鎮静剤を打たれた次の瞬間、何が起きた?
コテンラジオの番外編のこの回は、老子 ── 古代中国の思想家とされる人物。道家の祖とされ、作為を捨てて自然に任せる「無為」を説いたとされますと荘子のシリーズを収録した後に録られています。深井さんが不在の理由も、2人は「無為が継続中」と冗談めかして説明しています。
テーマはヤンヤンさんが持ち込んだ「言葉を失った体験」です。ヤンヤンさん本人は、世界にとってはどうでもいいけれど、自分にとっては言葉を失うほどの体験だったと前置きします。
ヤンヤンさんは胃腸に気になるところがあり、初めて内視鏡検査を受けることにしました。えずく、恥ずかしい姿をさらすといった悪いイメージがあったため、鎮静剤を使って短時間で終わらせてくれるクリニックを選んだそうです。
検査の前には下剤を決まった間隔で飲み、腸の中身を出し切る準備もしました。当日は着替えて名前を呼ばれるのを待ち、ドラマで見る手術室のような処置室の台に横になったといいます。
看護師や医師がバイタルの機器を付け、注射を打ち、医師が鎮静剤を入れると告げます。体を横向きにされた次の瞬間、ヤンヤンさんは目を覚まし、なぜか個室で1人で寝ていたそうです。
あ、だからもう麻酔みたいなことで。
ヤンヤンさんによると、目覚めたときには、自分の過去の経験の中にこの状況を合理的に解釈できるデータが1つもなかったそうです。SF映画で冷凍保存から目覚めたら数億年後だった、という場面のような感覚だったと表現しています。
だから感覚的には時間が飛んでジャンプした感じですか?
ヤンヤンさんは、普段の睡眠とは違うと強調します。寝て起きたら朝になっているのは、眠ることに慣れているので自然に理解できます。一方で麻酔は、「横にしますね」の次がいきなり見知らぬ天井でした。
寝る行為に慣れているため、起きて朝になっていても「寝ていたんだ」とすぐに理解できる
横向きにされた次の瞬間に個室で目覚め、過去の経験では状況を解釈できず、脳がフリーズした
だから人間がいかにずっと連続的に認識が途切れずに起きてる間、なんか意識が途切れないかっていうのがすごいですよね。
ヤンヤンさんは「人間の時間をコントロールできる麻酔はすごい」「人類は恐ろしいものを開発した」と話し、この体験を誰かに話したくてたまらなかったと振り返ります。
小学生の樋口さんが倒れた日、そして20歳で知らされた事実
麻酔の話を受けて、樋口さんは気を失った自分の体験を話し始めます。小学3、4年生ごろの朝、ひどい腹痛で目を覚まし、1人でトイレに行くと水のような下痢が出たそうです。
寝室戻って、あのちょっとお母さんちょっとさ、今さっきトイレ行ったらって言った瞬間に息できなくなって。そのまま気失って。
樋口さんが気づいたときには病院にいて、当時は食中毒だと説明されたといいます。ただ、その後は定期的に脳波を取られ、抗生物質のような薬を毎日飲まされていたそうです。
樋口さんが真相を知ったのは20歳のときです。父親と2人で車に乗っていたとき、「20歳になったからそろそろ言ってもいいと思う」と切り出されました。
いや、実はあの時食中毒っつってお前言われよったと思うけど、いまだに原因分かってないんよって言われて。
樋口さんの両親は、本人がパニックにならないよう食中毒ということにして検査を続けていたようだ、と樋口さん自身は推測しています。子どもだったので疑う発想もなかったと話しています。
樋口さんは冗談として、iPhoneの方位磁石アプリがまともに動かないのは体に何かが埋め込まれているからでは、と続けます。ヤンヤンさんも乗っかり、気絶している間にOSが入れ替わったのかもしれない、別の世界に移ったのかもしれない、と話を広げます。
僕は今蝶ですか?
樋口さんの「僕は今蝶ですか?」は、荘子の胡蝶の夢 ── 荘子の寓話。夢で蝶になった荘子が、目覚めた後に自分が蝶の夢を見た人間なのか、人間の夢を見ている蝶なのかわからなくなる話ですを踏まえた一言です。ヤンヤンさんは万物斉同 ── 荘子の思想で、あらゆる物事は本来区別のない同じものだとする考え方。善悪や是非の対立も相対的だとみなしますを持ち出し、樋口さんはこの世界を楽しんでいるのだから、どちらの世界でもいいのでは、と返しています。
運転中に意識が「飛ばない」自信はどこから来るのか
意識の話の続きとして、樋口さんは車を運転しているときにふと感じる疑問を話します。時間は本当に連続しているのか、意識は飛んでいないのか、という疑問です。
運転中に例えば2秒間意識が飛んだらもう終わりじゃないですか。高速道路で100キロ出して。
絶対意識連続させれる自信があるから車乗れてるなと思う時あって。
樋口さんは、そこを疑い出すと怖くなるので考えないようにしている、と付け加えます。ヤンヤンさんは、意識が連続しているかどうかは誰かが問いとして追求していそうだと応じています。
クラウドファンディングが24時間足らずで達成?
ヤンヤンさんに最近の衝撃を聞かれた樋口さんは、いいかねパレットのクラウドファンディングを挙げます。収録日は9月18日で、クラウドファンディングは8月のお盆ごろに始まり、まだ募集期間中でした。
いいかねパレットの運動場はでこぼこがひどく、雨の日にはジャングルのようになって、車を止められない状態だったそうです。樋口さんはこれまで、運動場より施設やサービスの質を上げることを優先してきました。しかし、運動場も実はとても大事だと気づかされたといいます。
運動場を直すため、目標金額は500万円に設定されました。詳しい経緯は、樋口さんと青柳さんのYouTubeチャンネル「いいかねパレット通信」で1時間ほど話しているそうです。
最初の数十万、100万ぐらいまでってめちゃくちゃ嬉しいです。やっぱり。うわ、こんなに多くの人が。
200万、300万超えた頃から若干ちょっともう恐怖というか。何が起きてるのって。
樋口さんは、いいかねパレットの代表を青柳さんに任せている立場です。それでも、いいかねパレットは「自分が腹を痛めて産んだ子ども」のような存在だといいます。その子どもへ支援がどんどん集まることに、背負いきれない感覚を覚えたそうです。
翌朝の時点で集まった額は400万円ほどでしたが、午前10時ごろには目標を達成しました。CAMPFIRE ── 日本の大手クラウドファンディングサービス。地域活性化や社会活動、ものづくりなど幅広いジャンルのプロジェクトが掲載されていますの地域創生のジャンルでは、ランキング1位にもなったといいます。樋口さんは、このときは口あんぐり状態で言葉を失ったと振り返っています。
「もう止めよう」と言い出した青柳さんに返ってきた言葉
代表の青柳さんは、樋口さん以上に動揺していたそうです。500万円を達成したら次のゴールを1000万円にすると事前に決め、その使い道も用意していました。それでも、支援の勢いは止まりませんでした。
うちDiscordでやりとりしてるんですけど、その社内の連絡事を。ちょっと待って、もうこれ止めよう、止めようってなってて。
青柳さんは、いただきすぎるのも良くないのでは、と考えたようです。コンサルとして関わるワンソードの阿部さんや社内、クラウドファンディングの支援担当者にも相談しましたが、誰一人として賛成しなかったといいます。
「止める理由なんすか?」みたいな。「背負いきれなくなってるだけでしょ」みたいな。
樋口さんと青柳さんは、2000万円集まったとしても足りているのか、という話も改めてしました。樋口さんの答えは「全然足りない」というものでした。
樋口さんによると、廃校時代から使い続けている消防設備や排水系の設備は古くなっています。下水がないため浄化槽で浄化して排水していますが、その設備も本当は交換しなければならない時期に来ているそうです。体育館の雨漏りも直せていないといいます。
そんなん全部直し出したら実はね、数千万余裕でいくんですよ。
こうした事情から、2人は支援を「お気持ち」としてありがたく受け取り、最後まで走り切ると決めました。こうして青柳さんも落ち着きを取り戻したといいます。
1200万円はいったい誰への支援なのか?
収録時点で集まった金額は1259万9330円です。1000万円を超えたときには腹が据わっていて冷静だった、と樋口さんは話します。今はむしろ2000万円を目指したいそうです。
樋口さんは、この1200万円について、最初は自分や青柳さんがもらっているような感覚になりがちだったと打ち明けます。しかし今は、その受け止め方が変わったといいます。
樋口さんの今の考えでは、このお金はいいかねパレットのため、運営するBOOK ── 樋口聖典さんと青柳さんが代表を務める会社で、いいかねパレットを運営していますのため、そして田川のためのものです。さらに、成果を残して地域の希望になり、自分たちのやり方がお手本として横に広がるためのお金だと捉えています。
自分や青柳さんがお金をもらっている感覚になりがちで、背負いきれない怖さがあった
活動の社会的意義やこれまでの実績への信頼に払われたお金だと捉え、「もっとください」と自信を持って言える
樋口さんは、お金をもっと集めたほうが社会のためになると思えているので、今は「もっとください」と自信を持って言えるそうです。
ヤンヤンさんも支援者の1人です。ヤンヤンさんの支援には、活動への共感や恩返し、パレットへの思い入れ、樋口さん個人への友情が混ざっているといいます。他の支援者の動機もきれいに分けられるものではないだろうとしつつ、これは素敵な物語だと語っています。
大金は身を持ち崩すのか?冗談から見えたお金の行き先
ヤンヤンさんは冗談半分として、大金を受け取って身を持ち崩す現象は歴史上のケーススタディにもよく出てくる、とコテンラジオらしい視点を出します。BOOKではどうなるのか、少し想像してしまうそうです。
よし、とりあえずこの金使って板のスナック飲み行きましょう。
樋口さんはまず冗談で返しました。そのうえで「ガチで言っていいですか」と前置きし、集まった額は会社の借金から見れば全然足りないので大丈夫だと答えています。
樋口さんの説明によると、借金は株式会社BOOKのもので、クラウドファンディングのお金も会社に入ります。樋口さん個人は借金を持っておらず、一部の保証人になっているだけだといいます。
いやだから実はね、これだから1200万本当に手元に入るわけじゃなくて。
500万円は運動場の工事に使い、手数料も差し引かれます。1000万円分の使い道もすべて明示しているため、お金は基本的に手元に残らないそうです。
ヤンヤンさんはさらに、借金返済のクラウドファンディングを立ち上げたらどれくらい集まるのか、と想像を膨らませます。樋口さんは、会社の借金を返すクラウドファンディングは聞いたことがないと応じます。ヤンヤンさんは、面白そうだから自分は支援すると話しています。
支援者の多くは、コテンラジオを知らない人たち?
樋口さんがコテンラジオでどうしても伝えたかったのは、支援者の顔ぶれです。支援者数は収録時点で836人に上り、CAMPFIREのサイトにはコテンラジオと関係のない人からのコメントも数多く寄せられているといいます。
いいかねパレットがもう本当に立ち上がって、2017年にオープンしてから今までずっとしてきた活動の中で、本当にものすごい多くの人に出会って、もうお世話になってるんですよ。
コメントには、「パレットを応援します」「青柳さんを応援します」という声や、スタッフの名前を挙げてお世話になったと書くものもあるそうです。支援者には、長期滞在していた人やイベントに関わった人、地域の人が多く含まれているといいます。
実はリアルに支援してくれてる人って、本当にずっと頑張ってきたパレットの近くにいるんですよ。パレット育ってますっていうことをここで言いたかったんです。
ヤンヤンさんは、インディーズ時代から応援してくれているファン以上の存在だと表現します。そのうえで、「やっぱり人為はいい」と、老荘の回を踏まえて冗談を交えます。
ヤンヤンさんによれば、人間の努力がエモさを生み、バトンのように人へ渡っていくのだそうです。樋口さんも、営みがずっと紡がれていると感じたと応じています。
コメントを書かない深井さんが体現する「無為」とは?
最後に樋口さんが触れたのは、不在の深井さんのことです。関係者が次々と応援コメントを寄せるなか、深井さんだけはまだクラウドファンディングのサイトにコメントを書いていないそうです。
深井さんずっと、あ、やべえ書かなきゃ。やべえタイミング逃した。やべえ1000万いったら書こう。やばい、いっちゃった。
ヤンヤンさんによると、深井さんはXで「むしろ書けないことが面白い」とつぶやいていたそうです。ヤンヤンさんは、コメントを書くことは人為的な行為であり、書かないことで無為を体現しているからこそ、深井さんの存在感が際立つのだと冗談めかして解釈しています。
すごいですよね、ないをすることによって、ある。
樋口さんは、配信されるころにはコメントが届いているかもしれないと話します。ヤンヤンさんが「深井くんからは言葉を与えてもらえない」と締め、「言葉を失った瞬間」をテーマにしたこの回は終わります。
まとめ
この回は、「言葉を失った瞬間」というテーマから、麻酔や気絶で意識が途切れる不思議さへ話が広がりました。後半は、いいかねパレットのクラウドファンディングが想定を超えて集まったときの戸惑いと、支援の意味を捉え直すまでの過程が語られました。
- ヤンヤンさんは内視鏡検査の鎮静剤で時間が飛び、睡眠とはまったく違う、解釈不能な目覚めを経験した
- 樋口さんは小学生のときに原因不明の気絶を経験し、真相を20歳で父親から知らされた
- いいかねパレットのクラウドファンディングは目標500万円を24時間足らずで達成し、収録時点で1259万円を超えた
- 樋口さんは、集まったお金を自分への小遣いではなく、活動への信頼と地域のためのお金だと受け止め直した
- 支援者の多くは、コテンラジオ経由ではなく、いいかねパレットの活動を通じて出会った人たちだった





