日本のDAOと海外のDAOは似て非なるもの
話は、テック好きと世の中の温度差から始まります。かつてGUIが登場したとき、エンジニアたちは「ターミナルで打てばいい」「マウスなんていらない」と言っていたという話です。
久下さんは、DAOも同じ構図だと感じています。分散化の仕組みはクリエイター系の人たちが憧れてきたものですが、多くの人が理解できずに挫折していくと言います。
六人部さんは、日本のDAOと海外のDAOは別物だと整理します。日本ではサロンやオンラインコミュニティの延長線上にあるものが多いという見方です。
日本だと、海外のDAOと全然違う。合同会社DAOとか、ちょっと違うケースもあるのでまとめるのは良くないんですけど、はしょってまとめると、サロンの延長線上みたいなものが多くて。
本来のDAOはトークンに価値がついていることが前提だと、六人部さんは言います。トークンに価値がつくからこそ、報酬を求めて自律的に参加する人が現れ、問題が勝手に解決されていくという仕組みです。
トークンに価値がついてるから、スケーラビリティの研究をやってくれたらグラント(助成金)を出す、みたいなことがあり得る。でも日本は、トークンに価値がつくことを置いといて、DAOをやってみようという話になっている。
久下さんは、日本のDAOはNPOや会員制サロンの言い換えのように見られているのかもしれないと指摘します。同じ言葉でも、指しているものが違うという話です。
DAOは銀の弾丸ではない
クリプトに賭けている六人部さんですが、DAOを万能の解決策とは見ていません。むしろ運営はとても面倒だと率直に語ります。
DAOは銀の弾丸ではないので、むしろ超面倒くさい運営方法で。時間も使わないし、変な意見しか言わないけど投票権は持ってるみたいな、今の日本の政治みたいな状況が発生すると、微妙なことが起こったりする。
トークンを持つ人が投票しない、あるいは誰かに預けてしまうと、現実の低い投票率と同じ問題が起こると言います。関心が薄いと、少し多く持っている人が自分の都合の良い提案を通せてしまうのです。
実例として、DeFiで有名なCOMPOUNDがガバナンスアタックを受けた件が挙がりました。「ここに自分の資金をよこせ」といった提案が、投票参加者の少なさゆえに通ってしまう事態です。
対策として、六人部さんは投票権を分散させ、代議員のような人を多く用意する方向に向かっていると説明します。現在の民主主義に近い形で、より良い意思決定を目指す動きです。
意思決定できる人は、むしろ限られる
久下さんは、DAOに対する一般的なイメージを言葉にします。トークンで分散化されているため、これまで決済権のなかった人も参加できる「夢の仕組み」として捉えられているのではないか、という見方です。
しかし六人部さんは、それは実態と違うと言います。トークンを多く持つ人が強いのは事実ですが、意思決定に関わるにはむしろ高い能力が必要だと語ります。
オンチェーンとかオンライン上で全ての行動が見られてるんですよね。どれだけ投票したか、どういうコメントをしたかとか、それが全部定量的に評価できちゃう。
現実の政治家は日々の活動を追いにくいのに対し、DAOでは行動がすべて記録されるため、きちんとやっている人が評価されやすいと言います。結果として、能力がないと務まらない領域になりつつあるという指摘です。
久下さんは、こうした話を聞くと、Web3やクリプトの「未来ドリーム」とはまるで違う印象を受けると語ります。システマティックでドライ、ビジネス寄りの世界だという実感です。
クリプトは荒野。すでにキラーアプリはある
久下さんは、組織運営や働く構造をつくるサービスにこそクリプトは相性が良さそうなのに、そういう話が表に出てこないと疑問を投げます。
六人部さんは、少しずつ出てきてはいるが、注目されるのはお金が動く話が中心だからニュースになりにくいと答えます。そのうえで、インフラが整い、いよいよ上位のアプリケーションが出てくるフェーズに入りつつあると見ています。
例として、アメリカ大統領選の予測マーケットが挙がりました。トランプ氏かハリス氏かの勝敗に賭ける分散型アプリケーションが、売り上げを上げ始めているという話です。
一方で、六人部さんは分散化された世界を「荒野」と表現します。ルールさえ守れば何でもできるが、実力がないと奪われてしまう厳しい場所だという見方です。
さらに視点を引いて、六人部さんは国家や会社という主体が少しずつ機能を手放しつつある流れを指摘します。そうして分散化が進む中で、一緒に物事を進める仕組みとしてクリプトが位置づけられると考えています。
ブロックチェーンは技術というより、多くの人が協調するための「意見調整メカニズム」だと語られました。久下さんはこの表現を分かりやすいと受け止めます。
トークンにインセンティブをつけてルールを作り、管理者なしで動き続ける。ビットコインもその一例です。こうした仕組みが寄付や公共財に応用されれば、社会課題の解決につながるのではないかと六人部さんは期待します。
ネットワークステートと、まだ届かないユーザー規模
久下さんは、アメリカで街づくりに取り組むCityDAOのような事例を挙げます。ワイオミング州で土地を買い、州も法制度で対応したという記憶です。
関連して、コインベースの元CTOバラジ氏が提唱する「ネットワークステート」が話題になりました。必要な機能を持ち寄ってネットワーク的に国家のようなものを作る構想です。
最近ではシンガポール近くの島を確保し、一定期間安く住める形で人を集めて実験する動きもあると言います。過去には、ゼロ知識証明を使ってIDの仕組みを作る試みもあったそうです。
久下さんは、六人部さんが見ているのは個別のプロダクトではなく、社会システムや商取引の構造といった一段上のレイヤーだと整理します。
ただし、ユーザー規模はまだ小さいと六人部さんは冷静です。1年ほど前の推計で数千万人前半、多く見ても2〜3千万人ほどだと言います。
仮に全部取れてもビジネスとして成立するか微妙で、3億人規模になってもまだ少ない。普通の人が使う必然性がまだないという見立てです。
分散型のソーシャルだと、集めたフォロワーは自分のものですと言われても、あんまりピンとこない。別にそれはいいかな、みたいな感じじゃないですか。
インフラから始まる理由と、日本の法制度
久下さんは、クラウドサービスが伸びたのは消費者ではなく開発側の要求だったと振り返ります。オンプレより安く、スケーラビリティがあるという理由です。
クリプトも同じで、消費者向けより先にインフラ系が発達する。Web2.0を通ってきた人たちはそれを知っているから、そこから始めているのではないかという見方です。
実際、コミュニティの多くはSaaSを理解した層がWeb3に流れてきており、Web3が初めてという世代はごく少ないだろうと二人は話します。
六人部さんは、キラーアプリはすでにあると言います。送金や金融の領域です。分散型金融は金融機関の役割を減らす可能性があるほど強いと語ります。
分散型金融の方がスマートフォンでうまく行われているのは、FTXが潰れた時とかいろいろ証明されてるんで。国際送金とかもめちゃくちゃめんどくさいじゃないですか。あれも一瞬で終わる。
話は日本の法制度に移ります。六人部さんは、日本は良い意味でちゃんとしているが、厳しさゆえにスタートアップが出にくいと指摘します。
トークンが出しにくく、税制の問題で起業家が海外に出てしまう。株式と同じ2割ほどになる可能性はあるものの、総合課税で5割になる現状は重いと言います。
一方で規制競争の観点では、ドバイやアブダビが優遇を進めていると語られます。アメリカでも規制緩和法案が上院を通過したものの、バイデン氏が拒否権で潰した経緯があるそうです。
トランプ氏が勝てば規制を緩め、SECのゲンスラー委員長を交代させると発言していると六人部さんは紹介します。そうなればアメリカに再びエネルギーが戻るのではないかと見ています。
テックに詳しいビズサイドと、参入のタイミング
久下さんは、日本のテックギークが海外の動きを外から眺めているように感じると語ります。インターネット黎明期に見た光景と同じ温度感だという指摘です。
六人部さんは、その一因を言語や人材・資本の厚みに求めます。Web2の厚みをアメリカが握っており、コインベースもOpenSeaもYコンビネーターから生まれたと振り返ります。
二人は、テックに詳しいビジネスサイドの人が日本には少ないと話します。海外にはエンジニアではないのに詳しい人がゴロゴロいるのに、日本では役割を分けすぎている、という問題意識です。
エンジニアからビズサイドのことをやるのはカッコ悪いみたいな風潮が日本にちょっとありますよね。マネジメントになるのを嫌うところも、それに近い匂いを感じてて。
自分の向きを決めすぎない方が面白いんじゃないか。僕もエンジニアじゃないですけど、サーバーを立ててやってみないと苦しさがわからない。やってみると手触り感があって、違うものでも想像がつく。
最後に、Tané主催の「種サミット」が紹介されます。飲食中心のネットワーキングではなく、知見を持ち寄り、一緒にものを作る仲間を見つける少人数の場を目指していると言います。
これまで2回開催し、基本はオフライン。1回目は日本人向けに日本語で、2回目は海外の参加者が多く英語で行われました。海外にはこうした場が多く、参加に応募が必要なものも多いそうです。
六人部さんは、Web2やSaaSに飽きた優秀で好奇心の強い人にこそクリプトに来てほしいと呼びかけます。まだ人が少なく、みんなが怪しいと思っている今こそがタイミングだと語ります。
久下さんも、怪しいと言われたものが後にメジャーになる光景を何度も見てきたと応じます。かつてインターネットにクレジットカード番号を入れるのを怖がっていた人たちが、今は当たり前に使っている、という記憶と重なる話です。
まとめ
後編では、DAO運営の難しさから分散型金融の実力、日本の法制度、そして参入のタイミングまで、六人部さんの事業家としての視点が語られました。理想論ではなく、荒野で動くリアルなクリプトの現在地が見えてくる回です。
- 日本のDAOはサロンの延長線上にあるものが多く、トークンに価値がつく前提の海外のDAOとは別物である
- DAOは万能ではなく、投票率の低さがガバナンスアタックなどの問題を生む
- 分散型金融や国際送金はすでに実用的なキラーアプリになりつつある
- 日本は法制度が厳しく税制も重いため、起業家が海外に出やすい
- 人が少なく怪しいと見られている今こそ、クリプト参入のタイミングだと六人部さんは語る
