逃亡中のカエサルが払った賄賂は兵士100年分の給料?
前回はカエサルの登場から青年期までが語られ、今回はカエサルが独裁者スッラ ── 共和政ローマ末期の将軍・政治家。独裁官として政敵を処刑リストに載せる粛清を行い、マリウス派を徹底的に弾圧しましたから逃れて亡命する場面から始まります。
楊さんによると、亡命中のカエサルには殺すための追っ手がかかっており、毎晩逃げて移動し続けていたといいます。懸賞金がついていたのではないか、とも言われているそうです。
さらにカエサルは逃亡の途中でマラリア ── 蚊が媒介する感染症で、高熱を繰り返します。古代の地中海世界でも広く見られた病気ですにかかり、苦しんでいたところをスッラ側の百人隊長コルネーリウス・ファギテスに一度捕まってしまいます。
で、カエサルはここで莫大な賄賂を渡すんだって。その額がやばいよ。一般の兵士の100年分の給料。
楊さんは、年収350万円の100年分とすれば3億5000万円ほどになるかもしれないと例えています。どこまで史実かは不明としつつ、カエサルはこの賄賂で窮地を乗り切ったと言われています。
調達できたのがすげえな。
楊さんは、カエサルは金銭感覚がおかしい人で、この後どんどん借金が膨らんでいくと話します。この逃亡劇の時点から、すでにその片鱗が見えるというわけです。
その後、母親が親戚と協力してスッラに嘆願し、カエサルは殺害リストから外されます。それでもカエサルは、スッラが死ぬまでローマには帰りませんでした。
これが実はどれだけ続くかってわかんなかったんですよ。スッラがだってどれぐらい生きるかってわかんないからさ。
アジアでの軍務と、一生ついて回ったニコメデス王の噂
ローマに戻れない間、カエサルはローマが外で行っていた戦争に兵士として参加します。行き先はアジアの属州総督 ── ローマが征服した地域(属州)を統治するために派遣された総督。軍事と行政の権限を持っていましたマルクス・ミニキウス・テルムスの部下でした。
長いローマ人の名前をきっかけに、出演者たちは「キヨノリウス」「ヤンヌス」「リュウノスッラ」と自分たちのローマ風の名前を作って盛り上がります。
カエサルがアジアを選んだのは、父親が10年前にこの地の属州統治に関わっていて、人脈があったからだそうです。カエサルはここで活躍し、勇敢な兵士に贈られる冠を授かっています。
同じころ、カエサルは今のトルコ北部にあたるビテュニアのニコメデス王のもとへ使者として赴き、手厚くもてなされます。ニコメデスはカエサルの父親とも知り合いでした。
どうやらね、一発やってる気がします、カエサル。ローマ人そういうのしないんですよ。
ローマ人はもうアウトなんですよ、男性同士は。
ギリシャ側の文化では男性同士の関係が見られた一方、ローマでは恥ずかしいこととされていました。そのため、カエサルとニコメデス王の関係の噂は、生涯にわたってカエサルを悩ませるスキャンダルになります。
当時の政治の場では、討論や野次で相手の身体的な欠点や性的な嗜好を下品に攻撃することが普通で、それが攻撃力になっていたと説明されます。心が広いカエサルも、この噂を言われたときはかなり怒ったそうです。
ハゲを隠せる市民冠と、スッラの死で終わる苦労時代
楊さんによると、心の広いカエサルにも許せないコンプレックスが2つありました。1つはニコメデス王との噂、もう1つが若ハゲです。
カエサルが授かったのは市民冠と呼ばれる冠で、他のローマ市民の命を守るために自分の命を危険にさらした者にしか与えられない、非常に名誉あるものでした。持つ者はそれを被るのが自然とされていたため、カエサルはハゲを隠せることを喜び、ずっと被っていたといいます。
だからね、カエサルどんだけ立派だって言っても、ヤンヤン以下ですよ。ハゲ気にしてる人。
スタジオでは、何も被っていない楊さん(ヤンヤン)は「防御なし」「市民冠もない」と笑いが起きます。
そうこうするうちに、独裁官を辞めて余生を過ごしていたスッラが病死し、カエサルはついにローマへ帰国します。マリウスとスッラの内紛に巻き込まれ、亡命を強いられた日々がここで一区切りを迎えます。
帰国したカエサルが「ローマ最強」に挑んだ裁判とは
帰国したカエサルは、今でいう弁護士のような仕事を始めます。ローマには専門職としての法律家はいなかったものの、法に則って議論できる人は重宝され、その能力は政治家の能力と同じものと見なされていました。
楊さんは、平民出身で執政官まで上り詰めたキケロ ── カエサルと同時代のローマの弁論家・政治家。名門の出ではないものの、弁論の力で執政官(コンスル)にまで出世しましたを例に挙げ、弁論家として活躍することが出世の手段の1つだったと説明します。
若手政治家が名前を売る定番は、有名な政治家に汚職や失敗を理由に裁判をふっかけることでした。カエサルが訴えたのは、マケドニアの属州総督ドラベッラ。その弁護団は当時ローマ最強と言われる人たちで、勝訴した例はほぼありませんでした。
どこまで行けるかみたいなのに多分チャレンジしたんでしょうね。
カエサルはこの裁判に負けますが、後に出版された弁論を読んだキケロらが「負けたけど相当天才だ」と評価し、カエサルは一躍有名になります。楊さんはこれを、ラグビーのオールブラックスにいきなり挑んで、いい試合をして負けるようなものだと例えています。
ただし喧嘩を売った相手が悪く、カエサルは元老院 ── 共和政ローマの最高諮問機関で、有力な貴族出身者で構成されました。実質的に国政を動かす権力の中心でしたから睨まれ、またもローマを離れることになります。
身代金を「倍にしろ」とキレた海賊事件
ローマを離れたカエサルは、修辞学を学ぶ名目でロードス島に留学し、名高い教師アッポロニオスに学ぼうとします。ところが、その途中で海賊に捕まってしまいます。
楊さんの説明では、陸軍国家のローマが海軍の強い王国を次々と滅ぼした結果、海に海賊がはびこるようになっていました。ローマの征服で生活基盤を失った人が海賊になったことや、ローマのライバルだったポントス王ミトリダテスが海賊を支援していたことも、海の治安悪化の背景として語られます。
海賊はカエサルに20タラントン書き起こしでは「二重タラントン」という膨大な身代金を要求します。するとカエサルは逆に怒り出しました。
倍以上あるつって身代金が倍以上になります。
カエサルは一緒にいた奴隷たちを使いに出してお金を借り集め、50タラントン書き起こしでは「五重タラントン」を支払います。楊さんは、5000万円ほどを要求されて「俺の身代金はそんな安くない」と1億円ほど集めて渡すようなものだと例えています。
38日間ほどの人質生活でも、カエサルは寝るときに海賊がうるさいと注意するなど、海賊をまるで護衛のように扱ったと伝えられています。冗談で「身代金を払った後に攻めてきて、全員磔にしてやる」と言い、海賊たちと笑い合っていたそうです。
捕縛
ロードス島への留学途中、海賊に捕まる
逆ギレ
要求された身代金に怒り、倍以上に引き上げさせる
人質生活
38日間ほど、海賊を護衛のように扱い「磔にする」と冗談を言う
報復
解放後に軍隊を率いて攻め、海賊を処刑し身代金を奪い返す
解放されたカエサルは冗談を本当に実行し、軍隊を率いて海賊を攻めて全員を処刑し、身代金を奪い返して貸してくれた人たちに返します。その地域の属州総督が処罰を認めなかったにもかかわらず、勝手に処罰したといいます。
これなんか晩年でもやっぱこの気質変わってないなと思って。権力握りきった後、確かにこんな感じなんだよね。でも自分の下の人とかには超優しい。
楊さんは、自尊心を傷つけたりバカにしたりしてくる相手は徹底的に叩く一方で、部下には優しいという気質が、カエサルには生涯一貫していたと見ています。
コネで就いた神官職から、軍団副官への初当選まで
ロードス島に到着したカエサルは、アッポロニオスのもとで優秀な学生として学びます。しかし留学中に、ローマで神官職に任命されます。
この神官職は、以前に登場したフラーメン・ディアリスのような宗教にどっぷり入る役職ではなく、もっとライトなものでした。神官職に就いていた親戚が亡くなり、その欠員を血縁で補う形で、コネクションによって入ったと考えられています。
カエサルは学業を中断してローマに戻り、神官職を務めながら初めて公職選挙に立候補します。当選して就いたのは軍団副官で、戦争で部下を率いる立場の、選挙で選ばれる低い職でした。
ちょうどこのころ、剣闘士スパルタクスが扱いの悪さに耐えかねて奴隷反乱を起こし、ローマは大混乱に陥っていました。カエサルもこの戦争に恐らく参加しています。
この反乱の鎮圧で大活躍し、ヒーローとなったのがクラッススとポンペイウスです。後にカエサルはこの2人に並ぶ3人目となりますが、この時点のカエサルはほぼ無名の一軍団副官にすぎませんでした。
ポンペイウスとクラッススの妻も?人妻好きのカエサル
楊さんによると、この頃からカエサルは女性関係で名を馳せていました。ポンペイウスの妻もクラッススの妻もカエサルが寝取っており、元老院のほとんどの議員が妻を寝取られていたとまで言われているそうです。
基本的に元老院のほとんどの人が妻を寝取られてるって言われてます。人妻が好きなんです、カエサルって。
愛人の中でも長く続いたのがセルウィリアという女性で、その息子は後にカエサルを刺し殺すブルートゥス ── カエサル暗殺の中心人物の1人。暗殺の場面で語られる「ブルートゥス、お前もか」という言葉で知られていますでした。
後にカエサルはクラッスス、ポンペイウスと三頭政治 ── カエサル、ポンペイウス、クラッススの3人による政治同盟。元老院に対抗して実権を握りましたを組みますが、2人とも妻との関係は公然の秘密として知っていたはずだと楊さんは話します。
楊さんは背景として、当時の結婚観を紹介します。妻は愛情の対象ではなく、家族として子孫を残す相手であり、妻に肉体的な快楽を求めるのははしたないこととされていました。
子孫を残すための家族。快楽を求めるのは恥ずべきこと
性的な対象としてOKとされた。教養ある高級娼婦への贈り物は男の甲斐性とされた
今の感覚で見ればひどい話ですが、文化もルールも違う人たちの間で起きていたドロドロの関係だ、と出演者たちは受け止めています。その中でもカエサルは、群を抜いた女たらしとして有名でした。
ベルトを緩めた「カエサルファッション」とブランディング
楊さんは、女性関係と並ぶカエサルの特徴として、おしゃれだったことを挙げます。政治も戦争も弁論もでき、人徳もあり、そのうえおしゃれとなれば、モテるのも当然だというわけです。
カエサルはベルトをわざと緩く締めて着崩したり、袖に小物をつけたり、髪を細かく手入れし、ひげをきれいに剃ったりと、異常なほど身だしなみに気を使ったと伝わっています。男らしさを重んじるローマでは女々しいと批判されましたが、カエサルはそれを自分のスタイルとして政治の場にも出ていったそうです。
自分がどう見られるのかっていうのをすごく意識した人なんだと思います。
後に書かれるガリア戦記 ── カエサルがガリア(現在のフランス周辺)遠征の様子を自ら記録した書物。簡潔な文体で、ラテン語散文の名作とされていますでは、一人称が「私」ではなく「カエサルは」になっていることも話題に上ります。スタジオではこれを「矢沢は」と語る矢沢永吉さんやギャルの話し方に重ね、笑いが起きました。
自分がその、この共和政を倒しに行くにあたって、どういう役割で、どういうポジションで何をしないといけないかっていうのは、かなり計算しながら直感でも動いてるっていう感じが。
カエサルは自分自身を1つの役として見ていたのかもしれない、という見方も出ます。政治家という偶像を演じ尽くした人物として、カエサルの後の民衆人気にもつながる資質がここで示されています。
まとめ
今回のカエサル編第5回では、亡命から政界入りまでの若きカエサルが、命がけのリスクを取り続けながら、自分の見せ方を磨いていく姿が描かれました。
- スッラからの逃亡では、兵士100年分の給料とも言われる賄賂で窮地を脱したとされる
- ローマ最強の弁護団への挑戦や海賊への報復など、負けや危険を恐れないリスクテイクが際立つ
- ニコメデス王との噂と若ハゲという2つのコンプレックスを抱え、市民冠でハゲを隠していた
- 人妻好きで知られ、当時のローマ独特の結婚観のなかでドロドロの関係を築いていた
- ファッションやガリア戦記の書き方に、自己ブランディングの巧みさが表れている





