なぜ「他の会社でも通用するの?」という不安は湧くのか
この回のテーマは、リスナーやヒトハタの受講者からよく寄せられる悩みでした。今すぐ転職したいわけではないのに、多くの人がこの不安を口にすると玉置さんは話します。
これ結構、転職経験がない方とか少ない方が共通してみんなおっしゃるんですよ。
今の会社で不満があるわけでもなくて、今すぐ転職しようって思ってるわけじゃないんだけれど、この先何があるかわからないじゃないですか。
会社が傾くかもしれない、突然のリストラがあるかもしれない、AIに仕事を取って代わられるかもしれない。そうした先行きの見えなさが、この不安の背景にあります。
自分のスキルって他でも通用するの?路頭に迷っちゃったら嫌だし、お給料下がっちゃったら嫌だし、評価されなかったり活躍できなくても嫌じゃないですか。
社内で評価されているのに自信が持てない理由
なぜ社内ではうまくいっているのに自信が持てないのか。玉置さんは、特に日本企業では社内の評価が文脈に依存している点を挙げます。
上司との相性、社内政治、人間関係の資本、その会社独自の風習への理解。それらすべてが総合されて「あいつは成果を出す」という評価になっていることが多いといいます。
岡島さんも、この会社では合っているけれど外を知らない、という感覚に納得を示しました。
すごくシビアに、数字だけで評価されている人であれば、あんまり不安を感じないと思うんですよね。
たとえばゴールドマン・サックスで好成績なら、似た会社でも通用するだろうと思える。そうでないからこそ、自分の能力に文脈という下駄を履かせている自覚が不安になる、という指摘です。
大企業・官僚出身者が転職後につまずくのはなぜか
玉置さんは、大企業のいいポジションにいた人や官僚出身の人が、転職後にうまくいかない例を何件も見てきたと話します。
独自文脈の強い場所で成功していた人は、接する相手が下手に出てくれる環境などに支えられていたことがある。その環境が変わると、発揮できると思っていた能力が出せなくなるといいます。
不安を感じている人は、こうした構造をどこかで客観的に認識しているとも言えます。だからこそ、その輪郭がぼやけている状態が不安につながる、と玉置さんは整理しました。
下駄を脱いだ先に残る「ポータブルスキル」とは
会社や業界の文脈という下駄を脱いだ後に残るスキルが、持ち運びできる「ポータブルスキル」です。
ロジカルシンキングとかタスクマネジメント、コミュニケーション、デジタルリテラシーみたいなものは、どこの会社に行っても通用するポータブルスキルなんですよ。
問題は、多くの人がこの部分を意識も測定もできていない点にあります。ゴールを知らないため、自分の能力を評価できないのです。
コミュ力って言った時、なんか天性のものに感じるじゃないですか。
しかし会社でのコミュニケーションには型があり、その型をどれだけできているかという尺度があれば、客観的に評価できると玉置さんは言います。全体像が見えないから自己評価ができず、自信も出ない、という構造です。
岡島さんも、この自己評価のメタ認知は難しいと共感します。がむしゃらにやっていたら、いつの間にかこんな感じか、という程度にしか見えてこないと振り返りました。
不安は「まっとうな感覚」だと言える構造
自分の会社や業務に紐付かない能力を査定する機会は、普段ほとんどありません。それをしてくれる人もいなかった、と玉置さんは指摘します。
君のロジカルシンキングはね、まあ10段階でいうと7かな、みたいなセカンド評価とかしてくれないじゃないですか。
上司の評価がどれだけ正確かもわからず、相性で上下する可能性もある。だからこそ、この不安は構造的に湧いて当然だと玉置さんは言います。
採用側が見る「判断ログ」と、日々できる振り返り
転職して通用するかどうかは、今のパフォーマンスを再現できるかという話だ、と玉置さんは続けます。採用側が見たいのは、何をやったかという実績よりも、どう考えてどう判断したかという「判断ログ」です。
何をやったかという実績ではなくて、どう考えてどう判断したかっていう判断ログをやっぱり見たいんですよ。
「何々というサービスを立ち上げました」だけでは再現性が読みにくい。何を考え、どう判断していたかがわかれば、業種や商品が違っても同じ判断ができるかを確認できる、というわけです。
よく言われる「毎年職務経歴書をアップデートしよう」という習慣も有用ですが、玉置さんはもっと短いタームでの振り返りを勧めます。
もう少し短いタームで、自分が何を考えて何を判断したのかを振り返ることの方が、私は有用だと思ってるんですよね。
その判断や考えこそがポータブルであり、日々の業務の中で蓄積できるものです。ミスやエラーへの対処、定型業務に含まれる非定型の判断を言語化して貯めていくことが、不安を解消する一つのアクションになります。
日々の業務
定型業務やミスへの対処の中に、非定型な判断を見つける
判断ログ化
何を考えてどう判断したかを自分で言語化して蓄積する
本当の実績
判断の軌跡が、持ち運べるポータブルスキルの証拠になる
不安なら面接を受けてみる、ただし転職エージェントには注意
不安なら、思いきって面接を受けてみるのも一つの手だと玉置さんは言います。一度も転職したことがないなら、自分が外からどう見えるかのフィードバックになるからです。
ただし、転職そのものにはリスクがあり、面接も採用側が時間を割いている以上、あくまで最後の手段にしてほしいと釘を刺します。
一方で、玉置さんは転職エージェントへの相談はあまり勧めないと話します。人材紹介の仕事を知っているからこその指摘でした。
転職させてなんぼなんですよ、転職エージェントって。
悪人だという話ではなく、ビジネスとしてそういう構造を持っているため、インセンティブがどの方向に働くかを知っておいてほしい、という趣旨です。
悩むと考えるは違う——お化け理論と情報収集
岡島さんは、玉置さんがよく話す「お化け理論」を引き合いに出しました。お化けだと思って放置すると怖いままだが、よく見つめると揺れるカーテンだったりして怖くなくなる、という考え方です。
この場合のお化けは「他の会社でやっていけるのか」という不安であり、まずは情報や現実に触れて直視することが、対処として一番いいという話につながります。
玉置さんは、悩むことと考えることは違うと強調します。新しいインプットが入れば思考が動く。一方、悩むのは思考が止まった状態だといいます。
岡島さんは、前職の社長から「考えると悩むは違う」と教わった衝撃を語ります。悩むのは現在地でぐるぐる歩き回っているのと同じで、前進ではなく停滞だ、という理解です。
現在地でぐるぐるするだけ。前に進まず、思考力も行動力もすり減る
新しいインプットで思考が動く。ガタガタでも前進し、いつか出口にたどり着ける
ベストを探さず動く——最短ルート幻想を手放す
動かない人は慎重で、一番いい方法や効率のいい方法を選びたいのだと玉置さんは言います。しかし待っている間に良い方法はやってこないため、探しに出た方がいいという結論です。
岡島さんは、トンネルの分岐にたとえます。悩んで立ち止まるより、どれかに飛び込んでみる。行き止まりだとわかったなら、それも間違いなく前進だと整理しました。
一番効率が実は悪いんですよ、一番効率の良いのを考えていて。間違えたら3択で2個潰したら正解わかるわけですから。
食べる前に一番美味しいものを選ぶような話はほぼ不可能で、しっくりくるかは相性の問題でもある。みんながいいと言うものが自分に合うとも限らないため、とにかくいろいろやってみることが大事だと玉置さんは話しました。
AIで仕事が消える時代に、人間として何を積むか
話題はAI時代の働き方に及びます。玉置さんは、今パソコンの前で仕事をしている人の仕事は、遅かれ早かれ消えると率直に語ります。
私の仕事はクリエイティブだからとか関係なく消えると思います。早ければ来年、遅くても2年以内には消える仕事をしていると思ってるんですね。
その現実味の根拠は、この1年の変化の速さです。1年前の5月にはこれほどAIエージェントに仕事をさせていなかった、と2人は振り返ります。
岡島さんは、当時ChatGPTのo1でテキストを作り、手直しが必要だと言っていた頃や、GeminiとChatGPTの文章力を比べていた頃を思い出し、今との差に驚きます。
これが1年の進化なんですよ。で、加速していくんですよ。
玉置さんは、恐れようが恐れまいがこの変化はやってくると言います。少なくとも過渡期においては、AIを詳しく知って使いこなせることが有利になります。
さらに長期で見れば、人間にしかできないことは何か、という問いが重要になります。身体性や身体知、AIが思いつかないようなことは、人間の役割として残るという見立てです。
今のフレームや価値観の中でぐるぐる考えても意味がなくなる。だからこそ悩むのではなく行動してみる方が、ストレスなくこの時代のシフトに乗っていける、と玉置さんはまとめました。
まとめ
「他社でも通用するのか」という不安は、社内評価が文脈に依存する構造から生まれる、まっとうな感覚です。玉置さんは、その下駄を脱いだ先に残るポータブルスキルを、判断ログの振り返りで日々鍛え、悩む代わりに動いて情報を集めることを勧めました。
- 社内評価は上司との相性や社内政治など文脈に依存するため、他社で通用するか不安になるのは構造的に自然なこと
- 下駄を脱いだ後に残るポータブルスキル(ロジカルシンキング、コミュニケーションなど)は、ゴールがわからないと自己評価しにくい
- 採用側が見るのは実績より「どう考えどう判断したか」の判断ログ。日々短いタームで言語化して蓄積するのが有効
- 転職エージェントは「転職させてなんぼ」の構造。自分の価値を測る相手としては注意が必要
- 悩むのは思考が止まった停滞、考えるのは前進。ベストを探して止まるより、動いて情報を集め輪郭を掴むほうが効率がいい



