イタリア帰りのデザイナーが、なぜ介護の道へ?
コテンラジオ番外編のこの回は、番組として初めて外部ゲストを迎えた回です。深井さんが「経営者仲間」として紹介したのが、介護ベンチャーを経営するカズヤさんです。
カズヤさんの会社は「介護に関わる全ての人をハッピーに」をミッションに掲げ、認知症の介護施設を4つ、保育園を1つ運営し、さらに認知症のコミュニケーションロボットも開発しています。
カズヤさんはもともと、東京とイタリアでファッションデザイナーとして働いていました。高校卒業後すぐに東京の専門学校へ進み、そのまま就職したため、約8年間は両親と離れて暮らしていたといいます。
イタリアから帰国して実家で両親と同居したとき、カズヤさんは8年分の衰えに驚きます。そこで初めて、超少子高齢社会が人ごとではないと気づいたそうです。東京では若く頑張っている人ばかりに囲まれ、地域創生や高齢化のニュースも別の国の話のように感じていたと振り返ります。
ただ、親の衰えだけで人生の進路まで変わるものなのか。楊さんはそこに踏み込みます。
その全てを凌駕して起業してそれ(介護)をやろうってなるまでのインパクトはどこから出てきたの?
カズヤさんの答えは二つありました。一つは、デザイナーを目指した動機が「かっこいいから」という外的なものだったのに対し、介護は憧れから選んだものではないという違いです。
もう一つは、ファッション業界へのジレンマです。カズヤさんによれば、ヨーロッパには流行を決める団体があり、5年後ぐらいの流行の色や生地があらかじめ決まっていて、全ブランドがそれをもとに作るので流行るに決まっているといいます。それが業界以外の誰のためになっているのかという疑問を、ずっと抱えていたそうです。
決定打になったのは、晩ごはんの席でカズヤさんの母親が冗談で口にした「そろそろ私たちが入る老人ホームを探さないとね」という一言でした。カズヤさんは強い不安を覚えます。
当時のカズヤさんには、特養とヘルパーの違いもわからないほどの知識しかありませんでした。その不安が無知から来るものだと気づき、独学で介護の勉強を始めたことが、起業へとつながっていきます。
帰国と同居
イタリアから帰国し、8年ぶりに実家で両親と暮らす
衰えへの驚き
両親の衰えを見て、超少子高齢社会を自分ごととして感じる
母の一言
「老人ホームを探さないとね」という冗談に強い不安を覚える
無知への気づき
不安の正体が介護への無知だと気づき、独学を始める
起業
介護に関わる事業を立ち上げる
9年続く介護ベンチャーと、地元の「カリスマ」の先輩
カズヤさんの会社は現在40名ほどの規模です。ミッションは1〜2か月前に作り直したばかりで、以前は「持続可能」といった言葉を使っていたものの、わかりにくいという声があったといいます。
これから会社を大きくしていく中で、ストレートに伝わる言葉がいいと経営幹部で議論を重ねました。施設もロボットも、介護に関わる全ての人をハッピーにするためにやっている、という整理にたどり着き、それが今のミッションになっています。
話はカズヤさんと樋口さんの関係にも及びます。二人は同じ地元の出身で、カズヤさんは樋口さんの弟と同級生です。カズヤさんの世代から見ると、樋口さんたちはカリスマ的な存在だったといいます。
カズヤさんが高校時代にバンドをやっていたころ、樋口さんたちの演奏を見て「この人たちにはかなわない」と感じたそうです。地元にこんなにすごい人がいるなら東京にはもっといるはずだと考えたことも、ファッションの道へ進んだ理由の一つだと語っています。一方で樋口さんは、当時のカズヤさんのことはほとんど知らなかったと笑います。
会社は2020年4月で9年目を迎えます。深井さんは、起業して3年でほとんどの会社がなくなるといわれる中で9年続き40人規模になったことを評価しますが、カズヤさんにとっては「常に今が一番の危機」です。ロボット事業を始めるときにも、樋口さんに相談に来たといいます。
経営者の悩みは、なぜ「自分との向き合い方」に行き着くのか
深井さんがこの回で一番聞きたかったのは、起業家であるカズヤさんがプライベートで一番悩んでいることでした。カズヤさんは、プライベートとビジネスは直結していると前置きしたうえで、悩みは「パートナーシップとセクシュアリティ」に尽きると答えます。
カズヤさんの言うパートナーシップとは、会社のパートナーや妻など、一対一の近しい人間関係全般のことです。セクシュアリティの話も含めて具体的に語ろうとする場面では、エピソード説明にあるとおり、コテンラジオ史上初のピー音が入ることになりました。
カズヤさんは、創業経営者のエネルギーは会社に全て反映されると話します。妻との関係も同じで、突き詰めると問題は妻との関係そのものより、カズヤさん自身との向き合い方にあると気づいたそうです。
他人が自分をどう認識しているかを考えていた
自分が社会をどう認識しているかに目を向けるようになった
カズヤさんがたどり着いたこの視点の転換に、樋口さんは思わず反応します。
めちゃくちゃ深いこと言うね。
さらにカズヤさんは、幹部メンバーから指摘された癖についても明かします。何か起きると、何が起きているのかを捉えようとせず、すぐに対処しようとする。その癖が全メンバーに波及しているのが今の会社ハモニーの姿だと言われたといいます。
カズヤさんはその指摘に深く納得したそうです。緊急性の高いことはすぐ対処するとしても、全てがすぐ解決できるわけではないと考え、じっくり受け止めようとしていると話します。
全身オレンジは義務だった?「社長はこうあるべき」の重さ
カズヤさんはコテンラジオのファンで、番組でよく出てくる「具体化と抽象化」の話から気づきを得たといいます。以前のカズヤさんは、言葉と数字は絶対的なもので、自分が「マグロ」と言えば全員が同じマグロを思い浮かべていると思い込み、ミーティングや人間関係がずれていったそうです。
深井さんが、他者との関係でどんな傾向が出やすいのかを尋ねると、カズヤさんは「こうあらなければならない」と思い込んでいたと答えます。その象徴が、かつての全身オレンジの服装でした。
カズヤさんは以前、服も靴も時計もカバンもすべてオレンジで揃えていました。ローカルなソーシャルスタートアップとして、まず覚えてもらわなければという思いからです。最初は楽しんでいたものの、途中から義務に変わっていたと振り返ります。
同じ思い込みは、人間関係では「社長は弱みや悩みを見せてはいけない」という形で現れていました。深井さんも、まったく同じように思っていたと共感します。
全く思ってた俺も。そんなね、弱み見せずに成功なんてするはずもないのに。
カズヤさんは、自分は弱みを見せないのにメンバーには何でも言ってくれと求めるのは無理がある、と話します。言葉や行動だけでなく、非言語の部分で本音かどうかは相手に伝わってしまうと考えているそうです。
その例としてカズヤさんは、友人から聞いた話として、人は話すときに電磁波を発していて、言葉とずれると相手が違和感を覚えるという説を紹介しています。だから対面のミーティングに勝るものはない、というのがカズヤさんの受け止めです。
自分の腹を自分で切る。自己認識と他者認識の難しさ
深井さんは、カズヤさんと会うたびに、自分と向き合おうとする意欲に感心すると話します。できるかどうかに関わらず、向き合おうとすること自体が大事だと考えているからです。
番組では、金髪を黒髪に変えたときの体験も語られます。地方創生で市と関わり、小学校という場所で活動している立場なら金髪ではいけない、という感覚で黒髪にしたところ、いろいろとおかしくなったといいます。金髪に戻すと自由になれたという話で、「こうあるべき」が人を縛る例として紹介されています。
深井さんは、カズヤさんの悩みは誰にでも共通するものだと考えています。突き詰めれば、自分を、そして他者をどういう存在だと位置づけているかという関係性の理解に、すべてが集約されていくといいます。
ただ、その関係性を集中して一人で考える作業はつらく、メンタルリソースもいります。深井さんはその大変さを手術にたとえます。
自分で自分の腹の中切って手術するようなもんだからさ、普通にしんどいと思う。
他人に手術してもらいたくなる一方で、それではどこかずれてしまう。深井さんは、自分で手術しないと到達できないラインがあると話しています。
「お前と働きたい」は、なぜ社員に届いたのか
カズヤさんには、深井さんから言われて忘れられない言葉があります。介護施設は人がいないと成り立たない労働集約型の事業で、メンバーが多く意見の相違も起こりやすい。カズヤさんがメンバーに意見を伝えるべきか悩んで深井さんに相談したとき、こう返されたそうです。
深井さんの答えは、「社長が言うのは怖いかもしれないが、メンバーが社長に言うのは100倍怖い。それがわかっているなら社長が言わなければ誰が言うのか」という趣旨でした。当の深井さんは、そんなことを言ったかと首をかしげています。
そこでカズヤさんは伝え方を変えます。以前なら「あなたは会社に必要です。なぜなら」と理由を並べていたところを、「俺はお前と働きたい」と自分の気持ちだけを伝えたところ、相手に届いたといいます。
「あなたは会社に必要だ、なぜなら」と役割や理由で伝える
「俺はお前と働きたい」と自分の気持ちをそのまま伝える
深井さんは、人を機能として見ることの問題は根深いと話します。多くの人は、社長と社員のような役割同士で付き合っていて、人間対人間で向き合う人は少ないといいます。
深井さんによれば、自分の感情を吐露することは社長にとっても怖いことです。精神論だと思われたり、論理的でないと受け取られたりするかもしれないからです。それでも、そうした防御を外すことが人間同士の信頼関係を築くと深井さんは感じています。
カズヤさんは、そもそも自分の感情に気づけないこともあると話します。もういいと言いながら、本当は寂しかったりする。だから自己開示には能力がいるといいます。
深井さんも、大企業でロジカルに言い合っている人たちも、本当は寂しさや認められない不満を抱えていて、それをロジックで覆い隠しているから議論にならないのだと話します。最後にカズヤさんが「だからキャバクラが流行るのかもしれない」と返し、深井さんが「男4人のキャバクラトーク」と締めくくって番組は終わります。
まとめ
介護ベンチャーを経営するカズヤさんの悩みは、仕事とプライベートの区別を越えて、自分と他者をどう認識するかという問いに行き着きました。「こうあるべき」という思い込みを手放し、機能ではなく人として向き合うことの怖さと大切さが、深井さんとの対話を通して語られています。
- カズヤさんは両親の衰えと母親の一言をきっかけに、無知から来る不安に気づいて介護の道へ進んだ
- 悩みの核心は、他人からどう見られるかではなく、自分が社会をどう認識しているかにあった
- 「社長は弱みを見せてはいけない」という思い込みは、言葉以外の部分でメンバーに伝わってしまう
- 「お前と働きたい」と気持ちを伝えることが、役割同士ではない信頼関係につながった
- 深井さんは、自己開示をバンジージャンプにたとえ、飛んでしまえばなんてことないと語った





