二人の出会いとグルメバーガーの基礎
二人の出会いは、2016年にぐるなびが始めたキュレーションサイト「飯コレ」でした。ハシロヤルさんがラーメン担当、林さんがハンバーガー担当として参加したのがきっかけです。林さんは食べ歩き歴17年、これまで3000〜4000食以上のハンバーガーを食べてきたという筋金入り。ハシロヤルさんも「負けず劣らず変態」と評するほどの偏愛ぶりに親交を深めたそうです。
まず前提として、グルメバーガーの定義が共有されました。林さんいわく「ファストフードとは違う素材と手作りにこだわったハンバーガー」がグルメバーガーです。日本で広がりだしたのは1990年代後半から2000年代。東京の「ファンゴ」「ファイヤーハウス」「ブラザーズ」の3店舗が黎明期を支えました。
この3店から修行した人がグルメバーガーを全国に持っていったため「御三家」と呼ばれます。岐阜県高山の「センタンホーン」、名古屋の「レイヤーズ」(2005年オープン、名古屋のグルメバーガー先駆者)もブラザーズ出身です。
グルメバーガーの主な特徴は、注文ごとに生の肉から焼き始めること。ファストフードが「あらかじめ焼かれたパティを組み立てる」オペレーションなのに対し、焼き加減は職人技になります。さらに肉を塊で仕入れて店で挽く「自家製パティ」や、包丁でカットする「ハンドチョップ」、自家製バンズなど、こだわりが増えています。
バンズ、お肉、野菜が一発で口の中に収まる。口の中でのハーモニーを味わう。それがハンバーガーの魅力だと思うんです。
ブラザーズのハンバーガーには「ピック(串)」がなくてもバランスが崩れないという美しさも紹介されました。見た目の美しさもグルメバーガーの魅力の一つだといいます。
現代ラーメンの起点となった90年代
続いてハシロヤルさんが、現代ラーメン(近代ラーメン/ごちそうラーメン)の起点を解説しました。男が大好きなラーメンは1970年代の高度経済成長期に形作られましたが、現代につながる流れはグルメバーガーと同じ90年代に始まったといいます。
96年組に影響を受けた店は数多く、その特徴として、ブロイラーではなく銘柄鶏を使う、外国産小麦から国産小麦へ、製麺所から自家製麺へ、といった変化が挙げられます。さらに「限定ラーメン」を始めたのも96年オープンの麺屋武蔵で、今では当たり前の文化になりました。器も窯元に依頼して理想の形を作るムーブメントがあるといいます。
トレンドの「スマッシュバーガー」と多様化する肉
ここからが本題。まず林さんが紹介したのは、名古屋・東山公園駅近くの「グッドルーザーズクラブ」(今年オープン)のスマッシュチーズバーガーです。今ハンバーガー界で大きなトレンドになっている「スマッシュパティ」を味わえます。
薄く潰すことで火入れ時間が短縮され、提供時間が早いのも特徴です。ハシロヤルさんは「スマッシュ」という言葉に「潰す・破壊する」という意味に加え「短時間で成し遂げる」という意味もあることに着目し、ダブルミーニングではないかと推測しました。スマッシュはアメリカでも流行しており、そのまま「スマッシュバーガー」という店名の店もあるそうです。
興味深いのは、新規店だけでなく、既存店がスマッシュに切り替えているケースが多いこと。林さんが知るだけでも名古屋で2店舗、伊勢で1店舗が移行したといいます。仕込みの効率化と、トレンドへの挑戦が理由です。
ただ押しつぶせばいいわけじゃないんです。外側がカリッとして、でも中はジューシー。力の強さを変えてるんです。これも職人技。
外側を強く、中はそこまで潰さず残すことで「外カリ・中ジューシー」のコントラストを生みます。カリカリ具合は店ごとに異なり、東京の「ShogunBurger」は厚みを残したスマッシュ、グッドルーザーズクラブは「バリバリカリカリ派」だそうです。
丸ごと仕入れる「肉料理」としてのラーメン
スマッシュバーガーに対してハシロヤルさんが挙げたのは、名古屋の「ラーメンあじさい」。昨年のTV番組「デララバ」ラーメン特集で東海エリア1位に選ばれた店です。醤油チャーシュー麺(2000円)で、とにかく多彩な肉が楽しめます。
ポイントは「肉をマル(丸ごと)で買って店内でさばく」こと。通常はお肉屋さんに部位を指定して仕入れますが、それだと単価が上がる上、残った部位が売れるかというリスク分も価格に乗ります。マルで買えば純粋なその部位の値段になり、価格を抑えつつ、自分でさまざまな部位を美味しく提供できるわけです。
工賃が上乗せされる。他の部位が売れ残るリスク分も価格に転嫁される。
純粋なその部位の値段になり価格を抑えられる。自分でさばけば肉のバリエーションも増やせる。
このお店では豚(半頭買い)、鶏(一羽まるごと)、鴨の3種類を使用。鶏は毛と内臓だけ取った状態で来るので、手羽先・手羽元・もも・胸を店内でさばく作業が発生します。それぞれの部位を最適な調理法で仕上げるのもこだわりです。
ラーメンとつけ麺で乗る肉が異なり、部位別に数えると14〜15種類ほどになるといいます。両方を食べないと全種類は網羅できないほどのバリエーションです。とんかつ屋や焼き鳥屋がやるような肉仕事を専門店顔負けでこなすことで、他店にない強みを獲得しています。
これらの仕込みを店主一人でこなしており、店を11時過ぎに出て帰るのは深夜2〜3時。ほぼ寝る時間がないほどの作業量だといいます。現在は完全予約制になっているため、SNSからの予約が必要です。
引き算のバーガーと自家製小麦の潮流
次に林さんが紹介したのは「足し算じゃなく引き算」のバーガー。名古屋・矢場町の「リーブロ」で、メニュー名はなんと「塩」。バーガーの文字すら削ぎ落とされています。昨年のデララバでハンバーガー1位になった店です。
ポイントの一つがハンドチョップ。塊肉を包丁でカットして成形するため、噛みごたえがあり、ステーキのような食感になります。リーブロは塊が特に大きく、噛むと肉がホロホロほどける独特の食感です。
スイカに塩を振ると甘さが出るじゃないですか。あれと同じで、塩を振ることで油の甘さがめちゃめちゃ引き立つんです。
「塩」は岩塩しか足していません。リーブロのバーガーの基本はバンズ・マヨネーズ・長時間グリルしたオニオンの3つで、そこにパティを乗せる構成。生野菜はありません。そのバランスを取るのが、通常のハンドチョップでは削ぎ落とす脂を残したパティです。
リーブロのパティは肩ロースとサーロインで構成。サーロインを使うことで脂の甘さとジューシーさを両立させています。ハンバーグと違い、赤身中心が定石のハンバーガーパティにおいて、サーロイン採用は尖った選択です。生野菜がない分のバランスを牛脂で取っているとも言えます。
さらにバンズも自家製。店主はもともとパン好きから始まり、ハンバーガーショップでの修業経験はなく、独学でバンズを完成させたそうです。特徴は「サクッとしているが口溶けが良い」こと。バンズが口に残らないため、肉の味が主役になるバランスが生まれます。
この自家製バンズの流れは、東海エリアでパン屋にバンズが並んでおらず、特注のパートナー探しが難しいという事情も背景にあります。自分の理想を実現するために自家製に踏み切る店が増えているのです。
ハシロヤルさんは「この流れはラーメンも全く同じ」と応じ、2026年3月にオープンした東京・祖師ヶ谷大蔵の「まさ盛麦(松尾製麦)」を紹介しました。低加水なのにモチモチの麺を、圧力鍋で茹でることで実現しています。
圧力鍋で加圧
水が100度を超える温度になる。
茹で=吸水+加熱の強化
麺を茹でるとは「大量の水を吸わせる」「高熱を与える」の同時進行。通常100度が限界のところを引き上げる。
熱々なのにモチモチ
讃岐うどんのような弾力が、あったかいまま味わえる。
高熱で茹でることでかん水と小麦のグルテンの反応が強まり、麺がベージュがかった色になるといいます。通常なら全粒粉入りと勘違いしそうな色ですが、芯の部分の小麦だけでこの色になるとのこと。「食うと脳内がバグる」ほどの熱々モチモチだと表現されました。
コース料理化するバーガーと旬を味わうラーメン
最後のテーマは「ファストフードからコース料理へ」。林さんが紹介したのは名古屋・高丘駅近くの「ジャックスキッチン」の「アンサンブルコース」。もはや料理として成り立っている一皿です。
季節のフルーツを使ったハンバーガーが二ヶ月に一度変わります。今トレンドの「甘じょっぱい」を体現しており、ドーナツでパティを挟むルソーバーガーと同じ流れです。紹介された一皿は桃・焼きナス・大葉の組み合わせで、桃のとろとろ、なすのとろとろ、追ってくる大葉の香りという「味の重なり」が設計されています。
アミューズから始まって前菜、スープ、メインにハンバーガー、サイドディッシュ、そしてデザート。ハンバーガーは食の体験にもなるんです。
これに対しハシロヤルさんが挙げたのは、東京都台東区「もてなし黒木」(麺黄色のわけぶくんの師匠)の限定メニュー「海」。めかぶと本マグロを使った緑色の汁なし麺です。もてなし黒木は二週に一度のターンで限定を回しています。
3月下旬に食べたこのメニューは、石巻の十三浜の漁師と直接やり取りして毎年同じものを仕入れているそう。めかぶはワカメの根っこにあたる部分で、二週間の間にも歯触りが軽快なものからゴリゴリしたものへと変化します。旬の「走り」から「名残」までを楽しめるわけです。
本マグロは、店主の黒木さん自身が目利きして仕入れています。グローバルダイニングでメニュー開発をしていた経歴と、父が魚屋だったという背景があるからこそ可能な仕入れです。めかぶの美味しさを最大限に引き出すため、3月下旬でも冷やし麺として最適温度で提供されます。日本料理屋なら5000円〜1万円しそうな食材が、3000円台で味わえるといいます。
まとめ
45分の対談を通して見えてきたのは、グルメバーガーと現代ラーメンが驚くほど似た進化をたどっているということです。二人は最後に3つの共通点を整理しました。
なお、この夏(7月1日〜8月31日)には東海ハンバーガー協会主催のスタンプラリー「ハンバーガーコネクション2026」が開催されます。愛知・岐阜の10店舗が参加し、各務原市のトックンバーガー、岐阜・加納のハットも参加しているとのことです。ラーメン好きも、進化するハンバーガー文化にぜひ触れてみてはいかがでしょうか。
- グルメバーガーは御三家(ファンゴ・ファイヤーハウス・ブラザーズ)から、現代ラーメンは94年の支那そばやと96年組から広がった。
- トレンドの「スマッシュパティ」は外カリ・中ジューシーを職人技で作り分け、既存店の移行も進んでいる。
- ラーメンあじさいは肉を丸ごと仕入れて店内でさばき、14〜15種類の部位を提供する「肉料理」化を実現。
- 自家製バンズや圧力鍋での製麺など、小麦の表現にはまだ伸びしろがある。
- フルーツバーガーやめかぶ・本マグロのラーメンなど、旬の味を両ジャンルで楽しめる時代になった。
