服も靴も「1g単位」で最適化する──砂漠ランナーが辿り着いた究極のファッション論
限界アスリートと起業家が語る、服選びの「限界突破」。砂漠マラソンで袖を切り、白Tシャツを20種類試し、革靴20足をたった1足に置き換えた二人の思考プロセスを追います。目指すのは見栄えではなく「機能とフィット」。番組「限界突破ライフハック」の内容をまとめます。
ファッション遍歴:原宿古着からオーダーメイドへ
田中渓さんの服選びは、時代とともに大きく変化してきました。中学・高校・大学時代は、数学路の途中下車で原宿の古着屋に通い、DJとしてクラブカルチャーに浸っていた頃は「アンダーグラウンド系」の服を着ていたと言います。アパレル雑誌に掲載されるほど、ファッションにこだわっていた時期もありました。
社会人になってお金に余裕ができると、今度は「ブランド物を端から端まで試してみる」というフェーズに入ります。しかし、そうして一通り試した結果、田中さんは「もうええわ」という境地に至りました。
今はもうできるだけ、なんでしょう、どこかで尖らないようにしようと。
現在の田中さんは、無難な格好を心がけつつも、細部には徹底的にこだわっています。たとえば白Tシャツは20種類を着比べ、重さ、ヨレ方、洗濯後の白さの抜け具合、伸縮性まで検証した上で、「これ」という一枚に絞り込んでいます。
白Tシャツ20種類の着比べと「フィット至上主義」
一方、けんすうさんもブランド選びには独自の基準を持っています。「好みが狭い」と自認するけんすうさんは、ポータークラシック日本発のファッションブランド。職人的なものづくりと機能性を重視したデザインが特徴。というブランドに辿り着いてからは、気に入った服の「色違いを全買い」するスタイルになりました。
ある時、店舗で一着購入した後、こっそりオンラインで同じ服を追加購入したところ、店員から「気に入っていただけて…」という手紙が届きました。恥ずかしくなって別の店舗(銀座店)に行くと、そこにも同じ店員がいて、さらに伊勢丹店に逃げても同じ人に遭遇。結果的に「全店舗を巡る激烈なファン」として認識されてしまったそうです。
田中さんがオーダーメイドに行き着いたのは、「フィットしている」というKPIこそが、ブランド力を上回るという気づきからでした。特に田中さんのように左右の腕の太さが違う場合、既製品では完璧なフィット感を得るのは難しいと言います。
コロナ後、スーツ需要が激減した影響で、田中さんの友人のスーツ職人はスーツ以外の服(ニット、コート、パンツなど)もオーダーで作るようになりました。高そうに聞こえる「オーダーメイド」ですが、実際にはブランド品の5分の1程度の価格で、同じ生地を使った完璧なフィットの服が手に入るのです。
砂漠マラソンが教えた「1g削る思想」と服の発明
田中さんが服について語る上で欠かせないのが、砂漠マラソンサハラ砂漠などで開催される、257kmを6〜7日間かけて走破する過酷なレース。食料・装備をすべて背負って走るため、軽量化が極めて重要になる。での経験です。257kmという距離を走破するには、約30万歩を踏む必要があります。生きるために必要な装備をすべて背負うため、標準的な選手で15kg、重い人は20kg、トップ選手でも9kgの荷物を背負います。
この過酷な条件下では、「1gでも軽く」が合言葉になります。お菓子の袋は切る、洋服も「本当に必要な部分」だけを残すという発想になるのです。
半袖って別に半袖である必要ないじゃないですか。デザインだから。もうちょっと切っても大丈夫。
袖の長さや着丈を物理的に短くカットすると、グラム単位で重量を削れます。そして興味深いのは、こうして「機能性に影響のない布」を削ぎ落としていくと、「実はこれでいいんじゃないか」という新しい服のデザインが生まれることです。田中さんはこれを「服の発明」と呼んでいます。
この「極限の軽量化」から生まれた思考は、日常のファッション選びにも応用できます。本当に必要な機能は何か、デザインだけで付いている布はないか──そう問い直すことで、服の本質が見えてくるのかもしれません。
旅行の荷物を極限まで減らす技術
砂漠マラソンで培った「最小化思考」は、旅行の荷物にも活かされています。田中さんが海外旅行で泊まる宿は、「キッチンと洗濯機が付いている」という条件を満たす場所に限られます。ホテルにその設備がなければAirbnbで探すほど徹底しています。
南国への旅行なら、持っていく服は「日本を出る時に着ている服」「Tシャツ1枚」「水着」だけ。水着は日中も外で着ていられるため、実質的に服を持っていく必要がありません。ランニングウェアは汗だくになるため洗濯機で洗いますが、それ以外は洗い立てのものを繰り返し着るだけで十分だと言います。
結局洗濯したばっかりのやつをまた着てるんですよ。だから何着もいらないなと。
けんすうさんも旅行の軽量化には積極的で、アリエールの旅行用洗濯袋P&Gが販売する、水と洗剤を入れて揉み洗いができる簡易洗濯袋。洗濯機がない場所でも手軽に洗濯できる。を活用しています。これは水と洗剤を入れて揉み洗いできる簡易的な袋で、洗濯機がない場所でも対応可能になります。さらに、速乾性・防臭性のある下着を選べば、2着で回せるため荷物がさらに減ります。
けんすうさんは、旅行用の軽量バッグや軽量ポシェット(40gほど)も愛用しており、スーツっぽいがくしゃくしゃにしても大丈夫というヘアトラ機能性とデザイン性を兼ね備えた旅行用ファッションを提案するブランド。軽量で折りたたみ可能なアイテムが特徴。というブランドのアイテムも取り入れています。
ただし、田中さんも認めるように、この「男性的発想」の荷物削減は、写真を撮ったり映えを意識したりする人には向かないかもしれません。「旅行中ずっと同じ服」では困る場面もあるでしょう。しかし、機能性と快適さを最優先するなら、この最小化戦略は非常に理にかなっています。
インナー戦略で冬のコートを減らす
冬の防寒対策も、「インナーで調整する」という発想が有効です。けんすうさんは、モンベルのメリノウール羊毛の一種で、保温性と透湿性に優れた天然素材。汗をかいても蒸れにくく、冬のアウトドアやスポーツに最適。のタイツと上半身用インナーを着ることで、コートなしでも十分暖かくなったと言います。
田中さんも、極寒のアルプスを48時間走り続けるレースに出場する際、メリノウールのインナーを愛用しています。暖かいだけでなく、汗をかいても透湿性が高いため蒸れずに快適に過ごせるのです。限界アスリートたちの間でも、メリノウールは定番の素材だと言います。
さらに田中さんは、ユニクロの極暖ユニクロが販売する、通常のヒートテックより約1.5倍暖かいとされる防寒インナー。冬の定番商品。と、V字にカットされたインナーベストを組み合わせる戦略も紹介しています。インナーベストはコートの中に着てもゴワゴワせず、保温性だけをブーストしてくれる優れものです。
田中さんが参考にしているのは、かつてのBボーイ(ヒップホップカルチャーのファン)のスタイル。ノースフェイスのマクマードパーカーノースフェイスの人気ダウンジャケット。防寒性が非常に高いため、下にTシャツ1枚でも暖かいとされる。という最強の防寒コートの下に、いきなりTシャツを着るというスタイルです。このスタイルを現代的にアレンジし、インナーベストで保温性を高めることで、外見はスッキリ、体は暖かいという理想的な状態を実現しています。
・Tシャツ
・セーター
・厚手のコート
→ ゴワゴワして動きにくい
・メリノウール / 極暖
・インナーベスト
・薄手のコート
→ スッキリして暖かい
末端の冷え対策としては、田中さんが愛用する「こたつソックス室内履き用として販売される、極厚の保温性靴下。コンビニやロフトなどで購入できる。」も効果的です。本来は室内用ですが、田中さんは外でも履いているそうです。首と名のつく部位(首、手首、足首)を温めると全身が暖かくなるという原理に基づいており、冷え性の人には特におすすめです。
靴よりインソールが大事──医療用熱成形の衝撃
靴選びについて、田中さんは「靴よりもインソールが大事」と断言します。多くの人は足のサイズを「センチメートル」だけで測りますが、実は「幅(ワイド・スリム)」や「甲高」といった要素も重要です。
現代人のほとんどは軽度のO脚になっており、歩く時に足首がグニグニ曲がっています。この状態が続くと、膝や関節に負担がかかり、痛めてしまう可能性があります。しかし、足の形を完全に治すのは難しいため、医療用の熱成形インソール整骨院などで作成できる、個人の足型に合わせて成形されるインソール。足のアーチや角度を補正し、姿勢改善や関節への負担軽減に効果がある。を使うことで、足の角度を補正し、まっすぐ立てるようにすることができます。
それを入れると、もう圧倒的に自分がまっすぐ立ってるなっていう感じになる。入れてない人やばいなこの人たち、裸足で歩いてる原始人と同じだなぐらいの感覚で。
田中さんによれば、コンバースのスニーカーキャンバス地のカジュアルスニーカー。デザイン性は高いが、ソールが薄く、クッション性や足への負担軽減機能はほとんどない。のような靴は「板を履いているのと同じ」であり、足に優しくありません。量販店で売られているインソールでもある程度改善できますが、できれば整骨院や治療院で熱成形してもらい、自分の足型に完全に合わせたインソールを作るのがベストです。
革靴についても、田中さんは長年ブランド品を愛用していましたが、最終的にアシックスの「ランウォーク」アシックスが販売する、革靴の見た目を持ちながらランニングシューズのような履き心地を実現したビジネスシューズ。に辿り着きました。これは「革靴でフルマラソンを走れる」というコンセプトの靴で、クッション性が非常に高く、長時間履いても疲れません。合成皮革のため本革ではありませんが、他人の靴を細かくチェックする人はほとんどいないため、実用性を重視するなら十分です。
この「ランウォーク」1足を手に入れてから、田中さんが持っていた20足の革靴は、この5年間一度も出番がありません。結局、すべて処分する予定だと言います。
靴下のペアリング地獄からの脱出
靴下選びは、二人とも「最適解が見つからない」と認める難題です。田中さんの解決策は、「一度に全部捨てて、同じものを10ペア買い直す」というもの。こうすることで、靴下のペアリング問題から完全に解放されます。
妻のプレゼントが大体靴下なんで、いろんな靴下がありますね。
けんすうさんの場合、妻からのプレゼントでいろいろな柄の靴下が増えてしまい、ペアリングに時間がかかるという悩みがあります。田中さんはシンプルに黒い無地を選ぶことで、この問題を回避しています。
冬の靴下としては、田中さんが愛用する「こたつソックス」が最強です。本来は室内履き用ですが、保温性が非常に高く、外でも履いているそうです。田中さんはもともと冷え性で、外にいる時間も長いため、こたつソックスを履くようになってから「めちゃくちゃ良くなった」と語っています。
けんすうさんは「末端まですごいポカポカ」な体質で、冷え性の悩みはないそうです。父親は平熱が低いのに、けんすうさんは平熱が高めという違いもあり、体質による差は大きいようです。
まとめ
二人のファッション論を貫くのは、「見栄えよりも機能とフィット」という原則です。砂漠マラソンで培った「1g単位の軽量化」、20種類の白Tシャツを試して1つに絞る徹底検証、オーダーメイドによる完璧なフィット感の追求──すべては「本当に必要なもの」を見極めるための試行錯誤でした。
旅行の荷物を極限まで減らし、インナー戦略で冬のコートを軽量化し、医療用インソールで姿勢を改善する。これらはすべて、「装飾を削ぎ落とし、機能を最大化する」という考え方に基づいています。
彼らの手法は、必ずしも万人向けではありません。服を減らしすぎると写真映えしませんし、靴下を全部捨てるのも勇気が要ります。しかし、「なぜその服を選ぶのか」「本当に必要な機能は何か」を問い直すことで、自分だけの最適解が見つかるかもしれません。
- 白Tシャツは20種類試して1つに絞る──高い=良いではない
- ブランド品よりオーダーメイドが安くて最強──フィット感こそ最大のKPI
- 砂漠マラソンの「1g削る思想」が服の発明を生む──機能性に影響のない布を削る
- 旅行の荷物は最小化──洗濯機付き宿+速乾下着で2着で回す
- インナー戦略でコートを減らす──メリノウール+極暖+インナーベストが最強
- 靴よりインソールが大事──医療用熱成形インソールで姿勢が劇的改善
- 靴下は全部捨てて同じものを10ペア買う──ペアリング地獄からの脱出
- 革靴はアシックス「ランウォーク」1足で20足が不要に──クッション性と機能性で選ぶ
