そもそもオンチェーン分析とは何か
今回のゲストは、キリフダ株式会社の赤川英之さんと山口睦生さんです。二人はブロックチェーンインテリジェンスという部署で、オンチェーン分析を中心に手がけています。
オンチェーン分析とは、ブロックチェーン上で公開されているトランザクションのデータを読み解く手法です。トランザクション ── ブロックチェーン上でやり取りされた取引記録のこと。誰から誰へ、いつ、いくら送られたかといった情報が公開された台帳に記録されるどのチェーンが伸びているか、どんな使われ方をしているかを、データから明らかにできます。
大塚さんは、この分析の結果として「今どういう領域が盛り上がっているのか」「どういうものが見えてきているのか」を聞いてみたいと切り出しました。
ブロックチェーンとか暗号資産って、動いたトランザクションが全部オンチェーン上で公開されてる状況になるんです。
そこから何が見えてくるかを、オンチェーンのデータを使って分析して、今こういうチェーンが伸びてるとか、こういう使われ方をしてるっていうのがわかるんですね。
なぜ日本にオンチェーン分析の事業者が少ないのか
山口さんによると、ブロックチェーンのデータは以前から公開されていて、それぞれが独自の視点で分析すること自体は行われてきました。ただ、それを法人の事業者向けにデータ分析ビジネスとして提供する動きは、これまであまりなかったといいます。
分析の内容は幅広く、チェーンの動向から、盛り上がっているプロジェクトやトークン、さらには個別のウォレットの性質まで及びます。それを事業者ごとに形を変えて提供しているとのことです。
これ、事業者さんもこのデータ使って自分の欲しいデータ見れるんじゃないかなと思って、実際今こういった部署を作って今やってるみたいな感じですね。
西山さんが「オンチェーンの分析事業者は少ないのか」と尋ねると、山口さんは日本国内にはほとんど見当たらないと答えました。海外にはちらほら存在するそうです。
大塚さんは、この領域の重要性を強調します。海外ではVCがオンチェーン事業に投資する際、社内にオンチェーン分析ができる人材を抱えていることがあるといいます。VC ── ベンチャーキャピタルの略。成長が見込まれるスタートアップに出資し、株式などを通じて利益を得る投資会社や投資ファンドのこと
他の人がわかってないことを先んじてデータとしてわかってから、ここの領域が伸びていくよねっていうインサイトを得れるわけじゃないですか。
建築のキャリアを捨てさせた「電撃」
二人は現在ともに29歳。オンチェーン分析を始めたのは24、25歳、大学院在学中のことでした。きっかけは、赤川さんが受けた強い衝撃だったといいます。
赤川さんは2021年頃、Chiaというチェーンのマイニングで秋葉原からSSDが消えたというニュースを目にし、ブロックチェーンにたどり着きました。それまでビットコインを、コンビニで売っているプリペイド型のウェブマネーの一種だと思い込んでいたそうです。
調べてみたら全く違うシステムで、ホワイトペーパーを読んでそこで唸りを上げてしまって。建築のキャリアとか全て忘れちゃった。
その熱量に共同創業者の飯泉さんと山口さんが呼応し、活動が始まりました。山口さんは技術志向というより、NFTやデータ分析の面白さから入っていったと振り返ります。NFT ── Non-Fungible Token(非代替性トークン)の略。デジタルデータに固有の識別情報を持たせ、唯一無二であることを証明できる仕組み。デジタルアートなどで使われた
このデータが全部公開されてるっていうのを知って、じゃあこれデータ分析できるんじゃない?と思って調べてみたらDuneとかがあって、これめちゃくちゃおもろいやんと。
趣味の分析から見えた「マーケットとデータの差」
最初の頃の分析は、あくまで赤川さんの趣味だったといいます。切り口は、自分が気になったことをそのまま追いかける形でした。
たとえば当時流行していた分散型SNSのFarcasterでは、トークンに関する投稿がその後の価格にどう影響するかを分析していました。投稿内容までデータとして追える環境だったからです。
NFTでは、Doodlesが配布したフリーミントのNFTが、本体のブルーチップにどう影響するかといったテーマも扱っていたそうです。
山口さんは、この趣味的な分析から重要な発見があったと語ります。NFTの保有者が売却するとコミュニティに悪影響を与えるという論調に対し、データはむしろ逆の結果を示していました。
(NFTを売ることで)実は流動性が高まって、本体のコミュニティがむしろ盛り上がるみたいなことが、データ分析していくとわかっていたりして。
マーケットで言われていることと、データが示す実態の差。そこに面白さがあると二人は口を揃えます。この視点は、現在の仕事にも生きているといいます。
既存金融が求める「裏付け」としてのオンチェーン分析
2021年頃のNFTブームでは分析のテーマが次々と生まれましたが、2026年の現在はコミュニティの熱量が当時ほどではありません。そこで今、分析の主な対象になっているのが既存の金融事業者です。
赤川さんによると、既存金融機関はオンチェーン金融という領域に強い関心を持ちつつも、その実態をメディアの報道でしか把握できていないといいます。「なんとなく盛り上がっているらしい」という感覚しか持っていないのです。
どういうふうにオンチェーン金融っていうものが実装され始めてるのかを、ちゃんとデータで示してあげる。
大塚さんは、これを「定性的なニュースを一段ブレイクダウンして、具体的なファクトを渡す仕事」と整理しました。
具体例として赤川さんは予測市場を挙げます。CalciとPolymarketが二大サービスで、Polymarketはトランプ大統領選の時期に急増した後も着実に伸び、デイリーで約10万ユーザーがついているといいます。
(Polymarketは)言ったらクリプトのサービスの中では多分一番マーケットフィットしてるようなものなのかなと思います。
さらに、DeFiの利便性を取引所がわかりやすいUI/UXで提供するCedifiという領域が、データ上でも盛り上がっていると説明されました。DeFi ── Decentralized Finance(分散型金融)の略。銀行などの仲介者を介さず、ブロックチェーン上のプログラムで貸付や取引などの金融サービスを行う仕組み
五年前のイベントから始まった関係とピボットの歴史
大塚さんと二人の出会いは、5年近く前にさかのぼります。当時、山口さんはXのDMで大塚さんに声をかけ、渋谷のカフェで食事をしたのが最初だったといいます。特別な要望があったわけではなく、取引所を運営する人と話してみたいという動機だったそうです。
声かけていただいたら、僕も基本的には会うようにしてるんで。アクションを起こして人に声かけた人って何かしらあるじゃん。
一方の赤川さんは、当時Rentifyというサービスを手がけていました。NFTの貸し借りができるプロトコルで、その前はサンドボックスのようなバーチャル空間でNFTアイテムや土地を売る事業もしていたといいます。
キリフダはこれまで細かいものを含めて5回ほどピボットを重ねてきました。マーケットの実態に歩み寄りながらプロダクトを変え続けてきた歴史があります。
とにかくずっと探してたっていう感じですね。
大塚さんは、Web3全体に波が来ていない時代だったため乗り切れなかった面はあるものの、二人がきちんと波に乗ろうと動いていたと評価しました。
口座の中身が「丸裸」になるデータの威力
ステーブルコインの登場で伝統金融の関心が高まり、オンチェーンのレポートや分析が強く刺さっている手応えがあると山口さんは語ります。ステーブルコイン ── 法定通貨などに価値を連動させ、価格の安定を図った暗号資産。米ドルに連動するUSDCなどが代表例で、決済や送金での利用が広がっている
刺さるデータの核心は、その透明性の高さです。あるユーザーがどんなトークンを、どれくらいの資産量で持っているかまで、すべて把握できてしまいます。
こんなデータ見れるんですか?こんなもの見ていいんですか?みたいな。そんな感じですね。
普通だったら、言ったら口座の中身を見てるっていう状態なんで。
山口さんは、これにはプライバシーの問題という良し悪しもあると断ったうえで、現状のブロックチェーンの仕組みでは、あるプロジェクトの利用者層や資産規模、使っているDEXやDeFiまで丸裸にできると説明しました。
AIでオンチェーン分析はできるのか
大塚さんは、Duneでの分析にはSQLを書く必要があり、そこで脱落する人がいると指摘します。Dune ── ブロックチェーン上のデータをSQLというデータベース言語で集計・可視化できる分析プラットフォーム。多くのオンチェーン分析で使われている近年はClaudeなどのAIとMCPで連携すれば、自然言語で依頼できるようになってきました。
では「自分でAIに聞けばいい」となり、分析事業者は不要になるのでしょうか。赤川さんは、その可能性を認めつつも、現状はそうなっていないと話します。
思ったよりみんなオンチェーンのことわかってないから。
理由の一つは、トランザクションやコントラクトの中身が複雑に絡み合っており、単純には分析できないことです。もう一つは、金融機関がClaudeを社内に導入できないなど、セキュリティ要件が高いことだと大塚さんは補足します。
山口さんは、AIが出した結果が正しいかを判断するには、プロトコルやスマートコントラクトの仕組みを理解している必要があると指摘しました。目論見書に落とし込む際、専門家の裏取りが求められるのです。
仮説を立てられるのは、まだ人間だけ
赤川さんは、AIによってSQLは書きやすくなったものの、まだ完全なエージェントのように考察まで代行してくれるレベルには達していないと語ります。
大塚さんは、これを理系の研究になぞらえました。仮説を立て、実態を見て、インサイトを得るという流れであり、仮説がなければ何を見に行くべきかも定まりません。
ClaudeとかAI使って分析をする、データをビジュアライズすることはできるが、仮説を立てるっていうことは現状やっぱり結構弱いんですよね。
山口さんは、Microsoftの代表も同様の見方を示していると紹介します。AIに気づきを与えるのは人間の仕事であり続け、それがなければAIは空転してしまうという説です。
大塚さんは、レックスの松本さんの本にあった「AIは入社してきたハイスペックだが、コンテキストがわかっていない作業者」という表現に共感を示しました。人間がゴール設定を明確にすることが欠かせないといいます。
クリプトカードが開く「運用しながら決済する」未来
大塚さんが二人に「大塚さんに見えていない近況はあるか」と水を向けると、赤川さんはクリプトカードの可能性を挙げました。データ上でも急成長している領域だといいます。
クリプトカードは、デビットカードのような見た目ながら、裏側が暗号資産になっているカードです。決済のたびにUSDCなどが決済額分だけ引かれる仕組みです。
残高が自分のウォレットの中にあるため、決済に使いながら運用を回せる点が大きな特徴です。たとえば1000ドルを入れておき、年利4〜5%で運用しながら決済に使うことができます。
千ドル入れておいて、年利4パーセントとか5パーセントとかで常に運用を回しながら決済に使っていってみたいなことができる。
赤川さんはeSafaiというクリプトカードを例に挙げました。1日あたりの決済額は約50万ドルとカードとしては大きくない一方、運用額は約5億ドル(約750億円)に上ります。ここに年利4%がつくため、運用益が事業の大きな収益源になり得ると分析しています。
利用者が入金
USDCなどを自分のウォレットに入れておく
運用に回る
預けた残高がDeFiなどで年利4〜5%で運用される
決済で使う
買い物のたびに決済額分の暗号資産が差し引かれる
事業者の収益
決済手数料に加え、運用益の一部が収益になり得る
一方で、日本国内での普及には課題があります。決済のタイミングで利確扱いになり、課税計算が煩雑になる点です。
(クリプトカードで)ステーブルコインで決済をしたってことが、利益を確定させた扱いになっちゃうんです。
山口さんは、税制が改正されれば決済と運用がシームレスにつながる未来が来ると展望します。残高をチャージしておけば自動で運用され、その利益で決済するという世界です。
全員ずっと運用しながら生活して、利益と消費でトントン、なんなら増えてるみたいなことが実現できる世界来るんじゃないか。
赤川さんは、この実現にはテクノロジーの進化をプロダクト化することと、レギュレーションを変えることという二軸を同時に走らせる必要があると整理しました。取引所を運営してきた経験から、大塚さんも制度は変えられると応じています。
妄想する人と、現実に落とす人のペア
二人の役割分担は、意識してつくったものではなく、結果的にそうなったものだといいます。山口さんは建築時代から都市解析やマクロデータの分析が得意で、赤川さんは楽観的に未来像を掲げる役回りでした。
山口はもう結構、都市解析とかマクロデータの分析が強かったんで、彼は結構分析派。僕はどっちかというと楽観的にこういう未来いけるんじゃないかみたいな。
妄想のように未来を語る人と、それを現実に落とし込む人。この組み合わせは大学時代の建築コンペから続いてきたものだといいます。
大塚さんも、Coincheck以前にStoriesという事業を和田さんと2年間続けた経験を振り返り、共同作業を通じてお互いが見えてくるプロセスは決して無駄ではなかったと共感しました。
キリフダにブロックチェーンインテリジェンスという部署ができたのはごく最近で、赤川さんはこのタイミングからオンチェーン分析にフルコミットする体制に変わったと説明しました。
まとめ
オンチェーン分析は、公開されたブロックチェーンのデータから暗号資産の実態を読み解く手法です。マーケットで語られる印象とデータの差を明らかにし、既存金融が求める「裏付け」として今まさに注目を集めています。
- オンチェーン分析は、公開されたトランザクションから実態を読み解き「未来を見るコンパス」になる
- マーケットの論調とデータが示す実態には差があり、その差を明らかにすることに価値がある
- 既存金融はオンチェーン金融の実態を知りたがっており、データによる裏付けが強く刺さっている
- AIでデータの集計や可視化は進むが、仮説を立てるのは今も人間の役割
- クリプトカードは運用と決済を一体化させる可能性を持ち、税制改正が普及の鍵になる




