『命の燃やし方』とカレンダーで刻む目標
けんすうさんがコムドットのやまとさんを迎えた第一のテーマは「目標の立て方」。きっかけは、やまとさんの著書『命の燃やし方』を読んで社内でも「命を燃やそう」と繰り返し言うようになったことでした。そしてもうひとつ、Xにアップされていた"目標カレンダー"の存在です。急上昇ランキングの順位まで毎日細かく書き込まれた記録に、けんすうさんは強い衝撃を受けたと語ります。
やまとさんの目標設定はシンプルです。チャンネル登録者100人、200人、3千人、5千人、1万人、10万人、50万人と刻み、突破するたびに即座に次を宣言していく。「年内目標」というワードはコムドット内で恒例行事となり、やがて大きなムーブメントを作りました。
動機はシンプルで、目標があった方が、数字で見えていた方が自分たちが頑張りやすいからだったんですけど、蓋を開けてみたら、ファンのみんなも数字を一緒に見れるからこそ応援しやすいみたいなとこあるんで。
会社の業績とは違い、YouTubeの登録者数は「見たかったら今すぐ見られる」。この可視化されている状態そのものが、自分たちにもファンにも駆動力を与えていたのです。
「行けるか」ではなく「行くか」で決める
一年で260万人増やした年、スタートは60万人。まず100万人を目標に掲げ、そこから「月・週・日」へと砕いていく典型的な目標分解を、毎日カレンダーで進捗チェックする仕組みに落とし込みました。プラスマイナスが日々記録され、マイナスが続けば計算し直す。
年内目標:100万人(60万人スタート)
ひと月あたり必要な増加数を算出
一週間あたりに落とし込む
一日あたりの目標を毎日カレンダーで進捗チェック
驚くべきは、メンバーから一度も「無理じゃない?」という声が出なかったこと。けんすうさんが「1万から10万は100を200にするのとはワケが違うのでは」と問うても、堅実路線を選ぶ発想がまったくなかったといいます。
いけるかいけないかっていう可能性の話ではなくて、いくかいかないか。決めて、あとは決めたことをどうやって達成するかを考える。そっちに時間を使いたかったんで。
当時21〜22歳。「無知だったから無謀なことを簡単に決められた」とやまとさんは振り返ります。今なら業界のことがわかってしまい、リスク計算もできてしまう。自分たちの器が見えてしまう前だったからこそ、限界を決めずに走れたのです。
数字が伸びない時期も楽しめる理由
けんすうさんは「目標を立てても達成できず、数字が放置されるのがあるあるでは」と問いかけます。しかしやまとさんは、数字が伸びない時期すら楽しいと答えました。
仮説検証がやまとさんにとって人生の趣味のようなもの。うまくいかないことは「次のやり方を試すチャンス」に変換される。ここまでやって無理ならと諦める地点にまだ到達したことがないから、常に「まだいける」で走り続けられるといいます。
この行動の速さについて、けんすうさんが「打ち手を思いつく人は多いけどできる人は少ない。その差は何か」と質問すると、やまとさんは笑いながらこう答えました。
バカか、ちょっと賢いかの差だと思ってて。可能性を計算できてしまう人って、逆に行動に移せなくて、結構地獄を見るなって。勢いでやっちゃったことって意外とうまくいく。
今は業界を知ってしまった分、リスク計算が働いてしまう。だからこそ、頭で理解して「一歩無理やり出す」ように意識しているといいます。動きが引っ込みそうな瞬間を自覚したら、勢いで突破する。これが現在のやまとさんの行動原則です。
原宿で声をかけ続けた5人組の泥臭い戦略
初期のコムドットで有名なのが、原宿で通行人に声をかけてチャンネル登録をお願いしていた活動です。「言われてみれば効きそうだけど、普通はできない」とけんすうさん。やまとさんは当時の状況をこう説明します。
幼なじみ5人組の遊んでいる動画を、そもそも誰が見たいのか。しかし自分たちが一番面白いと信じている以上、需要を作るしかない。答えは「友達になる」でした。友達がYouTubeをやっていれば見に行くはず ── その動線を街に出て作りに行ったのです。
底辺クリエイターがInstagramのハッシュタグから対象を絞り、DMで登録依頼を送る
問題:知らない人からのDMは気持ち悪く、信頼につながらない
顔が見える状態で直接話し、まず友達になる
強み:信頼が生まれ、その人のSNSを通じて情報が拡散する(女子高生のフォロワー300人にリーチ)
切り抜き文化がまだなかった時代、「一人と友達になれば、その人のSNSの向こうにいる百人に届く」という一段先のレバレッジをやまとさんは信じました。今同じことをやっても難しいだろう、と自身も語る通り、時代と戦略が噛み合った結果だったのです。
失敗で終わらせない ── コラボウィークの再挑戦
1年で260万人を伸ばした時期に効果絶大だったのが「コラボ」です。しかもコムドットは業界の常識だった「コラボウィーク(1週間)」を超えて「コラボマンス(1ヶ月)」を仕掛けました。1ヶ月で60本の動画が出る異常値。
しかし3年後、同じコラボ戦略を再現しようとした時にはうまく伸びなかったといいます。カレンダーには過去の施策と数字がすべて紐づいて残っていたため、「あの時伸びたコラボをもう一度」と選択できたにもかかわらず、時代が変わればコラボは飽和し、期待した効果は出なかったのです。
ここで諦めないのがやまとさんの流儀。3組コラボや大人数を巻き込むイベント化など、コラボの「形」を変えることで飽和を回避しました。
失敗で終わらせるのが嫌いすぎて。プライドに触るんで、僕の。絶対何かは学んで、これやめようっていう風にしてるかもしれないですね。
最後の1日で6万人 ── 応援の「お願いの動線」
目標達成の前日に、あと5万人足りなかったら諦めるのか。田中渓さんの問いにやまとさんはこう答えます。
95万人まで積み上げれば、残りはファンが動く。応援するだけだった人たちが、家族や友達にまで登録を呼びかけ始める。一番伸びた日には、なんと1日で6万人が加わったといいます。
これに対し、田中渓さんが自身の誕生日に「2万登録」を掲げたところ1万9700人止まりだった話を明かすと、けんすうさんも自分たちが「チャンネル登録してください」と言えるようになったのが最近だと告白。ここでやまとさんが披露したのが「お願いの動線」という考え方でした。
ウィッシュリストという発想
ファンから届く声
「どうしたら力になれますか?」
明確なウィッシュリスト
「これをしてくれたら嬉しいです」を箇条書きで発表
応援の仕方がわかる → 熱量が具体的な行動に変わる
熱をしっかりと何かにこう変えないと、熱って普通に蒸発していっちゃう。俺らとしてももったいないし、みんなとしてもやるせないだろうなと思って。パズルのピースをはめる感覚で、みんなの熱量と自分たちの欲しいものをうまく合わせる。
田中渓さんは「これは自分の悩みでもある」と共感。人にお願いするのが苦手だが、フォロワーの中には無償でも助けたいと思ってくれる人がいて、その気持ちを成仏させる場所を用意することが本人にとっても大事だと語ります。やまとさんも「あんまりお願いって思ってなくて」と付け加えました。ファンの熱を無駄にしないこと ── それが両者にとってフェアな取引になるのです。
アイドルじゃなくて人間 ── 嘘のないプロダクト
けんすうさんが「やまとさんが今何を求めているかがわかる」と評したのは、コムドットが事務所に属さず、グッズやプロダクトを自分たちで管理しているからこそ生まれる「嘘のなさ」でした。
自分たちの子供として世の中に出すんで、それはみんなに手に取ってほしいと思うから熱量が乗るし、その熱量は多分伝わるもので。
誰かがプロデュースしただけの商品なら「事務所が半分持っていくんでしょ」と冷めてしまう。何度もサンプルを確認し、「これだったら俺着ないから売れない」と却下しながら作ったものだからこそ、熱がまっすぐ届くというわけです。
この話は、コムドットがしばしば「YouTube業界のアイドル的ポジション」と呼ばれることへの違和感にもつながりました。アイドルとして活動する友人と話すと、事務所から課される制限(「これしちゃダメ、これ言っちゃダメ」)の桁が違うことに気づくといいます。
「自分たちは人間なんで」というスタンスが、Xでの発言も含めて素の空気を残している理由。田中渓さんは自身を「ビジネスアイドル」と呼ばれた経験を挙げ、金融業界出身ゆえに自分の中のコンプライアンス範囲がガチガチであることを自認しつつ、「哲学に反することには戦う」姿勢がやまとさんに近いと語りました。
もうひとつ、田中渓さんが指摘したのは「全振りが取れる価値」の存在。発信活動100%のけんすうさんとインフルエンサーとサラリーマン的活動を両立する田中渓さん、そして完全にクリエイターに全振りしたやまとさん ── それぞれのグラデーションで取れる果実が違うのです。
まとめ
やまとさんの目標設計は、単なるKPI管理術ではありません。「行けるかではなく行くか」で決め、年→月→週→日に分解して毎日カレンダーで可視化する。うまくいかない時は仮説検証を楽しむ材料に変え、失敗のまま放置しない。そして達成の直前には、ファンの熱量を「お願いの動線」として具体的な行動に変換する ── この一連の仕組みが、1年で260万人という異常値を生みました。
その根底にあるのは「アイドルじゃなくて人間」という姿勢と、自分たちで作ったプロダクトへの嘘のない熱量。ファンは鏡だからこそ、自分たちが良い活動をすればあたたかいコミュニティが育つ。次回もやまとさんとの対話は続きます。
- 目標は「行けるか」ではなく「行くか」で決める ── 可能性の議論に時間を使わず、達成方法を考える時間に全振りする
- 年→月→週→日に砕き、毎日カレンダーで登録者数・増減・施策を可視化する。データを資産化すれば数年後の打ち手も検証できる
- 可能性を計算できる人ほど動けなくなる。頭で理解した上で「無理やり一歩」出すのがやまと流
- 失敗で終わらせない。手を変え続ければ結果的に失敗にはならない
- 応援の熱量は動線を作らないと蒸発する。「これをやってくれたら嬉しい」をウィッシュリストとして箇条書きで明示する
- ファンは鏡 ── 自分たちの活動の質がコミュニティの質を決める。嘘のないプロダクトと人間としての姿勢が長期的な信頼を生む
