newmo創業直後、2週間でWaymoに乗りに行った
今回のゲストは、newmo共同創業者・CTOの曾川景介さんです。テーマは「なぜ今、自動運転なのか」に絞られました。
曾川さんによると、newmoを始めようと話したのは2023年8月末ごろだったといいます。ライドシェアをやるつもりでも、モビリティのサービスなら最終的には自動運転になるのではという仮説が最初にあったそうです。
その仮説を確かめるため、2週間ほど後にはサンフランシスコへ飛び、自動運転に乗っています。
早いですね。newmoという社名も決まってない時期に、モビリティの会社をやるかもと思って突然行ったってことですか。
行きました。すぐ行って乗ってみたら、確かに無人で運転できているし、当時からお客さんが乗れたという意味でものすごいことが起こっていました。
当時はWaymoやCruiseがサービスを始めた頃で、道を塞いで動けなくなるようなトラブルも珍しくなかったそうです。
曾川さんは、この時点では実用化まで5年ほどかかると眺めていたと話します。
その後、newmoはタクシー会社を基盤にライドシェアを進めましたが、うまくいかず、手段として自動運転に取り組むことになりました。
中国・アメリカで各社のロボタクシーを乗り倒す
曾川さんは創業後も、中国やアメリカで各社の自動運転に乗り続けました。
きっかけは、ハードウェアを発注する出張のついでだったといいます。最初は目の前を走る車を見るだけで乗れず、深センから広州や北京へ足を延ばして乗車しました。
一回興味を持っちゃったら、やらざるを得ないというか、触りたいじゃないですか。止められないと思うんで。
北京では中国企業のPony.aiに乗車します。曾川さんは、Google出身の人たちがGoogleのような会社を中国に作ったと評しました。
Pony.aiはすごくGoogleみたいな会社で、WaymoとPony.aiは双子の会社だなと思います。どちらもGoogle Xから生まれていると思うと。
WeRideやApollo Goにも乗り、WeRideはアブダビでも乗車したと話します。中国のプレイヤーが国外でも走っている点に驚いたそうです。
「自動運転は盛り上がっている」は本当か
自動運転は話題ですが、曾川さんは「盛り上がっている」という見方には慎重です。
一部のアーリーアダプターの間では盛り上がっていても、産業全体に与えるインパクトはまだ小さいと考えているためです。
一部の人たちが盛り上がっているんだけど、それってネットの世界でよくあるじゃないですか。SNSは盛り上がってるけど、それは超一部の人たちで。
一方で、将来は自動車産業全体を巻き込む話になると見ています。TeslaのFSDにも触れ、アメリカでは駐車位置まで自分で選んで止められる完成度になっていたと語りました。
OEMが作る自動運転、自動運転専業が作るもの、それをサービスとして提供する動きが同時に始まっている状況だといいます。
今から技術開発しても全然まだ追いつけていないし、一方で市場が決まっているかというとそうでもない。それぐらいにはアーリーなのかなと思います。
曾川さんは、Waymoが約4000台で先行し、その下にPony.ai、WeRide、Apollo Goといった中国勢が続く勢力図を紹介しました。
さらに台数を落として、AmazonのZooxやTeslaが出てきているといいます。
当時は台数ではCruiseの方が先行していたのに、生き残ったのはWaymoだったりして。わからんもんやなというところですね。
テキサスのオースティンが自動運転のメッカになりつつある点にも触れ、土地の広さが開発のしやすさにつながっていると話しました。
決済とモビリティに共通する「習慣を押さえる」発想
話は、曾川さんがなぜモビリティに関心を持ったのかに移ります。
もともと車好きだったわけではなく、アメリカ滞在時の交通の不便さがきっかけだったそうです。左右が逆で運転が怖く、当時は運転していなかったと明かします。
そもそもテスラに乗るから運転免許を取ろうかという感じなんで、運転が好きというわけではないんです。
不便な公共交通のなかでUberやLyftが便利だと感じ、日本にもこういうサービスができるといいと思っていたといいます。
決済を作り始めた頃、ある人から「Uberは決済だ」と言われた言葉が曾川さんに刺さったそうです。
frequentに使う交通手段は決済たり得る。それが入り口になる。Suicaも実際は他の場所でも使えるし、UberもUber Eatsに使ったりする。
曾川さんは決済を「認証と認可をつかさどるもの」と定義します。どのメディアやチャネルに入っているかが定着の鍵で、よく接する場所に入っているほど定着すると説明しました。
自身はファイナンスの専門家ではなく、セキュリティや分散システムの技術から決済を組み立てたといいます。制約がある領域をどう解くかという発想が出発点でした。
手札をどう料理して山を登るか
曾川さんは、自分の強みは技術力そのものより「仮説を持って戦略を組み立てること」だと語ります。
AGIのような人間を超える知性が登場するなら、人間が運転する自動車が置き換えられないわけがない、という大きな潮流を前提にしています。
今はその時にやるべきことをちゃんとやるのが大事。ただ、それを誰でもやれるわけじゃない。何か制約があるんですよ。
自動運転を作るには、AIへの投資、データ収集、一定以上の車両オペレーションが必要になります。newmoはたまたまタクシー会社を基盤に持っていたため、それを土台に自動運転会社を作ろうと考えたといいます。
この発想は、前職のメルカリでメルペイを立ち上げた頃と重なります。
曾川さんは、自分たちが持つ「手札」をどう料理し、どんな山の登り方をするかを常に議論してきたと振り返りました。
自分たちが持っている手札があるときに、これをどう料理するのがいいのか。こういう手札だから、こういう山の登り方をした方がいいという話ですね。
ただし既存事業は良いことばかりではなく、ドライバーの雇用や古い経営のターンアラウンドといった制約も伴うと補足しました。
既存のアセットを分解し、制約と偶然を見定めて解いていく。それが曾川さんがこの10年ずっとやってきたことだといいます。
マーケットプレイスの信用履歴という手札を土台に、投資と体制を揃えて決済に参入した
タクシー会社の車両とオペレーションを土台に、投資とデータを揃えて自動運転に挑む
技術で社会はどう変わるか
自動運転が実現したとき、社会はどう変わるのか。曾川さんは「住む場所や働く場所が自由になる」と話します。
駅の近くに全てが集まっていないと不便、という前提が崩れ、より自由に場所を選べるようになると考えています。
水があって、Starlinkがあって、太陽光で電気もあるとすると、結構いろんなところに住めるよねという感覚になれたら、人類にとってハッピーなんじゃないかな。
曾川さんは、災害などで維持が難しくなる地域でも、モビリティが様々なものへのアクセスを提供し、生き続けられる手段になり得ると語りました。
ここで曾川さんは、自身の移動の失敗談を披露します。アメリカでUberを使い倒していた頃、山のトレイルに行ったら電波が届かず、Uberが呼べなくなったといいます。
最後に携帯の電波がなくなってUberが呼べなくなって、帰れなくなった。次にどうしたかというと、ヒッチハイクをしたんですよ。
道を通る人を止めて山を下りたそうです。この経験から、自分の意思でどこまでも行ける移動の大切さを実感したと話しました。
電波が届かない場所での自動運転は難しく、アメリカが想像以上に田舎であることが、Starlinkのようなアイデアが生まれる背景だと補足しました。
意味を理解する知性と、物理で行動する知性
技術の観点から、曾川さんはAIと自動運転の関係を語ります。鍵は「意味を理解する知性」と「物理世界で行動する知性」の違いです。
今のAIは言語の世界では強く、論理的な思考や対話がよくできると評価します。一方で、自動運転には物理を理解する別の知性が必要だといいます。これがフィジカルAIと呼ばれるものです。
大谷翔平がホームランを打つとき、言語化された何かをしているかというと、していないじゃないですか。転びそうになったら手をつくのも、言語化して手をつけと脳が信号を出しているわけじゃない。
人間は運転中も言葉で考えているわけではなく、低次元の空間の中で走っていると曾川さんは説明します。同じことをAIでもできるようにしていく、というのが方向性です。
多くの人はこうしたAIをブラックボックスと言いますが、曾川さんは必ずしもそうではないと考えています。
AIには潜在空間や内部表現があって、世界をどう認識しているかがある。それを解釈してあげると、中で起こっていることを解明できると思っています。
たとえば足のついた椅子なら「1秒後にこの範囲にいる可能性がある」といった情報を内部に持っている、と例を挙げました。
一方で車の制御には課題もあります。1秒に1回しか推論できないAIで運転するのは危険で、推論時間を短くする必要があると指摘します。
今のAIは推論中に時間が止まる感覚があり、その間も世界は動いていると曾川さんは言います。人間は答えを出し切る前でも話しかけられ、途中で情報を更新できる。この差がアーキテクチャ上の課題だと説明しました。
標識や状況の意味を読み取る力。大規模言語モデルの発展で急速に進んでいる
理解を実際の運転操作に変換する力。フィジカルAIとしてまだ発展の途上にある
AIは人間より運転がうまくなるのか
中澤さんが「AIは人間より運転がうまくなるのか」と問うと、曾川さんは「なると思う」と答えました。
理由は、AIには人間より広い認識能力を与えられる点にあります。人間の目は前方しか見えませんが、AIには360度を見せられるといいます。
人間は運転免許を取るまでに18歳ぐらいまで空間認識や運動の能力を培った上で、20時間ほど教習して運転している。それをわけのわからない仮想空間で運転しろと言われたら結構むずいんですよ。
曾川さんは、人間の脳は運転に最適化されて育ったわけではないと指摘します。一方で自動運転は、運転に最適化された認識空間を持たせて作られます。
草食動物が後ろまで見えるように、車にもそうした「目」を持たせられる。そう考えると、人間より上手くなってもおかしくない、と話しました。
人間を超えるパーセプションや次元数を扱える状態で、低次元のマニフォールドの中で運転できれば、多分人間より上手いんじゃないかなと思います。
これは自分たちだけの成果ではなく、世界中の研究者や各社の努力の結果だと曾川さんは強調します。他社が走らせているのを見て、自分たちもできると思えると語りました。
中澤さんは自動運転の乗車体験を「エレベーターみたいだ」と表現します。かつてはドアを押す係の人がいたが、今は誰もが信頼している、というたとえです。
曾川さんは、レールの上を走る列車やモノレールとエレベーターは近いと応じました。人は思ったより早く慣れ、当たり前になっていくだろうと話しています。
Zooxはエンタメ。サンフランシスコで乗るべき理由
最後に曾川さんは、AmazonのZooxをぜひ乗ってほしいと勧めました。運転席のない専用車両で、体験そのものが特別だといいます。
かぼちゃの馬車みたいなものが突然現れて、パカっと開いて乗れる。もうエンタメですよね。ディズニーランドのような遊園地だったらこっちの方がいいなと思う乗車体験です。
サンフランシスコのユニオンスクエア付近にZoox専用の乗り場ができたらしく、そこから乗って眺める街は特別だろうと話します。
坂の多いサンフランシスコを、ケーブルカーのように味わえるのがZooxの魅力だといいます。都心の一等地に乗り場を作れること自体に驚いたそうです。
そんなにいいところに作れるんだというのがまず驚きだし、僕らもそういう場所に作りたいなと思う。サンフランシスコに行く人はぜひ乗ってほしいです。
曾川さんは、各社と一緒に自動運転を前に進めたいという思いを語り、この回を締めくくりました。
まとめ
曾川さんは、自動運転を「大きな潮流のなかで今やるべきこと」と捉え、タクシー会社という手札を土台にnewmoで挑んでいます。決済で培った戦略の発想と、意味と物理という2つの知性への関心が、その挑戦を支えていました。
- 創業直後からWaymoやPony.aiに乗り、自動運転の急速な進化を見てきている。
- 決済もモビリティも「習慣を押さえる」「手札をどう料理して山を登るか」という共通の発想で組み立てられている。
- 自動運転が実現すれば、住む場所や働く場所がより自由になり、維持が難しい地域の移動も支えられる可能性がある。
- 自動運転には「意味を理解する知性」と「物理で行動する知性」の統合が必要で、後者はフィジカルAIとして発展の途上にある。
- 運転に最適化された認識空間を持たせられるため、AIは人間より運転がうまくなり得ると曾川さんは考えている。
