少年の声は、なぜこんなに魅力的なのか
番組冒頭、木村さんが「少年声」への思いを切り出します。声優界で少年役を女性が演じることへの羨望からトークが始まります。
皆さんこんにちは。こんばんは。わかりませんけど、木村京也です。
アシスタントの榊原です。よろしくお願いします。
少年の声ね。いろんな声があって、私たちもいろんな声を使うけど、少年声って魅力よね。特に声優界隈で言うと、少年の声って大体女の人がやるじゃない。あれは羨ましいわね。
少年の声がどうして魅力的なのかっていう話をすると、これ声優の話とは全く違うんだけど、ちょっと仕事の声のレベルに落としましょうか。動画を見てる方すみません。
少年の声って、必ず一定みんなが大好きな人が何パーセントかいるんですよ。
います。
聖歌隊とカストラート、清らかな声の歴史
木村さんは、少年声の魅力の源流を宗教にたどります。ヨーロッパの教会で生まれた聖歌隊の伝統を語ります。
少年の声ってやっぱり清らかでしょ。これは特に宗教周りからこれが起きて、いわゆる聖歌隊というものがヨーロッパにおいて起きるわけなんですよ。早いとこだと12世紀とか13世紀にあるのかな。清らかな声というものが、神に捧げる声として扱われるわけなんですよ。
その伝統が、ウィーン少年合唱団とか、リベラっていう有名な、清らかな声の少年声ってのは美しいんですよ。
美しいですね、あの声は。
少年たちのあの時期にしか出ない声を、いかに人類が大事にしてきたかっていうことなんですね。
私たちも昔は出てたはずなんですけどね。
13、4ぐらいから、男の子は変声期っていって声が変わりますよね。喉仏が出てきて。私は幸いなことに喉仏があんま出なかったんですね。だから、どっち側のジェンダーにもいける声にはなれたんだけど。
でも純粋に、少年の綺麗な声ってみんなすごい好きなのね。清らかな声の中に何か安らぎを求めるんでしょうね。
中にすごいのはカストラートっていう人がいて。実はこれは中世のヨーロッパの教会で、男性ホルモンを作るたまたまを取っちゃって、声が低くならないようにした人たちがいたんですよ。
カストラート。
声を神様に捧げる代わりに、子供を作るっていうことができなくなるんだけれども。「もう私はこの高い声を神様に捧げるんだ」っていうことで、中世の教会ではそういうカストラートっていう人たちがいらっしゃって。でも今は人権上やっちゃいけないじゃん。残ってるレコーディングでも、19世紀の録音ぐらいしか残ってないのよ。
蓄音機で残ってるみたいな。
『もののけ姫』米良美一さんとの出会いを撮影した日
木村さんは、少年声にまつわる自身の貴重な体験を明かします。『もののけ姫』のドキュメンタリー撮影中の出来事です。
皆さんに思い出してもらうために、近しい例を言うと、『もののけ姫』っていう映画ができた時に、私、ドキュメンタリーを作ってたのよ。ずっと宮崎監督に張り付いてる監督がいて、ずっと回しっぱなしだった。
そしたら宮崎監督がラジオを聞いてたのね。その時に「監督、これ知ってる?これね、いわゆるボーイソプラノの、カストラートの声なんだよね」って。ラジオで聞いてるシーンを、我々は歴史的に録画したんですよ。
それが米良美一さんだったの。
「張りつめた弓の」って。
あの曲はまだないよ。あの時はまだなかったの。だから、その米良美一さんを発見したシーンを、私たち撮影することに成功したわけですよ。
これはすごいですね。
宮崎駿さんみたいな、芸術を愛する方の中には、ボーイソプラノの中に、汚れなき神聖さ、セイクリッドなものを感じているのが我々の長い歴史なのね。
本能としてそういったのを汚れなきものとして捉えているのかもしれない。
変な話だけど、少年合唱団が歌ってる曲を大人がコピーするとね。ハーモニーとか綺麗なんだけど、やっぱり少年のあの汚れなき神聖な世界のあれは出ないのよ。だから大切なものなのね。
マイケル・ジャクソンが気づいた「少年声」の力
話題は現代のポップスへ移ります。木村さんは、マイケル・ジャクソンが少年声の力に意識的だったと語ります。
中世で終わった話でしょっていう考え方はみんな持たれると思うんだけど、そうではないんですよ。今我々の音楽の中にも、男子の透き通ったボーカルが愛おしいって思ってる多くのファンがいて。みんなに分かりやすい例でいうと、マイケル・ジャクソンです。
マイケルだ。
最初はもっとソウルフルな歌で出てきたんですよ。子供なんだけども、パンチの効いたソウルの声が歌える子供として扱われてたわけ。
だんだん青年期のマイケル・ジャクソンになってくると、あっちの方に来たわけですよ。ディスコの時代、1970年代の後半とかで、こういう声で歌うようになってきて。「ずっとファルセットでいくつもりかしら」と思ったら、あれがマイケルのデフォになっちゃった。
あの声がやっぱりみんな好きなんですよ。マイケルのライバルといえばプリンスですけど。プリンスも性別がわからん声、少年声をずっとキープするわけじゃないですか。あそこに気づいたんですよ、マイケル・ジャクソンという人は。
ミック・ジャガーの声なんていうと、黒人のブルースシンガーに寄せた声を出すっていうね。ところが、マイケルは全く逆の透明な清らかな声を出していくってこと。あれは必ず人類に数パーセントのファンがいて。社会とかヒットのタイミングによってこれが大化けするっていうのをマイケル・ジャクソンわかってたなと。
天才少年歌手フランキー・ライモンと、少年声の系譜
木村さんは、マイケルも憧れたという伝説の少年歌手の名前を挙げます。世界中に少年声を愛するファン層がいると語ります。
マイケルの前に、ソウルフルな人っていうのはスティービー・ワンダーがいたんですね。その前にリトル・スティービー・ワンダーっていう名前でデビューして、少年の頃からああいう風に歌えてたのよ。
そのリトル・スティービー・ワンダー、まだジャクソン・ファイブだった頃のマイケル・ジャクソンがめちゃくちゃ憧れた人が、フランキー・ライモン。
フランキー・ライモン。
この人の曲が1953、4年に大ブレイクするんですよ。少年なんですけど、聞いてもらったらわかるんですけど、どっちかわからない声なんですよ。
日本だけじゃなくて、世界中のポップスファンの中には、まだ変声期を迎える前の声が好きなファン層がいるんですよね。確実にいるんですよ。何かのテーマソングに使われたりする時に大ブレイクを起こすんですよ。
山下達郎さんのラジオで、フランキー・ライモンの曲をかけながら、天才的なシンガーで、マイケルと言わず、スティービー・ワンダーと言わず、いろんな人のボーカルに影響を与えてるんですねって言って、もちろん僕もですって山下達郎さんがおっしゃってたんですけど。
その頃にスーパースターになった人はどうなったかというと、例外なくドラッグにはまっちゃって、25歳という若さで麻薬中毒で亡くなってしまった。
惜しいですね。
惜しいですよ。まあでもね、その儚さもまた、少年声の美しさといいますか。
フィンガーファイブと、日本の少年声
木村さんは、日本の歌謡界にも少年声のスターがいたと語ります。フィンガーファイブの名前が挙がります。
日本の歌謡界にちょっと覗いてみますとね。当時、フィンガーファイブというグループがいたんですよ。これはジャクソン・ファイブのオマージュをもって日本の芸能界が作り上げたと言っても構わないんですけど。
いました。
この明さんというボーカリストのハイトーンボイスは、本当に今でも誰もあの人の世界に追いつくことができないというか。恋のダイヤル6700とか、フィンガーファイブの名曲は明さんのボーカルなしには再現できないんですよ。
あの声は真似できないですね。
できないし、いつ聞いてもみんなが胸が高鳴るものがあるんですね。
宇多田ヒカルのデモテープで「売れる」と確信した
木村さんが、少年声の話題の核心へ入ります。宇多田ヒカルさんのデビュー前、デモテープを聴いた時の確信を語ります。
It's automatic。そばにいるだけで。この声ね、宇多田ヒカルさん。彼女が出てきた時、私たちは「すごいこれは」と。だって、少年なのか少女なのかわからない。
ですよね。
いや、私ね、一番最初にボイスサンプルをもらった時に、「あ、この人売れるわ」と。こんなに売れるとは思わなかったよ。確か渋谷の有線放送のスタジオでもらったと思うけど、「この人どう?」と言われて、「あ、これは売れるわ」と。
なぜかというと、まずブラックコンテンポラリーの曲を歌ってるんですよ。ロマンチックな美メロと言われてるブラックコンテンポラリーの曲。私たち80年代に青春を送った奴らは、ああいう美メロな曲をカセットテープに入れて、カーステレオで流しながら湾岸をドライブしてね。彼女をメロメロにしちゃう曲みたいな。
そのキラー曲の中に、カーティス・メイフィールドの『Tripping Out』なんて名曲中の名曲なんだけど。プロデューサーたちが宇多田さんの声を聴いた時に「やったろう」と思ったに違いないと思う。しかもこれがドンピシャにはまったんだよね。
久保田利伸さんが出てきた時もびっくりしたけど。あの久保田利伸のすごいデモテープがYouTubeにあるから、一回聞いてみてください。ユーミンにまで届いたすごいデモテープがあるわけ。それを聴いた時に「なんちゅうシンガーが出てきたんだ」ってみんなビビったんだけど。
だけど、それよりビビった。宇多田ヒカルが出てきた時、これは偉いもんが出てきたなと思って。数十万のヒットはいくだろうと思ったけど、スーパーミリオンに行っちゃったっていう。
本当に嬉しかったのは、日本のリズムアンドブルースとかソウルが好きだった人たちが、世界に届けられるぐらいのクオリティのものを作ったんだなと。そこにジェンダーがわからない。むしろ、少年の声だと思ったのよ。だって私、フランキー・ライモンみたいだと思ったんだもん。
声だけ姿見ないで聴くってなったら、確かにどっちの声かも。
そうなんです。
少年声は絶対に廃れない
後半、木村さんはアメリカでの少年声の系譜と、クインシー・ジョーンズとの意外なエピソードを語ります。最後は少年声への確信で番組を締めくくります。
その系譜っていうのは、本家本元のアメリカのリズムアンドブルースでもずっと続いてて。マイケルを世の中に出したプロデューサーってわかる?クインシー・ジョーンズっていう人なんだけど。『We Are The World』もクインシー・ジョーンズが指揮棒を振ってるわけね。
このクインシー・ジョーンズが第二のマイケルだって見つけた人に、テヴィン・キャンベルっていう人がいたのね。マイケルに会ったのも僕は確か12歳だったと。テヴィンも今12歳だって言って、東京で大お披露目がヒルトンホテル新宿であったのね。
私、そのパーティーに参加してて。たまたまエレベーターの中でクインシー・ジョーンズと一緒になって、声かけられちゃってさ。着てたジャケットに「かっこいいジャケット着てるね」ってクインシーから声かけられたんだよ。
ヒップホップでも、クリス・クロスっていう少年のヒップホップグループが出てくるわけですよ。まだ本当に子供の声でラップを歌うっていうグループが出てきて、アメリカのリズムアンドブルースチャートの中でも、少年声っていうのは必ず必要にされてるわけですよ。
その同じ時期に宇多田さんが出てきた時、これは偉い日本からの回答が出てきたなと。あなたが同性愛であるとかないとか関係なくて。人間、どうも高周波帯が好きなのよ。男性がこれぐらいだと120ヘルツぐらい。女性で200何十ヘルツとかいうところを、もっと上のイーって抜ける声。
昔カナダで国際音楽コンクールみたいのがあったら、そこからルネ・シマールっていう人が出てきたのね。日本でデビューしてたから、カタカナで出てくるわよ。ユニセフのキャンペーンソングを歌ったことで、日本でも「緑色の屋根」っていうね。金髪の可愛らしい少年で、美しいハイトーンボイスで歌うのは、当時でもとても人気があったんですよ。
皆さんの心の中にも、なんかそういう少年声、声変わりする前のあの素敵だった時の声、ああいうのがもし思い出せてたらどうかしらね。
声優の方で星飛雄馬の声やってらっしゃった古谷徹さん。古谷さんって最初、「父ちゃん、俺はね、大リーグボールを」とか言ってた頃って十代じゃない?巨人の星の一等最初の頃なんて、あの人十代だと思うわよ。
チャンバラのことを言うと、萬屋錦之介さんってチャンバラ映画の大スターがいたのね。今なんで毎週毎週チャンバラがないかっていうと、錦之助さんがいないからです。
吉川英治先生の宮本武蔵を、映画で毎年毎年作っていく。主人公が中村錦之助、萬屋錦之介なんですよ。成長に合わせて作ってるから、少年時代からもうみんな見てて。もともとラジオドラマの声優としてデビューされてて、今その録音を聞くと可愛らしい声してるんですけど。
その萬屋錦之介を徹底的に取材していた某有名ディレクターが宮崎駿さんをずっと追っかけてて、私はその監督に好かれててね。もののけ姫はこうして作られたっていうドキュメンタリーのナレーションやったんですよ。その時に宮崎さんがタバコ吸いながら「これいいんだよね」ってラジオで言ってた時の声が、米良美一さんだった。
少年声は絶対に廃れません。
というお話でした。
みんなの好きな少年声も教えてね。
ということでコメントお待ちしております。ありがとうございました。
まとめ
この対話では、少年声がなぜ人の心を打つのかが、歴史と音楽の両面から語られました。中世の聖歌隊やカストラートに始まる清らかな声への憧れは、マイケル・ジャクソンやフランキー・ライモン、宇多田ヒカルへと受け継がれています。木村さんは、変声期前にしか出ない声を人類がずっと大切にしてきたと話しています。時代や国を超えて、少年声を愛するファン層が確かに存在すると語られました。
- 少年声の魅力は、中世ヨーロッパの聖歌隊やカストラートにまでさかのぼる
- マイケル・ジャクソンやプリンスは、透明な少年声の力に意識的だった
- 木村さんは宇多田ヒカルのデモテープを聴き、少年のような声に「売れる」と確信した
- 時代や国を問わず、変声期前の声を愛するファン層が確実にいる
