Amazonを題材にネットワーク効果を追体験する
前回はアトミックネットワークの話を中心に、ネットワーク効果をちっちゃく回して大きくしていくやり方が語られました。今回はその応用編として、具体的な英雄の物語に踏み込みます。
題材はAmazonです。今やビッグテックと呼ばれる存在ですが、そこに至るまでのネットワーク効果戦略を追体験することで、これから参入するプレーヤーにも使えるヒントを取り出そうという趣旨です。
コテンラジオリスペクトの僕らとしては、やっぱりこう個別の英雄の話もちゃんとしなきゃいけないと思うんですよね。Amazonがどうやってこのネットワーク効果を力にして、ビッグテックと呼ばれるような会社になってきたのかっていう話をしていくといいんじゃないかなと思うわけですよ。
ベゾスが創業時から見抜いていた「勝利の方程式」
最初のポイントは、ジェフ・ベゾスが創業時点でネットワーク効果を理解していたという事実です。しかも当時は、この概念がインターネットビジネスの必須理論として言語化されてすらいませんでした。
ネットワーク効果あるサービスの利用者が増えるほど、そのサービスの価値が高まる現象。電話やSNSのように、参加者が多いほど便利になる仕組みを指すは、当時はAT&T分割の文脈や「ハイデンバンモデル」と呼ばれる別領域の議論として存在していただけで、ネット企業の勝ち筋として語られてはいませんでした。
オンラインで物が買えるってことは誰も成し遂げていないけど、なんで君だけが成し遂げられるし、それを続けられると思うの?
この問いに対してベゾスがペーパーナプキンにサラサラっと描いた円が、Amazonの相互ネットワーク効果の掛け算だったと語られています。それが今も語り継がれる「2つのループ」の原型です。
4つの要素がつくる成長サイクル
1つ目のループは、売り手と買い手の相互ネットワーク効果を軸にしたものです。ただし、単に「売り手と買い手をつなぐ」で終わらせていないところに、ベゾスならではのアレンジがありました。
ループを構成するのは、セレクション、顧客体験、トラフィック、売り手の4つの要素です。セレクションが顧客体験を良くし、顧客体験がトラフィックを呼び、トラフィックが売り手を誘い、売り手が増えるとセレクションがさらに良くなる、という円環です。
円の周りを4つのポイントで、セレクションが顧客体験を良くし、顧客体験がトラフィックを呼び、トラフィックが売り手を誘い、売り手が集まるとよりセレクションが良くなるっていう、このループですね。
セレクション
買い手にとって欲しいものが揃っている状態
顧客体験
欲しいものを買いやすく、選びやすい体験
トラフィック
売上実績としてのアクセスと購買
売り手
トラフィックに引き寄せられて集まる出品者
「セレクション」は品揃えではない
ここで重要なのが、セレクションを「品揃え」と読み替えてはいけない、という話です。売り手が多ければ買い手が集まる、というシンプルな理解では、ベゾスの本質を外してしまいます。
買い手からした時に、自分にとってその買っていいか分からないものがたくさん並んでても嬉しいですか?っていう話があるわけですよ。
つまりセレクションとは「買い手にとって欲しいものがあるかどうか」であり、単なる品数のことではありません。ここがカスタマーオブセッションAmazonの社是のひとつ。顧客のことを、顧客になりきるくらい徹底的に考え抜くという行動指針につながっていきます。
経営理論を本で学んだだけの人は「品揃えを良くすれば売れるでしょ」と考えがちですが、ユーザー目線でのセレクションに昇華することが本質だ、と尾原さんは指摘します。
26種類のジャムを並べた棚は人を集めますが、選べなくて買われない。むしろ5〜6種類のほうが売れるという話は、品揃えとセレクションの違いをよく示しています。
売り手の抵抗を押し切った2つの革命
もうひとつのポイントは、この相互ネットワーク効果が「売り手としては嫌なんだけど乗らざるを得ない」構造になっている点です。トラフィックさえ確保できれば売り手は結局乗ってくる、という前提でベゾスは大胆な決断を下します。
その象徴が、Amazon社内でも議論を呼んだ2つの革命でした。1つ目は「全商品ランキング」の実装です。
多くのサービスはトップ10やトップ20だけを見せますが、Amazonはニッチな商品まで含めて全商品に順位をつけました。漫画カテゴリーで見れば上位でも、全体ランキングでは2520位、といった数字までしっかり出てきます。
これって売り手からすると、いや俺の商品めっちゃ売れてないってことバレちゃうからやめてくれない?ってぐらい嫌なことなんですよ。
一方で買い手にとっては、自分の欲しいジャンルの中で1200位・1600位・1900位・2010位を並べれば、順位の良いものを選びやすくなります。売り手には不都合でも、セレクション価値を高める仕組みだったわけです。
買い手側はセレクション大事だよねとか顧客体験だよねって言ってるんですけど、売り手側はトラフィックありゃ売り手来るだろっていう、なんかちょっとこう顧客側に比重が乗ってるのが面白いですね。
ベゾスの割り切りは明確です。プラットフォームが十分に育てば、売り手は嫌でも乗らざるを得ない。だからこそ、多少嫌がられても顧客体験に振り切ってしまう、という発想です。
カスタマーオブセッションで徹底的に体験を磨く対象
トラフィックで惹きつければ乗ってくるとみなす対象
「悪いレビュー」も全公開する決断
2つ目の革命が、悪いレビューも含めた「レビュー全公開」です。売り手からすれば悪評が晒されるのは避けたい話で、当時としては極めて過激な判断でした。
しかし買い手からすると、「こういう人には刺さり、こういう人には合わない」が分かることで、自分に合うかどうかを見極められます。ある人には合わないと知れること自体が、セレクション価値になるわけです。
Amazonって95年ぐらいから多分やっていて、レビューがついたのすごく早かった。そんぐらい買い手を考えるとレビューをつけるって、00年代中盤ぐらいまでかなりとんでもないことだったっていう。
当時の売り手にとっては、悪いレビューを載せるプラットフォームには乗らないという反対運動が起きるほどアレルギーの強い施策でした。それでもベゾスは、全商品ランキングとレビュー全公開という2つのセレクション価値を優先します。
リクルートとの対比で見えるセレクション設計の分岐
関連するエピソードとして、けんすうさんがリクルート時代に手掛けたホットペッパーの口コミ機能の話が紹介されます。当時は反対が多く、折衷案として「おすすめレポート」という形にすることでレビュー機能を実現したそうです。
食べログなどで悪い評価が普通になった今もなお、ホットペッパーは「おすすめ」寄りの名称を残していると語られます。買い手にとっては便利でも、売り手にとってはやはり抵抗の強い施策であることが分かります。
ここで尾原さんは、これはリクルートが悪いという話ではないと補足します。ポイントは、そのメディアが「編集型」か「データベース型」かという性格の違いです。
物件数がそこまで多くなく、編集が審査していいものだけを載せる。おすすめによってセレクション価値を提供
Amazonのようにロングテールを含み、編集で選別しきれない。レビューによってセレクション価値を担保
Amazonはロングテール商品を扱うため、「これがいいものだ」と編集で保証することができません。だからこそ、レビューという集合知に任せる必要があったわけです。
さらに、ロングテール商品には「ある人には合わないが、ある人には強烈に刺さる」という特性があります。合わない人がいると分かることまで含めて、セレクション価値になっているのです。
本とかからスタートしてるので、そもそも作り方が編集メディアに近いですよね、リクルートの方は。
もうひとつのループ:成長がコストを下げ、顧客体験に戻る
そしてナプキンに描かれていたのは、実は2つのループでした。1つ目が売り手と買い手の相互ネットワーク効果、そしてもう1つが成長と低コスト構造をつなぐループです。
トラフィックが集まりビジネスが成長すると、低コスト構造を実現できます。その結果、価格を下げられるので、顧客体験がさらに良くなる、という流れです。
トラフィック増加
売り手と買い手のループから流入が増える
規模の拡大
事業成長により低コスト構造が実現
低価格
コスト削減分を価格に還元
顧客体験の向上
低価格が買い手の満足につながり、さらにトラフィックへ
この2つのループが噛み合うことで、Amazonは単なるECではなく、時間とともに強くなり続けるプラットフォームとして設計されていた、と読み解けます。
まとめ
Amazonの強さは、ネットワーク効果が理論化される前から、ジェフ・ベゾスがそれを構造として描き切り、セレクションと顧客体験に振り切る判断を貫いたことにあります。ナプキンに描かれた2つのループは、今から参入するプレーヤーにとっても実装可能な戦略シナリオのお手本です。
- ベゾスは創業時点で相互ネットワーク効果を理解し、「セレクション→顧客体験→トラフィック→売り手」の成長ループを描いていた。
- セレクションとは品揃えではなく「買い手にとって欲しいものがあるか」であり、カスタマーオブセッションの現れ。
- 全商品ランキングとレビュー全公開は、売り手に嫌われてでもセレクション価値を優先する象徴的な決断だった。
- 編集型メディアとロングテールを扱うデータベース型メディアでは、セレクション価値の作り方が異なる。
- もう1つのループとして、成長→低コスト→低価格→顧客体験向上という循環がAmazonの継続的な強さを支えている。
