装丁の仕事は作品づくりではない。本に"着せてあげる服を選ぶ"イメージ【装丁家・川名潤さん①】
クリエイティブディレクターの山崎晴太郎さんとフリーランス協会代表理事の平田麻莉さんがMCを務めるWHY ARE YOU? ~プロが惚れ込むクリエーターのXXX〜。今回のゲストは、装丁家の川名潤さんです。本のデザインを手がける装丁家という職業の成り立ちから、テキストに寄り添う装丁のスタイル、そして作品の世界観に"住人"として入り込むという独自の仕事観まで、装丁という仕事の奥深さが語られました。その内容をまとめます。
装丁家とは何をする仕事か
装丁家とは、平たく言えば「本のデザイン」を手がける職業です。本のカバー、表紙、帯、そして本文の組み方まで、本全体をデザインする仕事だと川名さんは説明します。
ただし、装丁という言葉はあまり一般的ではなく、同じ仕事を指す人でも「ブックデザイナー」と名乗る人もいます。さらに、「装丁」という言葉の「丁」の字にも複数の漢字があり、「丁寧の丁」「訂正の訂」「釘の釘」など、装丁家によって使い分けられているそうです。川名さんは最も一般的な「丁寧の丁」を使っているとのことでした。
山崎さんによれば、装丁はグラフィックデザイナーの間でも憧れの職種だといいます。紙、印刷、文字、余白の組み方など、すべての要素が掛け算となって本の印象を作り上げるため、装丁だけで独立するのは「めちゃくちゃかっこいい」存在なのだそうです。
装丁家という職業の歴史は意外と浅い
装丁家という職業が専門職として確立したのは、意外にも1970年代からだといいます。それ以前は、画家が表紙絵を描いたり、編集者が自分で装丁を手がけたりすることが一般的でした。
この流れを変えたのが、杉浦康平日本を代表するグラフィックデザイナー・タイポグラファ。1932年生まれ。書籍装丁の第一人者として、日本の装丁デザインの地位向上に貢献しました。さんや菊地信義日本の装丁家。1943〜2020年。独自の美学を持ち、装丁を一つの芸術表現として確立した人物として知られています。さんといった、当時のグラフィックデザイナーたちです。彼らが本の奥付に「装丁」というクレジットを入れ始めたことで、装丁という職能が専門化していったと考えられています。
杉浦康平さんは、デザイナーの地位向上を目指し、本という媒体の中で自らの仕事を可視化するために、奥付に装丁のクレジットを入れ始めたのではないかと言われています。こうして装丁家という職業が生まれ、今に至っているのです。
「テキストに寄り添う装丁」とは
川名さんは「テキストに寄り添う装丁」というスタイルを掲げていますが、これは川名さん自身が名乗っているわけではなく、インタビューなどで周囲から評価された言葉だといいます。
川名さんにとって、装丁は「テキストに寄り添うしかない」ものです。自分自身のデザインの癖や特色に立脚するのではなく、原稿を読み、そこに広がる世界や風景を想像し、それを本の見た目に落とし込むことが仕事だと語ります。
一人では何もできない。とりあえず文章が届かない限りは何も始められない。
山崎さんが「グラフィックデザインには自分の中の型ができてくるものだが、毎回リセットしているのか」と尋ねたところ、川名さんは「毎回リセットしている」と答えました。作品を読んで、その作品の中にありそうな本を考え、架空のデザイナーをでっち上げてコスプレをするような感覚で装丁しているのだそうです。
本に着せる服を選ぶ、スタイリストのような仕事
川名さんは、自分の仕事を「デザインしている」とすら言わないといいます。最も近い職業は「スタイリスト」だと考えているそうです。
本の内容に似合う服を着せて送り出す。主役は本そのものであり、装丁家はその本に合う装いを選ぶ役割だというわけです。このスタイリストのような感覚が、川名さんの装丁スタイルの核にあります。
平田さんは「主役はその人だったり、本そのもの」という点で、スタイリストと近いと納得していました。入り口の印象が、どういう服を着せてあげるかで全然違ってくるという山崎さんの指摘に対しても、川名さんは「そこのコントロールが僕の仕事」だと答えています。
売れる本のデザインは存在するのか
装丁家に対して「売れそうな見た目にしてください」というリクエストは、毎日のように来るそうです。しかし川名さんは、「そんなことが分かったら苦労しない」と笑います。
本のジャケ買いをする人は、日本全体で見ても数千人程度ではないかと川名さんは考えています。手に取りづらい形の装丁が、内容に合っている場合もあります。そうした本が何十万部も売れることもあれば、キャッチーでポップな見た目にしても3000部しか売れないこともあるのです。
信用してないんですよね。ジャケ買いという行為自体を。
川名さん自身は本が好きで、本の見た目に興味があってこの世界に入ったため、ジャケ買いをする「数千人のうちの一人」ではあるそうです。しかし、それが一般的だとは思っていないといいます。
編集者に「売れそうなのでお願いします」と言われても、川名さんは「売れそうな見た目って何?」と問い返すそうです。そこから面倒くさい議論が発生することもあるといいます。
毎回リセットし、作品の世界観に入り込む
山崎さんは、グラフィックデザインには自分の中の型ができてくるものだが、川名さんは毎回リセットしているのかと尋ねました。川名さんは「毎回リセットしているつもり」だと答えます。
川名さんが最もよく考えるのは、「その作品の中にありそうな本」だといいます。その作品の中に装丁家がいたら、こういう感じにするだろうなと想像するのです。架空のデザイナーをでっち上げて、そのコスプレをするような感覚だと表現しました。
平田さんは、この感覚を「その世界観の住人になるみたいなこと」と表現しました。川名さんは「役者のよう」という指摘にも同意し、本を読んでその世界観に入り込み、終わったら役を落としてリセットする、俳優のような仕事だと語りました。
原稿を読む際には、右手でボールペンを持ちながら人物相関図を書いたり、出てくる道具やアイテムをメモしたりするそうです。電話しながら板書をするような感覚で、読みながらピースを立ち上げていくといいます。
どこから装丁のアイデアが浮かぶかは作品によるそうですが、最も多いのは「もの」だといいます。物語をつなぐキーアイテムがあれば一番わかりやすく、それを採用することが多いそうです。書体や色は一番最後に決めるとのことでした。
仕事を受ける段階で、自分が入り込めそうな作品かどうかを判断することもあるそうです。全然わからないと感じた場合は、編集者に「全然わかんないですけど大丈夫ですか?」と伝えたり、場合によってはお断りすることもあるといいます。
まとめ
装丁家・川名潤さんの仕事は、本のカバーや表紙だけでなく、本文の組み方まで含めた本全体をデザインすることです。しかし川名さんは、自分の仕事を「デザイン」ではなく、本に似合う服を選ぶ「スタイリスト」のようなものだと考えています。
装丁家という職業は1970年代に杉浦康平さんらによって確立されたもので、歴史は意外と浅いものです。しかし今ではグラフィックデザイナーの憧れの職種となっており、専門性の高い仕事として認知されています。
川名さんは毎回リセットし、作品の世界観に入り込んで、架空のデザイナーをでっち上げるように装丁を考えるといいます。売れる本のデザインは存在しないという前提のもと、あくまでテキストに寄り添い、作品の中にありそうな本を考えることが、川名さんのスタイルなのです。
- 装丁家は本のカバー、表紙、本文の組み方まで、本全体をデザインする職業
- 1970年代に杉浦康平さんらによって専門職として確立された、歴史の浅い職業
- 川名さんは装丁を「本に似合う服を選ぶスタイリスト」のような仕事だと考えている
- 売れる本のデザインは存在しないという前提のもと、テキストに寄り添う装丁を心がけている
- 毎回リセットし、作品の世界観に入り込んで、架空のデザイナーをでっち上げるように装丁を考える
- 原稿を読みながら人物相関図やキーアイテムをメモし、物語のピースを立ち上げていく
