SaaS、BaaSの次に来る「Crypto as a Service」とは
大塚さんが最近始めたというのが、CaaS(Crypto as a Service)というサービスです。Crypto as a Service(CaaS) ── 暗号資産の売買やウォレット、送金などの機能を、他社が自社サービスに組み込める形で提供する仕組み。SaaSやBaaSの発想を暗号資産に応用したもの。
大塚さんはまず、CaaSの前段としてSaaS(Software as a Service)を説明します。すでに他社で使われているベストプラクティスをソフトウェアにして、各社に提供していく発想のものだといいます。
SaaSのas a ServiceがCryptoになってます。
さらにその発想が広がったものとして、大塚さんはBaaS(Bank as a Service)を挙げます。銀行の預金、貸し出し、決済、送金といった機能を、銀行がシステムとして提供し、他社がそれを使ってサービスを届ける仕組みです。
具体例として大塚さんが挙げたのが「ラクスルBANK」です。ラクスルにはチラシ発送などを使う中小企業の顧客がいて、その人たちには銀行機能や売上金の受け取りが必要になります。
ただ、ラクスルが自前で銀行免許を取ってシステムを作るのは大変です。そこであおぞら銀行の仕組みを使ってラクスルBANKを作り、自社の顧客に提供するという形になっているといいます。
銀行業(免許を)取得してとかやってらんないですからね。
SaaS
ソフトウェアの機能をサービスとして各社に提供する
BaaS
預金・送金など銀行機能をシステムとして提供する
CaaS
暗号資産の売買・ウォレット機能を各社に提供する
メルカリ×コインチェックで実現した「三方良し」
CaaSの暗号資産版として、コインチェックが実際に手がけたのがメルカリの事例です。メルカリにはメルコインというサービスがあり、その中でビットコイン、イーサリアム、XRPが買えます。
ただ、暗号資産にはほかにもさまざまな種類があります。メルカリが新しい暗号資産を増やそうとすると、ウォレットの開発、送金、残高確認などを一つひとつ作る必要があり、非常に大変だと大塚さんは説明します。
(新しい暗号資産を)一個一個作っていかなきゃいけないんでめちゃくちゃ大変。
開発してもコストが見合わず、採算が合わなくなることもあります。そこで、暗号資産を本業とするコインチェックとAPIで連携し、メルコインの3通貨以外の新しい通貨をメルカリのユーザーが買えるようにするのがこの仕組みです。
この結果、関係する三者それぞれに利点が生まれると大塚さんはまとめます。メルカリのユーザーは新しい暗号資産を買えて嬉しく、メルカリは低コストで通貨を提供でき、コインチェックは口座が開かれて取引が増えます。
三者嬉しいっていう三方良しのサービスが始まった。
西山さんは、この仕組みが刺さる場面を具体的に挙げます。メルカリのようにサービス内にお金が貯まってしまい、送金の手数料をかけたくないという場面で、その場で暗号資産を買えるのが便利だと話します。
いちいち送金して手数料取られたくないとか(で)そこで買ってしまいたいみたいなのがちょこちょこあるから、そういう時にサービス提供できる。
ユーザー
新しい暗号資産を手軽に買えて嬉しい
導入企業(メルカリ)
低コストで暗号資産を顧客に提供できて嬉しい
コインチェック
口座が増え、取引が生まれて嬉しい
ポイント連携で高まるCaaSのニーズ
大塚さんは、CaaSを導入してくれる会社のニーズが幅広い業種から来ていると話します。キャリア、CtoCマーケット、Eコマース、証券などで、暗号資産を提供したいという需要が高まっているといいます。
それらの企業にとって暗号資産はワンオブゼムかもしれませんが、提供するサービスの一つとして加えたい。ただ専門的なので、専門の会社に任せたいという流れになると大塚さんは説明します。
僕が事業者だったらその責任絶対引き受けたくない。プロじゃないのにできるわけないって感じですよ。
ニーズの一つが預かり金で、その隣にあるのがポイント連携です。大塚さんは、ポイントと暗号資産を交換する連携や、auPAYとの連携を発表した例を挙げます。
重たくシステムを全部作ってからではなく、軽い形で暗号資産を提供できる仕組みを提供し始めた、というのがCaaSの狙いです。
Tポイントとかめっちゃ貯まってるけど、もうなんかめんどくさすぎて放置してるんで、そのままアプリでCryptoにしとけるんだったらめっちゃ嬉しい。
大塚さんは、ポイントの交換先は人によってさまざまだと言います。Amazonギフト券、現金キャッシュバック、商品との交換などがあり、その選択肢の一つとして暗号資産を選ぶ人が増えてきたと話します。
CaaSによって暗号資産の入り口が増えることは、市場や産業の普及という意味でも良いことだと大塚さんは考えています。
西山さんは、EC事業者が決済機能をつける際にリスクを持ちたくないのでStripeを入れる、という事例に近いと指摘します。大塚さんも、eBayの支払い方法の課題に刺さって伸びたPayPalの例を挙げ、暗号資産も同じ構図だと話します。
Binance創業者CZの意外な過去
ここから話は、大塚さんが最近読んでいるBinance創業者CZの本へと移ります。300ページほどの英語の本を、楽しいから読めていると話します。CZ ── Binance(バイナンス)の創業者、趙長鵬(Changpeng Zhao)の通称。世界最大級の暗号資産取引所を立ち上げた人物。
その本によると、CZはBinanceを立ち上げる前、中国の取引所に取引所システムを売っていたといいます。元々ウォール街の金融会社のCTOで、テックにも金融にも詳しかったためです。
最初から取引所じゃないんですね。
中国でビットコインが普及すると、取引所を作りたいが自社でシステムを作れない会社が増えました。そこにCZがシステムを作って各社に提供し、事業を成り立たせていたと大塚さんは説明します。
大塚さんは、これがまさにCaaSと同じ発想だと重ねます。CZは暗号資産のウォレットや売買システムを、複数の会社に提供していたのです。
ところが中国が暗号資産を禁止すると発表し、CZのビジネスは一気になくなってしまいます。取引所が全部消えたのです。
ダイナミックだな。
一方でCZの手元には、取引所システムを作れる開発者チームが残っていました。中国各社のシステムを作った経験から、自分たちなら最高の取引所を作れるという自負もありました。
そこでCZは日本を含む世界のVCに説明に回ります。大塚さんによれば、CZは日本にも住んでいたことがあり、日本での取引所も考えていたため、コインチェックとオーバーラップする部分があるといいます。
日本での取引所もやろうと思ってたのが、ある意味すごい俺らとオーバーラップしてる。
しかし世界中のVCに全員断られてしまいます。今さら取引所に参入するスペースはなく、BitMEXやPoloniexといった既存プレイヤーに勝てるはずがない、という判断です。大塚さんも、そのVCの判断は正しいと思うと話します。
二つのミラクルとICO、そしてBinance誕生
困っていたCZに、二つのミラクルが起きたと大塚さんは語ります。一つは、当時世界最強だった取引所Poloniexが突然大きく儲かり、Circleに買収されたことです。Poloniex(ポロニエックス) ── 当時、暗号資産同士を交換する「クリプト・トゥ・クリプト」取引で世界最大級だった取引所。
Poloniexはそれまで、ビットコインで入金してアルトコインを売買し、またビットコインで出ていくという、暗号資産同士の取引に強い取引所でした。ところが買収を機に、大口のOTC取引の方へ舵を切ったといいます。OTC ── Over The Counterの略。取引所を介さず、大口の売買を相対で行う取引のこと。
これによって、クリプト・トゥ・クリプトで世界ナンバーワンのポジションが突然空きました。CZにとっては大きなチャンスの到来でしたが、肝心の資金がありません。
うわぁでかいチャンス。
そんなとき、中国のクリプトカンファレンスで友人から「CZ、お前ICOって知ってるか?」と聞かれます。その友人がICOで1週間ほどで何億も集めたと聞き、CZは「これだ」と思ったといいます。ICO ── Initial Coin Offeringの略。企業やプロジェクトが独自トークンを発行して資金を調達する手法。2017年前後に急拡大した。
CZはそこから1週間ほどで、自分たちが発行するBNBというトークンのICOを中国語と英語で企画し、全世界に発表して資金調達に成功します。こうしてBinanceが始まりました。
それで資金調達できた。で、バイナンスが始まった。
大塚さんは、この経緯からの学びを整理します。Poloniexの方向転換と、ICOバブルの到来、そしてそれに立ち向かえるチームがあったこと。この三つが揃ってBinanceが生まれたのであり、再現性はないと話します。
成功の鍵は「レディな状態」を作り続けること
大塚さんが強調するのは、CZが最初からナンバーワンの市場を狙っていたわけではない、という点です。取引所システムの受託をやり続け、動いていたからこそ、チャンスに巡り合えたのだと解釈します。
大塚さんは、これはコインチェックにも通じる真理だと言います。人から「マーケットがない」「どこで修行したらいいか」と聞かれることが多いものの、最初から大きな市場と分かって参入する人はほぼいないと話します。
そんな初めからでかいマーケットってわかって参入してるのってほぼいない。
最前線でやり続けているからこそ、チャンスに気づけ、ICOの話もカンファレンスで聞けた。自分のところでやり続けてチャンスを常に伺うことが重要だと大塚さんは述べます。
CaaSについても同じで、最初からニーズがあると思っていたわけではないといいます。取引所を法人向けにやり始め、上場企業のコインチェックに相談が来る中で、求められているものが見えてきて作っていったのです。
そのため、需要から作っていくプロダクトは成功確率が高いと大塚さんは考えています。CaaSも「レディな状態」をやり続けていたからこそ生まれたサービスだと位置づけます。
置きで待ってないと波に乗れないみたいな。
ソニーのテープレコーダー開発秘話
同じ構図の例として、大塚さんはソニーの歴史を挙げます。最初にテープレコーダーを作って出したものの、非常に重く高価で、誰も買わなかったといいます。
そんなでかいやつだったんですね。
研究開発費もかかり、価格は何十万円もしました。ソニーの森田さんがマイクを持って「本日は晴天なり」と実演し、みんなを驚かせても、感心はされるものの誰も買ってくれなかったと大塚さんは語ります。
悩みながら動き続けるうちに、思わぬところにニーズが見つかります。NHKでの需要、裁判所の速記の代替、そして音楽大学で歌う人が練習用に使う録音機としての需要です。
大塚さんは、作った後に意味の分からないほど動き回ったからこそ、そうしたニーズにつながったと指摘します。音楽学校や裁判所にニーズがあると、最初から分かる人はいないのです。
さらにその声楽の分野で、テープレコーダーに執着し技術的なフィードバックを厳しくしてくる人がいました。「何なんだこいつは」と会いに行ったら、それが後のソニー社長・大賀典雄さんだったといいます。大賀典雄 ── ソニーの社長・会長を務めた人物。声楽を学んだ経歴を持ち、後にソニーの経営を担った。
初めからそんなところに次の社長の器になる人がいるかもわかんないわけで。
大塚さんは、こうした逸話に起業の面白さを見ています。頑なにやり続けるとミラクルが起き、運が巡ってくるというのです。
「無駄な行動」が運を呼ぶという実感
大塚さんは、だからこそもっと動いた方がいいと語ります。人に会い、話し、コラボレーションの話をする。ニーズがなさそうだと動かない人が多いことを気にかけます。
特に頭の賢い人ほど、無駄なことをやらないようにしていると大塚さんは指摘します。AIで知識が取れる時代だからこそ、「ここに行っても何もない」と動かなくなりがちだといいます。
特に頭の賢い人ほど無駄なことをやらないようにしてるんだよね、みんな。
しかし、無駄だと思ってもちょっと行ってみると、意外とそこに運の巡り合わせがある。ポジティブでいることや、自分のやることに熱量を持って語ることが人を引き寄せると、大塚さんは12年ほどの経験から実感を語ります。
この放送であえてCaaSの話をするのも、聞いた誰か一人が「うちでもいいかも」と思って相談につながるかもしれないからだといいます。だからひたすら発することが重要だという主張です。
話は再びCaaSに戻ります。暗号資産は徐々に市場が大きくなり、専門でない人でもいろんなプラットフォームに入っていける社会に伸長してきたと大塚さんは感慨深く語ります。
仮説を高速で全部試す新規事業の姿勢
西山さんが「このCaaSもバコーンといってくれ」と話すと、大塚さんは、最初に仮説の優先順位をつけてやるものの、やってみないと分からないことが多いと応じます。
だったら高速で全部やれって話だね。なんかこれやっても意味ないとか言ってる場合じゃない。
むちゃくちゃうまくいっているものがあればそこに集中する。そうでなければ、どれをやるか決めつつも、とりあえず全部やろうという気合で動く人がうまくいっている、と大塚さんは話します。
一方で、頭のいい人ほど結果を予測してやらない人が多いといいます。予測はその人の経験値からしか見えず、自分がすべてを知っているわけではないからだと指摘します。
その予測することって、その人の経験値からしか見えないじゃん。
大塚さんは、孫さんやユニクロの柳井さんもあれこれやり続けていると挙げ、そういう人たちがやっているのに自分たちがやらずに成功しようというのは甘い、と自分にも言い聞かせていると話します。
西山さんは、コインチェックもブログサービスから始まったと補足します。大塚さんも、ソフトバンクも元々ソフトを卸していたのが今やトヨタの時価総額を抜いていると触れ、夢があると締めくくります。
(ソフトバンクは)今やさ、トヨタの時価総額抜いてるってどんなこと?夢があるね。
結論として、いろんな施策をとりあえず出していこう、という姿勢で二人はこの回を締めくくります。
まとめ
この回は、コインチェックのCaaSという新規事業を入り口に、需要から生まれるサービスと「レディな状態」で運をつかむ新規事業論へと広がりました。CaaSは、暗号資産の機能を他社が軽く導入できるようにする三方良しの仕組みです。
- CaaSは暗号資産の売買やウォレット機能を各社に提供する、SaaS・BaaSの発想を暗号資産に応用した仕組み
- メルカリの事例では、ユーザー・導入企業・コインチェックの三者に利点が生まれる三方良しの構造になっている
- Binanceは、Poloniexの方向転換とICOバブル、対応できるチームという三つが揃って生まれ、再現性はない
- 大塚さんは、目の前にチャンスが見えなくてもやり続け「レディな状態」を作ることが成功の鍵だと語る
- ソニーの逸話のように、無駄に見える行動を続けることが思わぬニーズや運の巡り合わせを呼ぶ






