味のわからないワインに、動画でどう価値をつけるか?
後編の最初に紹介されたのは、自社のワインを「非常識ワイン」と名乗る生産者の二次審査動画です。この生産者は、ワインの価格は将来的に10倍になると宣言しています。
この生産者が「非常識」と呼ぶのは、ブドウの栽培方法です。ブドウの成長ホルモンに着目して枝を伸ばすことで生命力のあるブドウが育ち、農薬も肥料も使わず、ワインには添加物も必要ないと語っています。
私たちのワイン、非常識ワインです。将来的に価格が10倍になります。なぜ?栽培が非常識だからです。
私たちはこのワインの価格の再評価をしたいと思っています。
ワインの動画を見た二人は、まず鳥の声が入った自然な雰囲気と、生産者の革命家のような空気感を挙げました。川原さんは実際にこのワインを飲んだことがあるため、映像を見ながら口の中で味を再現していたといいます。
一方ですがけんさんは、ほかの応募者の動画と並べて見ると、この動画はシズル感が弱いと指摘します。ワインはネットでは味が伝わらないため、もともと価値を伝えるのが難しいジャンルだという見立てです。
いかに100万円のものを、だってネットでも売れてるわけだから、いかにネットで味のわからないものに価値をつけさせていくか(が課題)。
川原さんも、選ぶ言葉や見せる映像には工夫の余地があると応じます。ワインはグラスに注がれている場面でないとシズル ── 広告や映像で、食べ物や飲み物の「おいしそう」「みずみずしい」といった感覚を呼び起こす表現のこと。肉が焼ける音や湯気などが典型例ですが出ないというのが川原さんの考えです。
でも逆に言うと、それ(注ぐ映像)さえできれば逆に僕は味の保証ができちゃうんで。
超伸びしろを感じますね。でもやっぱこれが今の結果だと思うんすよ。この値段でこの人たちにしか知られてない理由。
すがけんさんがもう一つ注目したのは、ワインの生産者のキャラクターです。腰を張った立ち方がロックミュージシャンのようで、「非常識」という言葉と合わせて破天荒な人物に見えたといいます。
川原さんはそれを受けて、革ジャンを着て畑の手入れをするような見せ方も合っているかもしれないと話しました。すがけんさんは、動画では良くも悪くもそう見えてしまうので、そう見えているならその特徴を強化したほうが差別化になると結論づけています。
「足の爪が好きすぎる」人が、なぜ一番信頼できるのか
2本目はエントリーナンバー26番、森田裕子さんの動画です。森田さんは巻き爪や分厚い爪などのトラブルに特化したフットケアサロンを営んでいて、動画の冒頭から「爪切りがしたーい」と呼びかけます。
私、トラブルに特化したフットケアサロンやってるんですけど、実はトラブルめちゃくちゃ好きなんですよね。
うわってなってるとこ私来た来た来たってなるタイプなんです。心の中でガッツポーズしてます。
森田さんは、難しい爪ほど整えたときの変化がはっきり出ると説明します。ただ切るのではなく、歩き方や力の入り具合、生活の癖まで見て整えていて、足の爪を「あし爪さん」と呼んでいます。
すがけんさんは、森田さんの動画について、本来は見たくない映像を愛情のある話し方で伝えている点に引きつけられたと話します。川原さんは、片付けが好きすぎてブラジャーを「おブラ様」と呼ぶ近藤麻理恵さんの姿に既視感があったといいます。
だって散らかった部屋行ったらニヤニヤすんだぜ。だから一緒でしょ。
でもこれが多分その人に与えられた天命なんだと思うんだよ。
すがけんさん自身も「難しい問題を解く」ことを得意としているため、森田さんの「難しいものほど」という言葉は他人事に聞こえなかったようです。川原さんは、すがけんさんの場合は「経営課題さん」だと冗談を返しています。
話はやがて、足の爪の悩みを抱える人の心理に移ります。すがけんさんによると、足の爪の悩みは何度も挫折し、本人がもはや絶望していて、誰かが治せると言っても信じられない種類のものです。
挫折と絶望
何度もうまくいかず、本人がもう治らないと思い込んでいる
不信
「治せますよ」と言われても、自分のは違うと思ってしまう
愛でてもらえる
見せるのも嫌な部分を、嫌がらずに喜んで扱ってもらえる
任せられる
コンプレックスの部分だからこそ、やっと任せようと思える
すがけんさんは、汗かきの自分がマッサージで嫌そうに触られると悲しくなった経験を挙げます。そのような小さなことでさえ傷つくのだから、足を愛でてもらえるだけで、施術が始まる前から嬉しいはずだと話しています。
なんか自分のコンプレックスの部分だから、あれをそうやって愛でてもらえるぐらいだから、やっと任せられるみたいな。
川原さんも、森田さんは本当に難しい足爪の人に特化してよく、ほかで諦められたものや自分で諦めているものを受け入れる形が合うと応じました。二人とも、足の爪で苦労している人がいたら紹介したいと感じたそうです。
すがけんさんは、多くの人はギリギリ信用してもらえるラインを目指すが、森田さんのように極まると最初から全員が信用すると話します。川原さんの言葉では、相手のほうが「この人は本物だ」と諦めてしまう状態です。
弁護士の動画は、なぜ映像が「めちゃくちゃ」だったのか
3本目はエントリーナンバー40番、北川貴大さんの動画です。北川さんは弁護士で、毎月一定額で法務部長の役割を担う「サブスク法務部長」というサービスを紹介しています。
北川さんの動画によると、中小企業の約9割は法務部を設置していません。顧問弁護士は連絡がない限り動きにくい受け身の立場で、社長も追加費用を気にして些細なことを相談しない傾向があると説明しています。
連絡を受けてから動く受け身の立場。自動車保険にたとえると事故後の対応
毎月の社内会議に入って法務リスクを確認し、月1回の社内セミナーで最新の法律情報を伝える。助手席に座るプロのナビゲーター
北川さんはさらに、大手事務所の社外法務サービスは月50万から100万円かかるうえ担当者が変わることがある、と比較しています。年間600万円以上かけて法務部を作る代わりに、サブスクで法務部長を持てるという提案です。
ところが二人の反応は、サービス内容よりも映像に向かいました。音声の内容はまともなのに、映像がめちゃくちゃだったといいます。
だって僕さ、映像作る人だからさ、今の(動画)がどんぐらい大変か受け取れちゃうわけ。
しかも努力量で言うとさ、もう99対1じゃん。
すがけんさんは最初、大きなテロップと画面左下に映る北川さんの言葉だけに集中していて、背景はどこかから借りた素材だと思って見ていたそうです。30秒ほどで集中力が切れて背景が目に入った瞬間、驚いたと話しています。
川原さんは念のため、北川さんは資格を持った弁護士だと補足しています。北川さんはYouTubeでの発信もしていて、映像は上手だったと二人とも認めています。
真面目な話ほど、SNSでは「コンテンツ化」が要る
すがけんさんは北川さんの動画を、前日に見たマクドナルドのSNS動画になぞらえます。その動画では女性が新商品を食べる様子が続き、最後にロゴと情報が出るだけの構成だったといいます。
すがけんさんの説明では、SNSでは広告らしく出しても誰も見てくれません。そこで広告ではなくコンテンツとして投稿し、伸びたあとで最後の2秒だけ情報を伝えるのが、SNSの作法だということです。
15秒分の広告費を払ったのだから言いたいことを全部言おうとして、つまらないものになる
視聴者が見たいものを先に見せ、最後の2秒で発売情報だけを伝える
みんなが見たいもの、これでしょと。最後2秒だけちょうだいねっつって、
北川さんの動画にも同じ考え方が感じられた、とすがけんさんは話します。弁護士という堅い題材なのに、気づけば90秒ほど聞いてしまう作りになっていたからです。
川原さんは、専門知識を持つ弁護士がここまで吹っ切れて振り切るのは唯一無二で、それがポジションになっていると評価しています。すがけんさんも、真面目すぎず、こちらの気持ちをわかってくれそうな親近感があると話しました。
二人は北川さんを、Netflixで配信中の九条の大罪 ── 真鍋昌平さんの漫画を原作とする作品。法律のグレーゾーンで依頼人を守る弁護士・九条を主人公に、裏社会と法の関わりを描いていますの主人公になぞらえ、「ポップな方の九条」と表現しています。最後には、言っている内容はきちんとしていたとも付け加えています。
着物ジャケットの「着ることは脱ぐこと」は伝わったか?
4本目はエントリーナンバー77番、フクイサエさんの動画です。フクイさんは着物を生地にしたジャケットやスーツをオーダーメイドで仕立てていて、動画は「着ることは脱ぐこと」という言葉から始まります。
フクイさんは、新しい服を着る前にまず本当の自分に戻ることが大切だと考えています。そのためにお客様のルーツを深く聞き、日本に生まれたことが世界に通用する価値だと実感できる一着を目指していると語りました。
すがけんさんは、コンセプトは「オーダーメイドアイデンティティ」だろうと受け止め、服で一番大事なのはそこだと共感します。どの服を選ぶかを決めるのも自分なので、自分が整っていないと良いものを選べないという考えです。
AI何でも叶えてくれるようになってきたんだけど、その入力が自分が汚い欲望だと汚いものしか返してくれないじゃないですか。
すがけんさんによれば、日本のトップの頭脳を持つ人たちと話しても、最後は哲学と判断力、つまり意思決定の話になるそうです。服も同じで、自分が整っていないと服に着られてしまうと話しています。
ただしすがけんさんは、コンセプトの良さが評価や売上につながるまでには大きなギャップがあるとも指摘します。川原さんも、冒頭の言葉に掴まれはしたものの、腹落ちはしなかったと率直に話しました。
でも着ることを脱ぐことだってみんな思ってないから、意外性の方が強く残って、なんでこれ選ぶんだっけ?につながんなかったなっていうのが正直な印象。
川原さんは「着ることは脱ぐこと」をフクイさん自身の哲学だと捉え、相手の言葉を使うことで本質的な価値が開くはずだと助言しています。
川原さんはさらに、一次審査のシートを見たときから、日本人として世界の人の中に入っていく人がまとう服になると感じていたといいます。そうした人にもっとピンポイントで訴えてもいいのではないか、という提案です。
すがけんさんは、動画で着ているのが海外の人だった点に触れ、海外の人に選ばれたいならそれでいいが、日本から世界へ出る人向けなら別のやり方があると話します。グローバルに活躍する日本人の友人たちは、日本代表の感覚から時計もセイコーを選び、日本製の話をしたがるそうです。
動画が上手でなくても、一歩踏み出した人が未来を変える
4本の講評を終えた二人は、もともとはさらっと紹介するだけの予定だったのに、それができなかったと振り返ります。すがけんさんは、それだけ投稿した人たちの情熱とパワーが強かったと話しました。
すがけんさんは、応募者の動画は決して専門的に上手なわけではないが、それは関係なく見入ってしまったといいます。厚利少売では10万インプレッションは必要なく、1000人から2000人が見て、その10%ほどの100人がいいねしてくれればすごいことだという考えです。
絶対僕らより環境が悪くて忙しくて大変だと思うんだけど、でも僕らが一人で作るよりもすごいものを作ったよね、みんな。
川原さんは、講評のフィードバックは応募者以外にもヒントになると話します。すがけんさんも、どういう動画を出すと人がどう感じるかを伝えたので、欲しい感想があるならそういう動画を撮ればいいと補足しました。
番組の終盤では、リスナー投票への参加が呼びかけられます。すがけんさんは、ただ見ているだけでは傍観者になってしまうので、自分の一票を信じて投票してほしいと話し、SNSで「投票したよ」と発信することも勧めています。
川原さんによると、二次審査を音声だけにする案もあったものの、映像にしてよかったと審査後に感じたそうです。また、ハッシュタグ「勝手に厚利少売オーディション」で、自分の事業を厚利少売に変えようとする動きもSNSで起きていると紹介されました。
投票は概要欄の特設ページから行え、動画の再生数やいいね数も評価の一部になります。投票期限は5月24日日曜日23時59分までと告知され、すがけんさんは聞いている人と同じ立場で一票を投じたいと締めくくりました。
まとめ
後編では、4つの事業の二次審査動画を通じて、見えない価値をどう見せるか、どうすれば信頼されるかが具体的に語られました。どの講評も、自分の発信に当てはめて考えられる内容になっています。
- 味が伝わらないワインには、注ぐ場面などのシズル感と、作り手のキャラクターの強化が伸びしろになる
- コンプレックスに関わる悩みは、それを愛でるほどの姿勢を見せることで圧倒的な信頼につながる
- 真面目な題材ほど、SNSでは見たいものを先に見せる「コンテンツ化」が必要になる
- 自分の哲学は、相手の言葉に置き換えることで本質的な価値が伝わりやすくなる
- 動画が上手でなくても、一歩踏み出して形にした行動が未来を変える






