世界的な企業に「ロゴください」と言われた
番組冒頭、けんすうさんから「マダナイのロゴが必要になった」という切り出しがありました。番組名が「マダナイ」なので、ロゴもまだ作っていなかったのです。
ところが、誰もが知る世界的な企業から「紹介したいのでロゴをください」と依頼があり、急遽ロゴが必要になったといいます。
まだないんだが、「ロゴくれよ」って言われるの確かにあるよねって思いました。
アートワークとは別に、ポッドキャスト名そのもののロゴを作らなければならない場面は、他の番組でも起こりそうです。そこで、二人がこれまでどうロゴを作ってきたかを共有するところから話が始まりました。
アルのロゴは1ミリ単位で1ヶ月かけて作った
けんすうさんはまず、アル株式会社を立ち上げた際のロゴ制作の話を紹介します。依頼したのはCIコーポレートアイデンティティの略。企業の理念や個性を、ロゴやデザインを通じて一貫した形で表現する考え方を得意とする若手デザイナー、タカヤオオタさんでした。
アプリのアイコンでも、LINEの吹き出しやFacebookの「F」のように「おいしいところ」はすでに押さえられている。そこでインパクトを出すため、カタカナの「アル」をロゴにし、それをそのままアプリアイコンにも使える形にする提案がなされました。
一見シンプルな「ア」と「ル」の2文字ですが、既存フォントを使うのではなく、1ミリ単位で調整しながら1ヶ月かけて作り込まれたロゴです。
彼クラスになるとロゴ発注して、「一旦ドイツ行きます」って言って、一週間ぐらいドイツに行ってデザインのインプットするとかからやってくれていて。だから、本当にやっぱインプットとかデザインのインプットないとできないぐらい、もう本当に超クリエイティブのエッジの部分でやってるんだなと思って感動しましたね。
樋口さんは、シンプルな図形ほど実はロゴ作りは難しいと指摘します。ポスターやフライヤーは要素が多くて大変そうに見えるが、一瞬使われて消えていくもの。一方でロゴは、ブランドの方向性そのものを規定してしまう強い力を持っています。
「なんでここは二ミリじゃなくて一ミリなの?」って説明できる背景とかまでないといけないんだなというふうにその時思いましたね。
言語化できるところと、できないところ
樋口さんは自身の会社やポッドキャストのロゴを作る際、まず「何のためにあるのか」から考えるといいます。ただし、結局は言語化できない領域が大きく残るため、大量のサンプルを見ながら「なぜ自分はこう感じるのか」を自問自答し続けることになります。
会社のロゴを作るときも、CIを担うデザイナーは社員インタビューを重ね、会社が何を大事にしているかを掘り下げてから初めて手を動かすといいます。
かっこいいものは無限にあるじゃないですか、ほぼ。世の中に。ただかっこいいの中で、これはうちの会社っぽくないなとか、これはうちの番組っぽくないよなっていうのがあり、これやとうちの番組っぽいよながある。その境目が言語ではもう説明不能だったりするんですよね。
そこで樋口さんが実践しているのは、Pinterest世界中のデザインや写真を集めて保存できるビジュアル共有サービス。ロゴやポスターなどの参考事例を集めるのに使われるや海外のロゴ集を大量にブックマークし、そこに共通する感覚から輪郭を浮かび上がらせるやり方だといいます。
無個性を突き詰めたら「円」になった
樋口さんが経営する会社「Book」のロゴは、白地に虹色のグラデーションがかかった円と、その下の細めの「Book」の文字で構成されています。ここに至るまでには、たくさんの試行錯誤がありました。
最初は海外のクラウドソーシングサービスに依頼し、本をモチーフにしたロゴを作ったものの「本の会社じゃないから違う」という結論に。その後、友人のデザイナーと理念からヒアリングし直したうえで、たどり着いたのが「無個性」というキーワードでした。
もうこの世で最も無個性な色がない、えーと、図形ってなんやろ?ってなった時に、円だってなったんですよ。
Bookという社名には、「まっさらな本に、誰が何を書くかでストーリーができていく」という意味が込められています。だからこそロゴ側では色を主張せず、色は「パレット」を通して外から与えられるべきだと考えたそうです。
すべての色を含む虹色のグラデーション。あらゆる可能性を内包する状態を示す
真っ黒な円。色をあえて持たず、これから塗られる余白としての状態を示す
結果として、「一番無個性で、人の意図が入っていない図形」として円が選ばれました。無個性を突き詰めた結果として選ばれた円という、逆説的なコンセプトが伝わるエピソードです。
ダラジオのロゴは5秒で書いて、そのまま使った
一方で、樋口さんは真逆のアプローチも紹介します。かつて弟子と二人でやっていた番組「だラジオ」のロゴは、なんと5秒で描き上げたものをそのまま使ったといいます。
番組そのものが「師匠と弟子の即興のかけ合いを届ける」というコンセプトだったため、ロゴ作りも即興性に振り切る必要があったのです。
OK、じゃあタイトル決めて。はい、五秒で決めろつって。あー、だだだ、だ、だ、だラジオでみたいな。OK、タイトル決まったねつって。じゃあそのだラジオのアートワーク、はい、描いてつって。
出来上がったのは、丸の中に「だ」と書かれ、周囲がぐちゃっと描かれた不思議な図像。単体で見ても何かはわからないけれど、「5秒で描いた」という文脈込みで受け取ると、番組の性格そのものが立ち上がってきます。
樋口さんは、これは現代アート的な考え方に近いといいます。アウトプットそのものよりも、そこに至るまでのコンテクスト文脈、背景。作品や物事を理解するうえで前提となる状況や経緯のことに意味を持たせる方法です。マルセル・デュシャンが便器を横向きに置いて「泉」と名付けたように、ロゴ自体ではなく、成り立ちが作品になるという発想です。
作り方(How)そのものをメッセージにする
ここから話は、ロゴを「どう作るか(How)」自体をブランドメッセージにするアイデアへ広がっていきます。
たとえば、リスナーからプロンプトを募集し、それをすべて連結してAIに投げて生成する。あるいは、毎週リスナーからロゴを募集し、毎週差し替える。ロゴが1つである必要すらないのでは、という発想です。
樋口さんが実際にやった例として、番組「ギチの完全人間ランド」のマスコットキャラクターの話が紹介されます。リスナーから募集したキャラクターを、すべて「公式マスコット」として認定するという仕組みでした。
ある時期以降ロゴをほぼ変えない。「変わらない良さをキープする」という姿勢がロゴを介して伝わる
ロゴを頻繁に変えてきた。「新しい時代に対応し続ける」という姿勢そのものがメッセージになっている
どちらもロゴの中身以上に、「変えない」「変え続ける」という選択そのものがメタメッセージになっているという指摘です。ロゴが持つ図形の意味だけでなく、その外側の振る舞いにも思想が宿るという話でした。
こだわるって、コントロール可能だと思っていること
話は徐々に、「マダナイのロゴを本気で作りきることは、この番組のコンセプトと合っているのか」という問いへ進んでいきます。
樋口さんはここで、非常に核心的な視点を投げかけます。
正解があり、それを自分たちで出せるという前提があるからこそ、人は「こだわる」ことができる。しかし「マダナイ」は、まだ形になっていないものを扱う番組であり、コントロールしきってしまうと、番組らしさが逆に消えてしまうのではないか、という感覚です。
関連して、北野武監督の話も紹介されます。役者にリハまでで意図を伝えたら、本番の演技はあえて見ないことがあるといいます。信頼した役者が出したものは、自分の意図より良いはずだ、という姿勢です。
もう俺にはコントロールしようがないと。で、これで、だ、あの、出されたものが「ん?」と思っても、それはもうプロの、信頼した役者が出したもんなんだから、もう自分の意図よりも、おそらくいいものだろうみたいなのも含まれてるみたいな。
さらにけんすうさんは、翻訳エラーメッセージがそのまま看板になっている海外の写真を思い出します。「Translate Server Error」がレストランの看板に堂々と書かれている、あの光景です。
そこから、「画像を作成できませんでした」というAIのエラーメッセージをそのままロゴにする案や、真っ白な指定サイズの画像を「これがロゴです」と言い張る案なども出ますが、二人はすぐにその危うさにも気づきます。
そうですね、そういう。しゃらくさいですよね。なんか、もうなんか、やめてほしい。
結局、この文字起こしをAIに投げることにした
時間切れが近づき、二人はいよいよ結論に向かいます。プロデューサーがすでに出してくれている案から選ぶ、4案を縦に並べてすべてロゴにする、といったアイデアが出ますが、決め手には至りません。
そこで浮かび上がったのが、「今日の話の文字起こしをそのままAIに投げる」というアイデアでした。
あとは、えっと、今日の話の文字起こしをそのまま入れて、この文脈を踏まえた上でロゴを作ってくださいとAIに言って。なんでこのロゴにしたかの説明も作ってくださいとかにするとかは、ちょっとありかもしれないですね。
番組の途中では「AIっぽいのはちょっと嫌だな」と話していた二人ですが、ここまでの会話でロゴに必要な文脈自体は十分に語られている、という判断に至ります。
コンセプトを言語化して詰め切るのではなく、そこに至るまでの会話ごと素材にして、決定の一部を外側に委ねる。「まだない」という番組らしい着地の仕方になっています。
まとめ
番組ロゴという一見小さな題材から、コンセプト、文脈、偶然性、そしてコントロールを手放すことまで話が広がった回でした。マダナイのロゴが今後どんな姿で現れるのか、その背景まで含めて楽しめる内容になっています。
- ロゴは装飾ではなく、ブランドの方向性を規定する強い力を持つ。シンプルな図形ほど、背景を語れるだけの言語化が求められる
- Bookのロゴのように「無個性を突き詰めた円」もあれば、ダラジオのように「5秒で描いた図像」もある。図形そのものより、どう作ったかに意味がこもる
- コカ・コーラとペプシのように、「変えない/変え続ける」という選択自体がメタメッセージになる。ロゴは中身だけでなく振る舞いでも語る
- 「こだわる」とはコントロール可能だと思っていること。マダナイのような番組では、こだわりきらず余白を残す姿勢そのものが番組らしさになる
- 最終的な結論は、この対話の文字起こしをAIに投げて、文脈ごとロゴにしてもらうこと。決定の一部を外側に委ねる、まだない番組らしい着地になった
