なぜグローバルサウスは自国通貨を信用しきれないのか
西山さんは冒頭で、クリプトのユースケースとして南米などで普及が進んでいると聞いた話を持ち出し、グローバルサウスの状況が日本やアメリカとどう違うのかを尋ねます。
大塚さんはまず、クリプトを一度脇に置いて考えるべきだと前置きします。決定的な違いは自国通貨の強さで、日本円は弱くなってきたと言われても、なんだかんだで強い通貨だと指摘します。
一方でブラジルなどの通貨は非常に弱く、ある時の政治によっていきなり価値が3分の1になってしまうことがあると説明します。持っていたお金が突然目減りすれば、生活は成り立たなくなります。
はい。ハイパーインフレだ。
さらに大塚さんは、アメリカが北アメリカと南アメリカに介入しやすい構造にも触れます。近くにあり軍事も動かしやすいため、各国は自国通貨をアメリカドルに交換せざるを得ないと話します。
その結果、アメリカが「もう交換しない」と経済制裁をすれば従うしかなくなるほど、依存が深いといいます。象徴的な例として、大塚さんは最近のベネズエラの大統領が捕まった件を挙げています。
国に依存しないお金として選ばれるビットコイン
大塚さんは、自国通貨への信用不安と、アメリカから強く言われずに国を維持したいという思いが重なる状況を描きます。かといって中国に頼っても、依存という構造は変わらないと指摘します。
であれば、国に依存するようなお金に近しい、ビットコインっていうものは彼らにしては非常にこう魅力的に映る。
大塚さんは、ビットコインの価格が下がらずに上がり続けてきたという事実も、こうした国々でビットコインが支持される後押しになっていると話します。
西山さんは「ビットコインがあるからそれで全部解決なのでは」と聞きますが、大塚さんはそう単純ではないと返します。全国民がビットコインを持っているわけではないため、すべてが解決するわけではないと説明します。
大塚さんは、ビットコインはお金を代替しているというより、第三の選択肢が出てきたという感覚だと整理します。自国通貨、アメリカドルに続く、国色のないお金として資産を持てる考え方が広がっているといいます。
そして、自国通貨の価値が低い国ほどビットコインに魅力を感じる人が多く、南米やアフリカでは保有する人の比率が高まっていると話します。
ビットコインを現地通貨に換えるのは、なぜ簡単ではないのか
西山さんは「誰でもビットコインを持っていれば日本円にできるのでは」と重ねて質問します。大塚さんは、そもそもビットコインで日本円を得られる場所がないと答えます。
大塚さんは、かつて流行った仕組みとして、アプリ上でビットコインを交換したい人同士を見つけるpeer-to-peer ── 中央の仲介業者を介さず、利用者同士が直接やり取りする方式。ここでは個人間で直接ビットコインと現金を交換することを指すのサービスに触れます。ただし相手と直接会って現金をやり取りする形になりがちで、怖さがあると話します。
coincheck使えばいいんじゃないですか?
coincheck使っても日本円振り込むのは銀行口座がないと無理だから。
大塚さんは、外国人は銀行口座を持ちにくいという事情も難しさの一つだと指摘します。
その代替として、大塚さんはビットコインATMにも触れます。QRコードをかざすと現金が出てくる仕組みで、飲食店などにも一時期あったといいます。西山さんは、自社の初期エンジニアが高校生の頃にそうした自動販売機を作っていたと振り返ります。
ただ大塚さんは、本人確認をせずに現金が手に入る仕組みはマネーロンダリング ── 犯罪で得た資金の出所をわからなくする「資金洗浄」。本人確認のない現金化の仕組みは、その温床になりやすいとされるの温床になりやすいと指摘します。加えて、ATMに現金を補充するために現金を輸送する必要があり、それ自体が危険だと話します。
銀行に頼らず資産を守る「デジタルゴールド」としての一面
大塚さんは、実務上の使いにくさはありつつも、資産の持ち方としての魅力を整理します。アルゼンチンの通貨で持ち続けるより、ビットコインで持った方が価格も上がってきたし、ビットコインそのものがなくなるわけではないから安心だといいます。
さらに、銀行に預けていないため政府に押収される心配もないと指摘します。前の回で触れた、自分で所有する「OWN」の世界観につながる点にも触れています。
自分で秘密鍵さえ管理しておけば、自分で所有するOWNっていう世界観になれる。
西山さんが「ビットコインで決済まで全部させてくれればいい」と話すと、大塚さんは価格変動に加え、決済の仕組み上の課題を挙げます。送金には3つの承認が必要で、それを得るまでに時間がかかるといいます。
大塚さんは、承認までの待ち時間が店頭決済のUX ── User Experience(ユーザー体験)の略。ここでは、支払い時の使い心地や待ち時間の快適さを指すとしては良くないと話します。そこで承認が速いステーブルコインが出てきたと説明し、決済手段としてのビットコインはまだ片手落ちだと述べます。
結論として大塚さんは、ビットコインは決済手段というより資産の保全に近く、金のような存在だと整理します。だからこそ「デジタルゴールド」と呼ばれやすいといいます。
基軸通貨ドルの普及率が下がり続けている背景
話題はグローバルサウスの経済的な発展に移ります。大塚さんは、IMFのデータで基軸通貨としてのドルの普及率が年々下がっていると話します。
大塚さんによると、その普及率は現在56パーセントほどで、2000年頃には70パーセントほどあったといいます。西山さんは、その変化の大きさに驚きます。
二千年とか七十パーぐらいあったんだけど。ずっと下がっていて。
大塚さんは要因を2つ挙げます。1つは中国が一路一帯政策で各国を人民元で支援したこと。ただし人民元はまだ不安定で、最近はむしろ韓国ウォンや円、ユーロが伸びていると話します。
もう1つの要因として、各国が外貨準備をドルで持つ比率をどんどん減らしていることを挙げます。ある意味、脱アメリカ化が進んでいるという見方です。
どうせ広がるなら仲間に入れる、というアメリカの立ち位置
西山さんは、トランプ大統領がビットコインを強く推していると見た一方で、アメリカにとって暗号資産の広がりは面白くないのではと疑問を投げます。
大塚さんは、面白くはないだろうとしつつ、テクノロジーの進化は不可逆だと答えます。規制しても地下に潜るだけで、便利なものは止められないといいます。
反対側を持つか、それを仲間に入れるかしかない。
大塚さんは、アメリカはそれを推進する側に回り、中国は禁止していると、両国の立ち位置を対比させます。
どうせ広がるなら仲間に入れる側に立ち、推進していく
暗号資産を禁止する側に立っている
大塚さんは、新しい技術の進化に抗うだけ無駄だという点を、今のAIの例に重ねます。AIに抗って「使わない」と言うのはもう無駄だという感覚と同じだといいます。
全部ビットコイン、が極端すぎる理由と、国ぐるみの事例
西山さんは、日本でグローバルサウス向けに「全部ビットコインで買えるAmazon」のようなものはできないのかと尋ねます。大塚さんは、それは無理だと答えます。
理由として大塚さんは、グローバルサウスでもビットコインの普及率は80〜90パーセントには届いていない点を挙げます。他の支払い手段を受け入れなければ機会損失になってしまうといいます。
大塚さんは、極端に振り切るのは無理があると話します。普及して伸びているとはいえ、あくまで2〜3割ほどの話と捉え、両睨みで進めるのがよいという見立てです。
一方で、国ぐるみでビットコインに踏み込んだ事例として、大塚さんはエルサルバドルを挙げます。大統領自らが主導し、マイニングにも力を入れているといいます。
大塚さんは、エルサルバドルは火山などで電力を安く仕入れられる資源があると思われ、大統領自ら国として保有し、それを公言していると話します。
さらにブータンの例も挙げます。水の資源で発電でき、その電力を資産に変えるためビットコインに換えていて、王様が主導して多く保有しているといいます。
リッチリストで見える、ビットコインの透明性
大塚さんは、ビットコインの面白い点として、保有アドレスが「ビットコインリッチリスト」として公開されていることを挙げます。どのアドレスをブータンやエルサルバドルが持っているかまで特定されているといいます。
大塚さんは、大口保有者を「クジラ」と呼び、その動きがマーケットに影響を与えると説明します。自身もアラートを設定し、大きなクジラが動くと通知が来るようにしていると話します。
大きなクジラが動くと自分に通知が来て、マーケットが動いてるなっていうことがわかる。これが透明性高いね。
ユーロの成り立ちに見る、力のバランスの取り方
西山さんは、ヨーロッパのユーロは概念的に別物なのかと尋ねます。大塚さんは、ユーロにはアメリカドルへの対抗という意味があると説明します。フランス1国のお金だけでは対決できないため、各国をまとめて1つの通貨にしたという見方です。
大塚さんは、もう1つの狙いとして、ユーロ圏内の関税や両替の摩擦をなくして経済を発展させることを挙げます。アメリカ一極が強すぎたため、対抗軸がないとバランスが崩れるという説明です。
やっぱりバランスが崩れちゃうね、拮抗しないと。
一方で大塚さんは、団結には弊害もあったと指摘します。各国の債務などを一体化した結果、ギリシャが破綻するような事態も起きたといいます。良い面ばかりではなく、トライアンドエラーで前に進むのが人類だと話します。
インターネットの普及と重ねる、ビットコインのこれから
西山さんは、ビットコインの普及率は最終的にどのくらいになるのかと尋ねます。大塚さんは、よくインターネットの普及率と比較して語られると答えます。
大塚さんは、インターネットのモジュラーが出てきた頃のブラウザ普及率と、一人当たりのビットコインアドレス数が、似たような曲線をたどっているという見方を紹介します。
大塚さんによれば、インターネットの普及にも20年ほどかかっており、ビットコインはまだ十数年ほど。この先も十数年は普及し続けるのではないかという見立てです。
一年にして起きないなっていうのは、なんかそういうの見てて思うね。
インターネット
ブラウザ普及率が伸び、普及に20年ほどかかった
ビットコイン
一人当たりのアドレス数が似た曲線をたどり、まだ十数年
見立て
この先も十数年は普及が続いていく段階にある
大塚さんは、自身がコインチェックを始めた頃はビットコインを持つ人がほぼおらず、詐欺だと言われ続けたと振り返ります。それが今では、量は別として多くの人が何かしらで触れているといいます。
大塚さんは、この変化をインターネットの受け入れられ方にも重ねます。かつては親世代がクレジットカード番号をネットに入れるのを怖がっていたのが、今はワンクリックでAmazonで買っていると例えます。
バズワードで終わらせず、やり続ける人が本物になる
西山さんは「不可逆だから、人生をかけられるテーマですね」と受け止めます。大塚さんも同意しつつ、AIを片目で見ながらブロックチェーンやオンチェーンを進化させる人たちがいると話します。
大塚さんは、これからの技術がどう統合していくかがポイントだと述べます。そのうえで、バズワードになった時だけ触るのはやめた方がいいとアドバイスします。
大塚さんは、バズワードの時だけ来て去った人も大勢いるとしつつ、それを悪いとは思わないと言います。それでも、やり続けたものが本物になるという見方を示します。
その中でやり続けたものが本物じゃないですか。
大塚さんは、Podcastを続けている西山さんに向けて、波がいつ来るかはわからないが、やっている人はそのコンテキストが一番わかっているから価値があると励まします。グローバルサウスに限らず、クリプトやオンチェーンはさらに普及していくのではないかと締めくくります。
まとめ
自国通貨が弱くアメリカ依存も深い国では、国色のないビットコインが第三の選択肢として選ばれています。現金化や決済にはまだ課題が残り、実態はデジタルゴールドに近いものの、ドルの基軸通貨としての地位が揺らぐ中で、その存在感は増しています。大塚さんは、この流れをインターネット普及の歴史と重ね、抗うより乗る方がよいと語りました。
- 自国通貨が弱くアメリカ依存が深い国ほど、国に依存しないビットコインが魅力的に映る
- 現金化や決済には銀行口座・本人確認・承認時間などの壁があり、実態は資産保全の「デジタルゴールド」に近い
- 基軸通貨としてのドルの普及率は下がり続け、脱アメリカ化が進んでいる
- テクノロジーの進化は不可逆で、アメリカは推進、中国は禁止と立ち位置が分かれている
- ビットコイン普及はインターネットと同様に十数年単位で進む見立てで、やり続けた人が本物になる



