中目黒のVISVIMで起きた「抗いようのない引力」
番組冒頭、明石さんは前日に手に入れたばかりのVISVIMの大戦デニムジャケットを着用して登場します。型番は「SS102 XX JKT MUD OD」、おそらくオーバーダイの色染め大戦デニムジャケットです。
きっかけは中目黒での別件でした。川沿いを歩いていてVISVIMの店舗の存在に気づき、用事を済ませた帰り道に「抗いようのない引力」を感じて入店したといいます。
ここにあるんだと。で、一旦でもちょっと用事を済ました後に戻ってくる時に、すごいもう抗いようのない引力を感じて。あのインバウンドなお客様の後ろにくっついて、川沿いの。
原宿店と同じく店頭にはあまり商品がなかったものの、スタッフに案内されて奥の建物に入ると、見たことのない景色が広がっていたといいます。
そこはFILショップVISVIMが運営する直営店の一形態。一点物やペイントが入った特別なアイテムも扱われるの常設に加え、さらに奥にセカンドタイプやファーストタイプのジャケットがずらりと並ぶ特別なゾーンでした。
VISVIMって全国にいくつかFILショップがあるじゃないですか。で、そこでイベント的に、特別なシュウとかペイントが入ってるようなやつが、全国を渡り歩くわけですけど、常設されてるのがあの中目黒の奥の方なんですよね。
店内にはカフェスペースもあり、訪れるのはほぼインバウンド客。スタッフによれば、ファレル・ウィリアムスやVISVIM創始者の中村ヒロキさん自身も普通にコーヒーを飲みに来るそうです。
店員さんが、まあ「バイクか車で来たらエンジン音でわかるんですけどね」みたいな。「何それかっこよすぎない?」みたいな。
「説明されない服」というVISVIMの哲学
明石さんが手に取ったのは、過去にもファーストタイプとして展開されたモデルの再登場版でした。以前より身幅が大きく、ボックスシルエットになっています。
このジャケットは通常のデニムとは異なり、藍染めの後に泥染めを施した一着です。泥染め奄美大島や沖縄などに伝わる草木染めの一つ。泥に含まれる鉄分と植物のタンニンが反応して独特の黒みを帯びた色合いを生むという伝統技法が用いられています。
興味深いのは、店員自身がディテールを詳しく説明しないという方針です。これは中村ヒロキさん本人の意向だといいます。
中村ヒロキさんのね、方針としては、もうなんかそれ説明をしてしまったら、それ余白がないというか。考えてほしいらしい。感じてほしい。
横山さんはこの姿勢について、今の消費がディテールに囚われすぎているのではないかと指摘します。明石さん自身も、自分たちが普段ディテールの話ばかりしていることに気づかされたと話しています。
冊子に込められたブランドの思想
購入すると付いてくる絵巻物のような冊子には、ブランドのスタンスが明確に書かれています。横山さんが声に出して読み上げました。
どうやったらタイムレスでオーセンティックな本当に良い商品が作れるのだろうっていう一言から始まるんですね。今の物作りは平均化されている。工業化され、右から左で生産ラインで流していくという今のマニュファクチャリングでは、一人の人が携わる工程が限られているから、一人一人の能力やキャラクターがそのものに還元されない。
天然染色は100パーセントコントロールできない。だからこそ個性や奥行きが生まれる。モダンマニュファクチャリングにこの工程を加えることで、工業製品でありながらキャラクターを持ったものが生まれる――それがVISVIMの思想です。
出発点
タイムレスでオーセンティックな本当に良い商品とは何かを問う
問題意識
工業化されたマニュファクチャリングでは作り手のキャラクターが還元されない
アプローチ
天然染色とモダンマニュファクチャリングを融合させる
結果
コントロールできない部分が個性や奥行きを生み出す
APRESSとVISVIM、設計思想の違い
明石さんはInstagramでVISVIMを調べる中で、APRESSとの比較投稿に出会ったといいます。どちらもヴィンテージをベースにしながら、設計思想がまったく異なるという指摘でした。
APRESSは古いリーバイスを元に、年代ごとの型や糸使い、色落ちといった「これだ」というディテールを拾い、今の形に編集する姿勢のブランドです。
一方VISVIMは、糸、染め方、加工方法を自分たちで組み、デニムそのものを作り込んでいます。生地から作るという意味で、ストーンアイランドイタリアのブランド。生地開発から独自に行うことで知られるやCPカンパニーに近い思想だといいます。
ヴィンテージリーバイスを元に年代ごとの型や糸使い、色落ちを拾い、今のシルエットに編集する
糸・染め方・加工方法を自分たちで組み、デニム生地そのものを作り込む
どちらを選ぶかは、自分が何を求めるかによります。明石さんはこう整理しています。
APRESSは本当に、ヴィンテージに合わせる、馴染む、でも今の形をした服。VISVIMのこれはVISVIMって感じ。
下にヴィンテージデニムを履いていて、それに合わせる上を探すならAPRESS。ヴィンテージデニムが好きでなくてもVISVIMはVISVIMとして買うべきだ、という違いです。
四十代以降のための「土台」になる一着
購入体験そのものも特別だったといいます。予備の生地は立派な袋に入れられ、デニム自体もマニラ封筒のようなメールバッグに包まれて渡されます。
横山さんは、VISVIMには色気と抜け感があると話します。今日着ているシャンブレーシャツも、中村ヒロキさんがシャンブレーシャツを胸を開けて着ている写真を見て三年前に古着で買ったものだそうです。
毎日着られるアイテムとしてのデニムジャケットだからこそ、この価格でも納得できる。明石さんは「ガールマス(GOOD MASS)」と表現しています。
思い出のスニーカー:被りたくなかったエアワーム
ここから話題はリスナーから寄せられた「思い出のスニーカー」に移ります。まず明石さん自身のエピソードが語られました。
中学三年生のお正月、当時はエアマックス95やバスケットシューズの王道が流行る中、明石さんは人と被りたくなくてエアワームデニス・ロッドマンのシグニチャースニーカー。ジップが付いた特徴的なデザインで、当時としては斬新だったを選んだといいます。
お年玉とバイト代を握りしめて三万五千円のエアワームを購入。しかし帰り道、市街地のマルイの裏で不良に絡まれます。
ところが、あの不良はもうエアワームがもう斬新すぎて、そこに一切興味を示さず、普通に財布の中の俺三万五千円払った後の残金の二千円、二千円をカツアゲされて。
陸上部で走るのは速かったものの、買いたてでサイズも大きいエアワームでは走れず、諦めて二千円だけを差し出したそうです。エアマックスやジョーダンだったら間違いなく狙われていただろう、ニッチさが結果的に守ってくれたエピソードでした。
リスナーから届いた思い出のスニーカー
続いて、リスナーから寄せられたコメントが紹介されました。
思い出のスニーカーはナイキのエアズームスピリドン。学生時代、周りがエアフォースワンやダンクを履く中で、人と被りたくないと選んだ一足。シルバーやメタリックの近未来感がたまらない
明石さんも、人と被りたくない気持ちと皆と同じものが欲しい気持ちが同居する感覚に深く共感していました。
ベストスニーカーはトム・サックスのジェネラルパーパスシューズ。サンプリングに頼らず素材やプリントも独自で、貧弱なソールではなく本当にタフ。歩きやすく走れる名作だと思う
明石さんはこのシューズについて、トム・サックスがすでにある素材やパーツを組み合わせて作る「彫刻家のためのシューズ」というコンセプトで作られていることを補足しました。作風と一致したアイテムだといいます。
思い出のスニーカーはコンバースのオールスター。スタンド・バイ・ミーのリバー・フェニックスに憧れて初めて自分の小遣いで買ったが、幅広甲高の足には合わず散々な記憶。四十を過ぎてスニーカーは子供っぽいかと感じつつ、足元難民になっている
明石さんは、高校時代に古着屋で二千円で買ったショッキングピンクのデッドストックのコンバースの思い出を披露。広島の古着屋リードで同じようなものが五万円で売られていたエピソードを紹介しました。
ベストスニーカーはニューバランスのMR2002CU USA製。ユナイテッドアローズのクリタさんの着こなしに憧れて購入したが、自分が履いてみるとどうにも似合わない。物単体では惚れ惚れするのに、履きこなしは別だと痛感した
明石さんは、このスニーカーは太めのパンツに合わせるべきだとアドバイス。スキニーさんはトップスがタイトで下が太いままという今のバランスに合わせ、太めのパンツを試すべきだと提案しました。
ナンバーワンはエアジョーダン1シャドウ。いつでもかっこいいが、コモリには微妙に合わず、シュプリームと合わせるとコテコテになる。登板が減っている
明石さんはシャドウは色合いこそ地味だが顔アイテムだと指摘。色落ちしたデニムやチノパンといった土台のアイテムに合わせるのが正解だと話しました。
異性のスニーカーという新しい視点
リスナーのShogoさんは「自分の思い出ではなく、多感な頃に見ていた異性のスニーカーが印象に残っている」という独自の切り口でコメントを寄せました。
僕の中学には白を基調としたスニーカーという校則があり、みんなその縛りの中で必死に個性を出そうと頑張ってました。一番人気はスーパースター。クラスの女子がスタンスミスの白紺やカントリーの白緑なんかを履いていると、内心で好感度が上がっていました。
この視点に二人は大いに共感。明石さんはアディダスのカントリーを白緑で履く女子の可愛らしさを挙げ、横山さんはコルテッツと答えます。
忘れてたけど、今コルテッツってトゥデイが言った瞬間に甘酸っぱい記憶がもう爆発した。バスケ部の女子、普段の靴でコルテッツ履きがちじゃないですか。で、バスケ部の女子って可愛いじゃん。
リーボックという選択肢の魅力
リスナーのブルックさんはリーボックのアメージミッドニューヨークを「ファッションにおけるファーストシューズ」として紹介。ナイキやアディダスを避けてリーボックを選んだ理由は、今の買い物の選び方と変わっていないといいます。
話はリーボックの魅力に広がります。明石さんは雑誌『なぜこの服は時代を超える定番なのか』でマーカウェア石川さんマーカウェアのデザイナー。雑誌で大人の男性が履くべき定番スニーカーを紹介しているが選んだリーボックのクラブC85ヴィンテージを取り上げました。
だからヴィクティマーのみんなはもうちょっとスウォッシュがちょっと気後れしてしまうとか。みんな履いてるから。あと土台になるアイテムが欲しい。とりあえずあの履けるスニーカーが欲しい。
プライベートでもビジネスでもカジュアルでも合わせやすく、ローテクで細身すぎないバランスのクラブC85ヴィンテージは、一万円から二万円程度で買えるコストパフォーマンスも魅力だといいます。
次回テーマ「ブランドのミッションとスタイル」
番組の最後では、次回リスナーに考えてもらいたいテーマが提示されました。会社のようにブランドにもミッションとスタイルがあるのではないか、という問いかけです。
例えばコモリのデザイナー小森さんはGQのインタビューで「おしゃれな服を作ったのではなく、モテる服を作る」と語っています。盛り場でも大丈夫な黒い生地、レストランから飲み屋まで行けるバランスといった具体的なスタイルは、このミッションから導かれているといいます。
いろんな洋服をまるで会社のように、ミッションとスタイルで分解できるんじゃないだろうか。
HUMANMADEはコーポレートサイトで「TheFutureinthePast 未来は過去にある」というコンセプトを明言しているように、ブランドの思想を読み解くことができるブランドもあります。
しかしほとんどのファッションブランドは明文化していないため、リスナー自身が考える余白がある――それが次回のお題です。横山さんはハーレーダビッドソンの「弁護士や医者が週末不良に戻る時間を売っている」という有名なフレーズを例に挙げました。
まとめ
VISVIMの泥染めデニムジャケットとの出会いから、思い出のスニーカー、そしてブランドのミッションを考えるという次回テーマへ。ディテールに囚われがちな購買体験を見直し、ブランドの思想や記憶に残るアイテムの意味を改めて問い直す回となりました。
- VISVIMはディテールの説明をあえてせず、着る人に感じてほしいという中村ヒロキさんの方針を貫いている
- 天然染色のコントロールできない部分こそが、工業製品に個性と奥行きを与える
- APRESSは「ヴィンテージを今のシルエットに編集」、VISVIMは「素材から作り込む」という対照的な設計思想を持つ
- 思い出のスニーカーには「人と被りたくない」と「皆と同じが欲しい」という相反する気持ちが同居している
- ブランドをミッションとスタイルに分解して考えることで、自分が着ている服への理解が深まる
