キャラを立てて「この人=○○」を作る
新しい環境で最初に効くのは、専門性のラベルを一つ持つことだと二人は話します。けんすうさんは新卒でリクルートに入った際、先輩から「この人はこれに詳しい、を作った方がいい」と助言されたそうです。
当時のけんすうさんが選んだラベルは「ネットの揉め事に詳しい人」でした。今で言う炎上SNSなどネット上で特定の発言や行動に批判が殺到する現象。2000年代後半から一般化した言葉に近い領域で、社内に他の専門家がいなかったため、新卒でありながら役員会議に呼ばれる立場になったといいます。
リクルート社内でネットで炎上した時に偉い人の会議に呼ばれるようになるんです。新卒だけど。まあクリティカルな話をしているが、外部にも専門家がいないので、新卒の僕がその偉い人に意見言えるみたいな場面になる。
ただし副作用もあり、だんだん「あいつが炎上させている」と噂され、けんすうさん自身が犯人扱いされたこともあったそうです。
「便利くん」として小さな加点を積み重ねる
一方の田中さんは、新卒時代に自分の価値を発揮するのは難しいと考え、「便利くん」に徹する方針を取ったと振り返ります。象徴的なのが、1日3回ランチに行っていたエピソードです。
自分で食事を済ませた後、先輩から「お前飯食った?」と聞かれると「行っていないです」と答えてついていく。次の上司にも同じように誘われ、中華、イタリアンと立て続けに食べに行っていたそうです。
今度イタリアンとかにして油と油かみたいな。オリーブオイルとごま油のマリアージュはやばいなと思いながら、三回目のご飯を食べて、それでめちゃくちゃ太ったりもしたんですけど。でも何でもご飯誘ってくれたやつを全部行くっていうことで関係性作っていた。
無理をしてでも同席することで、上司と1時間話せる貴重な機会を積み重ねていたと田中さんは話します。けんすうさんは、これを「ちっちゃな加点の積み重ね」として整理しました。
会社って加点方式だし、減点方式だし、両方あるんで、ちっちゃな加点を積み重ねていくことで、得られる信用なのか、便利なやつとして何かチャンスが回ってくるか、声がかかるようになるか。それをたくさん積み重ねてきたっていう凡人道はすごいあります。
呼ばれたら5分で駆けつける「西麻布ダッシュ」
けんすうさんが感心したのは、会食中に偉い人から電話がかかってきた際、「今向かっています」と即答する知人のエピソードです。焼肉のエプロンをつけたまま駆けつけ、可愛がられていたといいます。
田中さん自身も、六本木ヒルズ東京・港区の複合ビル。IT・投資関連企業のオフィスが集まる象徴的な街から西麻布へ電話一本で駆けつけていた経験を語ります。金曜日はタクシーだと渋滞するため、走った方が早いかを見極めていたそうです。
電話かかってきたら、もう絶対5分以内に行くっていうんで。タクシー使って行くにはワンメーターで行けたんですけど、金曜日とかだとめちゃくちゃ渋滞して、二十分とかかかっちゃう。タクシー使っていい時なのか、走って行った方がいい時なのかを見極めて、一番早い方法で行ったり、タクシーに乗ったんだけど百メートルで降りたりして。
「5分後に来たらこいつやるな、となる」と、けんすうさんもうなずきます。呼ばれた瞬間の反応速度そのものが、加点になるという発想です。
本と時間差で「勧めてくれた人」に応える
勧められた本の扱いも、二人共通のテクニックです。本気で全部読むのは難しいので、パラパラめくって印象的な数行を抜き出し、その日のうちに感想を返す。この「大学入試の国語のように抜き出す」方法で、次も薦めてもらえる関係を作っていたといいます。
本当に全部読むのは正直不可能なので、パラパラって読んで、どうせこんなところが良かったですっていうのって五行ぐらいあるじゃないですか。そこだけを大学入試の国語の文のように抜き出して、それだけを送って、さも全部読んだかのように送っていました。
時間の使い方でも「朝早く出社する」が効くと田中さんは話します。朝三時のメールで頑張りをアピールするのは大変ですが、朝早く行けば上司の目に留まりやすく、雑談から商談へ連れて行ってもらえるチャンスもあると言います。
けんすうさんは、飲み会後に会社に戻って深夜にメールを返したり、土日の朝に30分だけ出社してメールを送ったりする「姑息なテクニック」も紹介。田中さんも土日に少しだけメールを打ち、あとは会社で漫画を読んでいたと笑います。
9フロア喫煙所巡回──偉い人がいる場所に自分を置く
さらに強烈だったのが、けんすうさんの知人の「9フロア喫煙所巡回」です。タバコを吸わないのに、1階から9階までの喫煙室で1時間ずつ仕事をし、偉い人の雑談に混ざって全部署の情報を集めていたそうです。
九階から一階までの喫煙室、全部行っていると、あらゆる部署の情報を手に入れているので、「お前あの部署のあれ知ってる?」と聞かれると全部答えられる。そうすると、会社を横断的につなげてくれる人としてすごい重宝されて。
これは『プロセスエコノミー』の著者として知られる小原さんのエピソードだそうです。役員室のあるフロアには行けなくても、喫煙所には偉い人が来る──「偉い人が出現する場所に身を置く」という設計が共通点だと二人は指摘します。
自己紹介は人生で一番回数の多いプレゼン
元Yahoo社長でブーストキャピタルを運営する小澤さんは、「自己紹介こそ人生で一番やるプレゼンだから磨け」と説いているそうです。1〜3分でどう興味を持ってもらうかを、自身の子どもにも英才教育しているといいます。
けんすうさんが紹介した小澤さんの実践例は印象的です。韓国では「Yahoo社長」の肩書きが通じないため、当時流行していた韓国ドラマの主人公と全く同じ髪型にし、「あのドラマが大好きです」と自己紹介したところ、大いに受け入れられたそうです。
田中さんは、自分には「元金融の人」という濃いラベルがあると話しつつ、相手に合わせて出す順番と濃度を変えていると言います。相手が元オリンピック選手ならスポーツの話に絞り、金融の話は後出しにする、といった具合です。
一方のけんすうさんは、明確な一言ラベルを持ちにくく「インターネットの人」と呼ばれることが多いそうです。ラベルの濃度をどう調整するかが、自己紹介の技術の中心だと二人は整理します。
丁寧の暴力を避け、ギブを先行させる
仲良くなる方法として田中さんが挙げたのは、「長文を書かない」ことです。かつては長文が丁寧さの証だと思われていましたが、今は逆に相手に負担をかけると考えているそうです。
長文はやっぱり重たい。結局相手が返ってきた分量ぐらい、ないしはその七割ぐらいで返さないといけないような雰囲気になるから、あれはちょっとした丁寧の暴力だと思い始めて。
親しみを作るには、短文でジャブを打ち合い、関係が縮まってから重いボールを投げる方が良いという発想です。
そして、関係性が薄いうちはとにかくギブに徹すること。田中さんは以前、岸谷五朗さんに情報収集元を尋ねられて全部渡した経験を挙げつつ、「お願い事をするのが超苦手」だと打ち明けます。10回ギブして1回お願い、くらいの感覚だそうです。
自分がある程度ギブしてギブして、そろそろお願い事一個ぐらいいいかなって。十渡したから一個ぐらい、すいませんちょっとお願い聞いてもらってもみたいなぐらいでしかできなくって。それはもう悩んでるぐらいダメです。
けんすうさんも同じ感覚だと共感します。ギブが得意な人の傾向として、「渡した瞬間に忘れている」ため、返ってこなくても気にならないという特徴も挙げました。
初手の面白いギブと、SNSで仲良くなる方法
けんすうさんの「初手ギブ」はスケールが大きめです。一度も話したことのない人から「選挙に出るから150万円貸してくれ」と言われ、説明も聞かないまま貸したというエピソードを紹介します。
一回も話したことないし、説明も聞いていないまま貸したら面白いなと思って貸しました。そしたら二日後に取り消しになって返ってきて、それももうめっちゃ笑った。
結果として何もしていないのに大きなギブをした形になり、こちらの遠慮がなくなって仲良くなりやすくなる、というのがけんすうさんの解釈です。「乱発できない必殺技」だと田中さんも苦笑します。
もう少し再現性の高い方法として二人が挙げたのが、SNSでの本の紹介です。相手の本をXで紹介すると、著者から連絡が来ることが多いといいます。田中さんはサイバーエージェント藤田晋さんとのランチ後に『勝負眼』を読んで紹介したところ、本人からお礼のDMが届いたそうです。
藤田さんから「この本は正直本当に売りたい、日本の人たち、世界に届いてほしいと思って書いたやつ、知って欲しかった、自分の半生を」というのが、日経新聞の告知よりもXのことで伸びたから、すごい嬉しかった、というコメントをもらえて。
著者やテレビ番組の演者は「これで良かったのか」と不安なこともあるのではないか、とけんすうさんは推測します。率直な感想を送ると返信が返ってくることがあると、ウエストランド井口さんの例も挙げて説明しました。
新しく入ってきた人と関係を作る「先手」の技術
話題は「自分が入る側」ではなく「相手が入ってくる側」に切り替わります。田中さんは、新しい上司や同僚が来た初日か2日目に、自分なりの「組織の歩き方」を教える役に回るそうです。
そうすれば、不安を抱えて入ってくる相手にとって最初のコンタクト先になれる。ただし、その人が「困ったちゃん」だった場合、深く関わりすぎて後で苦労するリスクもあると釘を刺します。
けんすうさんが思い出したのは、リクルート時代の研修エピソードです。リクルートは「研修は自分で考えなさい」というスタイルだったため、彼は部署の全員に1時間ずつ半生インタビューをして記事にまとめたそうです。
部署の全員にインタビューして全部記事にすると。そうするとお互いのことの理解度が深まるし、新しく入ってきた人もそれ読めばわかるのでいいよねっていうのをやって。強制的に一時間半生聞けるので、これは仲良くなるのにすごい便利でした。
電話帳への名前埋め込み、同期の誕生日収集、半生インタビュー──いずれも「組織の関係性を若手が可視化する」という共通の型だと田中さんはまとめます。ただし、これは若手ならではの特権で、大人がやると重すぎて機能しない、と二人は笑います。
僕らの年で、いきなり「ちょっとみんなの半生をそろそろ聞きたいんで、一つの物語にしたいんだ」って言ったら、何を聞きたいんだろうなってなるから。
まとめ
新しいコミュニティに馴染む方法は、大きな才能や実績よりも、小さな加点をどう積み重ねるかで決まる、という話が全編を貫いていました。キャラ作り、便利くん、居場所の設計、自己紹介、ギブ先行──どれも「相手が声をかけたくなる自分」を作るための地味な工夫です。
- 専門性がなくても、社内で他の人がカバーしていない領域を掴み「この人=○○」のラベルを作る
- ランチ・喫煙所・早朝オフィスなど、偉い人がリラックスしている場所に自分を置く設計をする
- 勧められた本や番組は、その日のうちに感想を返し、次も声をかけたくなる関係を作る
- 自己紹介は人生で最も回数の多いプレゼン。相手に合わせてラベルの順番と濃度を変える
- 長文は「丁寧の暴力」になりうる。10回ギブして1回お願いくらいの感覚で信頼を積み上げる
