新規事業は「別動隊」でやるべき理由
この回のきっかけは、過去の放送で小笠原さんが「組織の中で新規事業をやるなら、本筋の部署とは別の"ゲリラ部隊"を作った方がいい」と語っていたこと。その真意を木原さんが改めて聞き直します。
小笠原さんの答えはシンプルで、「そうとしかならないよね」というものでした。まず前提として、何をやるかで組み分けが変わります。既存事業と完全に切り離れた「飛び地」のことをやるなら、採用も別にできる子会社や別組織にした方がよい。一方で、メインの事業とつながっていることをやるなら、会社の本体の中でやることになる、という整理です。
子会社・別組織で別採用。完全に別ルールで動ける環境を用意する。
会社の中に「別動隊」を置く。既存の正義に支配されずに動く小さなチーム。
木原さんが局長を務めるデジタルキャンパス局自体も、大学の"ど真ん中"ではない「別動隊」的な存在。だからこそこの話はリアルなテーマとして語られていきます。
最大の摩擦は「既存組織の正義」
新規事業をやるとき、何が一番の摩擦になるのか。木原さんは既存事業の指標・評価・権限・承認フローを挙げます。新しいことをやりたいのに、既存のルールが次々とそれを遮断してしまうイメージです。
これに対して小笠原さんは、より本質的な言葉を持ち出します。それは「既存組織における正義」。新しいことをやると決めたのに、既存組織の正義に沿って動いたら、そもそも無理だという指摘です。
重要なのは、既存の正義を持ち出す人が悪いわけではない、という視点です。既存事業や本体は、組織が安定的に、右肩上がりを保てるように設計されています。そのなかで新規事業は「異物」であり、排除しようとするのがむしろ自然な反応。予算のサイクルもフローも既存事業に合わせて作られている以上、そこに合わせれば新規事業は動けなくなってしまうのです。
新規事業って異物なので、まあ排除しようとするのが一般的というか、そういう設計になっている以上そうなっちゃうってことですよね。
なぜ「対本流」になってはいけないのか
「別動隊の方が成功の可能性を上げられる」と小笠原さんは言いますが、簡単だとは言っていません。むしろ別動隊は孤独で、既存部隊からは理解されにくい立場になります。
ここで小笠原さんが強く戒めるのが「対本流」の構図です。別動隊は、既存の正義に支配されない状態で動くだけであって、本流の正義を否定するものではありません。既存のやり方を「古い」「ダメだ」と持っていったらアウト。目指すべき勝利は本流も別動隊も同じはずだからです。
対立構造ができる典型例として、小笠原さんは人の組み合わせを挙げます。最初の三人のうち一人が外部から来た人、二人がもともと本流にいた人、という構成になりがち。すると「よくわからない」段階で、その話を本流の場でしてしまい、「あいつらわけわからん」「あんなことやって何の意味があるんだ」という声が火種になって対立が大きくなっていく、というのです。
主力部隊から来た人が守るべき動き方
では、別動隊が成果を出したあとはどうなるのか。小笠原さんは、うまくいったパターンを主力部隊へ「移植」する、あるいは別動隊そのものが新たな主力になる、という道筋を示します。移植のコツは、こちらから押し付けるのではなく「そのやり方いいじゃん」と本流側に吸い上げてもらうこと。
そして、主力部隊から出向・異動してきた人へのお願いは明快です。「まずは別動隊のルールで動きましょう」。決まったルールに沿って、可能性が高そうな方をやってくれるという評価になるので、その人が責められることはないはずだ、というわけです。
これでしくってもあなたは責められません。だからやってくださいみたいな。責任というものは僕のところに置いておくので。
もう一つの注意点は「途中経過を見せたくなる」こと。小笠原さんは、自分たちから見せに行く必要はない、と考えています。ルールが違う以上、途中のプロセスに納得してもらうのは難しい。一定の結果を持って腹落ちしてもらうべきなので、途中で功を焦らないことが大事だと語ります。
DX担当者が孤独になる本当の理由
木原さんは、この構造がまさに各組織のDX推進担当者と同じだと指摘します。経営がDXのために新部署を立ち上げても、事業として進めても、結局は本流とは違うルールを作っていく人たちの舞台にならざるを得ません。
木原さんによれば、他大学のDX担当者と話しても「孤独」「評価されない」「プロセスを見せても怒られる」「いらんことしやがってと言われる」といった声ばかり。だからこそ、この構造を本流側の経営者や権限を持つ人が理解しておくことが大切だと訴えます。
一方で小笠原さんは、孤独は自分の課題でもあると切り込みます。鍵になるのが「アウトカム」。どういう状態にしたいか、何のために、誰のためにやるのか。たとえば「学生のために」という目的があれば、そこまで孤独にはならないのではないか、というのです。
木原さんは、DX担当者が孤独になるのは「経営層がどこに向かっているのかわからず、アウトカムを設定しづらい」ためだと補足します。これに対する小笠原さんの答えは辛口です。それが経営者のせいなら別のところに行った方がいい、経営者を変えようとしても難しい、と。「それで困ってるならこっちに声かけてよ」という一言に、木原さんは「グサグサ」と反応していました。
「三歩下がった」は本当に後退なのか
木原さんは、コンサル会社の友人から「二歩進んで三歩下がるのを繰り返している」という声を聞くと語ります。既存事業の人にいろいろ言われて後ろに下がってしまう感覚です。ここで小笠原さんは、「下がっている」の基準を問い直します。
環境としては一歩進んだが、反感があったので「三歩下がった気分」になっている。実際は進んでいるのでOK。
理解は一歩進んだように見えても、これまでのやり方に比べて三歩下がっている。これが最悪のパターン。
小笠原さんの観察では、後者を愚痴っている人は少なく、愚痴っている場合はほとんど前者。つまり実際には進んでいるのに、現場で聞く声への感情として「下がった」と感じているケースが多いというのです。木原さんは「めっちゃいい話ですね」と膝を打ちます。
大切なのは、自分で評価できる仕組みを持つこと。「このぐらいの時期にこのぐらいのことができるように」とタイムボックスを置き、その中に収まったかで自分を評価する。フィードバックは欲しいしログも見るべきだが、周囲の理解が得られるかどうかは、そもそもこの仕事の評価軸ではない、というわけです。
後半では、予算の話にも及びます。小笠原さんは最初から三〜四年分の予算を確保しましたが、当時は木原さんにも意図を説明しませんでした。「説明してもわからないから説明しない」のは当たり前で、最初に宣言しすぎると間違いを突っ込まれてしまうからです。二年前の木原さんなら既存路線ベースで三年計画を立てられたはず。今のDX推進を通じて「三年後の予測がいかに難しいか」に気づいたこと自体が、変化の証だと二人は確認し合います。
来年のクラウドの利用量をちゃんと予測できる人って、Anthropicの中にすらいないんじゃないかな。提供側ですらそうだと思うので。
まとめ
今回のテーマは「組織の中で新規事業やDXをどう機能させるか」でした。核心は、既存組織には既存の正義があり、新規事業はそこでは"異物"として扱われるのが自然だ、という前提の理解にあります。だからこそ、既存の正義に支配されない「別動隊」を小さく作る意味がある、というのが小笠原さんの一貫した主張です。
そのうえで、別動隊は本流と対立せず、途中経過を焦って見せず、結果で腹落ちしてもらう。担当者は周囲の評価ではなく「誰のために、どんな状態を目指すか」というアウトカムを持つ。この二つが、孤独になりがちなDX・新規事業の現場を支える指針として語られました。木原さん自身が「心当たりしかない」と苦笑いする、実務者にとって刺さる回となっています。
- 新規事業の最大の摩擦は「既存組織の正義」。異物扱いされるのは自然な反応であり、悪意ではない。
- 既存の正義に支配されないよう「別動隊」を小さく(目安1%程度から)作るのが有効。ただし「対本流」の敵対構造になってはいけない。
- 主力から来た人はまず別動隊のルールで動く。途中経過を焦って見せず、結果で腹落ちしてもらう。
- 孤独を防ぐ鍵は「誰のために、どんな状態を目指すか」というアウトカム。周囲の評価は本来の評価軸ではない。
- 「三歩下がった」の多くは気分の後退。タイムボックスを置いて自分で進捗を評価できる仕組みを持つことが大切。
