すごいと言われる人と、本当に話したらどうなる?
番外編の冒頭、深井さんは「お金の歴史」シリーズの収録で4時間ほど話し続けた直後で、疲れた様子を樋口さんにいじられます。フランス革命やナポレオンの回のあたりでは「途中でこと切れてた」と本人も振り返っています。
そんな流れのなか、樋口さんが二人に投げかけたのは、自身が北九州のコミュニティFM「FM北九」で担当するラジオに届いたお便りの質問でした。
タイムマシンがあったらどこに行く?
樋口さんによると、場所も時代も自由で、「ピラミッドの中」のようなピンポイントの指定でもかまわないという条件です。どこへでもワープでき、時間旅行もできるとしたらどこを選ぶか、という問いです。
樋口さん自身の答えは、ヒトラーや曹操のように「すごい」と言われる人物に会って、実際に話してみることでした。時代や人物そのものより、周囲が「すごい」と持ち上げている人の実像を確かめたいという関心です。
周りがみんなあの人はすげえすげえって言って、なんかすごいことにされてるみたいなことってあると思うんですよ。
特に2代目、3代目とかは祭り上げられてみたいな、そういうやつとガチで話して、お前どんだけすげえっていうのを確かめたいなと。
楊さんも「ヒトラーの前で『お前どこ中?』って言いたい」と冗談で乗っかります。樋口さんはもう一人、ガンディの名前を挙げ、会ったら自分の価値観がどれだけ変わるかを知りたいと話しました。
深井さんも、ガンディやブッダ、イエスには会ってみたいと同意します。楊さんの「もう会ったら負けですよね」に、樋口さんが「もう負けたい」と返すなど、偉人への憧れが笑いまじりに語られました。
諸子百家は、どんな顔で王の門をくぐったのか
深井さんの答えは、以前から一番好きだと公言している中国の春秋戦国時代 ── 紀元前8世紀ごろから紀元前221年に秦が中国を統一するまでの時代。多くの国が争い、さまざまな思想家が活躍しましたです。深井さんにとっては、全世界を通して「マジですげえ人たち」が集まっている時代だといいます。
深井さんが見たいのは、諸子百家 ── 春秋戦国時代に現れた思想家や学派の総称。儒家、道家、墨家、法家などがあり、各国の君主に自らの思想を説いて回りましたが王様の前で話し始める、その第一声の場面です。
どんな気持ちで門くぐってんだろうと思うもん、まず。あの諸子百家が。
深井さんが特に気になっているのは、農家や名家、墨子の墨家 ── 墨子を祖とする学派。差別のない愛(兼愛)や戦争の否定(非攻)を説きましたのように、君主にとって明らかに利益のない話から始める人たちです。相手にメリットがないのに、自分が信じることを王様に向かって語り出すとき、何と言っていたのかを知りたいというわけです。
樋口さんは「めっちゃ緊張してたらいい」と、資料をめくって慌てる姿を想像して笑います。一方で「ほぼ命かけてる可能性がありますからね」とも指摘しました。
そんなに命かけたプレゼン今できないじゃないですか、だって。
深井さんはさらに、諸子百家ではないものの、斉の宰相晏子 ── 春秋時代の斉の宰相、晏嬰のこと。君主をたびたび諫めた名宰相として知られ、言行録『晏子春秋』が残っていますの場面も見たいと話します。わがままで、すぐに処刑をするような王様に対し、晏子だけが「それやっちゃダメです」と注意し続けたといいます。
深井さんは、そのとき周りの家臣は凍りついていたはずだと想像し、晏子の表情や王様の顔、場の空気まで見てみたいと語りました。全部見たいけれど、1つだけ選ぶならこの時代、という答えです。
自分の意識が生まれる瞬間を見たい?
続いて深井さんに話を振られた楊さんの答えは、母親の子宮の中に戻ることでした。精子と卵子が出会い、受精卵から自分の意識が生まれる瞬間に立ち会いたいという、意表を突く発想です。
深井さんは「今の自分がそこにいて見たい」ということかと確認し、「それはタイムマシンともう一つ発明がいる」と応じます。自分自身の細胞分裂を見るのは確かに難しい、と二人とも面白がりました。
樋口さんは「斜め上すぎる」と驚き、FM北九のラジオで出た答えとの差を語ります。弟と青柳さんの兄と3人で話したときは、「小学校のプールで女の子を殴ったのが嫌だったから、その前に戻りたい」といった答えだったそうで、話す人によってこんなにレベルが変わるのかと笑っていました。
未来を見たら、今を楽しめなくなる?
話題は未来へ移ります。樋口さんは未来にむちゃくちゃ興味があると言いますが、深井さんは「そんな興味ないかな」と少し距離を置きます。
深井さんが気にしているのは、未来を見て帰ってきたあとのことです。行った瞬間は楽しめても、持ち帰った知識が自分の人生にとってよいのかどうかわからない、と話しました。
樋口さんは、ストーリーを知っている『ドラゴンボール』をセル編から読み直せるような楽しさがあると反論します。未来を知っていれば予言者のように振る舞えて、宗教も作れる、地球統一もできそうだと語り、深井さんに「悪い顔した」と突っ込まれました。
さらに樋口さんは、キャッシュレスや仮想通貨の広がりで資本主義のあり方が変わりつつあるなか、人類が長く続いた先で社会の仕組みがどうなっているかを見たいと話します。昔の人が今のインターネットを想像できなかったように、想像を超えたものを見たいという関心です。
ここで樋口さんが「全部知りたい派か、知らないロマンを残しておきたい派か」と尋ねると、深井さんは意外な答えを返しました。
深井さんは、全部を知ったら何の意欲も湧かなくなると説明します。好きなのは、わかった、前より理解したという瞬間だといいます。
深井さんはまた、未来がとてもいい時代だったら、今の時代を嫌いになってしまうかもしれないとも話します。古代の人は古代なりに楽しくやっていたはずでも、エアコンも冷蔵庫も知っている自分たちが古代に戻れば楽しめない、という例えです。
相対化できちゃうからね。比べちゃうからさ。
樋口さんの「知りたい派」と深井さんの「ロマンを残す派」の違いは、次のように整理できます。
結末を知っていても読み直しを楽しめる。予言者のように振る舞えて、遠い未来の社会の仕組みも見たい
理解する瞬間が好きで、全部知ると意欲がなくなる。よい未来を知ると今と比べてしまい、幸福度の調整が難しくなる
浮気もタバコも、知りたさが止まらない
樋口さんは「全部知りたい派」の例として、パートナーの浮気を挙げます。浮気されていたら知りたいかと問うと、樋口さんは知りたい派、深井さんは「いろんな理由で知りたくない」と答えました。
楊さんの立場はまた別で、どちらでもいいけれど、知った自分と知らない自分の両方を体験したいといいます。自分を実験体として捉えているという言い方です。
浮気を知った状態で自分がどうなるかも興味あるし、知らないままこう墓に入っていくっていう、死んでいくっていうのもどんな状態なんだろうなって。
樋口さんは、自分の知りたさが「異常なくらい」だという証拠として、30歳を超えてからタバコを吸い始めた理由を明かします。その筋道は次のとおりです。
吸わない自分
周りがみんな吸うなか、自分だけ吸わないのがかっこいいと思っていた
違和感
禁煙したくてもできない人をダサいと思うが、禁煙の辛さを知らないので本当にはそう思えない
吸い始める
禁煙の辛さを知るために、あえてタバコを始めた
深井さんも近い経験があり、タバコの感覚とやめる辛さを知りたくて、大学1年生のときだけ吸ったといいます。深井さんはやめてから1週間ほどがかなりつらかったそうですが、樋口さんは2ヶ月ほど吸ってやめても全然つらくなかったと話しました。
それでも樋口さんは、中学や高校から吸っていた人の感覚はわからないと言います。楊さんも「依存してないからね」と体験の深さの違いを指摘しました。
こんなに知らないことがあるんやと。
女性としての感覚も一生味わえない、と話が広がったところで、樋口さんは「何の話これ?」と自分で我に返り、深井さんに「タイムマシンじゃなかった?」と突っ込まれます。
ビッグバン以前に降り立ったら、神になる?
最後に樋口さんが挙げたのは、別の番組「チャチャチャラジオ」でも話したという、一番見たい行き先、ビッグバン以前です。
時間軸がどうなっているかもわからない、と樋口さんが言うと、楊さんは「時間がないでしょうね」、深井さんは「光もないし」と応じます。空間や時間があるかもわからない場所に「ヒュンって降りたい」と樋口さんは語りました。
もしかしたら僕はそこに降り立った瞬間に、すべての時間、すべての空間に同時に存在しうる概念になるかもしれないです。
深井さんが「神ですね」と返すと、樋口さんは神を名乗る芝居を始め、最後は「私は何を言ってるんですか?」と自分で崩れて笑いを誘います。
深井さんは、そんな樋口さんを「知的好奇心の塊」と評し、アリストテレス ── 古代ギリシャの哲学者。自然学、政治学、論理学など幅広い分野を探究し、「万学の祖」と呼ばれますになぞらえました。楊さんも、古代ギリシャに行ったら好かれそうだと続けます。
樋口さんは「全部リセットして俺古代ギリシャ行きます」と行き先を決め直し、深井さんは「アテネがいいです」と勧めます。樋口さんは、このテーマなら3日ぐらい話せそうだと締めくくりました。
まとめ
「タイムマシンがあったらどこに行く?」というお便りの問いに、3人はそれぞれの好奇心の形が表れる答えを出しました。行き先の話は、知ることと、知らないままでいることの価値をめぐる違いへと広がっていきました。
- 樋口さんは、すごいと言われる人物の実像やビッグバン以前など、とにかく全部を知りたい派
- 深井さんは、春秋戦国時代の諸子百家や晏子が命がけで王に語る場面を見たいと話した
- 楊さんは、自分の意識が生まれる瞬間を見たいという斜め上の答えで、自分を実験体として捉えていた
- 深井さんは、理解する瞬間が好きだからこそ、未来を知りすぎず「知らないロマン」を残したいと語った





