年を取ると時間が早くなるのはなぜか
番組は54回目を迎え、ちょうど一年ほど毎週続けてきた計算になります。二人はまず「この一年が体感としてとても早かった」という話から入ります。年を取るごとに一年が早く感じられるのはよく言われることですが、小笠原さんはそれを別の角度から掘り下げます。
この世界は空間と時間からなる時空間です。空間の「1センチ」は年齢で変わらないのに、なぜ時間だけは年を取ると早く感じられるのか。単なる情報の蓄積だけでは説明しきれないのではないか、と小笠原さんは疑問を投げかけます。さらに「AIにとっての時間とは何か」という問いにも話は広がります。
木原さんは、締め切りが決まっていると時間の体感が早くなると語ります。小笠原さんはさらに「三分以内にやれと言われる」のと「三分以内にやると決める」のは同じ三分でも違う、と指摘します。時間は与えられ方によって体感が変わる、というわけです。
年で時間が早くなるってことは、時間はみんなにとって等価ではないってことですよね。
AIの軍民両用というライン
本題は2026年3月11日時点での「AI」がテーマです。二人が衝撃を受けたのは、日常的に使われるAIモデルが軍事行動の判断に使われていたという話でした。小笠原さんによれば、Palantir米国のデータ分析・ソフトウェア企業。安全保障・防衛分野やインテリジェンス領域での活用で知られる。ここでは軍事関連の判断にAIモデルを利用していた文脈で語られている。が使っていたモデルがClaudeAI企業Anthropicが開発する大規模言語モデル。ChatGPTなどと並び、ビジネス用途でも広く使われている。書き起こしでは「クラウド」と表記されているが正式にはClaude。だったことで、軍事行動の判断にそのAIが関わったことになります。
小笠原さんはこの線引き自体を支持派だとしつつ、それによってAnthropicがアメリカ政府から市場で不利な立場に置かれた点を問題視します。倫理を通そうとすると「お前らはダメだ」と言われかねない、その構図こそ怖い、というわけです。一方で木原さんは、こうした判断を賞賛する人が増え、逆にユーザーが増える動きもあると指摘します。ただし小笠原さんは、それが本当にユーザー増加なのか、他社への反感が生まれただけなのかは、まだ判断できないと慎重です。
技術には常に平和利用と軍事利用の両面があります。ただし小笠原さんは「順番」に注目します。かつては軍事技術が民間に転用される、あるいは民間の探求が軍事に転用される、という時間差がありました。電子レンジのように、戦争が終わってから飛行機で温かい食事を提供するために使われた例もあります。ところが今のAIは、平和利用と軍事利用が同時並行で進化している点が大きく違うのです。
軍事技術 → のちに民間へ転用(例:電子レンジ)。あるいはその逆。「平和利用」という言葉で受け止められた。
平和利用と軍事利用が同時に進化。民間で使うClaudeと軍事判断に使われるモデルが同じ。
木原さんは、日常でAIを使う多くの人が、それが人の命に関わる判断にも使われているとは意識しないだろうと語ります。自動車のように「扱いを間違えると事故になる」というレベルの話ではなく、日常使いの中では気づきようがないのです。
AIが進化しても人は働くのか
話は「働く」というテーマに移ります。木原さんは、AIがどれだけ進化しても人は働くし、やりがいを求めると考えています。AIに任せられることであっても、あえて仕事を生み出していくのが人間ではないか、というのです。
興味深いのは、木原さんの働くモチベーションが「より良くしたい」とは別のところにある点です。より良くする観点ではAIの方が優れているかもしれない。だからこそ「自分がやった方が良くなる」という次元ではない働き方をするだろう、と語ります。誰かに認められたいというより、自分に対する目標の達成や成果への欲求です。小笠原さんはそれを「アスリート的」と表現します。
AIに任せるんじゃなくて、僕がやった方がより良くなるという次元じゃない働き方をすると思います。
小笠原さんは、それが「お金に余裕がある人の働き方」に近いと指摘します。二人が思い描くのは、働くことがより選択制になり、趣味やボランティア、コミュニティ活動に近づいていく未来です。ここで小笠原さんは、イーロン・マスクテスラ・SpaceXなどを率いる起業家。AIとロボットが人々の望む商品・サービスを提供する未来像を語っており、番組ではその発言が引用されている。が語る未来像に触れます。
この「虹色の未来」では、生活に必要なものは足りているため、働くことは貨幣による評価とは切り離されます。そうなると木原さんにとって仕事は「面白いゲーム」ではなくなるかもしれません。木原さんは貨幣そのものにこだわっているわけではないものの、権限や影響力、そしてついてくる貨幣を求めるのは、それが他のものに交換できる「中間プロトコル」であり、選択肢を広げてくれるからだと整理されます。
木原さんはここで一つの問いを投げます。生活のために働く人と、やりたいから働く人。手を抜いても生活に困らない状況で、組織としてどちらが健全なのか。小笠原さんは「健全をどこに置くか」次第だと答えます。コントロールしたい側にとっては、生活のために働く人の方が動かしやすい。しかしその前提こそ、AIによって崩れていくのだと語ります。
ソフトウェアエンジニアの仕事はどう変わるか
AIで最もわかりやすく変わる仕事として、小笠原さんはソフトウェアエンジニアを挙げます。ソフトウェアエンジニアの仕事が変われば、他の仕事も一つ下のレイヤーに潜って分解すれば、フローやシーケンス、手順(コード)があると気づけます。それをエージェントで自律・自動化していく発想につながるのです。
ここで木原さんは、アメリカでのソフトウェアエンジニアの雇用への影響に触れます。小笠原さんは注意深く、二つの要因を区別します。一つはAIによる代替、もう一つはその手前にあった「求人バブル」です。希少性から専門人材を採用しても、売上がそのままリニアについてくるわけではありません。現時点の人員削減をすべてAIのせいにするのは、企業側に立ちすぎだと指摘します。
タイミングよく都合良かったですね。言い訳を言う。
日本の状況はアメリカと真逆で、人手不足が続いています。木原さんは自身の勤める大学を例に挙げます。規模は大きくなり、学生のケアも必要で、AIを考えなければ人を増やす方向になるはずです。しかし安易な採用が本当に適切なのか確信が持てない。組織としての意思決定が、まさに今問われているのです。
小笠原さんはこれを目標設定の話として整理します。たとえば人数を300人から400人に増やす。その400人で今できている業務を「1」としたとき、それを「2」にする。そうした生産性の目標を、AIをどう組み込むかとセットで考える必要があります。2026年こそ、その一つのターニングポイントになるのではないか、というわけです。
| 項目 | アメリカ | 日本 |
|---|---|---|
| 足元の状況 | 人員削減の動き | 人手不足が続く |
| 背景 | AI+求人バブルの調整 | 規模拡大・ケア需要 |
| 論点 | 削減はAIのせいか | 安易に増やすべきか |
「信じるもの」が変わるという転換
小笠原さんは、AIによって「仕事の仕方」と「信じるもの」が変わると語ります。答えとして言えば、ソフトウェアエンジニアが人の手でコードを書かなくなり、コードをレビューしなくなるということです。ソフトウェアエンジニアからプロダクトエンジニアコードを書くこと自体より、「何を作るべきか」を考えるドメイン知識や仕様設計、成果物の判断に軸足を置くエンジニア像。番組ではAI時代の転換先として語られている。への転換です。
仕事は「構想する・行為する・判断する」の三つに分けられます。これまでは三つとも人間が道具を使いながらやっていました。これからは、構想はAIと一緒に行い、行為(コードを書く)はAIに渡し、出てきたものを人が判断する、という形に変わります。
「信じるもの」が変わるとはどういうことか。小笠原さんは技術の歴史を振り返ります。かつてはマシン語(機械語)を信じ、次にアセンブラ、その後はC言語のような高級言語を、コンパイラを通じて信じてきました。今後は「仕様」をしっかり書いて、AIモデルを信じるようになるというのです。
木原さんは「行為の中身を理解できないと判断できないのでは」と問います。小笠原さんは、まさに今年が転換期だと答えます。テストドリブン先にテスト(動作の正しさを確認する仕組み)を用意し、それを満たすように開発を進める手法。テスト駆動開発とも呼ばれる。で、ガードレールやハーネスといった仕組みを通じて「適切なものが出てくるはず」というプロセスを信じられれば、あとはテスト結果が仕様と合致しているか、使った感覚がどうかを判断すればよい。そこで必要になるのがドメイン知識です。
そもそもAIが生成するコードの量は、もはや人間がレビューできる量ではありません。だからこそ、コードそのものより最終的な成果物とテストで判断する方向に進みます。小笠原さんはこれを、機械語や二進数の処理を今では誰も意識しないのと同じで「信じるものを変えてきただけ」だと表現し、突き詰めれば「宗教」だと語ります。
結論として、コードを書ければいい・仕様通りに書ければいいというレベルでは「エンジニア」と呼ばれなくなるだろう、と小笠原さんは言います。求められるのはドメイン知識を持ち、構造的に考えられる力です。つまりホワイトカラーの仕事がなくなるのではなく、ベクトルの置き方が変わるのです。
この転換には逆向きの可能性もあります。プログラムが苦手でエンジニアになれないと思っていた人でも、ドメイン知識が深ければプロダクトエンジニアやプロダクトデザイナーへの道が開ける。エンジニア的思考を持つ人が大学職員として働くこともできる。専門と専門の行き来がより容易になる、という展望で二人は話を締めます。
ホワイトカラーの仕事がなくなるんじゃなくて、ホワイトカラーのベクトルの置き方が変わる。
まとめ
今回は2026年3月11日という「スナップショット」として、AIの軍民両用と、AI時代の働き方が語られました。日常使いのAIが軍事判断に関わる現実は、意識しないまま進行しています。だからこそ、こうしたタイミングで一度立ち止まって議論を残すこと自体に価値があります。
働き方については、AIが進化しても人は働き続けるという見立てを二人は共有しつつ、それが選択制・趣味的なものへ近づく可能性を語りました。そしてソフトウェアエンジニアを起点に、仕事は「構想・行為・判断」へと分解され、人が担うのはドメイン知識と判断へとシフトしていく。数ヶ月後にはまた景色が変わっているかもしれませんが、その変化を楽しみに、という前向きな姿勢で締めくくられました。
- 日常で使うAIモデルが軍事行動の判断にも関わり、平和利用と軍事利用が同時並行で進化している。
- AIが進化しても人は働くが、働くことは選択制・趣味的なものへ近づく可能性がある。
- 米国と日本では雇用状況が真逆で、日本の人手不足下では「安易に増やすべきか」が問われている。
- ソフトウェアエンジニアの仕事は「構想・行為・判断」に分解され、コードを書く行為はAIに渡る。
- プログラマが「信じるもの」はマシン語→コンパイラ→AIモデルへと移り、求められるのはドメイン知識と判断力になる。
