AIソロプレナーとは何者か
この回のテーマは、最近よく耳にするようになった「AIソロプレナー」です。木原さんはこれを「一人でAIを使い倒して、会社や事業ひとつぶんのアウトプットを本当に一人で出してしまう」働き方だと整理します。すでにこの言葉は世の中に流通し始めているといいます。
ここで小笠原さんが言葉のルーツをたどります。アントレプレナー起業家。「アントレ」は間に入ってリスクを取ること、「プレナー」は事を起こす人を指すとされる。リスクを取って何かをやる人という意味合いが強い。はもともとフランス語で、「リスクを取って何かをやる人」を意味するとのこと。大学の文脈では「起業を支援する人・その精神」といった使われ方をしますが、本来の語義には「支援」は含まれていないと指摘します。
小笠原さんによれば、1970〜80年代にベンチャーという言葉が広がった頃、イントラプレナー、そしてアントレプレナーという言葉が使われるようになったといいます。そして今、その流れの先に「ソロプレナー」が登場した、という位置づけです。
では、ソロプレナーとフリーランスは何が違うのか。小笠原さんは、アントレプレナーを人間が「ソロ」でこなし、周囲にたくさんのエージェント(AI)がいる状態、というイメージではないかと語ります。木原さんも、AIを人間のように捉え、一人の周りでAIがたくさん働いてくれる状況で企画を考え、事業を推進していくイメージだと同意しました。
アントレプレナーを人間がソロで、エージェントはたくさんを、っていう意味ですよね、きっと。
組織内ソロプレナーという選択肢
小笠原さんの見立てでは、フリーランスが単発の仕事だとすれば、ソロプレナーは持続的な構造をつくる存在です。リスクを取って事を起こし、それが続く形になることが成功の一つのポイント。その意味では、現時点でソロプレナーとして成功している人はまだ多くないのではないか、と慎重に語ります。
ここで論点が「組織の中」へと移ります。小笠原さんは、いきなり一人で起業するより、組織の中でスタートする方がやりやすいのではないかと提案します。そこから外に出てもいいし、副業的にやってもいい。組織といっても会社に限らず、町内会やマンションの管理組合でもいい、というのが小笠原さんの視点です。
木原さんは、多くの人が目指せる現実的な形として次のように整理します。自分が今所属している場所でAIを駆使し、これまで人や部署で成立させていた業務を「一人で十分です」とこなす。その代わりAIの権限やツールの導入を求め、コストを下げつつ成果を出す。これなら多くの企業でできそうだし、自分のために手を挙げる人も増えそうだといいます。
一人で収益化を目指し、事業を拡大させる。ハードルが高く、まだ成功例は多くない。
所属組織でAIを駆使し、部署の仕事を一人で回す。より多くの人が目指しやすい。
小笠原さんは、こうした組織内ソロプレナー的な人材は「生んでいくしかない」と語ります。それは組織の文化として育てていくものであり、身近なところでは木原さん自身がその一人目になってはどうか、という話にもなりました。
レバレッジで考える働き方
「何でも作れる」と言われても、多くの人は「では何を作ればいいのか」で立ち止まる、と木原さんは指摘します。作れるものはわかっても、それが社会にどう影響し、お金を生むのかまで結びつけられないと、AIソロプレナーにはなりにくい、というのです。
そこで小笠原さんが持ち出すのが「レバレッジ」という軸です。リスクを取って何かを起こすことは、結局レバレッジを効かせることに集約される。自分のアイデアを判断するときも、レバレッジが効くかどうかで考えればいい、といいます。
具体的には、たとえば自分がツールを作るために使った時間が、組織全体で見て年間2000時間ぶんの他の人の作業を生み出すなら、大きなレバレッジになる、という考え方です。「自分がやっても年間で数時間しか全体が減らない」なら意味がない、と自分で線を引けば、やりたいことを判断する軸になると小笠原さんは語ります。
小笠原さんはAIそのものについても、以前話した「アンプ(増幅器)」という捉え方を再び持ち出します。自分がやれることが1だったものを、質は少し落ちるかもしれないけれど100にも大きくしてくれる。だからこそレバレッジを効かせやすい、というわけです。
木原さんは、投資のように専門的な勉強が必要な領域と違い、AIはすでに大衆化したツールになっていると指摘します。だからこそ「今までの事業単位でやっていたことを一人でやる」ハードルは下がっていて、個人で始めるリスクもそれほど大きくないのではないか、と見ています。
スペースXのIPOとエネルギーの未来
話は「AIをゴリゴリ使う会社と、従来型の会社、どちらに投資するか」という木原さんの問いから、思わぬ方向へ発展します。小笠原さんは、収録の4日後(6月中)に予定されているスペースXイーロン・マスク氏が率いる宇宙開発企業。ロケットの打ち上げ、衛星通信サービス「スターリンク」などを手がける。番組ではAI事業も新たに加わったと語られている。のIPOに話題を移しました。
小笠原さんによれば、スペースXの事業は大きく分けて「打ち上げ(ロケット)」「スターリンク(衛星通信)」、そして新たに加わった「AI事業」の3つ。彼らは宇宙空間を計算の場所にしようとしている、といいます。
ポイントはエネルギーです。軌道上の太陽光は地上に比べて桁違いに強く、太陽光を使えばエネルギーの大元のコストはかからない、と小笠原さんは説明します。さらにスペースXが軌道への打ち上げコストを1キログラムあたり100ドル未満に下げられれば、衛星軌道上にデータセンターをつくる計算が現実的に立つ、というのです。
スペースXが担う割合(2025年)
打ち上げコスト
すでに他社ではあるものの、NVIDIA半導体大手企業。AIの計算に使われるGPU(画像処理用の演算装置)で圧倒的なシェアを持つ。のGPUを軌道上に上げて計算させ、放射線への耐性や放熱をどこまで実現できるかを試す動きも始まっているといいます。宇宙空間は熱を対流で逃がせず「輻射(放射)」で放熱するため、その検証が進んでいるとのこと。
小笠原さんは、月面に基地をつくり、テスラのオプティマステスラが開発している人型ロボット。番組では、衛星のメンテナンスを担わせる構想が半ば冗談まじりに語られている。というロボットに衛星のメンテナンスをさせる、という半ば冗談めいた構想も紹介しました。もし宇宙空間のAI計算資源をイーロン・マスク氏が大量に押さえたら、人間より安い価格でギリギリまで提供してくるはず、と読みます。
人類の行く先決めるIPOみたいに見えてるんですよ、僕なんかは。ちょっとロマンを感じたいっていうのもあるから。
こうなると、これは単なる株の値動きの話を超えて「宇宙船地球号の限界の中で考えるのか、宇宙空間まで含めて考えるのか」という問いになる、と小笠原さんは語ります。エネルギーコストが問題視されるAIも、外部の宇宙空間を使えるなら話が変わる。「使うやつに張るよね」という結論に、木原さんもうなずきました。
一方で、宇宙空間で計算し続け地上と通信するAIを「神みたいだ」と嫌がる人もいるだろう、という指摘もありました。ただ、誰かが必ずやるし、むしろ地上でエネルギーを大量に消費するアプローチで進めるより良いのではないか、と木原さんは応じます。
AIに縛られる「枠」の話
「AIに全部渡せているから一人でいい」と言えるかどうかは、人がこれからどう生きるかと深く関わる、と木原さんは話を戻します。AIが働き人が働かなくてよくなれば、それはそれでいいのか。本当にそれでいいのか、という問いです。
ここで小笠原さんは、あまり予測したくない未来として、こんな可能性を挙げます。かつて「AIが働いてくれる」と妄想していた時代があったが、結局人間は働くことを手放さず、むしろ役割を矮小化した範囲に押し込めてしまう——そんな展開もゼロではない、と。
その根拠として持ち出されるのが、コンピューターとOSの歴史です。コンピューターそのものはもっと大きな可能性を持っているはずなのに、OSオペレーティングシステム。WindowsやmacOSなど、コンピューターの基本ソフト。番組では「できることの枠」を決めてしまう存在として語られている。という枠が「できること」を決めてしまった、という指摘です。
コンピューターもAИも、本来はもっと大きな可能性を持っている
OS(あるいはAIエージェントの仕組み)が「できることの枠」を決め、大多数はその中でしか使えなくなる
WindowsやmacOSでできることしかできず、その枠を超えられる一部の人が「エンジニア」と呼ばれた。同じことがAIでも起きそうだ、と小笠原さんは言います。すごい計算能力があっても、ある枠の中でしかAIやエージェントを使えない大多数の人になれば、20〜30年後には「AIが全部やるなんて無理だよね」という論調で、コントロールされていることに気づかない状態になりかねない、というのです。
今だって僕はOSでコントロールされているなんて気づいてないですし。でも言われるとそうですよね。
木原さんは自身の例として、AIコーディングのツールを挙げます。枠の外を選べるはずなのに、OSやツールの中でできることを選んでしまっている——だからこそ、AIソロプレナーと呼ばれる人たちが「枠が作られる前にその外のことをやってしまう存在」なら期待したい、という結論に至ります。
枠の外に出るための時間のつくり方
では、自分がAIソロプレナーになるには「枠を超えるところ」を考えなければならない。ただ木原さんは、そのための学習時間をどうつくるかという現実的な悩みを口にします。日々の業務に関わるAI活用は取り込みやすいものの、業務外の領域に着手するには一時的なコストがかかるからです。
これに小笠原さんは明快に答えます。木原さんはすでに、自分が抱える仕事を外部やAIに出して自動化・自律化しようとしている。ならば時間が生まれるはず。それを「9月には100時間ぶんの余裕が生まれている状態を作る」といった明確なアウトカム(成果目標)として持てばいい、というのです。
小笠原さんは、仕事を外に出しても本人が忙しそうなら、周りの誰もそのやり方を導入しない、と釘を刺します。逆に、その状態を変えられたら、それこそが「枠の外に出る」ということだ、と。そしてこれは、忙しさから抜け出せないほとんどの人の姿でもある、と付け加えました。
なお小笠原さん自身は、事業をやるなら「何人かでやりたい」と語ります。理由は、その人が死んだら終わり、やる気がなくなったら終わりという「単一障害点」になりたくないから。持続のためには複数人がいい、という考えです。ただし、AIにすべて伝えられて誰かに渡せるものなら、ソロでもいいかもしれない、とも付け加えました。
まとめ
AIソロプレナーという言葉から始まった会話は、組織内で一人が部署を回す働き方、レバレッジの考え方、スペースXのIPOと宇宙空間のAI計算、そしてAIやOSに縛られる「枠」の話へと広がりました。
共通していたのは、「作れる」だけでは足りず、何をどれだけのレバレッジで実現するかを自分で判断すること、そして枠の外に出るために具体的な成果目標を持って時間をつくること、という視点です。木原さん自身が組織内ソロプレナーの一人目になれるか——その挑戦の入り口となる回でした。
- AIソロプレナーは、一人でAIを使い倒し事業ひとつぶんのアウトプットを出す働き方。持続的な構造をつくる点でフリーランスと異なる。
- いきなり起業するより、組織の中で部署の仕事を一人で回す「組織内ソロプレナー」の方が多くの人が目指しやすい。
- 判断軸は「レバレッジが効くか」。AIはアンプ(増幅器)と捉え、自分の力を大きくする道具と考える。
- スペースXのIPOは、宇宙空間をAI計算の場にする構想を含み、エネルギーの前提を変えうる(収録時点の見立て)。
- OSが「できることの枠」を決めたように、AIも枠に縛られる恐れがある。枠の外に出るには具体的な成果目標で時間をつくることが鍵。
