ベルリン陥落、ヒトラーはどう最期を迎えたのか
ヒトラー編の前回は、ユダヤ人などの虐殺であるホロコーストという重いテーマでした。今回はその続きとして、第二次世界大戦の終盤にヒトラーがどうなっていったのかが語られます。
深井さんによると、ソ連をはじめとする連合軍がベルリンへ攻め込むなか、ヒトラーは地下に隠れて数日を過ごしました。映画にもなっている場面です。
終盤のヒトラーは打つ手がすべて後手に回り、事態は悪い方向へ収束していきました。深井さんは、もし本当に戦略のスキルがあったなら違う結果になっていたはずだと見ています。
最終的にヒトラーは、愛人であり恋人でもあったエファ(エバ)とともに自殺し、遺体は燃やされました。側近のゲッベルス ── ナチス・ドイツの宣伝大臣。ラジオや映画を使ったプロパガンダを指揮し、ヒトラーの権力掌握と戦争遂行を支えた中心人物ですも、子どもを含む家族とともに命を絶っています。
ベルリン陥落の際には略奪や性暴力も多発し、深井さんは「最悪」と言葉を重ねます。その後ドイツは降伏し、数か月後に原爆が落とされて日本も降伏しました。
全てがきついな。
全部きつい。
深井さんは個人的な見方として、ヒトラーには破滅思考があったと話します。勝てなくなると「勝てないならドイツは滅んでしまえ」という考えが、言葉の節々に出ていたといいます。
晩年のヒトラーはなぜ覚醒剤漬けになったのか
深井さんがヒトラーを「優秀」とは絶対に言わない理由も、この終盤の振る舞いにあります。ヒトラーは戦争後半、優秀な陸軍の将軍を降ろし、経験も実績もないまま自分で指揮を執ろうとしました。
ノルマンディーで敗れたころから、ヒトラーの精神はひどく不安定になります。そして晩年のヒトラーは、覚醒剤に依存した状態になっていました。
覚醒剤打ってるんですよ、彼。実は意図して打ってるわけじゃなくて、主治医が勝手に覚醒剤打ってるんですけど。
ヒトラー本人は、気付け薬や「夜寝れないから薬がほしい」という程度の感覚で、毎朝主治医から注射を受けていました。ところが、その中身が覚醒剤だったというのです。
えー、それ悪意があるんですか?主治医は。
主治医なんかバカなんですよ。だからそういう人(を)主治医にしてるのもダメだし。
深井さんが強調するのは、独裁体制という構造の危うさです。ドイツはヒトラーの言うことがすべての国になっていたのに、そのヒトラー本人が薬物中毒だったことになります。
ドイツって独裁政権になって、ヒトラーが言うことが全部なのに、そいつがヤク中なわけ。
この状態のまま戦争は敗北へ向かい、日本・ドイツ・イタリアが敗れました。深井さんは、今の世界はその延長線上にあると話します。
深井さんはヒトラーの人生を振り返り、オーストリア生まれの、ドイツにとっては「外国人」のニートだった一人の男が、ドイツをめちゃくちゃにしたのだとまとめています。
独裁者とは何か、どんな時代に現れるのか
ヒトラーの一生を追い終えた樋口さんは、ヒトラーに限らず、独裁者はどんな時代背景で出てくるのかと問いかけます。深井さんは、まず「独裁者とは何か」の定義から話を始めました。
深井さんによると、織田信長は独裁者ではなく殿様です。君主制の国で王様が権力を握るのは自然なことなので、それを独裁者と呼ぶと、すべての王様が独裁者になってしまいます。
独裁者と呼べるのは、民主主義国家の中で三権分立 ── 司法・行政・立法の3つの権力を別々の機関に分け、互いに抑制させる考え方。18世紀フランスの思想家モンテスキューが『法の精神』で唱えましたが機能しなくなり、3つの権力を1人が握って、しかもその人を降ろす仕組みが存在しない場合だと深井さんは説明します。
深井さんは、ヒトラー、ムッソリーニ、金正恩を例に挙げます。一方で中国については、樋口さんが「組織が独裁している感じで、ヒトラーのように主席が好きなようにはできない」と述べ、深井さんも君主制に近いと応じています。
独裁者の出現には共通の傾向があると深井さんは言います。古代ギリシャの民主制で台頭したテミストクレス ── 古代アテネの政治家・軍人。ペルシア戦争で海軍を整備し、サラミスの海戦の勝利に導いたことで知られますも、ヒトラーと似た現れ方をしていたそうです。
危機的状況
社会がみんな困っている状態になる
期待の集中
能力が高そうな人に全権を委ねれば脱せると考える
権力の委任
頼れる人物に権力を渡してしまう
独裁の成立
3つの権力を握り、降ろす仕組みのない状態になる
ただしヒトラーには、ほかの独裁者と違う点がありました。カエサルやナポレオンには戦争に強いといった実績がありましたが、ヒトラーはそうした能力を持たないまま、その地位に就けたのです。
ヒトラーのやべえところは、この時代がちょうどプロパガンダとかラジオとかが出てきた時代だったんで、話す能力あればそこに行けちゃうっていうのがやばいわけです。
今の時代について、深井さんは「現政権を独裁と簡単に言う人もいるが、自分は独裁だとは思わない」と述べます。司法・立法・行政が分離されているうちは大丈夫だという見方です。
樋口さんは、今の社会はメディアやネットの情報を100%は信じない姿勢があり、それが抑制力になっていると考えます。マスメディアが出てきた当初は、何が嘘で何が本当かを判断するのが難しかったのではないか、というのが樋口さんの見立てです。
深井さんは、環境がつらい時ほど人の判断力は落ち、強くシンプルなメッセージに流されやすくなると話します。その傾向を示す例として、深井さんは今のアメリカとトランプ大統領を挙げました。
民衆が恐怖を抱えている時に、その恐怖を攻撃的に克服しようとする人たちが独裁者。僕はトランプが独裁者だなんて全く思ってないけど、その恐怖っていうところが共通点ですよね。
独裁はうまくいくのか、民主主義は何のためにあるのか
樋口さんは「独裁政治でめちゃくちゃ成功した例はあるのか」と尋ねます。深井さんは、古代には成功例がいくらでもあるものの、民主主義の中で独裁体制を築いてうまくいった近代の例は、あまり思い当たらないと答えました。
樋口さんは、優秀な人が独裁者になれば、その人が政権を握っている間は良いかもしれないと考えます。ただ、その仕組みのまま2代目、3代目になると、優秀でない人が就く可能性が高くなります。
深井さんは、そのリスクは君主制とまったく同じだと応じます。樋口さんは会社にも、初代社長のもとではうまくいったのに2代目でぐちゃぐちゃになる例があると重ねました。
深井さんはローマの例を挙げます。元老院のある一応の民主制だったローマで、優秀で人気のあったカエサルが皇帝のような存在になり、その後も皇帝が続きました。ローマは比較的うまくいった例ですが、システムだけが残って失敗する例もあると話します。
独裁のシステム一回作っちゃうとやめれないんですよ、途中で。その本人が、独裁してる本人がやめるって言わない限りやめれないから。
危機を乗り越えるための独裁は、数世代先に大失敗する可能性を抱えています。そこから深井さんは、今の民主主義がなぜ今の形になっているのかが見えてくると話します。
楊さんも、ある程度バカでもシステムが動いている限りなんとなくやっていけるのが民主主義だと続けます。民主主義は、最高ではなく最悪を避けるための仕組みだという整理です。
一方で深井さんは、最大のパフォーマンスを出すのは君主制や独裁政権だとも話します。会社でも、中途半端な人が合議するより、センスのある優秀な人がどんどん決めたほうが伸びるからです。
最悪の事態が起こらないように設計されている。能力が高くない人がいても大崩壊しにくい
優秀な人が決めれば最大のパフォーマンスが出る。ただし後継者や暴走で大失敗するリスクがある
樋口さんがスタートアップの社員数人までなら独裁的な運営が合うかもしれないと言うと、深井さんは500人でも1500人でも独裁体制のほうが良いと思うと返します。社員の投票で会社の方針を決めていたら、おそらく潰れるというのが深井さんの考えです。
ヒトラー編を終えて、歴史を学ぶ意味とは
エンディングで樋口さんは、今回のヒトラー編は天皇について話した回と同じくらい疲れたと振り返ります。ただ、天皇回は頭を使った疲れだったのに対し、ヒトラー編は感情に来る疲れだったといいます。
樋口さんは、シリーズ前半はテンションが上がって面白がっていたものの、ホロコーストの話で一変したと話します。深井さんは、さらに心に刻みたい人には映像で見てほしいとしつつ、映像はより一層しんどいと付け加えました。
やっぱああいうのを見ると、本当に政治家の人は戦争やろうって言わないでほしいと思う。
人間の感情としてやっぱね、いけないことなんだな、人が死ぬのって思ってしまいますよ。
樋口さんは、歴史を知って過ちを繰り返さないという、学校で歴史を教える理由を、この年齢になってリアルに感じたと語ります。深井さんも「今回は面白おかしくないやつでした。こんなのもあります、歴史は」と締めくくりました。
楊さんは、その時代になれば誰にでも起こりうるかもしれないと話します。樋口さんも、独裁に向かう姿は国だけでなく、家族や会社、自治体のような小さな単位でも起きているのではないかと指摘しました。
恐怖で動くか、愛で動くか
深井さんはベンチャーで働く立場から、ヒトラーの事例は「恐怖」を前提にみんなが動いた事例だと見ています。ドイツ人もイギリス人もフランス人も、何かを恐れて行動していたというのです。
対照的な人物として深井さんが挙げたのが、同時代のガンディー ── インド独立運動の指導者。非暴力・不服従を掲げ、武力に頼らずイギリスからの独立を目指す運動を率いましたです。ガンディーは武力を使わず暴力をしない道を選び、人々をその方針に従わせました。
怖がってないんですよ。
愛だよね。
愛なんですよ。この(恐怖と愛の)違いでけえと思った。
深井さんによると、会社でも同じことが言えます。給与が下がる恐怖や評価されない恐怖で動く人と、愛で動く人とでは、周りに与える影響の質がまったく違うといいます。
給与が下がる、評価されないといった恐れから行動する。ヒトラー時代の各国の人々の動き方
恐れを持たずに行動する。暴力を使わない選択を貫いたガンディーの動き方
楊さんは、自分や他人のエネルギーの根底にあるのが愛なのか恐怖なのかを、客観的に見つめる姿勢が必要だと話します。
深井さんがこうした事例から学んだのは、経営や人生の重大な決断のときに、その選択が愛からか恐怖からかを見つめることでした。ただし「そんな高尚な人間じゃないのでできないけど、見つめるようにはしている」と率直に添えています。
樋口さんは、自分はネガティブなモチベーションを多用してしまうと打ち明けます。ダイエットでも「食ったら切腹」というルールで自分を縛ってしまうそうで、深井さんはそれを「ストイック系」と表現しました。
樋口さんは最後に、本当は楽しさや幸せをモチベーションにしたほうがいいと思ったと語り、ヒトラー編は幕を閉じます。
まとめ
ヒトラー編の最終回は、覚醒剤に依存した独裁者のもとで国が破滅へ向かった最期を振り返り、そこから独裁と民主主義の本質、さらに人を動かす恐怖と愛の違いへと話が広がりました。
- 晩年のヒトラーは主治医に毎朝覚醒剤を打たれ、すべてを決める独裁者が薬物中毒という状態だった
- 独裁者は危機的状況で全権委任が求められるときに現れやすく、ラジオとプロパガンダの時代は話す能力だけでその地位に就けた
- 独裁は一度作ると本人がやめない限り止められず、数世代先に大失敗するリスクを抱える
- 民主主義は最高の政治ではなく、最悪の事態を起こさないために設計されていると深井さんは語る
- 恐怖で動くか愛で動くかで、人や社会への影響の伝わり方が変わるという視点が示された





