デザイン系AIが一斉に熱くなっている理由
池友さんはこの回のテーマとして、Claude DesignやCanva、Adobe、GPT Imageといったデザインアウトプット系のツールが熱くなっている状況を挙げます。
尾原さんはこの収録時点でラスベガスにいて、AdobeのUXマーケティング系サミットのキーノートが終わったばかりだと話します。話題の口火を切ったのはやはりClaude Designだったとして、そこから話が始まります。
池友さんはClaude Designを実際に使い、動画も出したうえで「体験が良い」と評価します。デザインシステムやトーンマナー、ブランドカラー、ロゴといったルールを前提にした仕組みの上で、質の高いアウトプットが作れる点を挙げました。
Claude Design、非常に体験良いですね。今ってAIを使ってクリエイティブを作っていくことが全社共通の概念かなと思うんですが、そこに向けて仕組みを作った上でアウトプットを作っていく体験も良かったですし、できるアウトプットのクオリティも高いです。
さらに池友さんは、デザイナー以外は「アイデアはあっても、それをどう言語化するか」が難しいと指摘します。Claude Designはその論点をきちんと聞いてくれて、選択や提案を通して自分のイメージへ導いてくれると話しました。
「作る」の前に「理解する」の革命が起きていた
尾原さんは、デザインが良くなったというより「その人にフィットするデザインをいかに探り当てるか」でAIが上手くなった側面があると見ています。
その大前提として、AIがテキスト以外の画像や音声をネイティブで学習したことで、生成の前に「理解」の革命が先に起きたと説明します。
AIが理解したり言語化ができると、その言語化に基づいて生成ができるという話なので、生成できるということは、その前にコンプリヘンションの革命が先に起こるんですよね。
尾原さんによれば、GeminiのバージョンアップなどでウェブやUXに対する画像理解力のベンチマークが跳ね上がったのが第一段階だといいます。
そのうえで、いいデザインが何かは自分では言語化できていないため、「あなたにフィットするデザインは何か」を当てに行くところが、今起きている進化の二段階目だとまとめます。
質問の精度が上げた「何か違うんだよね」の解消
池友さんは、Claudeの質問の解像度が大きく上がったと感じています。キーメッセージから細かい調整、作った後の微調整まで事前に聞いてくれると話します。
具体的には、文字の大きさやヘッダーの有無、グラフを丸にするかバーにするかといった点まで聞いてくれて、作った後にワンクリックで変換できるといいます。この機能は「Tweaks」という名前だと紹介されました。
尾原さんはこれを、AIが賢くなったというより「人間が自分のセンスを言語化できていないから、AIが言語化してあげてズレをなくす」タイプだと整理します。その方向性としてAdobeとClaudeはサーチ型、Canvaはディスカバー型だと見立てます。
尾原さんは元リクルートの立場から、サーチとは検索ワードではなく「あなたはどの選択軸で選ぼうとしているのか」を提案し、想起させることが本懐だと説明します。
お客様に「あなたはなんの選択軸で選ぼうとされてるんですか」という選択軸をこちらから候補を提案して、「そうそう、私実はその軸で選択したかったよね」という選択軸の想起や言語化をやってあげるのが、実はサーチの本懐なんですよね。
池友さんは住宅サイトのSUUMOを例に挙げ、探したい家の軸が選択肢として用意されているので、言語化できていなくてもボタンを押すだけで選べると応じます。
尾原さんによれば、Claudeに入った「AskUserQuestion」という機能が、デザインに特化した形で「何を聞けば筋のいいデザインに仕上がるか」の質問能力を大きく上げたといいます。
Figma出身トップが率いるClaude Designの本気度
尾原さんは、Claude Designを率いるトップが、AdobeがFigmaを買収したくてもできなかった、そのFigmaの社外取締役をやっていた人物だと紹介します。
池友さんによれば、この人物はもともとAnthropicにCPOとして入り、プロダクト全体を見ていたといいます。
Anthropicには「ラボ」というチームがあり、モデルやベースを作るだけでなく、業務別の実践的なツールを作っていく方針があると説明します。その最初の成功がClaude Codeで、Claude CoWorkへと広がったと話します。
そのツール側のトップにこの人物が変わったことで、Claude ChatやCodeというベースだけでなく、本格的な業務ツールを攻める体制に変わったといいます。
池友さんは、尾原さんの調べ方を真似て「誰が責任者かを毎回調べる」ようになったと話し、この人物が出た瞬間にFigmaの取締役を辞めたと付け加えます。
尾原さんは、Figmaの社外取締役に選ばれるほどのデザインのエキスパートがChief Product Officerを務めていたため、いいデザインを作る選択軸の洗い出しや、それを学習する評価モデルの作り方がすごいのだろうと見ています。
Adobeの「ブランドインテリジェンス」とセンスの自律学習
話はAdobeの動きへ移ります。尾原さんはまず、映画の色づかいの例を挙げます。北野武監督の「北野ブルー」や、新海誠監督の空のように、カラーリングだけで作り手がわかる独特さがあるといいます。
Adobeはそうした色づかいを徹底的に学習し、AIで簡単に再現できるツールを出したと話します。ここには、映像ができた後に監督らしさを加える「ポストプロダクション」の伝説的な人物を引き抜いた背景があるといいます。
池友さんは、ある作品を分析して共通点を抜き出し、可視化・言語化する機能なのかと確認します。尾原さんはその通りだと答え、今回のAdobeの目玉が「ブランドインテリジェンス」だと紹介します。
尾原さんによれば、これは「その企業らしさとは何か」を言語化する仕組みです。Adobeは業務ワークフローに組み込まれているため、作ったランディングページやバナーへのレビュー意見からブランドルールをAIが学習していくといいます。
そのレビューに残ってる意見から、「コカコーラってこういうことをコカコーラって言ってるんですよね」とか、「こういうことしたらコカコーラじゃなくなるんですよね」というブランドルールを勝手にAIが学習していく。そうすると自律的にコカコーラらしいものがどんどん作れるようになる。
池友さんは、少し前まで最終チェックや妥当性の判断は人間の残り部分だったが、そこもすでに侵食が進んでいるのかと問います。尾原さんは、その言語化できないまま苦しんでいた「センス」の領域にAIが入ってきていると応じます。
意思決定の文脈を残す「コンテキストグラフ」
池友さんは、先週のビジネスインサイダーの記事で「コンテキストグラフ」が熱いデータとして紹介されていたと話題を変えます。
これまでのSaaSは行動の結果はわかっても、なぜその行動を取ったかの履歴が分散していたといいます。Salesforceに結果はあっても、その理由はSlackや口頭、メールに散らばっていました。
その「なぜ提案を受けたのか」「なぜ値下げしたのか」という履歴を残せば学習データになり、大枠のルールだけでなく細かいイレギュラーにも対応できるようになると説明します。
尾原さんは、人間の意思決定は文脈によって揺らぐと補足します。守るべきルールがあっても、ブラジルではここまで許容できるといった前提条件で判断が変わるためです。
そのうえで、かつてはRAGで検索したデータのかたまりだけを拾っていたが、今はコンテキストのウィンドウが20万トークンや100万トークンに広がっていると話します。新書2、3冊分から10冊分に相当する量です。
尾原さんは、抽象化したコンテキストグラフをまるごと入れて読み解いてもらう方が正確な判断ができると話します。最近は、嘘をつかない「ファクトグラウンディング」より、文脈を間違えない「コンテキストグラウンディング」が大事だという言い方があるといいます。
池友さんは、これを法律と判例にたとえます。法律という大枠のガイドラインはこれまでも作れたが、実際は個別の判例ごとに違うといいます。その判例をデータ化すれば、レベルの高い意思決定もできるようになるという理解です。
日本は裁判って判例主義なんですけれども、要は法律って最低限のことしか書いてないので、判例というのは、そういうシチュエーションの時はさすがに無罪でしょとか、そういう事情だったら情状酌量できないから有罪だよね、という、まさに判例ってコンテキストグラフの塊なんですよね。
尾原さんは、これまではどんな文脈で有罪かというリンク集にできなかったが、LLMは非構造化データに強いと話します。OpenAIの共同設立者アンドレイ・カルパシー氏が提唱した「LLM Wiki」も紹介されました。
バーティカルSaaSが学ぶべき「失敗から学ぶループ」
池友さんは、業界特化のコンテキストや判例データ自体も、OpenAIやAnthropicが外部の専門家を時給150ドルほどで雇ってモデルを作っている状況を指摘します。
つまり、社内でやる会社は独自の判例集ができ、大きな業界領域はAIベンチャーが資金をかけて作り込んでいる状況になっていると話します。
尾原さんは、Adobeのブランドインテリジェンスの優れた点は、マーケティングの業務フローにフィードバックデータが最初から埋め込まれていることだと整理します。ABテストでどのユーザーがどこで離脱したかといったログが自然にたまるためです。
Adobeはこの1年ほどワークフローの自動化で入り込んでいたため、そのログを「センスがずれないためのWiki」に昇格させる動きにつながったと見ます。それがClaudeにもAdobeにも共通する戦略的な動きだといいます。
尾原さんは、失敗を許せる企業ほどAIエージェントに任せることで10倍、100倍と失敗でき、失敗からの学習価値が跳ね上がると話します。リスクを管理した失敗を通じて、ブランドや顧客のセンスの言語化が進むという見立てです。
GPT Image 2の映え、Canvaのネットワーク効果、GPUの進化
池友さんは、この日リリースされたGPT Image 2で自分のサムネイルや資料を何十種類も作り、Nano Banana 2と比較したと話します。
なんか全く同じプロンプトなんですけど、明らかにGPT Image 2の方が映えるっていうか、魅力的なんですよ。
池友さんによれば、作れるサイズが正方形と3対2の数パターンしかない欠点はあるものの、サムネイルでは露骨に魅力が違い、日本語能力も圧倒的に高く文字化けがほぼなかったといいます。
尾原さんは、画角を固定することで配置のセンスを学習しやすくなる可能性を挙げます。あえて限定空間で突き抜けたものを出し、人気を得てから広げる手法かもしれないと推測します。
また、画像生成の裏側で、決まった処理はプログラムで、確率的なものはAIで、というブレンドをしている可能性もあると話します。ただしこれは尾原さんの推定だと断っています。
池友さんは、GPTの知識カットオフが2025年12月である点に触れ、Blackwellなどチップ側の性能向上が学習に寄与したタイミングではないかと尋ねます。
尾原さんは2つの話があると答えます。1つはBlackwellで学習の精度制御がやりやすくなり、マルチモーダル学習が速くなった点です。もう1つは巨大モデル学習でのGPUの熱暴走やノイズによるミス学習が減り、安定性が上がった点だといいます。
さらにVera Rubinになると、誰でも学習環境を作りやすくなると話します。学習ミスが減った果実が次々に出始めている可能性はあるといいます。
池友さんはCanvaにも触れ、ブランドデザインを意識しつつAIに相談でき、さまざまなサイズや文字・画像分割の調整もできる方向に進化していると話します。
尾原さんは、Canvaはコミュニティを持ち、ユーザーがテンプレートをアップして使われると報酬が還元される仕組みだと説明します。これにより学習データがコミュニティから集まるネットワーク効果を作っていると見ます。
さらに、ユーザーがどのシチュエーションでどのテンプレートを選んだかが、デザイン内のテキストからわかるため、誕生日用か会社の意思決定用かといったユースケースが判別できるといいます。これが自然なアノテーションになり、緻密な学習環境になっているという整理です。
質問や意思決定ログから、本人が言語化できていないセンスをルール化していく
大量のテンプレートとユーザーの選択から、勝手にラベリングされた学習環境を作る
尾原さんは、こうした動きをバーティカルSaaSが学ぶことが重要だと締めくくります。モデルを巨大化しなくても、BlackwellやVera Rubinで学習がしやすくなるため、特殊なインフラや専門エンジニアへの依存も下がっていくといいます。
まとめ
デザイン系AIの進化の本質は、AIが賢くなったことよりも、人間が言語化できていなかった「センス」をAIが言語化し、ズレをなくす仕組みにあると語られました。その戦略はバーティカルSaaSの生き残り方にも通じるという話でした。
- Claude DesignやAdobeは、質問や意思決定ログから本人が言語化できないセンスを言語化するサーチ型を目指している
- Adobeのブランドインテリジェンスは、業務フローのレビューやABテストのログから企業らしさを自律学習する仕組み
- 意思決定の文脈を残すコンテキストグラフやLLM Wikiが、細かいイレギュラーにも対応できる判断の鍵になる
- Canvaはコミュニティのテンプレートとユーザーの選択を活かすディスカバー型で、ネットワーク効果による学習環境を作っている
- BlackwellやVera RubinによるGPUの進化で学習ミスが減り、巨大化しなくても質の高いアウトプットが出せる環境が整いつつある






