骨折の後遺症は魚の目?同情がどんどん薄れていく話
第24回のマダナイは、けんすうさんの「落ち込んでるんですよ」というひと言から始まります。理由は、人生で初めての骨折でした。
けんすうさんは家の中で右足の薬指を何かの角にぶつけ、剥離骨折したといいます。病院では「これ治んないですね」と言われ、手術もしないと説明されたそうです。
(医者に)「後遺症残ります」って言われて。え?と思って。超怖いと思って。
聞いたらなんか魚の目ができやすくなるらしいんですよ。
後遺症が「魚の目ができやすくなる」だと聞いて、樋口さんは「デメリットが薄いな」と笑います。けんすうさんも、誰に話しても笑われて終わるが、少しだけ嫌な後遺症なのだと話します。
あの出落ち感あるですね。入り口が一番ピークやったっていう。
樋口さんは、骨折の話を聞いたときの印象が段階的にしぼんでいく様子を、順を追って言葉にしていきます。
骨折しました
話の入り口で、ここが同情のピーク
足の指
手ではなく足の指と聞いて「指ぐらいね」となる
治さない
手術しないと聞いて「それくらいの感じね」となる
魚の目
後遺症が魚の目と聞いて、話は終わり
支持政党はないけど野党に入れる、という樋口さんの立場
骨折で落ち込んでいるけんすうさんは、冗談めかして「全ては政治が悪い」と言い出し、そこから本題に入ります。第15回で、ポッドキャストなら自分の支持政党とその理由を話してもよいのでは、という話が出ていたためです。
けんすうさんはこの回を、樋口さんが支持政党を発表する回にすると宣言します。樋口さんは「嫌です」と返しつつも、そもそも支持政党はないのだと打ち明けます。
これだから(支持政党は)毎回選挙の時に変わってるって感じですね。
樋口さんは、選挙では政党ではなく候補者その人で選んでいるといいます。そのうえで、ひとつ傾向があるとすれば、自然と野党に入れていると話します。
なんか漠然と今の世の中が正解になってる気はしなくて。
いろいろ試して実験したがよくない?って思ってるんですよ。
樋口さんの考えでは、与党は毎回変わったほうがよく、それは個別の政策ではなく構造としての考えです。人間には現状維持の傾向があるので、どうしても与党が勝ちやすいと見ています。
樋口さんはこれを政治の話というより、「樋口聖典という個体」としての役割だと説明します。平均の外に引っ張る外れ値の側でいたいので、自然と野党に入れているのだといいます。
政治の立場を言わないこともメッセージになる時代
けんすうさんがこの話を振った背景には、海外で起きた出来事がありました。パレスチナとイスラエルの問題をめぐる、あるミュージシャンのツアーでの騒動です。
けんすうさんの説明では、ツアーミュージシャンが一方を支持すると発言して炎上しました。本人は政治的な発言を控えていると述べたものの、ツアーメンバーが「じゃあツアーやらない」と辞めてしまったといいます。
もはややっぱその政治立場を明らかにしませんっていうのも一つのこう、政治的なメッセージになってしまったのではないかっていう。
けんすうさんは、立場をはっきりさせないことが良くないと言われる日が来るのか、逆にもっとタブーになるのかを気にしています。日本の芸人が「自民党大好きです」と言えば、まだ少しウッとなる空気があるとも指摘し、ポッドキャスト業界でも無視できない話だと話します。
最近いいと思ったのはチームみらい。若さとITへの期待
樋口さんは「せっかくなんで」と、具体的に挙げてみることにします。最近いいと思ったのは、元エンジニアの安野さんが率いるチームみらいだといいます。
樋口さんがまず挙げた理由は年齢です。若い人がいいとも年配の人がいいとも思っていないが、今の政治は年配に偏っていてバランスが悪いと感じているそうです。
(政治家は)若い方から年配までバランスよくいた方がいいと思ってる中で、やっぱ年配方に偏ってるっていうのが僕嫌なんで。
樋口さんの「若い人を推したい」という考えは、先に話した「平均とのバランスを取る」という立場の延長にあります。けんすうさんも、若い政党があっても高齢者の政党があってもいいと応じます。
もうひとつの理由は、ITの活用です。安野さんがエンジニアだったこともあり、ITを使って政治を進めようとする姿勢が「気持ちよかった」と樋口さんは話します。けんすうさんも、こうしたことを進めてくれれば政治家の人たちも楽になるはずだという感覚に共感します。
政治資金は全部オープンがいい?情報は出して人類に任せる
話題は、政治資金の使い道を明るみに出すという動きに移ります。樋口さんは、ここでも全部を明るみに出せばよいとは思っていないといいます。
その中で全部明るみに出すと、「なんで?」って言われた時に説明ができないけど、実は裏では絶対これやっといた方がいいのにって思ってることとかってあると思うんですよね。
樋口さんは、使い道がある程度不明瞭なお金もあったほうがよいとしたうえで、今は隠されすぎているので、バランスを取る意味でもう少し透明化したほうがよいと考えています。
樋口さんにとって大事なのは、情報を取れる状態にしておくことです。みんなに伝わらないのはかまわないが、取れないのはだめだという線引きです。
誰が見るか、誰が使うかわかんないけど、一旦情報として公開しとく。あとは人類に任せる
樋口さんはこの考え方を、ITに関わってきたことから来るオープンソース ── ソフトウェアの設計図にあたるソースコードを公開し、誰でも利用・改良できるようにする考え方や開発手法のこと的な思想だと説明します。
けんすうさんも考えは近いといいます。政治はかなりアナログで大変な思いをしているように見え、IT活用を進めれば楽になるだろうと感じているそうです。
一方でけんすうさんも、全部オープンがいいとは考えていません。たとえばトランプ氏に1000万送ったほうが国益になる、といった場面は説明しきれないはずだという例えを出します。そのうえで、オープンにできることはオープンにして、特にAI時代はみんなの知恵を使えるようにしたほうがいいと話します。
情報は取れる状態にしておき、みんなの知恵を使えるようにする。今は隠されすぎているのでもう少し透明化する
説明はできないが、裏でやっておいたほうがいいことのための、使途が不明瞭なお金
45歳、反抗期が終わらない。天邪鬼は役に立つ?
樋口さんは自分の考えを、保守とリベラルで分けるならだいぶリベラル寄りだろうと話します。ただ、その思想が強いというより、そちら側が少ないから増やしたいという感覚に近いといいます。
けんすうさんが「バランスを取りたいのが強いのでしょうね」と言うと、樋口さんは自分はひねくれていて、ずっと反抗期なのだと答えます。
終わってないです、反抗期が。
だからみんなが右って言ったら左に行きたがるし。左って言ったら右に行きたがるんですよ。
けんすうさんは45歳の反抗期を笑いつつ、天邪鬼の役割は本当に重要だと話します。例として挙げたのが、避難しろと言われても避難しない人の話です。
やっぱり人類って時たま避難した側が全滅するとかもあったらしいんですよ。
けんすうさんによると、強情に動かない人がいたおかげで生き延びた、という例もあるらしいといいます。逆張りする人や天邪鬼は、重要な役割を担っているのではないかという見方です。
働きアリの2割は補欠のベンチかもしれない
樋口さんは、働きアリの理論を持ち出します。必ず2割ほどが怠け、その2割を除いても、残りの中でまた2割が怠けるという話です。
だからあれもなんか僕はその多様性担保してるんだろうな、生物の生存本能としてみたいな。
けんすうさんは、関連する本で、怠けているアリはサボっているのではなく、待機などの別の役割があるのでは、という説を読んだといいます。
野球でいうと補欠でベンチにいるってサボってるわけじゃないじゃないですか。
ここから樋口さんは話をふくらませ、待機役のアリは外に出たくても「体力を温存しろ」と止められている、つまりサボらされている可能性もあると冗談を言います。けんすうさんは「めっちゃかわいそう」と笑い、樋口さんは「だいぶ話それましたけど」と本題に戻します。
政治や宗教の話をタブーにするのはもったいない
けんすうさんは話の抽象度を上げます。支持政党の話に限らず、ポッドキャストで「この話はするな」というタブーができるとつまらない、というのがけんすうさんの問題意識です。
宗教についてはやめとこうみたいになって、誰もその話しなくなるとかは結構もったいないなと思うので。
けんすうさんの考えでは、ポッドキャストには長く話せるという強みがあります。短文で切り取られやすいTwitterと比べて、長く話せるから炎上しにくいという利点を、もっと生かせないかと話します。
伊集院光さんと蓮見さんの件、何が「言っていいライン」を決める?
これを受けて樋口さんは、自分の中でマジで難しいと感じているラインがあるといい、ダウ90000の蓮見さんと伊集院光さんの件を持ち出します。
樋口さんの説明によれば、『クレヨンしんちゃん』の1エピソードの脚本を蓮見さんが書き、それを見た伊集院さんが「腰が砕けるほど面白くなかった」と発言しました。それに対して蓮見さんが、自分のラジオでアンサーを返したという流れです。
樋口さんは、これまでの番組の流れからすれば、言いにくいことも言ったほうがいいはずだと考えます。面白いかどうかは一個人の意見だからです。
それでも炎上した理由として、樋口さんは伊集院さんの影響力や言い方を挙げます。明らかな誹謗中傷ではないが強めの意見で、言われた側は嫌な気持ちになる言い方だった、というのが樋口さんの見立てです。
人が聞いたら嫌がるかもしれないけど、強く自分の意見みたいなものをどれだけ言っていいかのラインを何が、何によって決まるかっていう話ですよね。
けんすうさんは極端な例として、ヒトラーならボロクソに言ってもよいというコンセンサスがあると指摘します。ただし、世間の評価でラインを決めると、別の問題が出てくるといいます。
今いじめられてるあの人のことだったら言いやすいけど、今評価されてるあの人のことは言いづらいとかで、傾斜がつくとかも良くないですし。
樋口さんは、同じ感想でも名もなき弱小YouTuberが言っていれば社会問題にはならず、「いろんな意見あるよね」で済むはずだといいます。だから、このラインは伊集院さんの社会的立場によって決まっているのだと考えます。
けんすうさんは身近な例として、樋口さんが「あのポッドキャストめっちゃつまんなかった」と言えば、すごく強く、大ごとに聞こえるだろうと話します。
| 要素 | 二人が挙げた具体例 | 見え方 |
|---|---|---|
| 影響力・立場 | 伊集院さんと、名もなき弱小YouTuber | 同じ感想でも、影響力のない人なら騒がれない |
| 言い方 | 中傷ではないが強めの意見 | 言われた側が嫌な気持ちになる |
| 世間の評価 | ヒトラーなら批判してよいというコンセンサス | 評価で決めると、いじめの構造に傾く |
| キャラ | 人の文句を言ってよかった伊集院さんのキャラ | 時代とともに見え方が変わる |
1対1の話が世代の対立に見えてしまう構図
樋口さんはさらに「キャラ」の問題を挙げます。下ネタを言っていいキャラとダメなキャラがあるように、伊集院さんはずっと人や社会の文句を言ってよいキャラだったので、言えていたのだろうといいます。
けんすうさんは、時代の流れとダウ90000のファン層の若さもあって、老害っぽく見えてしまったのかもしれないと応じます。
あの、「しゃらくせえな」って言ってただけなんですよ。
樋口さんによれば、伊集院さんは自分で「黒伊集院」と言い、教室の隅っこでひっそりやっているような自己認識の人です。その人が、若手のセンス系の売れている芸人に何か言ったことで、本来の構図が変わってしまったといいます。
そう、だから本当はこれ(伊集院さんと蓮見さんの件は)1対1だったのが、そういう構図になっちゃってんですよね。
けんすうさんは、自己認識と実際の影響力のずれも指摘します。若い頃は上に噛みつく気概のある人だと思われていたが、今は超大御所になっていて、隅っこの番組のつもりがめちゃくちゃマスになっていた、という見方です。
若い頃は上に噛みつく気概のある人。番組は隅っこで一部の暗いやつだけが聞くもの
超大御所の影響力あるパーソナリティ。番組はマスになり、老害っぽく見えることもある
二人とも「自分の方が弱い側」と言っている
樋口さんが面白いと感じたのは、伊集院さんと蓮見さんの双方が「自分は下だ」と言っている点です。
樋口さんによれば、伊集院さんは蓮見さんを、今めちゃくちゃ売れている若くて元気のいい存在と見て、自分を老害だと位置づけています。一方の蓮見さんは、伊集院さんを長年面白いことを続けてきたレジェンドだと言っているそうです。
両方自分が弱者っていうのを、言ってるっていう。
けんすうさんも、蓮見さん自身は「吹けば飛ぶ20代のまだ若手お笑い」と思っているのかもしれないと応じます。
樋口さんは、世代間なのか、立っているポジションなのかによって、ダメかどうかが決まるとなると、何まで良くて何からダメかを判断するのはとても難しいとまとめます。
支持政党も、言っていい人とダメな人がいる?
けんすうさんは、この話を支持政党に戻します。支持政党を言うか言わないかも、誰が言うかによって、言っていい人とダメな人に分かれるのではないか、という問いです。
けんすうさんは例として、池上彰さんが支持政党を言えば番組をやっているからダメだと思われそうで、ビートたけしさんが言っても影響力が強すぎて良くない気がする、という感覚を挙げます。誰がどの立場で言うかで受け止め方が変わるという見方に、樋口さんも強く同意します。
樋口さんは最後に、『ゆる言語学ラジオ』の堀本さんの言葉を紹介します。あるポッドキャスターが「炎上するかもしれないので」と口ごもっていたのに対し、堀本さんはこう返したといいます。
ただそれに対して堀本さんが、あの、「いや、せっかくどうせ聞かれてないんだから、言いたいことを言うべきでしょ」って言ってたんですよ。
けんすうさんは、堀本さん本人が言えば炎上するかもしれないと応じつつ、この「その立場だから喋れること」というテーマに興味を示します。次回はその話をもう一度したいと提案して、この回は締めくくられます。
まとめ
この回は、樋口さんが支持政党を持たずに「かき回す側」として野党に入れる理由から始まり、ポッドキャストで政治の話をタブーにしない意義、そして強い意見を言ってよいラインが中身や言い方だけでなく話し手の立場で決まるのではないか、という問いへと広がりました。
- 樋口さんは支持政党を持たず人で選ぶが、平均の外に引っ張る外れ値でいたいので自然と野党に入れている
- 政治の立場を明かさないことすら政治的メッセージになりうる、という問題意識が話のきっかけになった
- 長く話せて炎上しにくいポッドキャストでは、政治や宗教の話をタブーにしないほうが面白いと二人は考える
- 伊集院光さんと蓮見さんの件から、強い意見のラインは影響力・キャラ・世代などの立場で決まると二人は見ている
- 支持政党を言うことも、誰が言うかで是非が分かれるかもしれず、次回「その立場だから喋れること」を掘り下げる




