「無駄」を狂気まで煮詰めるとアイデンティティになる──予定調和を避ける二人の思考法
限界突破ライフハック第24回は、リスナーからの「人生で無駄だった時間は?」というお便りをきっかけに、けんすうさんと田中渓さんが「無駄」と「予定調和」について語り合いました。学歴談義、アンパンマン強さ議論、MAD動画への没頭、そして久米島でのサトウキビ刈り。一見バラバラな話題が「予定調和こそ無駄」という結論に向かって収束していく、その内容をまとめます。
お便り「人生で無駄だった時間は?」
お二人に聞きたいんですが、これまでの人生で「あれは本当に無駄だったな」と思う時間って何かありますか?お二人とも効率化の鬼なので、逆に無駄だった過去があるのかどうか気になりました。
このお便りに対して、けんすうさんは2000年頃の2ちゃんねるでの体験を挙げます。クリスマスの日に学歴板に張り付き、「早稲田の政治経済と法学部はどちらが偉いか」を延々と議論していたというのです。さらに、アンパンマンの登場キャラクターの強さをランク付けする「アンパンマン強さ議論ランキング」も一時期見続けていたとのこと。
Sランクとかだと、映画でしか出てこない「元気100倍アンパンマン」とか超強いやつがいて。長ネギマンとかちょっと強いとか。マジ無駄だなと思って。
田中さんは、現代の20代がX(旧Twitter)で「一般入試か推薦入試か」でレスバ(言葉のバトル)を繰り広げている話を紹介。AO入試、指定校推薦、内部進学……入り方の違いで序列をつけたがる現象は、形を変えて繰り返されているといいます。
序列とヒエラルキーに人はなぜハマるのか
けんすうさんは、人類学者の深井さん深井龍之介。歴史を経営や人生に活かすメディア「COTEN RADIO」のパーソナリティとして知られる。の話を引きながら、序列をつけたがるのは人類普遍の性質だと指摘します。昔の中国では帽子の色で序列が決まっていて、それで人を殺したり自殺したりするほどの問題だったが、現代から見ればどうでもよく映る、というエピソードです。
田中さんは前職のゴールドマン・サックス米国を代表する投資銀行。世界最高峰の金融機関のひとつで、日本では六本木ヒルズ森タワーにオフィスを構える。時代のエピソードを披露します。リーマンショック後にフロアが余り、同じビルにGoogleと森ビルが入居。エレベーターに乗った瞬間、服装で「こいつはゴールドマン、こいつはGoogle、こいつは森ビル」と一発でわかったというのです。
過去の無駄は後から意味づけされる
ここから話は、より本質的な方向へ進みます。田中さんは「過去を積み重ねて未来を考えるのは意味がない」と断言。むしろ未来へ進みながら、過去に後から意味づけしている、というのが持論だといいます。
ゴールドマンに新卒で入った理由を「お金が稼げて、実力主義で」とか言ってたんですけど、それ全部嘘で。発信活動を始めた今、人に認知してもらう便利なバッジになったなと。全てはこのための手段だったんじゃないかと思い始めて。
けんすうさんも、ビックリマンシールに3歳でハマっていた経験が今の仕事に直結していると応じます。中学校の部活仲間と今ポッドキャストを撮っていることも、当時は意味があるかわからなかった――。
田中さんはさらに、アニメMAD動画既存のアニメ映像を音楽や別の文脈に合わせて編集した二次創作動画。2000年代後半〜2010年代前半にニコニコ動画などで隆盛した。著作権的にグレーな領域。を一日8時間見ていた時期があり、その「カルチャー見」が今、川田十夢AR三兄弟の長男として知られる開発者・クリエイター。テクノロジーとカルチャーを横断する作品で知られる。さんの作品にハマる感性につながっていると話します。
アンダーグラウンドの「ご法度」を知る価値
狂気的に何かにハマると、その世界の「暗黙のコンテキスト」が体得できる。これが田中さんの主張です。ヒップホップを例に、ランキング上位の曲を聴いていれば安心だと思っていたが、クラブで実際にかけたら「うわっ」というリアクションをされたという経験を披露します。
世界的ヒットチャート、トップ100、評価サイトの星の数。誰でもアクセスできる客観的指標。
アンダーグラウンドのコミュニティで共有される「これはダサい/これは流しちゃダメ」の感覚。地図がないと地雷を踏む。
映画好きに「一番好きな映画は?」と聞くと困る、という話にもつながります。けんすうさん曰く「『アルマゲドン』とか言っちゃダメ」、田中さん曰く「『ショーシャンクの空』も自分はダメだと思ってる、好きだけど」。レストランも食べログの星3.87の店をドヤ顔で出すのはセンスがない、という話に展開します。
無駄を狂気まで煮詰めると、ちゃんとアイデンティティになりますからね。
田中さんは『センスの哲学』哲学者・千葉雅也の著書。センスとは何かを徹底的に分解し、最終的に「リズム」「緩急」に行き着くと論じた一冊。を引きながら、センスとは結局リズムであり、緩急であると整理します。感動ストーリーをずっと流し続けても響かない。日常と感動を行き来する余白こそがセンスを生む――。
大人数の会とドタキャンの快感
では二人が本当に避けている「無駄」とは何か。田中さんが挙げたのは、関係性の薄い5人以上の食事会です。
そして二人が共通して語ったのが「ドタキャンされると嬉しい」という感覚です。予期せぬフリータイムが生まれた瞬間、無駄なことをしていい時間が手に入る――これがたまらないというのです。
けんすうさんはさらに「同じことをやってしまう無駄」を挙げます。そんなに食べたいわけでもないのに、めんどくさいから同じ店に行ってしまう。これをやめて全然知らない店に行ったほうがいい、と。
予定を立てない旅と小島よしおの実家
話は壮大な「予定を立てない旅」の良さへ展開します。田中さんはトライアスロンのレースで沖縄の久米島に行った時のエピソードを披露しました。
これ予定してたら絶対起こんないですよね。農業体験で「1時間1000円」とか言われたら僕やらないと思って。強制労働だと思ってやってみたら面白かったみたいな。
調べ尽くした旅行は、期待値の通りにしかならない。むしろ写真より実物が劣れば、ちょっとがっかりするだけ。けんすうさんはこれを「タスク消化」と表現しました。
期待値通りのサービス、想定内のメニュー、写真より劣ればがっかり。最大値が決まっている=タスク消化。
小島よしおの実家でサトウキビ刈り。予期せぬ展開、一生の思い出に。最大値が無限。
便利を疑え──角幡唯介の視点
田中さんは最後に、冒険家・角幡唯介日本のノンフィクション作家・探検家。チベットのツアンポー峡谷や北極圏の単独行などを記録した著作で知られる。さんの視点を紹介します。冒険家とは非合理と無駄しかしていない存在で、角幡さんは「便利」という言葉を嫌うといいます。
ただし二人とも、すべてを非効率にすればいいとは言いません。田中さんは「メリハリだと思う」と整理します。効率的にチャチャっとやるところと、何もしない時間。けんすうさんは「5日間の旅行なら、2日は観光地に行ってもいいけど、3日は余白で何が起こるかわからない方がいい」と応じました。
まとめ
今回の話は「人生で無駄だった時間は?」という素朴な質問から始まり、「予定調和こそ無駄」という逆説的な結論にたどり着きました。学歴板でのレスバも、アンパンマン強さ議論も、MAD動画の8時間視聴も、ビックリマンシールへの没頭も──その時は無駄に見えても、後から意味づけされるカルチャー解像度になっている。一方で本当に避けるべき無駄は、関係性の薄い大人数会、惰性のリピート、そして「調べ尽くした旅」のような予定調和だった、というのが二人の見立てです。効率化の鬼である二人だからこそ、余白の重要性が際立つ。そんな回でした。
- 「無駄」は後から意味づけされる。狂気的に何かに没頭した経験は、後にカルチャー解像度や仕事に直結する
- どの世界にもアンダーグラウンドの「ご法度」がある。それを体得しないと、その世界の会話に入れず地雷を踏む
- 完璧に調べ尽くした旅行は「タスク消化」になる。期待値の最大値が決まってしまうから
- 余白を残すからこそ予期せぬ体験が生まれる(→小島よしおの実家でサトウキビ刈り)
- 「便利」とは結果がわかっているものを短縮しているだけ。短縮した時間で何をするかが本題
- 避けるべき無駄もある:関係性の薄い5人以上の会、2次会、同じ店の惰性リピート
- センスとはリズム・緩急。効率化と余白のメリハリこそが本質
