぱりライターの方が向いている」と気づけた経験を振り返りました。ポーカーについても「今はあまりやっていないが、またどうせやりたくなる」と話し、好きなことは固定的ではなく、距離を置くことで冷静に判断できるようになるのではないかと述べています。
ちょっとでも面白そうなことに首を突っ込む
勝算は気にしない。興味ベースで飛び込む
やってみて「感じる」
楽しい?テンション上がる?──フィール・ドント・シンク
要素を分解して微修正
「この要素は好き、この要素は違った」→ 軌道修正する
ざっくり正しい方向へ進む
最初から正解を求めず、繰り返しの中で精度を上げていく
「多動」と「リスクヘッジ」のバランス
「色々試すのは大賛成だけど」と長谷川さんが切り出したのは、"多動の罠"についてです。SNSでハッシュタグを書き連ねて色々やっているように見えるものの、結局何者なのか分からない──いわゆる器用貧乏の状態に陥っている人が散見されるのではないか、と問いかけました。
ところが高宮さんの答えは意外なものでした。
僕それも実は別にいいんじゃないかと思っていて。究極、最後は自分が幸せかどうかにしか収束しない
高宮さんによれば、器用貧乏がダメに感じるのは「何か1つに集中して頑張れ」「1つに絞ってお金を稼げ」という"世の中の呪い"があるからです。バラバラにアルバイトをして時給換算では安くても、全部が好きなことで本人が幸せなら、それは立派に成立しているのではないかと語りました。
レールを外れる恐怖にどう対処するか
とはいえ、「仕事を辞めてアフリカに行く」のような大胆な行動をいきなり取れる人は少数派です。高宮さんはそこで「リスクヘッジのテクニック論」を提案しました。
高宮さん自身の例では、コンサルという安定した職業を手放すリスクを取りつつも、MBAMaster of Business Administration(経営学修士)。高宮さんはハーバード経営大学院に進学し、モラトリアム期間として「やりたいこと探し」に充てた。留学というモラトリアム期間をヘッジにしていました。一般のビジネスパーソンであれば、本業は維持したまま副業をいくつか試してみるという方法でも十分だと言います。
長谷川さんも「無鉄砲に見えて、最低限のリスクヘッジは考えている」と明かしました。アフリカに行っていた時期も、ライティングという"どこにいてもできるスキル"で最低限の生活費は稼いでいたのだそうです。高宮さんのNewsPicksソーシャル経済メディア。各分野のプロフェッショナルがニュースを解説・議論するプラットフォーム。ブログの執筆もケニア滞在中に手がけていたと言います。
| 高宮さん | 長谷川さん | |
|---|---|---|
| 取ったリスク | コンサルを退職 | 独立してケニアへ渡航 |
| ヘッジ手段 | MBA留学(モラトリアム期間) | ライティングスキル(場所を問わず稼げる) |
| 得られたもの | 「VCが好き」という発見 | ポーカーとの出会い、価値観の相対化 |
「それってスキルがある人の結果論では?」という反論に対しては、長谷川さんが「文字起こしでもなんでも、何らかのできることは絶対ある」と返答。さらに福祉業界で働く経験から、日本にはセーフティネットが充実していること、ひろゆき西村博之。2ちゃんねる創設者。「日本では働かなくても死なない」という趣旨の発言で知られる。さんの言葉を借りれば「死ぬことはない」と指摘しました。
ケニア人の友人がコロナで仕事を失った時、「田舎に帰って木の実を食えばいい」と真顔で言っていたエピソードも印象的です。東京で家賃が高い、周囲と比べてしまうといった環境にいるから漠然とした不安に襲われるのであって、環境を変えれば「確かに死なないよね」と思えたと長谷川さんは語りました。
お金の呪いを解く──幸せの「レンジ」を持つ
議論の終盤で高宮さんが強調したのは、「お金こそが他人の評価軸の最たるもの」という指摘でした。年収1,000万円を稼いでも次は1億、その次は10億……と際限のない比較に巻き込まれ、どこまで行っても幸せを感じられない"無限地獄"に陥りかねないと言います。
だからこそ大切なのは、「自分が求める消費生活のレンジ──上限と下限をイメージしておくこと」だと高宮さんは提案します。
本当に木の実だけ食って幸せなのか、いや、吉牛ぐらいは食いたいのか。ラーメン1,000円超えてるやつ食いたいのか。それによって「何をしなきゃいけないか」の要件定義が出てくる
長谷川さんも「99%の人は年収1,000万円もあれば絶対に生きていける。10億円なければ生きられないことなんてそうそうない」と同意。自分の幸せを充足させるために必要な金額を具体的に定めて、そこに向けて稼ぐ方法を考える方が、漠然と不安に悩むよりずっと建設的ではないかと述べました。
自分にとっての「下限」と「上限」を把握すれば、お金のために好きでもないことを我慢し続ける必要がなくなるかもしれません。大阪なら家賃も安く、Netflixがあればエンタメにも困らない──長谷川さんはそんな実感を込めて「お金という枷を外したら、意外と自由なのでは」と締めくくりました。
まとめ
「好きなことを仕事にしろ」というアドバイスは正しくても、好きなことが分からない人にとっては無力です。今回の議論で二人が示したのは、「分からないなら分かるための行動を増やす」「世の中の物差しではなく自分の絶対軸で判断する」という、より実践的なアプローチでした。
好きなことは最初から固定されているわけではなく、距離を置いたり、別のことを試したりする中で見えてくるもの。不確実な時代だからこそ、小さく試して微修正を繰り返す「戦略のPDCA」が、キャリアや人生にもそのまま当てはまるのかもしれません。
- 不確実な時代には「好きなことをやったもん勝ち」──何をやっても成功の型がないなら、せめて好きなことを選ぶ方が合理的
- 好きが分からなくなったら「情報不足」を疑う。副業や新しい体験で比較対象を増やし、PDCAを回して微修正する
- 多動でもいい。器用貧乏がダメに見えるのは「1つに集中すべき」という世の中の呪いのせいかもしれない
- 全力のチャレンジに見えても、最低限のリスクヘッジ(場所を問わないスキル、本業の維持など)は持っておく
- お金は他人との比較を強いる最大の呪い。自分の幸せに必要な「レンジ」を具体的に定義して、枷を外す
- 他人の評価軸やレールに乗らなくていい。「自分の絶対軸」を持つことが、好きなことを見つける第一歩
