新年最初の配信で振り返る、飛躍の1年とは?
この回は、コテンラジオが数週間の休みを経て迎えた2021年最初の配信です。樋口さんの新年の挨拶から始まり、3人で前年を振り返ります。
深井さんは前年を「変化が大きかった」「飛躍の年」と表現します。自分の話に耳を傾けてくれる人が増えたことを、新鮮な驚きとして受け止めていました。
いや、去年は本当に変化が大きかったですね、自分にとって。飛躍の年というか。
樋口さんは、番組を始めたときから「この面白い2人をうまい形で世に出す」ことを自分の勝手な裏テーマにしていたと明かします。自らを料理人、2人をマグロにたとえる樋口さんに対し、深井さんは感謝を忘れたら終わりだと常に思っていると返します。
人のおかげ、樋口さんとヤンヤンのおかげでこうなってるんだなと、常にそういうふうに思ってますね。
リスナーの数も、ポッドキャストアワード受賞以降は何倍にも増えたと話されています。深井さんは、社会の役に立つのでさらに押し上げてほしいと冗談まじりに呼びかけていました。
法人から「自然な形」で応援を受けるには?
本編の前に、深井さんからリスナーへの相談があります。個人向けのサポーター制度に続き、法人向けのサポーター制度を作りたいという話です。すでに2社から、個人よりかなり大きな金額で応援したいという申し出があったといいます。
深井さんがこの制度にこだわる背景には、コテンの本業である歴史データベース事業への思いがあります。深井さんは、自分がラジオで話すことよりもデータベースのほうが1000倍ぐらい価値があると考えています。
(データベースは)誰にとって価値があるかって言ったら、その人類全体に対してだと思ってるんですよね。
深井さんによれば、歴史の話を聞くことは知識が増えるだけでなく、考えるきっかけや自分の再発見、他人をより理解するきっかけになります。データベースはその働きを未来永劫、人類に装置として渡し、同時多発的に起こし続けるもので、深井さんは「産業革命に近い」と表現します。
もうそれ以降の人類とそれ以前の人類は全然違いますよと。
そのため深井さんは、データベースをコテンだけが儲ければよい事業ではなく、旗を振って多くの人の力を借りる事業だと位置づけます。どれだけ多くの人の力を借りられるかが大事だというのは、前年1年間で強く感じたことだそうです。
一方で、本編にスポンサーの宣伝を入れる広告型は「本質的じゃない」と深井さんは考えています。リスナーはスポンサー紹介を聞くためではなく、純粋な歴史の学びを得るために番組を聞いているからです。
深井さんの仮説は、見返りのある広告事業ではなく、法人からの完全な寄付です。見返りを出すと新たな事業になり、特殊な人材が必要なデータベース事業とリソースが分散し、深井さん自身のメンタルリソースも割かれてしまうと懸念しています。
寄付には法人が稟議を通すためのロジックが必要です。深井さんは、貧困問題や教育の平等性、女性の平等などSDGs ── 2015年に国連で採択された「持続可能な開発目標」。貧困、教育、ジェンダー平等など17の目標で構成され、企業の社会貢献活動の指針として広く使われていますの各領域に歴史が関わることから、SDGsの流れでの寄付が大企業には通しやすいのではないかと考えています。
1人法人から5万人規模の会社まで、立場によって応援の仕方は違うはずだとして、深井さんはTwitterやホームページの問い合わせ欄で意見を募りました。いただいた意見は全部見るとしています。
Japan Podcast Awards、今年はリスナー投票も
もう1つの告知は、前年にコテンラジオが大賞とSpotify賞を受賞したJapan Podcast Awardsの新しい回の開始です。今回はリスナー投票があり、ベストパーソナリティー賞やリスナーが選ぶ賞など、賞の種類も増えているといいます。
投票はウェブ上で2分ほどで済み、締め切りは2月15日です。投票の際には「歴史を面白く学ぶコテンラジオ」という正式な番組名が必要になると、樋口さんが補足していました。
宗教改革シリーズ開始、なぜ「思想家」はこんなに面白いのか
告知を終えて、新シリーズのテーマ「宗教改革 巨人に挑む男たちの進撃」が発表されます。樋口さんは、深井さんがTwitterで宗教改革の面白さを繰り返しつぶやいていたことに触れます。
いや、もうめっちゃ面白いですね。俺は面白い。みんなが面白いかどうかわかんないけど。まず僕が面白かったんですよ。
深井さんによると、宗教改革はローマ、オスマン帝国、フランス革命、アメリカ開拓史、コミュニケーション史といった過去のシリーズと全部つながる、世界史の醍醐味のようなテーマです。
深井さんは思想そのものに加えて、思想家の挙動が飛んでいるところに惹かれると話します。今回の主役であるルター ── マルティン・ルター。16世紀ドイツの神学者で、1517年に贖宥状を批判する95か条の論題を発表し、宗教改革のきっかけを作った人物ですやカルヴァン ── ジャン・カルヴァン。16世紀にスイスのジュネーヴで活動したフランス出身の宗教改革者。予定説で知られ、後のプロテスタント諸派に大きな影響を与えましたについても、「すごい突き抜けてらっしゃいましたね」と表現しています。
深井さんはローマ・カエサル編について、ボリュームがインフレし、1回40分を超える回が10本ほど続いたと振り返ります。そこで初めて自分が完璧主義寄りだと気づいたといいます。
全部を細かく紹介することにコテンラジオの価値があると思ってなくて。ポイントですよね。
宗教改革編では、経緯の説明は押さえつつ、ローマ編よりポイントを絞って本当に面白いところを伝える、以前のスタイルに戻すとしています。
なぜ宗教改革を「今」やるのか?
宗教改革をテーマに選んだ理由について、深井さんは「最初にやっていたら意味がわからない」テーマだからだと説明します。これまでのシリーズを聞いてきたリスナーは、世界史の知識と理解のレベルがかなり上がっているというのです。
それをですね、ここで宗教改革言ったら意味わかるんですよ。多分。めっちゃ意味わかるんですよ。
深井さんは、シリーズの順番も意図して選んでいると明かします。次は確定ではないものの第一次世界大戦を予定しているそうです。
深井さんはシリーズの順番を食事にたとえます。どれがメインディッシュかではなく、どの順番で食べたら美味しいかという考え方で、吉田松陰はスタンドアローンで意味がわかる「食前酒」だったといいます。宗教改革は、単発では意味がわかりにくく、他の回とのつながりの中で重要さが見えてくる出来事として位置づけられています。
「腐敗した教会への反抗」という教科書のイメージは正しいのか?
深井さんは、樋口さんに宗教改革のイメージを尋ねます。樋口さんの答えは、ルターもカルヴァンも名前だけは知っているが中身はわからない、というものでした。
深井さんはまず前提として、キリスト教の大きな宗派にはカトリック、プロテスタント、そして正教 ── 東方正教会のこと。オーソドックスとも呼ばれ、ギリシャや東欧、ロシアなどに広がる宗派で、ローマ教皇の権威を認めませんの3つがあると整理します。宗教改革は、このうちプロテスタントが生まれたときの話です。
深井さんが学校で習ったのは、カトリック教会が権力腐敗し、それに対抗してルターが声を上げ、プロテスタントが生まれたという説明でした。しかし深井さんは、本当はそういうことではないというのが今回の話だと語ります。
けど、そんなことじゃないっていうのが、俺はすごい面白かったんですよ、今回。もっと深くて面白いです。
深井さんによれば、ポイントは当時のローマ教皇、王、神聖ローマ皇帝 ── 中世から近世にかけて、ドイツを中心とする神聖ローマ帝国を治めた皇帝。ローマ教皇との間で権威をめぐる対立を繰り返しましたの間にどんな権力構造があり、その中で宗教改革がどう出てきたのかです。
時代は1500年から1600年ぐらいで、主に今のドイツやスイス、さらにフランス、イングランド、スウェーデンなどヨーロッパ中で起きています。宗教改革は瞬間最大風速のような出来事ではなく、人の一生よりも長く続いたと深井さんは強調します。
深井さんは、この時代のカトリック教会だけが特別に腐敗していたわけではないようだとも話します。堕落した人がいたことは確かでも、ローマ帝国で国教として認められて以降、教会に異を唱える改革者はずっと現れていました。
カトリック教会が腐敗し、ルターが対抗してプロテスタントが生まれた
特別に腐敗した時代ではなく、改革者も以前からいた。教皇・王・皇帝の権力構造の中で、ヨーロッパの政治体制まで変わった
なぜ「ガソリンが充満した部屋でマッチを擦った」と言えるのか?
深井さんは、宗教改革は宗教だけでなくヨーロッパ中の政治体制を変えたと説明します。その後の絶対王政につながり、さらにフランス革命や、諸説あるものの資本主義にもつながっていきました。
深井さんは宗教改革を、既存の社会システムが機能しなくなり、溜まったエネルギーが一気に爆発して社会が激変した出来事と表現します。
宗教改革
宗教だけでなくヨーロッパ中の政治体制が変わる
絶対王政
宗教改革がその後の絶対王政につながる
フランス革命・資本主義
絶対王政がフランス革命へ。資本主義とのつながりには諸説ある
深井さんによると、ルター自身は政治にそこまで関心がなく、純粋な気持ちで動いていました。新しい宗派を作るつもりはなく、カトリック教会を改革しようとしていただけです。ところが、教会や教皇のおかしな点を指摘した話が大炎上し、すべてが変わっていきました。
この状況を、深井さんは人類学者の室越さんとの雑談で出たたとえで説明します。ガソリンが充満した部屋でマッチを擦ったのがルターというものです。
本人はガソリン充満してるってよくわかってなくて、バーンってしたらめっちゃ燃え上がるみたいな。
改革者はそれ以前にもいたのに、なぜルターのときにヨーロッパ全体が一気に変わる事態に発展したのか。深井さんは、この問いが今回のシリーズのテーマだとしています。
ガソリン
既存の社会システムが現実と合わなくなり、溜まっていたエネルギー
マッチ
教会のおかしな点を指摘したルターの純粋な主張
爆発
本人の意図を超えて、ヨーロッパ全体の宗教と政治が変わる
信仰は当時の人にとって「お金」だった?
深井さんは、宗教改革を理解するには、16〜17世紀のヨーロッパ人の「OS」、つまり彼らにとってキリスト教や信仰とは何だったのかを知る必要があると話します。当時の人々にとって信仰は、そのために生き、そのために死ぬに値するものでした。
深井さんは本で読んだたとえとして、現代のお金に置き換えてもおかしくないほどの存在だったと紹介します。どれだけ信仰しているかが社会的信用に直結し、信頼関係を築く大前提になっていたといいます。
この状態でキリスト教会はおかしいっていうことがどれだけ凄まじいことか。
第1回は全体の概要だけを話し、こうした論点を次回以降に細かく掘り下げるスタイルにすると深井さんは説明しています。
活版印刷はなぜ宗教改革と関係するのか?
深井さんは、技術革新も宗教改革に影響したと話します。コミュニケーション史のシリーズでも扱ったグーテンベルク ── 15世紀ドイツの金細工師。金属活字を使った活版印刷術を実用化し、聖書の印刷などで知られていますの活版印刷術です。
深井さんによると、活版印刷術は全く新しい技術というより、紙、インク、金属加工の品質向上など、当時あった技術を寄せ集めて合体させたものでした。
宗教改革と活版印刷によってヨーロッパの識字率は大きく上がり、それも社会変革につながっていきます。深井さんは、ルターの思想と活版印刷が実はめっちゃリンクしていると予告しています。
深井さんは、宗教改革を明治維新のような短期的な改革とは違うものとして説明します。百何十年、さらには二百年、三百年という期間にわたって影響を与え続けた出来事だというのです。
改革というか、そのプロテスタントが生まれて、そのプロテスタント勢がカトリックと戦争をずっとしてる。
深井さんによれば、本格的な戦争が続いたのは百何十年ほどですが、その後も火種が残り続けました。カトリックの世界観や社会システムが現実と合わなくなり、異を唱える人がぽつぽつ現れてエネルギーが溜まっていくイメージだといいます。
カトリック教会はなぜそれほど強かったのか?
深井さんは、カトリック教会は「超強い」と話します。それ以前の改革者はすべて潰されてきたため、宗教改革とは呼ばれていません。ルターのときだけは抑えられなかったのです。
それでもカトリックは強大だったため、プロテスタント側の目標は相手を倒して天下を取ることではありませんでした。深井さんは、三国志の曹操や劉備のような天下取りの感覚とは違うと説明します。
めちゃくちゃカトリック強いから、自分たちの派閥が信仰して生き残る自由さえ与えてくれたら、もう一旦それでゴールなんですよ。
深井さんによると、カトリックはヒエラルキー構造のガバナンスがよく効いた組織で、ある意味ではカトリックという1つの派閥しか存在しません。一方でプロテスタントは、誰かを頂点としたヒエラルキーを作らなかったため、多くの派閥に分かれ、今もさまざまな派閥があるといいます。
与党と野党のような関係かという樋口さんの問いに、深井さんは政党政治にたとえるとおかしくなると答えます。そのうえで、新しい権力の質だと考えたほうがわかりやすいと話します。
深井さんは、権力は背筋力のように1つの尺度で測れるものではないと説明します。「ザラザラした権力」「サラサラした権力」というように質感が違い、ローマ教皇の権力は、これまでのどの権力とも質が違うといいます。
全然ピンとこない。すげえな。
ザビエルが日本まで来たのは宗教改革のせい?
深井さんは、宗教改革の後には社会にとって良いことも悪いことも起きたと話します。社会を良くしようと変えても、良いことも悪いことも起きるというのは、深井さんが番組で何度も語ってきた視点です。
その例として挙げられたのが、イエズス会 ── 1534年にイグナティウス・デ・ロヨラらが創設したカトリックの修道会。海外布教や教育に力を入れ、ザビエルもその創設メンバーの1人ですと、日本に布教に来たフランシスコ・ザビエルです。深井さんは、日本人にとってこのシリーズで一番有名な人物はザビエルだろうと話します。
この人(ザビエル)、なんで日本まで来たかって言ったら、カトリックの権力が弱まった反動でカトリック頑張ったからですよ。
深井さんによると、プロテスタントに押されたカトリックの人たちが奮起する中で生まれたのがイエズス会でした。彼らは、ヨーロッパから見て極東の日本まで、純粋な気持ちでカトリックを広めに来たのです。
プロテスタントの台頭
カトリックがヨーロッパで押される
カトリックの奮起
負けてはいけないと頑張る中でイエズス会が生まれる
世界への布教
極東の日本までザビエルが布教に来る
ヨーロッパで信者を取られた代わりに、カトリックは世界に打って出たと話されています。今の分布図を見ると、中南米などにカトリックが大きく広まっていることがわかるといいます。
回の最後に深井さんは、今日の話だけではモヤモヤすると思うが本番まで我慢してほしいと語ります。次回はローマ教皇の歴史から掘り下げていく予定です。
まとめ
宗教改革編の初回は、宗教改革を「腐敗した教会へのルターの反抗」として片づけず、社会システムの限界に火がついた長期の変革として捉え直す導入でした。信仰が社会の前提だった時代背景、活版印刷、カトリック教会の権力の質、そしてザビエルの来日まで、次回以降の論点が示されています。
- 宗教改革はプロテスタント誕生の話にとどまらず、ヨーロッパの政治体制を変え、絶対王政やフランス革命につながった
- 改革者はルター以前にもいたが、ルターのときにだけ「ガソリンが充満した部屋」に火がつき、全ヨーロッパに広がった
- 当時の信仰は現代のお金に近いほど社会の前提であり、教会を批判することは凄まじい行為だった
- 強大なカトリックに対し、プロテスタントの目標は生き残る自由を得ることだった
- プロテスタントに押されたカトリックの奮起がイエズス会を生み、ザビエルの日本布教にもつながった





