iPhoneの価格はなぜ日本だけ「高く」なったのか
厚利少売ラジオの今回の回は、前回の振り返りから始まります。前回は「会社員にとっての厚利少売」というテーマで、すがけんさんは「ストレスを減らす」という答えに着地していました。
前回は初めてのニュース解説コーナーとして、中野サンプラザ跡地の建設に関するニュースも取り上げていました。すがけんさんは、日々ニュースを見ながら「ついに日本に来たな」と感じているといいます。
すがけんさんが例に挙げたのがiPhoneです。日本では年々iPhoneが高くなったと言われますが、アメリカでの販売価格は毎年ほぼ同じだと指摘します。
年々iPhone高くなるじゃんって言ってても、アメリカでの販売価格は毎年一緒なんですよ。
そうなのよ。据え置いとんのよ。
川原さんは、Appleにとって日本は「上顧客オブ上顧客」であり、日本の人たちが買えなくなるのはApple側も困るはずだと補います。すがけんさんによれば、値段を抑えたり、キャリアと組んで分割プランを作ったりと、さまざまな手当てがされてきました。
ただ、すがけんさんはその手当てがあったからこそ、日本人が気づくのが遅れたと見ています。円安もあり、この1〜2年で「世界中のものが高くて買えない」という声が一気に出てきたため、変化を急ぐ必要があると話します。
だって何年も一緒だったんだけど、5年前ぐらいに気づいても良かったわけですよ、これ。
川原さんは、厚利少売ラジオや書籍『厚利少売』は、こうした状況に気づいた人が「どう変わればいいか」の道しるべを示すためのものだとまとめます。すがけんさんも、まず一人ずつ変わり、変わった人を見た周りが「厚利でいいんだ」と信じてくれることを期待していると語ります。
3ステップの全体像。価格を上げ、顧客を減らし、価値を高める
今回の本題は「厚利少売を実現する3ステップ」です。これまで価値と価格の関係や需要と供給の見極めといった基礎を解説してきた番組が、ここで薄利多売から厚利少売へシフトする全体像を示します。
すがけんさんが挙げたステップは、たった3つです。基本的にはこの順番で進めればよく、人によっては順番を入れ替えてもよいといいます。
高い価値を提供する前に値段を上げて大丈夫なのか、と不安に思う人もいるはずです。すがけんさんは、厚利少売は薄利多売に比べてお客さんの数がずっと少なくて済むため、この順番になっていると説明します。
で、大事なのはやっぱり値段を上げる勇気ですよね。
沈黙に耐えられず値下げしてしまう営業のあるある
値段を上げる勇気の話で、すがけんさんは最近営業や事業責任者の人たちと話した「営業のあるある」を紹介します。パワポで10ページ、不安な人は100ページもプレゼンをして、最後に値段のページを見せるのが怖いという場面です。
で、値段のページを見せた。相手は黙ってる。
これ2割まで値引きできます。
言っちゃう。
すがけんさんによれば、聞かれてもいないのに値下げを提案し始める人がとても多いといいます。相手は高いのか、使えるのかなど何かで悩んでいるだけかもしれないのに、自分から値下げしてしまうのです。
この時にやっぱりうちは自信がある、価値が高いんだから、一緒に黙る。
すがけんさんは、厚利少売のファーストステップである「値上げ」とは逆に、多くの人は最初に値下げから始めてしまうから、ずっと薄利のままだと指摘します。赤字ギリギリまで下げれば、仕事というより遊びになってしまうとも話します。
川原さんが「利益で考えるとやらないほうがいい可能性すらある」と応じると、すがけんさんは、企業を分析すると事業の半分が赤字というケースも多いと明かします。それでも「なんとなく辞めたくない」という理由で続けている会社や営業組織が多く、それを断ち切って値段を上げていくことが大事だと語ります。
なぜ売上で評価すると薄利になるのか
川原さんは、営業が値下げしてしまう背景には、営業担当者が売上高で評価される仕組みがあるのではないかと問いかけます。すがけんさんの答えは「めちゃくちゃあります」でした。
すがけんさんによれば、伸びている会社は売上ではなく利益で見ています。一方で、事業経験のない人が投資家になると、どうしても売上で判断してしまうといいます。
すがけんさんが例に出したのは、IRレポート ── 企業が株主や投資家に向けて、業績や財務状況、経営方針などを説明する資料のこと。IRはInvestor Relationsの略ですの棒グラフです。売上の棒が今期だけ下がると、その10分の1ほどの大きさの利益の棒が伸びていても、多くの人は「右肩下がりだ」と慌ててしまいます。
別に利益伸びてればいいんですよ。もしかしたらこれ顧客を選ぶことに成功したのかなとかって僕は思っちゃいますけど。
投資家が売上至上主義だと、経営者もそれにつられ、現場の営業も値下げしてでも契約を取りにいく。すがけんさんと川原さんは、そんな連鎖を確認し合います。
投資家
売上の増減だけで会社を評価する
経営者
投資家の見方につられて売上を追う
営業現場
売上で評価され、値下げしてでも契約を取りにいく
結果
薄利のまま抜け出せない
値上げの目安は「利益の2倍」
すがけんさんが示す値上げの目安は、利益が2倍になる価格です。以前は「売上の2倍」と言っていたものの、さすがにみんながしんどそうなので、今は「利益の2倍」にしているといいます。
たとえば100円の商品で利益が10円なら、110円にするだけで利益は20円になり、2倍になります。100万円で売って利益が50万円の商品なら、150万円で売れば利益は2倍です。
| 元の価格 | 元の利益 | 値上げ後の価格 | 値上げ後の利益 |
|---|---|---|---|
| 100円 | 10円 | 110円 | 20円 |
| 100万円 | 50万円 | 150万円 | 100万円 |
利益が2倍なら、売れる個数は半分でもかまいません。ただしその場合、売上も半分になり、「ひえー」となってしまうとすがけんさんは笑います。それでも本当はいいサインだといいます。
じゃあ100円のものを110円にして、お客さんって本当に半分も減っちゃいます?100万円のものを150万円にして、本当にお客さんって半分も減ります?減らないんですよ。
すがけんさんによれば、お客さんがたまたま半分に減ったとしても、利益は同じなので商売としては成功です。しかも「100万円のものを150万円で売れた」という実績が手元に残ります。
顧客を減らすから高い価値を提供できる
3つ目のステップは、残ったお客さんに対して、150万円を払ってよかったと思ってもらえる高い価値を提供することです。川原さんはここで、お客さんを減らしたことで自分のリソースが空き、その分を価値づくりに使えるのだと気づきます。
すがけんさんは、順番を逆にしてお客さんを減らさないまま高い価値を提供しようとすると、時間をすり減らして「もう働けません」となってしまうと説明します。
時間が空き、商品・サービスを良くしたり、お客さんとの価値のすり合わせができる
時間をすり減らして「もう無理です」となる
川原さんは、その先には満足度の高いお客さんが口コミで広め、欲しい人が増え、さらに高い値段で付き合える道があると整理します。すがけんさんは、その第一歩がこの3ステップだと応じます。
すぐやりたいし、実はすぐやれるんですよね。
本当ですよね。できない理由が自分が怖いことぐらいでした。
ただし例外もあります。お客さんが半分になるとゼロになってしまうほど、今のお客さんが極端に少ない人の場合です。その場合は、今の価格でお客さんが列をなす状態を作ってから値段を上げるという考え方だと、すがけんさんは補足します。
「ノリで言ってるように聞こえる」自己認知
すがけんさんは、3ステップは勇気を持って実践した人の再現性が高いと強調します。そのうえで「ノリで言ってるように聞こえるかもしれない」と付け加えたことに、川原さんが反応します。
すがけんさんは、自分にとって当たり前すぎる内容なので普通に話してしまい、ありがたみのある言い方をしないからだと分析します。
いいですか?みんなこれはね、秘伝中の秘伝。僕は何十年かかったかな。そうだな、30年はかけたみたいな話し方すればいいんだけど。
川原さんも同じことを言われるといい、二人は「エセビジネスマンに見られがち」「こんな実績を出しているのになぜか怪しい」と笑い合います。川原さんは、リスナーが3ステップを実践して結果を出すことが、二人の怪しさを薄めることにもつながると呼びかけます。
LTVは「顧客生涯売上」になっていないか
後半は用語解説コーナー「ビジネス用語の世界一わかりやすい解説」です。今回はリスナーからのお便りで、LTVが取り上げられました。
LTV(ライフタイムバリュー)と意味はわかるんですけど、本当の意味では理解していないと思うので、スガケンさんの解説を聞きたいです。
すがけんさんは、LTVを辞書的に言えば「顧客生涯価値」だと確認します。そのうえで、業界で実際に使われているLTVは「顧客生涯売上」になっていると指摘します。
大体みんなが言うLTVっていうのは、一人の人が一回買うと1万円、これを10回にすると10万円になりますね、LTVはっていう。
すがけんさんは、本来LTVにはバリューと付いているのだから、お客さんの価値の話をしなければいけないと語ります。そのため、むしろ業界の人のほうが正しく使えていないと感じたといいます。
買ってからが始まり。解約を見ない企業の自社都合
すがけんさんがLTVを気にするのは、ビジネスでは基本的にリピーターが重要だからです。初対面から信用と信頼を得て、商品を理解してもらい、人としても商品としても好きになってもらって、ようやく1回買ってもらえます。
すがけんさんによれば、企業のマーケティングは1回目の購入に多くのお金をかけますが、その後のつながりは持てず、お客さんはなんとなく離れていきます。お客さんにとっては商品が届く「買ってから」が始まりなのに、企業は売って終わりになりがちです。
お客さんが離れることをチャーン ── サービスや契約の解約、顧客の離脱を指すマーケティング用語。解約率はチャーンレートと呼ばれますと呼びますが、離れているのに「あと何回買ってくれるだろう」とLTVを計算してしまう。すがけんさんはこれを自社都合の解釈だと見ています。
1万円の購入が10回で10万円。この人がいくら使うかを数字で見込む
この人と生涯で何回関係を持てるか、どれだけ喜んでくれるか。満足し続けてもらうための価値を探す
満足度が高かったらよりお金を払って。だって得するのがお客さんなので、満足度が高いって。
すがけんさんは、もっとお金を払ってでもより満足したいと思ってもらうにはどうすればいいか、という価値を探す方向にLTVを使うべきだと語ります。
「次いつ買いますか」ではなく「どれぐらい満足しましたか」
川原さんは、実際にLTVを使う場面を考えると、お客さんがいくらで何回買い、どのくらい付き合ってくれるかを見込むために使っていると振り返ります。すがけんさんは、それは数字でお客さんを見てしまうことだと応じます。
川原さんが「そのスタンスはお客さんに伝わる」と言うと、すがけんさんは姿勢がまったく違うと答えます。正しいLTVの考え方では、お客さんに次いつ買うかは聞かないといいます。
次いつ買います?なんて聞かないんですよ。正しいLTVは。今回どれぐらい満足されましたか?なんですよ。
川原さんは、間違ったLTVの使い方は「いつかお別れが来る」と見越して付き合っているようなものだと表現します。すがけんさんは、売ったあとにお客さんが離れたのか、また来てくれるのかさえ気にしないことが、根本的な問題だと指摘します。そこを変えるだけで、LTVは勝手に上がると語ります。
最後にすがけんさんは、2024年10月10日に出版された書籍『厚利少売 薄利多売から抜け出す思考・行動様式』に寄せられた感想への感謝を伝えます。読者の満足度、つまりバリューを知りたいとして、お便りやSNSで声を届けてほしいと呼びかけました。
まとめ
厚利少売への道は、価格を上げ、お客さんを減らし、空いたリソースで高い価値を届けるという3ステップから始まります。そしてLTVも、売上の見込みではなく、お客さんの満足がどれだけ続くかという視点で捉え直すことが大切だと語られました。
- 厚利少売の3ステップは「価格を上げる→お客さんを減らす→高い価値を提供する」の順番
- 値上げの目安は利益が2倍になる価格。100円で利益10円なら110円で、客数は半分でも利益は変わらない
- 沈黙に耐えられず自分から値下げせず、価値に自信を持って一緒に黙る
- 売上ではなく利益で見ることが、薄利多売から抜け出す前提になる
- LTVは「顧客生涯売上」ではなく、お客さんの満足がどれだけ続くかを見る指標として使う

