ペストの時代と今、人の挙動は変わらない?
この回は、2020年4月にYouTubeで生配信された内容を、Podcastとしても公開したものです。樋口さん、深井さんたちに加え、生配信のにぎやかし役として青柳さんも参加しています。
配信では、疫病と歴史の関係を尋ねる質問が取り上げられます。新型コロナウイルスが広がっていた時期で、出演者も「タイムリー」と反応しています。
疫病が歴史の流れを変えた事例があれば教えてください。
深井さんが「最も分かりやすい」と挙げたのはペストです。ペストではヨーロッパの人口の3分の1が亡くなったと深井さんは説明します。
ペストが流行した当時は、細菌やウイルスの存在そのものが知られていませんでした。人々はなぜ死ぬのかわからないまま、ひどく怖がっていたといいます。
当時の人たちがウイルスとか細菌とかを知らない状態でどういう挙動をしたかっていうやつと、僕たちが(コロナに対して)不安すぎていろんな挙動してるのは、意外と変わってなくてね。
不安になったらね、一緒なんですよね、挙動が。
樋口さんが「人類はアップデートされていないのか」と尋ねると、深井さんは、原因がウイルスだとわかっている今でも、ペストの時と同じような振る舞いが見られると答えます。
深井さんが挙げたペスト時代の振る舞いと、現在の様子を並べると次のようになります。
| 挙動 | ペストの時代 | 現在 |
|---|---|---|
| 犯人探しと迫害 | ユダヤ人のせいだとして処刑した | アメリカと中国が互いのせいだと言い合う |
| 神仏に頼る | 神からの試練と考え、神仏にすがる | 神の罰と考える人や神仏に頼る人もいるはず |
| 刹那的な欲望 | 死を覚悟し享楽に身を任せる人が出た | 深井さんは今も大きく変わらないと見る |
ペストの時代には道徳の崩壊も起き、享楽をテーマにしたデカメロン ── 14世紀イタリアの作家ボッカッチョの物語集。ペストを逃れて郊外に集まった男女が語り合う形式で、恋愛や笑い話が多く収められていますのような文学が流行したと、深井さんは紹介しています。
教会の権威は失墜し、農民の地位は上がった
ペストの被害について、樋口さんは「ペストで良かったことってあるんですか?」と問いかけます。深井さんは、良し悪しは別として、ペストによって社会構造が大きく変わったと答えます。
変化の1つめは、キリスト教会の権威が崩れたことです。多くの人が神仏に頼ったのに、事態は収まらず人口の3分の1が亡くなりました。
神の救いがないくせにお前ら(教会は)そんな威張ってたの?っていう話になっていって。
深井さんによれば、教会への不信はその後、プロテスタント ── 16世紀の宗教改革でカトリック教会から分かれたキリスト教の諸派の総称。教会の権威より聖書や個人の信仰を重んじますの登場や宗教改革へつながっていきます。
神仏にすがる
ペストの中で多くの人が神の救いを求めた
事態が収まらない
人口の3分の1が亡くなり続けた
教会権威の失墜
「教会って何なん?」という不信が広がった
宗教改革へ
プロテスタントが出てくるようになった
変化の2つめは、農民の社会的地位です。農業に従事していた人々が大勢亡くなったことで生産が追いつかなくなり、働き手が貴重になって地位が上がった、と深井さんは説明します。
樋口さんは、疫病を収束させたのは宗教ではなく科学だと人類に示したのではないかと付け加えます。深井さんは、当時はまだ科学がそこまで発達しておらず、科学が救いになったわけではないと応じています。
そのうえで深井さんが挙げたのがベネチアです。ベネチアでは人口の4分の3が亡くなったと深井さんは記憶しています。科学が未発達でも、船が来ると感染者が増えることに気づき、船を隔離するようになったといいます。
あれと一緒じゃん。今の[ダイヤモンドプリンセス]。あれと同じことはペストの時にもやってて。
疫病はなぜ人の移動とともにやってくる?
船がクラスターになっていたという樋口さんの言葉を受け、深井さんは、疫病が流行るのは必ず人の移動がある時だと話します。
深井さんが例に挙げたのは大航海時代のアメリカ大陸です。ヨーロッパ人がネイティブアメリカンに新しい病気をうつし、逆に梅毒などの風土病をもらってきたといいます。ペストもモンゴル軍の大移動が原因だったと深井さんは説明します。
人の移動が(今は)スーパー活発だから、こういうことになったのね。
樋口さんが「感染症は100年に1回ぐらいはヤバいやつが出てくる」と聞いたことがあると話すと、深井さんは、その間隔が今は短くなっていると答えます。
昔はおよそ100年間隔だった
2009年の新型インフルエンザから約10年でコロナが出た
青柳さんは、疫病のパンデミックはグローバル化の度合いと比例していると指摘します。深井さんは、今の感染症には動物由来のものが多いことも付け加え、「感染症の歴史」という本があると話しています。
歴史に学んでも、コロナの先は読めない
青柳さんが「どうなっていくかは読めないですよね」と話すと、深井さんも同意します。Twitterでは感染症の歴史を取り上げてほしいというリクエストがたくさん届いていたそうです。
深井さんは、過去から学べることは多いとしつつも、今回のコロナの広がり方や経済への影響は過去と違うと考えています。グローバリズムが進みすぎていて、中世のパンデミックとはレベルが違うという見方です。
(コロナは)致死率そんな高くないでしょ?けど経済が止まったりだとかっていうのは、現代社会が発達しすぎて困る点がまた全然違うんですよ。
深井さんは、スペイン風邪 ── 1918年から世界的に流行したインフルエンザ。第一次世界大戦末期と重なり、多くの死者を出しましたから世界恐慌、世界大戦へ進んだ流れとコロナの状況は近いものの、それとも違うと考えています。樋口さんが尋ねたインターネットの発達も要素の1つで、ZOOMがあるからかろうじて経済活動ができている、という話になります。
深井さんは、ペストで農民の地位が上がるような変化も、当時の社会学者でも読むのは難しかったはずだと話します。誰も予想しない着地になるというのが、歴史を学んだうえでの深井さんの見立てです。
わからない中で、今できることは何か
樋口さんは最後に、コロナに対して今やるべきことは何かと尋ねます。深井さんは、歴史から学んだというより自分の意見だと前置きして、無駄に怖がらないことだと答えます。
リスクを正しく判断をして、最悪のパターンを想定して対処することはとても大切なんですけど、不安な感情を増大させるメリットは一つもないですよ、僕たちは。
青柳さんも「冷静な判断ができなくなるからね」と応じます。深井さんの答えは、備えと気持ちの持ち方を分けて考えるものです。
うわ、これマジで俺全世界に伝えてえわ。
深井さんは、亡くなる人はいるとしたうえで、ペストの時のようなひどいことは起こらず、人類はそれを乗り越えてきたと話します。そして、適切に怖がることは難しいからこそ大切だと締めくくりました。
まとめ
ペストの時代を振り返ると、原因がわからない恐怖の中で起きた迫害や享楽、教会の権威失墜や農民の地位向上が見えてきます。深井さんは、人の挙動は今も変わらない一方で、グローバル化した現代の疫病の行方は誰にも読めないと語り、最悪に備えつつ楽観的でいることを勧めています。
- ペストではヨーロッパの人口の3分の1が亡くなり、犯人探しや享楽など、今にも通じる挙動が現れた
- 救えなかった教会の権威は失墜して宗教改革へつながり、働き手を失った農村では農民の地位が上がった
- 疫病は人の移動とともに広がり、グローバル化で大きな感染症の間隔は短くなっている
- 歴史を学んでわかるのは、コロナの先は予想できないということだと深井さんは話す
- 最悪を想定して対処しながら、不安をあおらず超楽観的でいることが大切だという




